《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

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184.呪花

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「····私は悪くない····何故だ····私の人属はどこだ····」

 1つの牢からはぼそぼそと呟く声が聞こえる。
牢の中は薄暗く、獣人でなければよく見えないだろう。

 細身の男は両手両足に魔力拘束具をはめられ、粗末な囚人服を着ている。
拘束具は頑丈で、更に物質強化の魔法がかけられた枷の為にいつぞやのジェロムがレンの枷を力任せに折り曲げる事も不可能だ。
手枷は短め、足枷は長めの鎖が左右を連結している。

 片隅に置かれた簡易ベッドに背を預けてうつむき、地べたに座りこんでいる。

「····殺す····あの人属····殺す····殺す····」

 もう1つの隣にある牢のガタイの良い男も細身の男と同じように両手両足に魔力拘束具をはめられてる。

 男は壁に向かって立ち、ぶつぶつと呟きながら壁にゴンゴンと額を打ちつけている。

「なんやの、これ····」

 トビが思わず呟く。
恐らくここに来たのは初めてなんだろう。

 それはそうだ。
俺もあの2人が転移した翌日、様子を確認するのにジェロムとラスイードと一緒に絶句した。

 ここにいるのはザッカルード新旧国王の王弟ペネドゥルと、新宰相の弟ラジェットだ。
亡霊のようにうつむいて座りこんでいるのがペネドゥル、殺意を滲ませて立っているのがラスイードだが、どちらもどこか目が血走っている。

「トビドニア、降ろせ」
「何する気?」
「収穫。
ほら、さっさとして」

 やはり圧倒的説明不足だが、トビは素直に降ろす。
何をするのか検討もつかないが、俺達5人は固唾を飲んで見守る。

 蓮香はまずジェロムの牢の前に立つ。

「今から何があっても手を出すな。
そこからこっちに近づくな。
····ねえ、こっち向きなよ」

 まずは俺達に釘を刺してから、中に向かって呼びかける。
すると今まで全く反応しなかったジェロムがゆっくりとこちらを振り向き····。

 ガシャン!!!!

「人属ぅ!!!!
殺す!
殺す!
殺す!!!!」

 一瞬でこちらに詰め寄るとけたたましい音を出して鉄格子を殴って血走った殺気を纏って叫ぶ。

「うん、上手くは咲いたね。
どうせならもっとねっとりじっとり気持ち悪いくらいの粘着的な殺意を練って欲しかったけど。
まあ呪いのない世界って考えれば上出来か」
「こっちへこい!
卑怯者!
殺してやる!」

 そんな様子を全く意に介さず、蓮香は尚も喚き散らすラジェットの背後あたりに焦点を合わせて機嫌良く話す。

「雪火」

 こちらを全く振り向かず、華奢な右手を真横へ差し出せばトビの手にあった神刀が白い煙のように消え、瞬きする間に蓮香の手の平に握られている。

 まるで朔月が初めて神刀を呼んだ時のようだ。
だがそれを振り下ろすわけでもなく、そのまま腕を下ろす。

「ねえ、そんなに私が憎い?」
「憎い!
殺す!
お前のせいだ!」
「ふふ、馬鹿なの?
逆恨みも大概にしろよ」
「黙れ!
殺す!」

 何だ?
叫ぶガタイのいい体から····黒い煙?
初めて蓮香が神刀を呼び出したのを見た時のようだ。

「あはは。
いっそ憐れだよ。
もちろんお前じゃない。
お前のように浅はかな馬鹿を配下に持ったお前の主とやらが憐れだ」

 ····めちゃくちゃに煽るな。

 ラジェットは手を血塗れにしながら力任せに鉄格子を何度も殴る。

 ····何だ?

 煽れば煽るほど、理性が怒りに支配されればされるほど、黒い煙が色濃く立ち上り、靄となってどす黒い何かがジェロムの背後に渦巻き始めた。

「それともお前の主とやらも愚かで馬鹿なのか?」
「殺す!!!!
死ね!!!!
死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 主を小馬鹿にした言葉に最大限に絶叫した。

 ザッ。

 不意に何かが強く擦れる音が聞こえた。

 ラジェットの叫びがピタリと止まる。

「ラジェット?!」
「「「「?!」」」」

 え、いつの間に?!
神刀が消えたと思ったら胸に突き刺さってる?!

 ザガド国王は名を叫び、俺達は息を飲んだ。

 ラジェットは醜く顔を歪めたまま、体を硬直させて後ろへバタンと倒れる。



 思わず駆け寄りそうな俺達を朔月のように強制力のある言葉で制する。

 カタカタカタ····。

 神刀が音を立てて震える。

 と、靄がより暗く闇を纏って倒れた体をの上で手の平ほどの何かの形を作っていく。

「花?」
「あれが呪華。
呪いの塊」

 靄は真っ黒な花のような何かになるが、輪郭がぼやけている。
どこかで見たような花の形だ。

 どうやら黒い何かは俺達全員の目に見えているらしい。

「はあ。
煽ってもまだまだ不十分か。
華やかさがないから、ただの花だな。
呪うよりも殺意の方が勝ってるんだろう。
まあ脳筋的かつ短絡的な単純思考の割りには上手く咲いたけど」

 大きくため息は吐くものの、及第点ではあったようだ。
神刀はいまだにカタカタと震えている。
それにしても····。

「殺したんですか?」

 副団長も気になったらしい。

「死んでない。
人聞き悪いな」

 思わずくすりと笑ったのは、ストレートな物言いに対してだろうか。

「雪火。
食べていいよ」

 ん?
食べる?

 その優しげな言葉に反応したかのように震えが止まる。

 ボッ、と神刀を中心に白い焔が渦巻き、刺さったラジェットを巻き込んでそのまま黒い花を飲み込んだ。

「待て!
ラジェット!」

 ザガド国王が叫ぶが、俺達は蓮香のあの言葉に支配されたかのように動けない。

 そうして白い焔が牢の中を侵食し終わった頃。

 ····ガチャン。

 刺さっていたはずの神刀が倒れて床に転がった。

 黒い花も、靄も、あの煙すらもなくなって、薄暗い地下牢だというのにそこの空気だけは軽く感じた。
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