新月を追って

響 あうる

文字の大きさ
27 / 38
第2章

【27話】雨が連れてきたもの

しおりを挟む

「謝るなよ…俺の方こそごめんな?お前がこんなに…調子悪かったら見舞いになんか来なかったのに…LINEくれれば降りてこなくっ」
「違う…」

 敦志は直哉の言葉を遮って違うと首を振って、それから少し泣きそうな目で直哉を見た


「違うって…なにが?」
「お見舞いは…うれしい。ただ俺…なん、か…熱……あって」

 敦志はすぐさま目を反らし、恥かしさからか抱きとめていた直哉の腕から逃れようとする。一瞬、敦志に振り解かれるまま腕を放しかけた直哉だったがすぐさま敦志がよろけて壁に手をついたので労わる様に肩を抱く


「本当に大丈夫か?」
「大、丈夫です…」

 敦志はぎこちなく笑って見せるのだが直哉は触れたところから布越しでも感じる体温に大丈夫とは思えなかった 。


「大丈夫じゃないだろ…部屋どこ?」
「えっ?」
「部屋で寝てないとダメだ、こんな熱あるんだから…」

 先ほどの外村の質問とはまるで目的が違うと分かっていても意識してしまう敦志は言うのを戸惑った。
しかし直哉の真剣な様子についつい


「二階の…階段、上がって…すぐです」
「二階か…抱いて連れて行ってやるか」

 さらっと直哉が言った言葉に敦志はこの上ないくらい目を見開いて直哉を見た。


「だって階段大変だろ?その調子じゃ…」

 その目に照れくさそうに反論する直哉。当然、直哉が言ったのはそういう“抱く”なのだが、分かっているのに敦志は更に頬が赤くなり、高鳴る鼓動のせいで直哉の声すら聞こえなくなり、目を閉じた。
 ぞくっと疼く奥底に耐えきれないように敦志は直哉にしがみついた。


「本、当…大丈夫か?」

 降りてくる時ですらあんなに苦労したのだから、あの調子でのろのろ階段を上がり変な声でも出そうものなら、バイブを挿れてると知られたら…連れて行ってもらう方がマシなのかもしれなかった 。
 やがて敦志は唇を震わせて、何度か戸惑ったあと囁いた。


「…抱い、てつ…れて行ってくだ、さい」
「あぁ、分かった…」


 直哉はそのまま、敦志の両足の膝裏と背中に腕を回して横向きに抱き抱えた。
 だが、抱き抱えられたその両足に引っ張られた布が不運なことにバイブを更に敦志の中に押し込めた


「あっ…」

 慌てて口を手で塞いでなんとか堪えたが丁度直哉が立ち上がったところだった。少し体勢を崩しそうになり、塞いでない手で必死に直哉に掴まる敦志


「中西、ちゃんと首に手回さないと落ちちまうよ?」
「え…?」
「…両手で、俺の首にしがみついて?」

 言われるままにすると更に直哉と身体をくっつけることになった。
 そうすればそうするほど、ナカにその存在を敦志は嫌というほど感じていた。あんな酷い扱いをされてはいたがその酷い扱いが快楽を生むと教え込まれた身体は嘘もつけずに期待を表しかけていた。
 認めたくない想いと、密着しているが故に直哉にそうなっていることを知られたかもしれないという恥かしさ、焦り、恐れで敦志は頭が真っ白になっていた。
 ただ頬をこの上なく赤く染めながら成す術もなく直哉の肩口に顔を埋めて耐えていた。


 階段を上り終え、部屋の自分のベッドに下ろされるまでそれは長い時間に感じた。
 人、一人というのは結構重いもので、敦志をベッドに下ろすと直哉は床に座り込んで自分の体の後ろに両手をついて一息ついた。

 敦志も直哉と密着している、という状況から逃れられたことにほっとしていた。だが言葉もない直哉に不思議に思って目を向けると直哉と目が合ってしまった。
 しかも直哉は目が合うと直ぐに気まずそうに反らした。不思議に思い、何気なく下を見るとパジャマをくっきりと持ち上げている自身に気づいた。
 再び真っ赤になった敦志はガバッと大きな音を立てて布団で下半身を隠した。それを隠すと今度は沈黙がきになりだし、何か話さなきゃと思い口をパクパクと開くのだけれど頭が真っ白で言葉に出来ない。
 そうこうしている内に再び


―――ヴヴヴヴヴ

 体内で唸りを上げるそれに敦志は驚き目を見開きつつ必死で両手で口を押さえた。声を聞かれてはならないと思った。
 知られたら全てが終わってしまう、直哉を失ってしまう、そう思い懸命に耐える敦志は息苦しさと与えられる刺激に更に赤くなり今にも泣きそうに目が潤んでいった


「大丈夫か?気持ち悪いのか?」

 敦志が両手で口を押さえ俯き加減になった為、直哉は近くに来て心配そうに敦志を見つめ、吐くとでも思ったのか背中を撫でる。
 答えたら声を出したら、変な声が出そうで一言も口に出せない敦志は必死に首を横に振った


「気持ち悪くは…ないのか?」

 コクコク頷く敦志に、少しほっと息を吐く直哉だが不意に思い立ち敦志の額に手を置く。触れた額は先ほど触れた背中より直に肌だったため熱く感じた


「やっぱ熱あるな…寝たほうがいい」

 酷く熱い身体に直哉は不安を覚えながらも敦志を手伝い、敦志をベッドに横たえた。一方の敦志は布団に横になると今度は布団で口を覆った。そんな必死さが、熱で辛いように見えた直哉は


「俺、帰るな?」

 その言葉に驚き、敦志は目を見開く。長いこと直哉がいれば醜態をさらけ出してしまうかもしれない。だから出来れば早く帰って欲しかった。
 けれどもこんな状況でなければ、もっといて欲しかった。相反する思いに思考が乱れ、うんともすんとも言えない敦志


「寝顔見ていいなら…いてもいいけど、嫌だろ?」

 ゆっくり、でも確実に頷いた敦志を見て直哉はだよなと笑いながら敦志の髪をくしゃっと撫でる。そんな直哉を下から見上げていた敦志は見つめてくる目が優しい色をしている気がした

 直哉は不意に髪を撫でるのを辞めると敦志に背を向け、自分の荷物と一緒に置いてあったコンビニ袋を引き寄せて


「これ、お見舞いのシュークリーム、中西甘いの好きだろ?」

 ビニールの袋に包装されたシュークリームを少しばかり出して見せるとにこっと笑い、ベッドの近くのサイドボードにそれを置く。直哉の動きにつられてサイドボードの上に視線を向けている敦志に帰るな?と直哉はおもむろに立ち上がった 。
 直哉を見送ろうと思ったのだろうか、反射的に身体を起こしかけた敦志に気づくと


「いいから寝てろって」

 そう優しく笑いながら敦志を制し、じゃあな、と言ってこの部屋のドアを出て行った。
 神経を張り詰めて階段を降りていく足音に耳をそばだてる。足音が階段を下りていき、やがて玄関の閉まる音がして何も聞こえなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

僕と教授の秘密の遊び (終)

325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。 学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。 そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である… 婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。 卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。 そんな彼と教授とのとある午後の話。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

処理中です...