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第2章
【32話】皮肉な運命
しおりを挟む―――ピーーーーッ
ホイッスルの音に我に返ると笹山が無理にミドルシュートを打ったせいでとんでもない方向に飛んでいきボールはサブ組のものになっていた。
一転必死に戻ってくる笹山を呆れた面持ちで見つめる松島だった。
先ほどは不意をつかれたレギュラー組も今はもう敦志に警戒を怠らない。ボールを預けられたものの突破が出来なくて敦志は相手に背を向けてキープし、視界の端に入ってきた直哉にどうにかパスを回した。
ボールが渡ると潮が引くように何人もいた相手方の選手がいなくなる。少し離れた位置に敦志をマークしている選手が一人いるが何人もでボールを奪いに来るときのプレッシャーに比べたら気にならない程度だ
ホッと息を吐きながら口元を拭い、今の状況に目を向けると丁度直哉がまた別の選手から出されたパスを足に当て一旦地面に落とした後、ボレーシュートを放ったとこだった。
ボールはあっという間にゴールネットに飲み込まれた
それを見た敦志はみるみるうちに目を見開き、まるで子供のように興奮を抑えきれない様子で直哉に目を奪われていた。
――やっぱり直哉さんはすごい
サブ組が点を入れたあとはレギュラー組がボールを持つことになる。
敦志が直哉に見とれて立ち尽くしていたのでゴールキーパーの清澤がボールを入れるのを躊躇っていた。
それに気づいた直哉が敦志の方を見て
「中西ーっ」
目が合った瞬間敦志は何故か、心臓が一度大きく脈打つのを感じた。そのことに何故だか恥かしくなり俯きかけたが自らを呼ぶ直哉の声に我に返った。
直哉が指差す指を見て漸く自分がすべきことを思い出して敦志は走り出した。
だが目の前の景色に視線を向けても脳裏の支配するのは直哉と目があった瞬間、自分に湧いた感情。それが一瞬過ぎて敦志には未だ、なんなのか理解できずにいた。
「中西!ボールボールっ」
再び誰かが呼ぶ大声が聞こえて敦志は我に返った。声の方向を見るとパスをしようとしている。敦志は軽く頷くとそのパスを受けて前を向きドリブルをし、進み始めた。ただゴールだけを見て目の前には相手側の選手も居ないようだった。
少し遅れをとったらしい相手側の切羽詰ったような声が聞こえる
―――でも行ける!
そう思った。
視界の端に何かが割り込んでくる前までは、
「っ!?」
敦志がそれに気づいたときには既に足に衝撃を感じて、次の瞬間には前に投げ出されていた。
結構な速さで走っていたものだから地面に叩きつけられる痛みはただ転ぶのには比べ物にならなかった。
加えて衝撃を受けた足にすぐさま痛みが襲ってくる
「うああぁ!」
痛む部分を手で押さえながら敦志は起き上がることも出来ずに体を丸めて痛がった。
どこかでホイッスルが鳴って練習は一時中断になったのだろう、みんな集まってこようとしている。
そんな中誰かがいち早く敦志の肩を叩いた。
「悪かったな」
スライディングしてきた相手だろう、敦志は痛みを耐えてギュッと瞑っていた目を開けるとそこにいたのは
―――外村だった。
敦志は一瞬で背筋が凍るような恐怖を感じた。信じられないものを見るような目で唇を戦慄かせて言葉も発せずにただ外村を見上げていた。
「中西っ大丈夫か?外村ぁっお前スライディングまでするこたないじゃん」
他の部員が駆けつけて外村に笑いながら突っ込みを入れ、針の筵の様な沈黙が終わりを告げる。直哉に大丈夫か?などと覗き込まれ、返事をしている内に敦志の視界から外村は消えていた。
何人かが硬い砂のグラウンドに寝たままの敦志の周りに集まり始めた頃、外村はその流れに逆行して敦志から離れて歩いていた。ふと気づくと向こうから松島が走ってくるのが見える。
松島は外村に気づくと
「外村、お前やりすぎだろっ」
と文句を垂れる。
「すいません……松島さんどこ行くつもりなんです?持ち場離れないでくださいよ」
「…分かってるよ、でも心配なんだっ」
「へぇ随分気に入ってるんだ」
外村の嫌味を含んだ声色に松島がちょっとむっとした視線を向けた。お前が言うなっと言いかけてグッと飲み込む。
外村の方がよっぽど気に入ってるはずなのに、どうしてこんな傷付けるようことをするのだろうか…松島には理解し難かった。
「…まさか保健室に連れて行くとか言わないですよね?」
「……さぁ?どうだろうねぇ、どっちにしろ邪魔すんなよ」
言いたい文句が口を衝く前に、外村の言葉に図星をつかれ、松島は顔色を変えて、そう吐き捨て去っていく。その後姿を外村は薄笑いを浮かべながら見つめた。
全ては外村の思い通りに進んでいた。
「はいっはいっ俺保健室連れて行く!」
なかなか起き上がれないでいる敦志を治療のためと、練習再開のために移動しようと他の部員が起き上がるのを手伝っていた時、突然松島が現れてそんなことを言い出した。
全員が唖然として松島の方を見るが松島は気にも留めずに敦志の側に行き、大丈夫?などと尋ねている
「松島抜けんの?抜けた後どうするつもりだよ」
「上岡が入ればいいじゃん」
「は?サブ組じゃんあいつ」
「サブ組は別のヤツ入れればいいじゃん」
「って二人も?!えー」
「いいじゃん、それこそ練習なるよ」
未だにえーっと言い続けている周りを完璧に無視して松島は敦志の左腕を自分の肩に回させ、左手を握りながら右腕を敦志の腰に回して歩こうとし始めた。
「ま、松島さんっ」
「なに?」
「なんかちょっと…」
腰を抱き寄せられたことに他の部員の目もあり恥かしくなって逃げるように腰を引く敦志だったが逆に腰を更に抱き寄せられてしまい
「なにがちょっと?」
などと強く言われにっこり笑われ、なにより足の痛みに反論すら面倒になって敦志はそのまま松島に連れられるまま保健室に向かうことになった。
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