《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

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3.手伝い

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 空腹を刺激する香りに鼻腔をくすぐられ、俺は再び目を開けた。

 すっかり夜が明け、窓から柔らかな光が注がれている。

 それにしても、懐かしい。
白い幼児が出てくる夢は、ここ何年も見ていなかった。

 そんな風に思いながら体を起こすと、テーブルに椀を置いていた少年黒目と目が合う。

「あ、起きた?」

 改めて明るい場所で見ると、少年は随分、整った顔立ちをしている。

 筋肉の少ない、ほっそりとした人族だ。
この世界の母性を司るオメガΩとしては、獣人のアルファαが特段に好みそうな、いわゆる将来有望と呼ばれる類の外見をしている。

 長い髪を後ろにまとめた少年は、穏やかに微笑みかけてくる。
その表情は、全くすれていない。

 人族と変わらなくとも、嗅覚は人族より遥かに優れる鼻で、スンと嗅ぐ。

 部屋からは少年以外の臭いはすれど、少年の体からは、本人以外の匂いがしない。

 となれば、奇跡だ。

 恐らくこの小屋は、俺のいた所から、そう遠くない場所にあるはず。

 黒目黒髪をしたこの少年は、誰の手垢もつかず、こんな風にすれる事なく生きてこられたのは、奇跡としか言いようがない。

 そもそも、いくら俺が瀕死の状態だったとは言え、獣人の中でも背は高いし、筋肉もある。
獣人特有の耳と尻尾も隠していなかった。
形から、肉食系獣人だとわかったはずだ。

 肉食系獣人は、例外なく魔力を保持している。
その上、剣術や体術にも長けている可能性が高い。
と言うか、そもそも俺は剣を持っていたはずだ。

 誰が癒やしたかわからないが、負っていた手足の傷も癒えている今、たとえ少年の魔力量がどれだけ多くても、小さな子供など如何様いかようにも組み敷ける。

 まともな危機管理ができるなら、せめて鎖や縄で、ちゃんと縛っておくべきだ。
言っておくが、これは常識だ。
ぶっちゃけαは、意識のない間に縛られていても、縛った相手がΩ性しかない非力な人族なら、誰も怒らない。
いや、Ω性でも獣人なら、相手が人族に限り、怒らない可能性が高い。

 もう一度言う。
これは常識だ。

 なのにこの少年ときたら。
昨夜は俺の真横で、無防備に寝ていた。
こんな世間知らずの少年が、街にいてみろ。
確実に人身売買目的の人拐いに遭う。

 そうなれば、獣人達の手酷い慰め物にされる末路しかない。

 しかし少年は、さっきから俺の耳と尻尾に目がいっている。
もしかして、獣人自体が珍しいのかもしれない。

 となれば、ここは人族の集落なのか?

「君が助けてくれたのか?」

 色々と少年のバックグラウンドを想像しながらも、確認する。

「うん。
おじさんと約束したから。
……覚えてる、よね?」

 少年が最後は少し、不安そうな顔つきになる。

 あー……その顔が、やけに俺の庇護欲をそそるな。

 俺は獅子の獣人で、父性を司るαだ。
子供には優しいが、伴侶に加虐心を抱く、肉食獣の一面がある。

 この世界を創ったとされ、童話なんかでよく登場する、創造神ゼノリア。
白い肌に白い髪、藍色に金が散った瞳をした神だ。

 ゼノリアは下位の魔獣と動物には、オスメスの性を存在させた。

 しかし魔獣の中でも上位種とされる竜のような魔獣や、人型を取る種族の性は、オスのみで創生したとされている。

 子を孕む際は、ゼノリア神を信仰する教会で支給される、孕み石を使う。

 Ωの体内に石を入れ、αが精を……とまあ、詳しくはその時でいいか。

 人族は、全てΩになる。

「君と何を約束したんだ?
俺の手足は千切れてたはずだ。
なぜくっついている?
異能の治癒師でも千切れた手足をくっつけるなんて出来ないはずだが、何をした?」

 そう、どんな腕の良い治癒師も、切断した手足は繋げられない。

 獣人の中には稀に、異能と呼ばれる力を持つ。
異能とは、魔力量に関係なく、何かに突出した能力を指す。

 しかし過去にいたとされる、異能持ちの治癒師でも、ぎりぎり手足が繋がっていないと、くっつけられなかったはずだ。

 その上、この少年は人族。
人族でも魔法を使う事が可能な者もいるが、とにかく人族の数は、獣人とは比べられない程、少ない。

 そして魔力量が規格外に多いとされる、通称【黒持ち】。
黒持ちは、獣人ですらも珍しい。

 なのにこの少年は、髪も瞳も黒い。
しかも人族。

 俺はとある立場もあって、王宮書庫にある過去の文献を見放題だった。
しかし少年のような実例は、見た事がない。
もちろー話として、聞いた事もない。

「あれ、そうなの?
うーん……凄く出血はしてたよ。
けど、えっと……手足はくっついてたんじゃなかったかな?
あのままだと、この寒さで死にそうだったから連れて帰ってきただけで……」

 おい、少年。
目線があらぬ方を向いてて、嘘がバレバレだぞ。

「それで?」
「えっと、連れて帰る前に、おじさんに僕のお手伝いしてくれるなら、助けるよって持ちかけたの。
おじさんは良いよって……」
「言ってないぞ」
「え!?
でもちゃんと頷いて……」
「だから言ってはいないだろう。
頷いたように見えただけじゃないか?
約束は不成立だし、俺の手足は千切れてた。
千切れてたのは、間違いない」
「えっ、えっと……」
「おじさんは騎士だ。
嘘はいけないぞ、少年。
君はどうやって、俺の手足をくっつけた?」

 少年が、明らかに狼狽え始める。
焦った感じが、正に小動物だ。
可愛らしすぎて、顔がにやけそうになる。

 が、気合いで厳しい顔を固定する。

「わ、忘れ……」
「嘘はいけないと言っただろう?」

 畳み掛けると少年が、きゅっと口を閉じて俯く。

 やばい、可愛い……あぁ、虐めたい。
その華奢な首筋……舐めたい。
その汚れのない体を、俺の色に染めてしまいたい。

 そこまで暴走しそうになって、いかんいかんと己を戒める。
まだ子供だ。
少年の体が発する匂いも、子供特有の未成熟な乳の匂いだ。

 だが……乳の匂いの中に、微かだが種類の違う、甘い香りがする。

「……秘密……」

 少年が、ボソッと呟く。
駄目だ。
膨れた頬が、これまた可愛らしい。
思わず笑みがこぼれる。

「秘密か。
なら、仕方ないな。
それで、何を手伝って欲しかったんだ?」

 そう言うと、俺の方を向いた黒目が、キラキラ輝き始めたように見える。

 幻覚か?
くそ可愛いいな。
やばい、近くに寄ってきた!?
何だ、この甘く、心地良い香り……。

 夢見心地に誘う香りに、本能が告げる。

 ……この子、番だ。
嫌でも確信してしまった。
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