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49.番の使い道~ペネドゥルside

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 城には竜体でも降りられるよう広めの中庭がある。
まず水壁はそのままにして人属を放してから人体へ戻った。
タイミング良く側近が持ってきたガウンを着る。

 放した人属を改めて見ると水壁の中で倒れていた。
良く見ると体を丸めてガタガタと震えている?
顔は相変わらずフードを握りしめていて見えない。

「ペネドゥル様、あの者は?
何故水壁を?」
「人属だ。
黒竜の番らしいが、利用価値がありそうだから拐った。
何故なにゆえ震えているのだ?」

 寒かったにしても、そこまで震えるほどの事か?

 そう思って尋ねれば、こ奴は目をキッと釣り上げてくる。
王弟の私に不敬ではなかろうか。

「黒竜に番がいたのですか?!
拐うなど、怒りを買ってどうされるのです?!
それにずぶ濡れになっているようですが、もしやこの状態で長時間飛翔されたのか?!」

 相変わらず口煩い男だ。
深緑の髪と真紅の目をした細身のこの男も竜人で魔術に長けている。
私付きの護衛兼側近として側にいるが、かつてはあの愚兄であるザガドの側近だった。

「落ち着けラスイード。
国境の川を一気に渡ったから水がはねただけのこと。
せいぜい1時間程度だ」
「寒さが落ち着いてきたとはいえ、人属は気温の変動に弱いと聞くのに、何て事を!
幼子であれば余計です。
すぐに処置せねば死にます!」
「すぐに水壁は張った」
「ずぶ濡れな上に水壁の中はかなり冷えるでしょう!」

 本当に小煩い奴だ。
水壁を消すとラスイードは走り寄って自分の上着を人属に巻き付け、周りを温かな風で囲ってやる。

「この子はひとまず城の客室で介抱させます」
「黒竜の番とはいえしょせん最弱下等種族だ。
貴族用の牢にでも入れておけば良かろうに」
「黒竜の番に何かあって困るのは貴方でしょう!
客室に通します!」

 ラスイードは振り返りもせずにそのまま去って行く。
入れ違いにもう1人の側近でラスイードの双子の弟ラジェットが近付いて来た。

 相変わらず顔と背はそっくりだが魔力が高く魔法が得意な兄とは違い魔力が低い。
騎士となって鍛えているせいか体格が良く、この2人を間違った事はない。

「ペネドゥル様、いかがなさいましたか。
兄が珍しく慌てておりましたが、抱えていたのは何です?」
「黒竜の番で人属だ」
「····何と。
黒竜も番が人属とは哀れな」
「やはりお前とは気が合う。
ラスイードは竜人がいかに敬われるべき種族かわかっておらん」
「有り難きお言葉。
兄は優しすぎるのです。
ところで例の商会が城下入りすると小耳に挟みましたが、城内にもお呼びになるので?」
「そうだ。
あの商会が今年どこかから花茶を仕入れたと聞いた」
「花茶?
昔白竜の番が作った花茶を献上した時もあの商会でしたね。
それも月花と月夜花を使った珍しい花茶だったとか」
「同じものかわからんが、献上させて確かめようと思ってな。
何せ白竜が番を亡くした後どこに消えたかわからんのだ。
番の後を追ったにしてもせめて亡骸さえ我が国に埋葬すれば幾ばくかの竜気が補えるかもしれん」

 そう言うとはっとした顔をする。
この程度の事にこ奴は何故気づかぬのか不思議だ。

「なるほど、月花をどこで仕入れたかわかれば最悪でもそこに亡骸があると。
黒竜の番を尋問してはいかがですか?
何か知っている可能性もあるでしょう」
「それも考えているが、黒竜がどう出るかわからんからな。
動く気配がなければ尋問後、我ら王族の血を残すための孕み腹にしても良い。
黒髪黒目なのだ。
質の良い子を孕むやもしれん」
「黒を纏っていたのですか?!
それは良い考えにございますね。
しかし随分と小さかったような気がしますが、些か幼すぎるのでは?」

 歓喜に顔を綻ばせたが、すぐに思案するように顔を曇らせた。

「すぐは無理であろうな。
幼子を抱く趣味は私にはない。
ひとまず着替えて兄上の様子を見に行く。
あの人属はラスイードに任せておけば勝手に世話をするであろうよ」
「お供致します」

 私は兄上の寝室に足を運び、相変わらず変化のない長兄と伴侶の周りに張ったザガドの結界を確認した。
試しに攻撃してみても、やはり一切の揺らぎすら起きない。
小賢しい男だ。
兄夫妻を殺して王位を継ぐ絶好の機会であるというのに。

 雲隠れしたかと思えば何故あのような所で黒竜の番に会っていたのか。
よもや権力から逃げた愚か者が今更それを求めたのではあるまいか。
そう考えると苛立ちが募る。
兄上がザガドを後継にしようなどと愚行を犯さなければ殺そうとまでは思わなかったものを。

 それにしてもあの時の番との会話が気にかかる。
魔の森の主が認めるとはどういう事か。
やはりあの番に確認せねばなるまい。
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