《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

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186.吸い殻と香り

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「何じゃ、お主ら。
やらかしおったか」

 前国王の伴侶の部屋に戻った俺達を見て、呆れた顔をした親父の開口一番の言葉に、しかし俺はもはや怒りすら湧かなかった。

 結局あの後蓮香に何を話しかけても無言を貫かれてしまったのだ。
反応はせいぜいため息くらい。
結局ただ蓮香を抱き上げて戻って来ただけとなってしまった。

 トビの時のように体を預けてくれるわけもなく、俺の腕に座っているだけの状態。
微妙に空いた互いの体の隙間がとてつもなく寂しく感じる。

 しかもあの煙草の独特の香りが纏わりつき、蓮香自身の香りを邪魔してくれていたせいか余計気持ちが沈む。

「降ろせ」

 一言だけ声を発するも、やはり俺達への興味は失せたらしく何の感情もこもっていない。

 つらすぎる····。

 言われた通りにするとこちらを一切気にする事もなく、そのままつかつかと伴侶の傍らに行く。
わかった上で観察すれば、確かに蓮香は左足を庇った歩き方をしていた。

 トビが少し距離を開けてついていくが、そちらにも全く反応を示さない。
トビの耳と尻尾が心なしか項垂れていく気がするのは気のせいだろうか。

 ファルがしれっと蓮香の背後に立った。

「ヨハンを起こして、そのまま支えておいて」

 伴侶のすぐ脇に立っていた前国王に指示を出す。
完全に無表情となった蓮香に何かを察したんだろう。
彼も一言も口を開かず指示に従っている。

 そういえばカミュラとゼネガラはどこに行ったんだ?
姿が見えない。

「黒竜」

 蓮香がすぐ背後に陣取っていたファルに声をかけ、振り向いて拳を差し出す。
ファルが手の平を上にして同じように差し出すと何かを置いた。
こちらからは死角になっていてよく見えなかったが、あの吸い殻か?

「あげる」

 ファルに捨てとけという事だろうか?
ファルはそのまま何も確認せず懐に仕舞う。
一瞬顔をしかめたのは、多分あの独特の香りのせいだろう。

 蓮香はその様子も興味がないのか、視界の端には映っただろうトビにも反応せず、すぐに振り返って前国王によって半身を起こした伴侶のすぐ脇に腰掛けた。

 前国王と蓮香は伴侶を挟んで向かい合っている。
蓮香があんなのと目を合わせて話す状況にはさすがに苛っとする。

「お前は今すぐ魔法を解除して。
その上で私がお前をヨハンの夢に放り込む。
ヨハンの体から鬼はいなくなったけど、向こうの世界にいる時から今まで鬼が長く留まったせいでヨハンの体にはこの世界にない呪力というものが宿ってる。
その上にお前がそこそこの期間を魔法で強制的に眠らせてたせいで魔力と呪力が互いに干渉し合って今は精神が夢に閉じ込められた状態だ」
「何故····干渉とは?」
「はあ。
魔力と呪力が干渉する理由なんか知るか。
それぞれの世界の神が決めた理レベルの話を一々知る必要もそうする意味もない」

 前国王としては当然の疑問だと思うが、蓮香はため息を吐いてすげなく話す。

「挙げ句に鬼がいる間お前が強制的に眠らせたせいでヨハンの夢に忍び込んだ鬼がずっと悪夢を見せ続けてた」
「····は?」

 予想外の話に前国王が目を丸くする。

「鬼に生きながら貪り食われたり、あの病で苦しんでた時の事を悪夢として体験させられてて既に精神崩壊状態。
あの刀をヨハンに刺してからは鬼も手を出せなくしていくらか呪力を吸わせたけど、体に残った呪力とお前の魔力の影響か今も悪夢を見続けてる」
「いや、待って欲しい。
それなら····私はヨハンをずっと夢で苦しめていたという、こと····」
「そうなる」
「そんな····」

 はっきりと断定されてすぐに魔法を解いた前国王の顔色は青く変わっている。
だがそれに対して蓮香は不快感を顔に出した。
 
「あのさ、そういうの後にして。
地下で無駄に時間食ったからこっちも急いでるし、自業自得でうざい」

 レンより大人びたとはいえ、可愛らしいのは健在の顔を不快感にしかめる。

「わざわざ説明してるのは今のヨハンの夢と精神は不安定で、何の予備情報もないお前を放り込んでも連れ戻せないと判断してるから。
他人の夢に入ればお前は魔力も竜人としての能力も使えないただの精神体だ。
精神崩壊起こしてる奴の夢はお前が思うよりもえげつない。
抜き身の刀に切りつけられ続けるような干渉をこっちが受ける。
今の自身喪失してるお前が不安定なままだとすぐにヨハンの夢に殺られるからそのつもりでいろ」

 そう言うとくすりと冷たく笑う。

「そうそう、お前が夢で殺られればそのうち体も死んで終わりだろうけど、ヨハンは自分の夢に取り込まれたままだ。
ヨハンの体に呪力が残ってるから精神体の核となる部分だけはこれ以上傷つかないようにして助けられるチャンスを作っているけど、私ももうじき消えるからな。
レンは私のようには夢見の力を扱えないし、そうなれば延々と悪夢に蝕まれ続ける。
呪力が長く介入したせいで体が死んでも今の夢は別次元で保たれてるから、下手をすれば永遠にその状態が続くだろうな」
「そんな····」
「自業自得だ。
お前が番のいない現実を受け入れられずにヨハンをこの世界に召還した時点で、こうなる事は決まってたんだよ。
ヨハンも自分で選んだ結果だ。
たまたま私が出くわして、たまたま殴りたくなったから仕方なく手を差し出してやってる。
感謝しなよ」

 殴りたくなったとか物騒な事を口にするし、かなりの上から口調だが確かにその通りなんだろう。

「お前が魔力を引き上げたから今は体に残してる呪力だけになった。
それを使って不安定なヨハンの夢を今から強制的に閉じる。
その時にその体にある呪力も全て使い切るか回収する。
閉じきる前にお前はヨハンの精神の核になる部分を探せ。
見つけたら体の一部を繋いで絶対に離れるな。
見つけやすいようにマーキングだけはしてあるけど、それがどういう形でお前の目に映るかは私にもわからない。
見つけたら私の名前を叫べ。
一時的にお前の夢を繋いで2人をそっちに逃がす。
ヨハンの夢が新たに構築されたらヨハンを迎えに行くから、そのまま離れずにいろ」

 そう言うと前国王夫妻を揃って抱きしめるように2人の首に腕を回す。
こうして改めて見ると人属の伴侶に比べても蓮香は小柄だ。

「私達はしばらく眠るけど、私が動くまで誰も触れるな」

 言うが早いか前国王の瞼が下がる。
こちらからは顔の見えない蓮香も恐らく眠りについたのを気配で察する。

 それにしても····ずるい。
俺も抱きしめられたいし、あわよくば抱きしめたい。
早くレンにも会いたい。

 最近の拒絶っぷりに現実逃避をしていると3人の頭上にどこからともなく呪華が現れた。
花弁が1枚パラリと落ち、黒い煙となって消えた。
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