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158.朔月4
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「トビ、代われ」
昨日と同じようにファルを呼ぶも、獅子がトビの横を陣取っていて座れないと判断したんだろう。
ファルは返事を待たずにレンの脇に後ろから手を差し込み、そのまま反転して抱えた。
「トビ君····」
「大丈夫や。
そっちおるから」
不安そうなレンの頭をポンポンと撫でて向かいに移る。
向かいの呆れた6つの視線を気にも留めず、ファルはトビのいた場所に腰かけた。
「それではレンちゃん、昨日の続きを教えてくれんかの」
親父も2人のやり取りを気にせず、再びレンに擦り寄る。
もちろん俺もだ。
レンはそんな俺達を少しの間撫で、今度はファルにコアラした。
「朔月は牢で死ぬはずだったけど、2人が助け出してくれた。
何年かは隠れて穏やかに暮らせたと思う。
だけど朔月は特別な神和で供物。
何より他ならぬ神々が求めた存在だったんだ。
神殿だけじゃなく、今上····えっと、国王も求めて神の威光にあやかろうと探してた。
そんな中で鷹親と親之との関係も変わっていった」
『私の事はもう良いのです。
このままでは鷹親だけにとどまりますまい。
親之、貴殿様も····。
ですからどうか私を手離して下さりませ』
月明かりに照らされて静かに微笑む朔月が思い浮かぶ。
幻想的で、儚げで。
『手離すはずが無かろう!
何とか掛け合う!
鷹親とてお前の犠牲になって婚儀を挙げたわけではない!
政略的に我が家紋が娶らねばならなかった、それだけぞ!』
助けた当初はまともに食事を受けつけられず、それでもやっとの事で昔より肉を付ける事ができた、未だに痩せた華奢な体を掻き抱く。
『それでも、神殿や今上からの圧力もございましょう?
神和たる私を娶る事は決してできぬのです。
なのに貴殿様方に情けをかけられて守られているのは心苦しいのです。
鷹親のご正室様は泣いておられた。
女子でございますもの。
正室であればある程に私の事が許せぬのも致し方なきもの。
そのような方をまた1人増やすのは本位ではござりませぬ。
女子である私は貴殿様方お2人を愛し、なのに殿方である貴殿様方は私1人を愛するなどと。
今の世に認められる事ではござりませぬ』
『ならば何故かように震える?
恐ろしいのであろう?』
華奢な体からは小さな震えが伝わってくる。
手離される恐怖に耐えているのは間違いない。
『耐え難いのです。
私が如何に業が深き女子であるのか、穢れた肉塊であるのか自覚しながらも、私を隠す為とはいえ鷹親が望まずしてご正室を迎えたのが。
そして私が見つかったが為に今度は貴殿様がご正室を迎え入れねばならなくなったのが。
それでも····それでも····因果は巡りましょう。
私の体ももうじき····大人へと熟しまする。
再びかの場所へ戻らずとも、神和として神々が求めれば死する事になるのです。
早いか遅いかだけの違い。
ならばこれ以上愛する貴殿様方も、そして私の存在があるが為に要らぬ業を背負うやもしれぬご正室を生む必要は····』
『聞きとうない!
黙れ!
死なせぬ!
贄など許さぬ!
お前は私の、私達のものぞ!』
華奢な体を弄る。
『何をなさりまするか!
お止め下さりませ、私は····』
口づけて言葉を塞ぐ。
『孕めば時が延びると聞いた。
もうお前の体が熟しておるのは側付きから聞いておる。
手離せなどと言うな。
そんな事は俺も鷹親も許さぬ』
月を反射する血色の目が涙に濡れる。
事が終わるまで抵抗され続けた。
1度タガが外れれば、言い訳をたてに何度も交わった。
自分があの下卑た男達と同じ事をしているのを自覚する。
しかし幼い頃より傷つけられきた愛しい女を誰にも、今上にも神にもくれてやりたくなかった。
「朔月は2人を、2人は朔月を愛するようになった。
けれどいつまでも隠していられなかった。
朔月の持つ寿ぎ····神の資格に魅せられて神に近い者や異形の者も現れたし、呪力を持つ巫覡も探してたから。
最初は鷹親が犠牲になった。
元々2人は有力な家紋の嫡子達だったけど、政略結婚で国王の血筋と縁を結んで朔月を囲い続けた。
でもそれだけじゃ抑えられなくて、親之もどこかの家と婚姻を結ぼうとした」
レンは1度大きく深呼吸する。
レン····俺が朔月にした事を思い出してるのか?
『すまぬ····手離せぬ。
生きてくれ。
できるだけ長く····側で····』
気を失いながら涙を流す朔月に呟いた言葉だ。
吐き気がする。
「朔月は耐えられなかった。
政略結婚でも、朔月を守る為だとあらかじめ知らされて嫁いできても、妻となる相手には心がある。
自分がいる限り鷹親はそれを踏みにじる事になっていたし、神和だった朔月の目には彼に日に日に大きくなる呪いの影が纏わりついていたのが見えてた。
それはゼノのような力の弱い神を取り込んで更に膨れ上がってたし、親之までそうなるかもしれないと思うと恐怖でしかなかった。
だから鷹親の妻の密告で捕らえに来た人達に自分から捕まって神殿に戻った」
親之がした事は黙ったまま、レンは前世での俺達双子の最期の話を続けた。
昨日と同じようにファルを呼ぶも、獅子がトビの横を陣取っていて座れないと判断したんだろう。
ファルは返事を待たずにレンの脇に後ろから手を差し込み、そのまま反転して抱えた。
「トビ君····」
「大丈夫や。
そっちおるから」
不安そうなレンの頭をポンポンと撫でて向かいに移る。
向かいの呆れた6つの視線を気にも留めず、ファルはトビのいた場所に腰かけた。
「それではレンちゃん、昨日の続きを教えてくれんかの」
親父も2人のやり取りを気にせず、再びレンに擦り寄る。
もちろん俺もだ。
レンはそんな俺達を少しの間撫で、今度はファルにコアラした。
「朔月は牢で死ぬはずだったけど、2人が助け出してくれた。
何年かは隠れて穏やかに暮らせたと思う。
だけど朔月は特別な神和で供物。
何より他ならぬ神々が求めた存在だったんだ。
神殿だけじゃなく、今上····えっと、国王も求めて神の威光にあやかろうと探してた。
そんな中で鷹親と親之との関係も変わっていった」
『私の事はもう良いのです。
このままでは鷹親だけにとどまりますまい。
親之、貴殿様も····。
ですからどうか私を手離して下さりませ』
月明かりに照らされて静かに微笑む朔月が思い浮かぶ。
幻想的で、儚げで。
『手離すはずが無かろう!
何とか掛け合う!
鷹親とてお前の犠牲になって婚儀を挙げたわけではない!
政略的に我が家紋が娶らねばならなかった、それだけぞ!』
助けた当初はまともに食事を受けつけられず、それでもやっとの事で昔より肉を付ける事ができた、未だに痩せた華奢な体を掻き抱く。
『それでも、神殿や今上からの圧力もございましょう?
神和たる私を娶る事は決してできぬのです。
なのに貴殿様方に情けをかけられて守られているのは心苦しいのです。
鷹親のご正室様は泣いておられた。
女子でございますもの。
正室であればある程に私の事が許せぬのも致し方なきもの。
そのような方をまた1人増やすのは本位ではござりませぬ。
女子である私は貴殿様方お2人を愛し、なのに殿方である貴殿様方は私1人を愛するなどと。
今の世に認められる事ではござりませぬ』
『ならば何故かように震える?
恐ろしいのであろう?』
華奢な体からは小さな震えが伝わってくる。
手離される恐怖に耐えているのは間違いない。
『耐え難いのです。
私が如何に業が深き女子であるのか、穢れた肉塊であるのか自覚しながらも、私を隠す為とはいえ鷹親が望まずしてご正室を迎えたのが。
そして私が見つかったが為に今度は貴殿様がご正室を迎え入れねばならなくなったのが。
それでも····それでも····因果は巡りましょう。
私の体ももうじき····大人へと熟しまする。
再びかの場所へ戻らずとも、神和として神々が求めれば死する事になるのです。
早いか遅いかだけの違い。
ならばこれ以上愛する貴殿様方も、そして私の存在があるが為に要らぬ業を背負うやもしれぬご正室を生む必要は····』
『聞きとうない!
黙れ!
死なせぬ!
贄など許さぬ!
お前は私の、私達のものぞ!』
華奢な体を弄る。
『何をなさりまするか!
お止め下さりませ、私は····』
口づけて言葉を塞ぐ。
『孕めば時が延びると聞いた。
もうお前の体が熟しておるのは側付きから聞いておる。
手離せなどと言うな。
そんな事は俺も鷹親も許さぬ』
月を反射する血色の目が涙に濡れる。
事が終わるまで抵抗され続けた。
1度タガが外れれば、言い訳をたてに何度も交わった。
自分があの下卑た男達と同じ事をしているのを自覚する。
しかし幼い頃より傷つけられきた愛しい女を誰にも、今上にも神にもくれてやりたくなかった。
「朔月は2人を、2人は朔月を愛するようになった。
けれどいつまでも隠していられなかった。
朔月の持つ寿ぎ····神の資格に魅せられて神に近い者や異形の者も現れたし、呪力を持つ巫覡も探してたから。
最初は鷹親が犠牲になった。
元々2人は有力な家紋の嫡子達だったけど、政略結婚で国王の血筋と縁を結んで朔月を囲い続けた。
でもそれだけじゃ抑えられなくて、親之もどこかの家と婚姻を結ぼうとした」
レンは1度大きく深呼吸する。
レン····俺が朔月にした事を思い出してるのか?
『すまぬ····手離せぬ。
生きてくれ。
できるだけ長く····側で····』
気を失いながら涙を流す朔月に呟いた言葉だ。
吐き気がする。
「朔月は耐えられなかった。
政略結婚でも、朔月を守る為だとあらかじめ知らされて嫁いできても、妻となる相手には心がある。
自分がいる限り鷹親はそれを踏みにじる事になっていたし、神和だった朔月の目には彼に日に日に大きくなる呪いの影が纏わりついていたのが見えてた。
それはゼノのような力の弱い神を取り込んで更に膨れ上がってたし、親之までそうなるかもしれないと思うと恐怖でしかなかった。
だから鷹親の妻の密告で捕らえに来た人達に自分から捕まって神殿に戻った」
親之がした事は黙ったまま、レンは前世での俺達双子の最期の話を続けた。
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