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第2章
【27話】雨が連れてきたもの
しおりを挟む「謝るなよ…俺の方こそごめんな?お前がこんなに…調子悪かったら見舞いになんか来なかったのに…LINEくれれば降りてこなくっ」
「違う…」
敦志は直哉の言葉を遮って違うと首を振って、それから少し泣きそうな目で直哉を見た
「違うって…なにが?」
「お見舞いは…うれしい。ただ俺…なん、か…熱……あって」
敦志はすぐさま目を反らし、恥かしさからか抱きとめていた直哉の腕から逃れようとする。一瞬、敦志に振り解かれるまま腕を放しかけた直哉だったがすぐさま敦志がよろけて壁に手をついたので労わる様に肩を抱く
「本当に大丈夫か?」
「大、丈夫です…」
敦志はぎこちなく笑って見せるのだが直哉は触れたところから布越しでも感じる体温に大丈夫とは思えなかった 。
「大丈夫じゃないだろ…部屋どこ?」
「えっ?」
「部屋で寝てないとダメだ、こんな熱あるんだから…」
先ほどの外村の質問とはまるで目的が違うと分かっていても意識してしまう敦志は言うのを戸惑った。
しかし直哉の真剣な様子についつい
「二階の…階段、上がって…すぐです」
「二階か…抱いて連れて行ってやるか」
さらっと直哉が言った言葉に敦志はこの上ないくらい目を見開いて直哉を見た。
「だって階段大変だろ?その調子じゃ…」
その目に照れくさそうに反論する直哉。当然、直哉が言ったのはそういう“抱く”なのだが、分かっているのに敦志は更に頬が赤くなり、高鳴る鼓動のせいで直哉の声すら聞こえなくなり、目を閉じた。
ぞくっと疼く奥底に耐えきれないように敦志は直哉にしがみついた。
「本、当…大丈夫か?」
降りてくる時ですらあんなに苦労したのだから、あの調子でのろのろ階段を上がり変な声でも出そうものなら、バイブを挿れてると知られたら…連れて行ってもらう方がマシなのかもしれなかった 。
やがて敦志は唇を震わせて、何度か戸惑ったあと囁いた。
「…抱い、てつ…れて行ってくだ、さい」
「あぁ、分かった…」
直哉はそのまま、敦志の両足の膝裏と背中に腕を回して横向きに抱き抱えた。
だが、抱き抱えられたその両足に引っ張られた布が不運なことにバイブを更に敦志の中に押し込めた
「あっ…」
慌てて口を手で塞いでなんとか堪えたが丁度直哉が立ち上がったところだった。少し体勢を崩しそうになり、塞いでない手で必死に直哉に掴まる敦志
「中西、ちゃんと首に手回さないと落ちちまうよ?」
「え…?」
「…両手で、俺の首にしがみついて?」
言われるままにすると更に直哉と身体をくっつけることになった。
そうすればそうするほど、ナカにその存在を敦志は嫌というほど感じていた。あんな酷い扱いをされてはいたがその酷い扱いが快楽を生むと教え込まれた身体は嘘もつけずに期待を表しかけていた。
認めたくない想いと、密着しているが故に直哉にそうなっていることを知られたかもしれないという恥かしさ、焦り、恐れで敦志は頭が真っ白になっていた。
ただ頬をこの上なく赤く染めながら成す術もなく直哉の肩口に顔を埋めて耐えていた。
階段を上り終え、部屋の自分のベッドに下ろされるまでそれは長い時間に感じた。
人、一人というのは結構重いもので、敦志をベッドに下ろすと直哉は床に座り込んで自分の体の後ろに両手をついて一息ついた。
敦志も直哉と密着している、という状況から逃れられたことにほっとしていた。だが言葉もない直哉に不思議に思って目を向けると直哉と目が合ってしまった。
しかも直哉は目が合うと直ぐに気まずそうに反らした。不思議に思い、何気なく下を見るとパジャマをくっきりと持ち上げている自身に気づいた。
再び真っ赤になった敦志はガバッと大きな音を立てて布団で下半身を隠した。それを隠すと今度は沈黙がきになりだし、何か話さなきゃと思い口をパクパクと開くのだけれど頭が真っ白で言葉に出来ない。
そうこうしている内に再び
―――ヴヴヴヴヴ
体内で唸りを上げるそれに敦志は驚き目を見開きつつ必死で両手で口を押さえた。声を聞かれてはならないと思った。
知られたら全てが終わってしまう、直哉を失ってしまう、そう思い懸命に耐える敦志は息苦しさと与えられる刺激に更に赤くなり今にも泣きそうに目が潤んでいった
「大丈夫か?気持ち悪いのか?」
敦志が両手で口を押さえ俯き加減になった為、直哉は近くに来て心配そうに敦志を見つめ、吐くとでも思ったのか背中を撫でる。
答えたら声を出したら、変な声が出そうで一言も口に出せない敦志は必死に首を横に振った
「気持ち悪くは…ないのか?」
コクコク頷く敦志に、少しほっと息を吐く直哉だが不意に思い立ち敦志の額に手を置く。触れた額は先ほど触れた背中より直に肌だったため熱く感じた
「やっぱ熱あるな…寝たほうがいい」
酷く熱い身体に直哉は不安を覚えながらも敦志を手伝い、敦志をベッドに横たえた。一方の敦志は布団に横になると今度は布団で口を覆った。そんな必死さが、熱で辛いように見えた直哉は
「俺、帰るな?」
その言葉に驚き、敦志は目を見開く。長いこと直哉がいれば醜態をさらけ出してしまうかもしれない。だから出来れば早く帰って欲しかった。
けれどもこんな状況でなければ、もっといて欲しかった。相反する思いに思考が乱れ、うんともすんとも言えない敦志
「寝顔見ていいなら…いてもいいけど、嫌だろ?」
ゆっくり、でも確実に頷いた敦志を見て直哉はだよなと笑いながら敦志の髪をくしゃっと撫でる。そんな直哉を下から見上げていた敦志は見つめてくる目が優しい色をしている気がした
直哉は不意に髪を撫でるのを辞めると敦志に背を向け、自分の荷物と一緒に置いてあったコンビニ袋を引き寄せて
「これ、お見舞いのシュークリーム、中西甘いの好きだろ?」
ビニールの袋に包装されたシュークリームを少しばかり出して見せるとにこっと笑い、ベッドの近くのサイドボードにそれを置く。直哉の動きにつられてサイドボードの上に視線を向けている敦志に帰るな?と直哉はおもむろに立ち上がった 。
直哉を見送ろうと思ったのだろうか、反射的に身体を起こしかけた敦志に気づくと
「いいから寝てろって」
そう優しく笑いながら敦志を制し、じゃあな、と言ってこの部屋のドアを出て行った。
神経を張り詰めて階段を降りていく足音に耳をそばだてる。足音が階段を下りていき、やがて玄関の閉まる音がして何も聞こえなくなった。
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