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177.生き抜く
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「そろそろ、私もお暇するようです」
振り返らないまま、静かに告げる。
「レンは私達の中でも千年の研鑽から脱した転生体だからか、生については1番純粋で前向きでござります。
恐らくそれが普通、なのでしょうが。
しかし転生体として不完全な肉体に宿ったが故に未熟な自我でありながら、生々しく残る私と蓮香の記憶の処理を強制的にさせてしまいました」
朔月は昨夜の眠る間際の蓮香と同じような事を話すとゆっくりと立ち上がり、こちらを振り向く。
穏やかに微笑む顔は美しく、優美だ。
「本来ならば肉体が赤子として産まれ、何年かかけて記憶を処理しながら成長するところを飛ばしてしまったのでござります。
そのせいで未だ精神が不安定で脆い。
これまでは私と蓮香の自我があの子の記憶の統制をいくらか取り、拠り所となって耐えられた事も、私達がただの記憶となってしまう事が間近に迫れば更に不安定となりましょう。
最悪はせっかく前向きであった生を拒絶しかねませぬ。
せめてあの子が生きて側にいれば違ったのでしょうが、既に亡くなっているようですし」
「あの子とは?」
優美な微笑みに本の少しの痛みを走らせる。
副団長が食い気味に尋ねる。
我が子認定している兎属は儚げな朔月と話の内容に気が気ではないんだろう。
「レンがこちらではお爺ちゃんと呼んでいた者です。
蓮香にとっての詩がそうであったように、レンにとってはあの子がささやかで、しかし大きな拠り所だったのです」
少しずつ朔月の輪郭がぼやけて淡く光り始める。
「どういう····」
「どうか、レンを····」
全てを言い終える前に輝きが増し、白い光源となって再び形を変えていく。
そうして少しずつ変化した輪郭が、今度は色づいていく。
光が消えた時、そこには肩より少し上で切り揃えた黒髪に黒目の····。
「····あの、クソ神····」
ぼそりとため息を吐いてから呟いたのは····レン····いや、まさか····。
「蓮香、か?」
まるで初めて蓮香と会った時のように悪態をつく様子に既視感を覚える。
俺の言葉にトビがはっとしたように蓮香を見やるのが視界の端に映る。
それにしても髪の長さもそうだがレンと違っていくらか年を取り、成熟した大人の色気が滲み出ている。
うっすらと化粧もしているのか?
服はあの時夢見で見たレースをあしらった詰襟で袖の無い上服と、布を巻いたような踝丈のスカートが、雌の特徴を主張している。
胸もそうだし、くびれて丸みのある腰も全然隠れていないが、まずくないか?
それに親之の記憶を垣間見た今ならわかる。
蓮香は細身だがスタイルはかなりいい。
素足で履いた黒いサンダルは夢見のままならふくらはぎくらいまであり、紐よりも太めの帯のようなものを巻きつけて固定されていたはずだ。
やはり全体的に黒っぽい色合いがレンの色気を更に引き出しているな。
あの時は遠目だったし黒髪に隠れて気づかなかったが、耳にはそれぞれ濃い青色と緑色の石の簡素だが質の良さそうなピアスが片方ずるはめられている。
片方の青いピアスはあの時見た蓮香の子供の目の色に似ていた。
「出て来い。
いるのは分かってる」
ため息混じりに誰かに呼びかけた。
それに応えるかのように蓮香の後ろの空間が歪んだ。
「久方ぶりよな、蓮香」
「そうだな、久しぶりだ。
それで?
わざわざ違う世界にまで来て何の用?」
蓮香がこちらに背を向けるように振り返ると、長い黒髪黒目で美しいが中性的な顔の何者かがパッと現れた。
目元には紅い化粧がされていて、朔月の身につけていた衣のようで形がいくらか違う、金、紅、白を基調とした色味の衣を重ねるように身につけている。
足元は衣で隠れているから見えない。
腰の辺りを帯で縛り、正室の周りを踊るように回っていたあの布や石玉とよく似た装飾品をいくつか身につけている。
「そなたは相変わらず愛想がないのう。
それにせっかちじゃ」
「で?」
「そなた達の千年の中で一等つれぬ転生体め」
不機嫌さを隠す事もない蓮香に、何者かは唇を尖らせる。
「千年おたくらの暇潰しに付き合っただろう。
本当なら付き合う必要のない朔月の自我だって千年付き合い続けたはずだけど?」
「だからと言うて、啖呵を切って千年の研鑽でせっかく宿り直した寿ぎごと己の魂を砕こうとするかえ?」
「千年暇潰しに付き合って、更に神になっておたくらの暇潰しに永劫付き合うとか、何の地獄だよ。
大体こっちは生きてる間だけは死ぬ時に備えて好きにやってんのに、今更神になって何かがしたいとか思うわけないだろう。
暇ならとっとと自分の作った世界に帰って気紛れに誰かの必死な神頼みでも聞き入れてやれ」
あしらうような物言いだが、その内容にふとレンの話を思い出した。
『誰も、6才のあの時まで蓮香を助けてくれなかったけど、蓮香も幼児の体で怒りに任せていっぱい抵抗したの。
人にも、朔月の時からずっと自分達を翻弄してきた運命にも、千年の試練にも、神々にも。
何をされても、何があっても絶対挫けなかった。
それはあの地下牢から出た後もそう。
持てる力も、今まで転生してきた知識も、自分に集まってくる人脈も、使える力は全部使って生き抜いた』
『蓮香は自分の最期に得られる権利をどう行使するかだけを決めて、その時に後悔だけは絶対しない為にやるべき事も、できる事もただひたすらし続けて生き抜いたから、誰かや何かを憎んたり羨んでる暇なんてなかったの』
今の蓮香の言葉からも感じるように、最期に後悔する事がないよう、しっかり生き抜いたという事だろうか。
振り返らないまま、静かに告げる。
「レンは私達の中でも千年の研鑽から脱した転生体だからか、生については1番純粋で前向きでござります。
恐らくそれが普通、なのでしょうが。
しかし転生体として不完全な肉体に宿ったが故に未熟な自我でありながら、生々しく残る私と蓮香の記憶の処理を強制的にさせてしまいました」
朔月は昨夜の眠る間際の蓮香と同じような事を話すとゆっくりと立ち上がり、こちらを振り向く。
穏やかに微笑む顔は美しく、優美だ。
「本来ならば肉体が赤子として産まれ、何年かかけて記憶を処理しながら成長するところを飛ばしてしまったのでござります。
そのせいで未だ精神が不安定で脆い。
これまでは私と蓮香の自我があの子の記憶の統制をいくらか取り、拠り所となって耐えられた事も、私達がただの記憶となってしまう事が間近に迫れば更に不安定となりましょう。
最悪はせっかく前向きであった生を拒絶しかねませぬ。
せめてあの子が生きて側にいれば違ったのでしょうが、既に亡くなっているようですし」
「あの子とは?」
優美な微笑みに本の少しの痛みを走らせる。
副団長が食い気味に尋ねる。
我が子認定している兎属は儚げな朔月と話の内容に気が気ではないんだろう。
「レンがこちらではお爺ちゃんと呼んでいた者です。
蓮香にとっての詩がそうであったように、レンにとってはあの子がささやかで、しかし大きな拠り所だったのです」
少しずつ朔月の輪郭がぼやけて淡く光り始める。
「どういう····」
「どうか、レンを····」
全てを言い終える前に輝きが増し、白い光源となって再び形を変えていく。
そうして少しずつ変化した輪郭が、今度は色づいていく。
光が消えた時、そこには肩より少し上で切り揃えた黒髪に黒目の····。
「····あの、クソ神····」
ぼそりとため息を吐いてから呟いたのは····レン····いや、まさか····。
「蓮香、か?」
まるで初めて蓮香と会った時のように悪態をつく様子に既視感を覚える。
俺の言葉にトビがはっとしたように蓮香を見やるのが視界の端に映る。
それにしても髪の長さもそうだがレンと違っていくらか年を取り、成熟した大人の色気が滲み出ている。
うっすらと化粧もしているのか?
服はあの時夢見で見たレースをあしらった詰襟で袖の無い上服と、布を巻いたような踝丈のスカートが、雌の特徴を主張している。
胸もそうだし、くびれて丸みのある腰も全然隠れていないが、まずくないか?
それに親之の記憶を垣間見た今ならわかる。
蓮香は細身だがスタイルはかなりいい。
素足で履いた黒いサンダルは夢見のままならふくらはぎくらいまであり、紐よりも太めの帯のようなものを巻きつけて固定されていたはずだ。
やはり全体的に黒っぽい色合いがレンの色気を更に引き出しているな。
あの時は遠目だったし黒髪に隠れて気づかなかったが、耳にはそれぞれ濃い青色と緑色の石の簡素だが質の良さそうなピアスが片方ずるはめられている。
片方の青いピアスはあの時見た蓮香の子供の目の色に似ていた。
「出て来い。
いるのは分かってる」
ため息混じりに誰かに呼びかけた。
それに応えるかのように蓮香の後ろの空間が歪んだ。
「久方ぶりよな、蓮香」
「そうだな、久しぶりだ。
それで?
わざわざ違う世界にまで来て何の用?」
蓮香がこちらに背を向けるように振り返ると、長い黒髪黒目で美しいが中性的な顔の何者かがパッと現れた。
目元には紅い化粧がされていて、朔月の身につけていた衣のようで形がいくらか違う、金、紅、白を基調とした色味の衣を重ねるように身につけている。
足元は衣で隠れているから見えない。
腰の辺りを帯で縛り、正室の周りを踊るように回っていたあの布や石玉とよく似た装飾品をいくつか身につけている。
「そなたは相変わらず愛想がないのう。
それにせっかちじゃ」
「で?」
「そなた達の千年の中で一等つれぬ転生体め」
不機嫌さを隠す事もない蓮香に、何者かは唇を尖らせる。
「千年おたくらの暇潰しに付き合っただろう。
本当なら付き合う必要のない朔月の自我だって千年付き合い続けたはずだけど?」
「だからと言うて、啖呵を切って千年の研鑽でせっかく宿り直した寿ぎごと己の魂を砕こうとするかえ?」
「千年暇潰しに付き合って、更に神になっておたくらの暇潰しに永劫付き合うとか、何の地獄だよ。
大体こっちは生きてる間だけは死ぬ時に備えて好きにやってんのに、今更神になって何かがしたいとか思うわけないだろう。
暇ならとっとと自分の作った世界に帰って気紛れに誰かの必死な神頼みでも聞き入れてやれ」
あしらうような物言いだが、その内容にふとレンの話を思い出した。
『誰も、6才のあの時まで蓮香を助けてくれなかったけど、蓮香も幼児の体で怒りに任せていっぱい抵抗したの。
人にも、朔月の時からずっと自分達を翻弄してきた運命にも、千年の試練にも、神々にも。
何をされても、何があっても絶対挫けなかった。
それはあの地下牢から出た後もそう。
持てる力も、今まで転生してきた知識も、自分に集まってくる人脈も、使える力は全部使って生き抜いた』
『蓮香は自分の最期に得られる権利をどう行使するかだけを決めて、その時に後悔だけは絶対しない為にやるべき事も、できる事もただひたすらし続けて生き抜いたから、誰かや何かを憎んたり羨んでる暇なんてなかったの』
今の蓮香の言葉からも感じるように、最期に後悔する事がないよう、しっかり生き抜いたという事だろうか。
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