《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

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93.囮~ジェロムside

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「ふん、やっとお前を騎士として殺せるな」
「いや、俺は料理長だぞ」
「へらず口を叩く余裕も今だけだ。
じきに自我を失って使い捨ての狂人になるさ。
恨むならあの下劣な人属を恨むんだな。
お前があれに関わったのが悪いんだ。
そうでなければお前ごときが、それもいくらザガドの元側近とはいえ料理長などに身を落とした負け犬などが我が主の目には止まらなかっただろうよ」

 ラジェットがニヤリと笑う。
そんな馬鹿に心底辟易して思わずため息が出ちまった。

「だからラスイードに勝てねぇんだよ、お前は。
それでいやあペネドゥルもだけどな」
「貴様!!」

 熱い痛みが左肩から斜めに走る。
両腕両足を鎖で繋がれ、壁に張り付けにされているせいで無抵抗に剣で切りつけられちまった。

 毎日デカイ鉄鍋振るってたから筋肉は近衛時代から衰えてねぇんだよ。
そこそこ本気で切られたみてぇだが、致命傷まではいってねぇな。

「お前ごとき卑しい元平民が我が主を愚弄するなどと、身の程を知るがいい」

 にしてもこの馬鹿は切りつけていささかスッキリしたのかそんな事にも気づかねぇで優越感に浸った顔してやがる。
ラスイードに勝てねぇのはそういうとこなんだぞ。
油断が過ぎねえか。

「おい、薬を打て」

 俺の呆れた視線にも気づかず悦に浸った表情してるところが気持ち悪いな。
薄暗い地下牢の隅で一緒に下卑た笑いを浮かべていた白衣を着た男に指示する。
中肉中背でダボッとした白衣に帽子とマスクしてるから何属かはわからねえ。
男はデカイ注射器と半透明の液体が入った小瓶を俺の目の前にわざとらしくチラつかせる。
こいつら同類だな。

「これは月下の根から抽出した気持ち良くなるお薬です。
なに、怖がる必要などございません。
投与されればすぐに自我を手放しますからな」

 両手両足を魔力拘束具で張り付けにされているが、恐らくこれまでに薬漬けにした竜人達で使い込んだんだろう。
今の俺では難しいが、あの麻薬は元々開国前の侵略戦争で竜人を最強の兵器にする為に作られたもんだ。
実際に5倍投与された竜人を近衛時代に捕獲したことがあるが、竜人の中でも抜きん出て力が強い俺でも押さえるのに骨が折れた。
自我をどの程度失うかはわからねえが、間違いなくコレは壊して巻き添えにしてやろう。
俺はそう心に誓って針の痛みを迎え入れた。

----

「動けますか、ジェロム」
「ま、何とかな」

 あの2人が去ってからもしばらく座り込んでたが、どうにかふらつきながらも立ち上がるまでには回復した。

「相変わらずの体力馬鹿ですね」
「褒め言葉だと思っておくさ。
それよりザガド様と合流するとして、実際勝算はどれくらいあると思う?」

 俺を支えようと腕を掴んだ振動でラスイードの肩で眠りこけてる黒い魔鳥がピクリと動いて片目を開けるが、俺がきちんと立つとまた眠り始めた。

「ペネドゥルの麻薬の不正使用や犠牲者名簿、少し前のワイバーンの密輸の証拠は手に入れています。
ですが矢面に立つのは最小限でラジェットが主に実行していますから、王位継承権の剥奪と開国までは率直に言って陛下を目覚めさせない限りかなり難しいですね」

 ふうっ、と元来の苦労性のコイツは重いため息を吐く。

「国民の目の前で然るべき証拠を持ってペネドゥルを断罪し、彼の王位継承に猜疑心を植えつけた上で国の骨幹であり象徴でもある陛下がザガド様への譲位、そして開国を宣言してやっと我が国が新たに始動すると思います。
ただ問題は国民のザガド様への信頼度ですね。
ザガド様が王となられても開国までの日が短くて元々放蕩癖のある方ですから信頼度が低すぎるんですよ。
いくら後ろ楯についてくれるとはいえ、他国の、それも魔の森を保有する国が主導する事に国民が反発するか受け入れるかの判断もつきかねますね」
「あー、まぁ、それは····なぁ」
「でしょう?」

 色々と前途多難だな、こりゃ。
2人してため息吐いちまったが、まぁ、なんだ、まずは一歩ずつか。

「とにかくまずはペネドゥルの拘束と王位継承権の剥奪です。
実際はその手前までになるでしょうが、拘束さえしてしまえばあの麻薬の犠牲者が増える事は阻止できます。
ビビット商会が持つ解毒剤がどこまで使えるかはうちの屋敷にいるジスランとヒスカを使って証明出来ればなお良し、でしょうか。
その後はザガド様に力業で陛下を叩き起こしてもらうしかありませんね。
最悪は眠る事で病の進行を止めている伴侶が亡くなって陛下が暴走するかもしれませんが、そこはレンカとレンがすぐに死ぬのだけはどうにかしてくれたと思う事にして今は気にしない事にします」

 ペネドゥルと敵対する意思は固まったみてぇで、敬称はつけなくなった。

「腹黒なお前にしちゃめちゃくちゃ場当たり的だな」
「仕方ないでしょう。
私の予想を軽く凌駕する勢いで事が進んでいますし、事の発端となった黒竜の番をペネドゥルが拐ってくるなんてどうやって予想するんですか。
あの子に何かあってこの国が黒竜に滅ぼされる可能性の方がいっそ高いんじゃないかと内心震えてますよ。
まあそうなったらさすがに伴侶と出国しますけどね」
「ははっ、そりゃナルバドも喜ぶだろうよ」

 結婚の報告に来た時の豹属の元相棒の嬉しそうな顔を思い出す。
あの3人はちゃんとナルバドのとこで大人しくしてくれてんだろうかといささか心配だ。

「ええ、そうなったら今まで忙しすぎてあんな危険物と化した幼馴染み2人を押し付けっぱなしになった穴埋めはさっさとします」

 本心は気が気じゃねぇんだろうな。
ナルバドは俊敏な動きで相手を翻弄して隙を狙っていく戦い方が1番得意だ。
だが地下牢に2人を匿ってんなら、そんな空間でいつ暴れるかわかんねぇ奴らを相手にすんのはかなり分が悪い。
それに足癖の悪いヒスカは重力の魔法を使うし、ジスランは俺と張り合う腕力の持ち主だ。
魔力拘束具をつけてても万が一物理的な力で壊されたらひとたまりもねぇ。

「キョロ」

 不意に眠ってたはずの魔鳥が警告するように低く鳴いた。
耳をすませば微かだが厨房から聞き覚えのある野太い声が聞こえた。

「ラジェットですね。
愚かでも獣気を使って索敵するのは得意ですから、ここも見つかるのは時間の問題でしょう」
「だろうな。
なぁ、ラスイード。
俺はこの通りまともに動けねぇ。
俺が囮になってわざと捕まるから、そいつと一緒にザガド様と合流してさっさと断罪の場を整えてくれ」
「何言ってるんですか。
そんな事になったら最悪はあの麻薬の餌食でしょう。
今のラジェットは何をしでかすかわからない危うさがありました。
あなたまで失うのは····」
「まぁ聞けって」

 俺は全力で拒否しようとするラスイードを説得する。

「坊主が、レンカの方が言ってたんだよ。
俺はどのみち酷い目には合うらしいが、レンカが関わってましになったってな。
で、全てが終わったらレンにアイスを作ってくれって。
少なくとも俺はレンにアイスを作る事は出来るらしい。
でもって直感に関しては外した事のねぇ俺の直感は夢で話したレンカの事は信じられるって告げてる。
だからキョロ、コイツの事をザガド様のとこまで面倒見てやってくれ」

 押し問答してる暇はねぇ。
ラジェットが索敵を使う前に引き付けねぇとな。

 そうして俺はラスイードの制止を無視して連中の前に飛び出し、厨房から引き離してからわざと捕まった。
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