《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

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185.呪華

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「····私の人属····どこだ····何故いない····」

 隣の牢で白い焔が昇って消えた後、蓮香は隣の牢の前に立った。

 隣では依然としてペネドゥルがぼそぼそと呟いている。

 私の人属って誰の事だ?
まさかレンの事じゃないよな?

 両手両足に魔力拘束具をはめたペネドゥルは何かに取り憑かれたように暗い顔だ。
俺が初めてここに来た何日か前と変わらず簡易ベッドに背を預けてうつむき、地べたに座りこんでいる。

 はっきり言って不気味だが、蓮香は全く気にしていない様子だ。

「ねえ、素敵に不気味すぎるんだけど?」

 蓮香が中に向かって声をかける。
不気味は素敵と言うものなのか?
蓮香の感性は独特だな。

「····何故だ····悪いのは私ではない····兄上とザガドが邪魔したせいだ····私の人属····お前が私を貶めたのだ····どこだ····」

 なおも下を向いてぶつぶつと呟いている。

「ふうん····いい感じだね。
期待はずれだったけど、急成長したか」
「····期待、はず、れ····」

 蓮香は自分を完全に無視していたペネドゥルに気分を害した様子もなく、いや、むしろ機嫌が良さげだ。
そんな蓮香の言葉がひっかかったのか、男がゆっくりと顔を上げた。

「なんだ、聞こえてるんなら反応くらいしなよ」
「あ····あ····お前····」

 ゆっくりと立ち上がり、ふらふらと近づいて来る。

 そうしてペネドゥルの体からはラジェットよりも遥かに濃く黒い靄が出ていて背後で渦巻いている。
そんな彼見て蓮香はくすりと笑う。

「なに?」
「どこに、行っていた····」
「会いたかったの?」
「····お前が····私を、貶めた····」
「ふふ····もしそうだったら?」

 ガシャ、と手枷をぶつけながら鉄格子を握る。

 蓮香はそんなペネドゥルに近づく。

「蓮香、それ以上は····」


 危ないと続けようとして、あの強制力のある言葉が俺達を縛る。

「ねえ、私がお前を貶めたのなら、お前は私をどうするの?」
「ど、う····」
「そう····」

 鉄格子の隙間から華奢な細腕が片方差し込まれ、ペネドゥルの片頬を包む。

「ねえ、私に会いたかった?」
「あ、い····」
「ふ」

 優しげに笑う。

「お前は、ちゃんと華を咲かせたね」
「は、な」
「そう、華。
呪華。
ほら、禍々しくて綺麗」

 そこはかとない優しげな声音だ。

「雪火」

 何度目かの神刀を呼ぶ声。

「素敵な華をありがとう」
「また····私を捨て····」 
「捨ててないよ?
だって····」

 ぐいっと顎を挟んで自分の顔に近づけた。
真後ろにいれば口づけているように見えたかもしれないと思うほどに2人の顔が近い。

「そもそも拾ってない」

 顔は見えない。
だがぞっとするほど打って変わった冷たい声音だった。

「お、まえ····」
「お休み。
束の間の良い夢を」

 頬から手を離すと蓮香はそのまま胸を突き飛ばすと後ろに倒れた。

 そうして気づく。
ペネドゥルの胸にもラジェットの時のようにいつの間にか神刀が突き刺さっていた。
倒れたペネドゥルの真上に禍々しく濃い暗闇色の靄が渦巻く。

「ほら、あれが本当の呪華」

 渦巻いた靄は暗闇の中ですらも更に密度の濃い黒となり、花となる。
蕾だったそれはやがて幾重かに折り重なった花びらを開花させた。
その花がもしも白や桃色だったならば美しく幻想的に感じただろう。

 形は朔月が好きだと言っていたあの蓮の花だ。

 しかしそれは禍々しくて毒々しい闇色の花。
見ているだけで引き込まれそうなほどに凶悪で美しい、呪華という名が相応しい華。

 倒れたペネドゥルから立ち昇る靄が全て呪華に吸収されてから、蓮香は宙へ浮いた呪華を自らに誘うようにそっと両手を差し出す。

 少し距離があるが、手の平には蓮香の吸った煙草の吸い殻が3つ乗っているのが見えた。
多分ずっと握り込んでいたんだろうが、持ったままトビの頬に手をやったりとかしてたのか。
器用だな。

「おいで」

 その言葉を待っていたかのように呪華はくるくると回りながら両手の平に収まる。
蓮香は華を軽く包んで胸の前に引き寄せて開く。

 パラリ、と花びらが手の平の中でほどけて黒い雪のように滲んで消える。

 何だ?
まるで吸収したように。

 だけど持ってた吸い殻には特に変化はなかった。

「雪火、呪力の残滓は掃除しといて」

 蓮香が俺達の方に振り向き様に声をかける。

 するとラジェットの時のように再び白い焔が立ち昇って神刀ごと焼き尽くしたように消えた。

「あの、2人は····」
「さあ?
憑き物が落ちたようにすっきり目覚めるか、心を壊した廃人になるかのどっちかじゃないかな」

 ザガド国王の言葉に事も無げに返事をするが、最後の言葉はいただけない。

「な、どうして?!」
「呪華を生んだから」

 食い下がるザガド国王に説明するも、今度もトビ曰く圧倒的説明不足というやつだ。

「蓮香ちゃん、もう少し説明してや」
「····はあ。
本当に面倒」
「だがそれは君のせいで····」

 トビが説明を促すが大きくため息を吐き、更に詰め寄るザガド国王に再びため息を吐いてから説明する。

「確かに彼らの負の感情が魔素ではなく呪力に還元されたのは私の力に当てられたせいだけど、夢見で種を仕込んでおいたのはこの世界にない呪力が回りに影響を与えないようにする念の為の処置だよ。
呪華が芽吹くかどうかは本人がどれくらい恨みや嫉妬、妬み嫉みに支配されたかによるから私のせいにされても困る。
実際どこぞの旧帝国の元皇太子は芽吹かせずに終わってた」

 一瞬トビがピクリと反応した。

「それこそお前達兄弟が何かしらのフォローでもしておけばこんな事にはならなかったはずだけど?」
「それは····」

 蓮香の切り返した言葉に言葉を詰まらせる。

「忙しさにかまけたのか、弟を裁かなければならない立場が後ろめたかったのかは知らないけど、責任転嫁するな」

 恐らく図星だろう。
臣下をここに何度か寄越したが、自分達はここに足を踏み入れたのは今が初めてなのは知っている。

「そもそも種を仕込んでおいたのはあの2人が夢見に触れた反動でゼノの世界にない呪いを振り撒かないようにする為だったし、お前の大事な側近が今もまともに仕事できてるのは私が夢見を使ったからだ。
都合が悪くなったら責任転嫁するとか、相変わらずご都合主義だな」

 ズバズバとした指摘にでかい図体がうなだれていく。

「それこそこの世界に呪いを招かないって決めた創造神ゼノリアの意志を尊重した結果でしかない。
呪華は呪いが呪力となる前にそれを吸収し、開花して消える。
華が開いた後の状態は人によってあまりに違いすぎるから私にはわからない。
以上。
お前達、もういいや」

 目に見えてザガド国王が完全に絶句したのを苛ついた目つきで一瞥すると踵を反して1人で階段の方へと向かい始めた。
蓮香が初めて竜人以外の俺達をお前と呼んだ。

 やばい、これはもたついてる俺達を全員見限った。

「蓮香」

 トビよりも一瞬だが先に動いて問答無用で小さな体を縦に抱き上げる。

「時間がないとずっと言ってきたはずだ。
邪魔するならもうお前達全員いらない」

 最後の警告だろうか。
声は何の感情もこもらない、無関心さしか感じなくなった。

「すまない。
もう邪魔はしないし、余計な口も挟ませない」

 背中に冷たい汗が流れた気がした。
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