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195.詩の夢1
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「ごめん····ごめん、蓮香····ごめん····」
1人の黒髪の人属が何かを抱えて座り、ぼそぼそと呟いている。
あいつはあの時の!!!!
見覚えのある後ろ姿に殺意が湧き、殴りかかりそうになるのをファルが俺の肩を引いて止める。
「無駄だよぉ。
あっちから呼ばれないとぉ、向こうには行けないからぁ」
何かに触れるように突き出された白い手が不自然に止まる。
神の隣に行って同じようにすると、確かに見えない壁に触れた。
「声も届かないよぉ」
相変わらずのほほんとした口調に殺意が少しだけ削がれた。
改めてあちらを見ると、男のすぐ背後には腕組みして仁王立ちする蓮香が立っていた。
2人共こちらに背を向けていて表情はわからないが、男は何かに絶望し、蓮香はかなり苛ついているように感じる。
ザッとその人属と蓮香の姿はそのままに、景色だけが変わる。
「この光景····」
この景色はあの夢見で見た蓮香が命を落としたあの場所と同じだ。
違うのは蓮香を殺した2人のうちの1人、そこの黒髪の男が蓮香を抱えて座りこんでいる事だろうか。
そう、今蓮香は2人いる。
男に力無く抱き抱えられている蓮香と、すぐ後ろで苛立ちを感じさせる背中を向けて仁王立ちしている蓮香と。
「うわぁ、蓮香とっても怒ってるねぇ。
怖いぃ~」
ゼノリア神よ、全く怖そうな素振りがないんだが····。
俺達3人は透明な壁越しに人属達を眺めているものの、やはり向こうは全くこちらに気づいていない。
「····ごめん····ごめん····」
延々と謝罪し続ける男に蓮香はとうとう業を煮やしたようだ。
ゆっくりと片足を上げて····。
「ごめ····うわっ」
古傷のある左足で男の背中を蹴り飛ばした。
やっぱり蓮香は脳筋のやうな気がする。
転がった男の腕からはぐったりとして腹から血を流す蓮香が転がり落ちて、消えた。
胸からは血が出ていなかった。
「きしょい!
うざい!
女々しい!
いい加減にしろ!
このバカ詩!」
唖然とした様子で尻餅をついたままこちらを、いや、蓮香の方を向いた男は青い目をしていた。
整った顔立ちのその男は切れ長の二重の目を驚きに見開いき、罵倒する蓮香だけをまじまじと見ている。
「れん、か?」
「そうだけど?
いつまでも座りこんでないで、立ちなよ」
かなりぶっきらぼうな口調で呆然とする男にか細い手を差し出す。
差し出された手を取ると、男は立ち上がる事なく手を引いた。
「ちょっと?!」
「蓮香!
蓮香!
蓮香!
蓮香!」
蓮香はいきなりの行動に男の方へ倒れ込み、抗議の声をあげた。
しかし男は構わずきつく抱きしめ、壊れたように名前を叫ぶ。
「ちょっと、詩?!」
蓮香は離れようとじたばたするが、華奢だし純粋な力は弱いのだろう。
男の腕は全く弛む気配がない。
それでもじたばたする蓮香に男は抱きしめたまま泣き叫ぶ。
「嫌だ!
嫌だ、蓮香!
どこにも行くな!
ごめん!
謝るから!
ごめん!
行かないでくれ!
頼む!
頼む!」
その様子がまるで捨てられる直前の幼子が親に抱きついて離れないないように見えた。
お陰で男への殺意はそのままながら、引き剥がしたい衝動がいくぶん治まる。
「····はぁ」
蓮香は諦めたように、呆れたようにため息を1つ吐いて抱きしめ返す。
「好きにしていいよ」
落ち着かせるように背中に回した手をぽんぽんと一定のリズムで優しく叩く。
やがて少しずつ落ち着きを取り戻した様子を見せ始めた男は腕の力はそのままに不安そうに呼びかけた。
「蓮香····」
「何?」
「蓮香····」
「はぁ、何?」
「愛してる····」
「そうか」
「愛してる」
「私もだ」
「あい····え?」
短いやり取りの末の最後の言葉が予想外だったのか、やっと男が腕を弛めた。
「········蓮香、が?」
「そう。
愛してる、詩」
長い沈黙の後に男がとうとう体を離し、蓮香の顔をのぞきこんだ。
蓮香は男の頬を両手で包み、くすくすと笑う。
「何で驚くわけ?」
「あ、いや、だって····初めて····夢、だから?」
目に見えて狼狽える男になおも小さく笑う。
背を向けたままの蓮香の顔が見えなくて良かった。
さすがに嫉妬心が湧く。
ファルも先ほどから殺気を漏らしている。
「夢ではあるけど、現実でもある。
確かに生きてる間に伝えた事はないし、詩の想いを受け入れた事もないよ。
この感情が女としてなのか、幼馴染みとしてなのか、家族としてなのかはもう私にもわからない。
ただ、詩が私を殺さなくても、私は近いうちに誰かに殺される事は決まってた。
だから私より長く生きる詩の気持ちを受け入れたくも、認めたくもなかった。
それに私の愛は重いから。
伝えたらきっと死んだ後も詩を縛りたくなると思ってた。
詩はいつか私を忘れて、詩香と仲良くできる誰かと寄り添って生きてくれたらと、そう思ってた」
そう言って両手を添えてそのまま軽く口づける。
って、おい、蓮香?!
「こんな風に何年も何年も····私に縛りつけて苦しめたかったわけじゃないんだ。
私を殺させてごめん、詩」
「····あ····うっ····」
男は蓮香のどこか苦しげな、申し訳なさげな言葉に何も返せず、華奢な首筋に顔を埋めて嗚咽をもらした。
1人の黒髪の人属が何かを抱えて座り、ぼそぼそと呟いている。
あいつはあの時の!!!!
見覚えのある後ろ姿に殺意が湧き、殴りかかりそうになるのをファルが俺の肩を引いて止める。
「無駄だよぉ。
あっちから呼ばれないとぉ、向こうには行けないからぁ」
何かに触れるように突き出された白い手が不自然に止まる。
神の隣に行って同じようにすると、確かに見えない壁に触れた。
「声も届かないよぉ」
相変わらずのほほんとした口調に殺意が少しだけ削がれた。
改めてあちらを見ると、男のすぐ背後には腕組みして仁王立ちする蓮香が立っていた。
2人共こちらに背を向けていて表情はわからないが、男は何かに絶望し、蓮香はかなり苛ついているように感じる。
ザッとその人属と蓮香の姿はそのままに、景色だけが変わる。
「この光景····」
この景色はあの夢見で見た蓮香が命を落としたあの場所と同じだ。
違うのは蓮香を殺した2人のうちの1人、そこの黒髪の男が蓮香を抱えて座りこんでいる事だろうか。
そう、今蓮香は2人いる。
男に力無く抱き抱えられている蓮香と、すぐ後ろで苛立ちを感じさせる背中を向けて仁王立ちしている蓮香と。
「うわぁ、蓮香とっても怒ってるねぇ。
怖いぃ~」
ゼノリア神よ、全く怖そうな素振りがないんだが····。
俺達3人は透明な壁越しに人属達を眺めているものの、やはり向こうは全くこちらに気づいていない。
「····ごめん····ごめん····」
延々と謝罪し続ける男に蓮香はとうとう業を煮やしたようだ。
ゆっくりと片足を上げて····。
「ごめ····うわっ」
古傷のある左足で男の背中を蹴り飛ばした。
やっぱり蓮香は脳筋のやうな気がする。
転がった男の腕からはぐったりとして腹から血を流す蓮香が転がり落ちて、消えた。
胸からは血が出ていなかった。
「きしょい!
うざい!
女々しい!
いい加減にしろ!
このバカ詩!」
唖然とした様子で尻餅をついたままこちらを、いや、蓮香の方を向いた男は青い目をしていた。
整った顔立ちのその男は切れ長の二重の目を驚きに見開いき、罵倒する蓮香だけをまじまじと見ている。
「れん、か?」
「そうだけど?
いつまでも座りこんでないで、立ちなよ」
かなりぶっきらぼうな口調で呆然とする男にか細い手を差し出す。
差し出された手を取ると、男は立ち上がる事なく手を引いた。
「ちょっと?!」
「蓮香!
蓮香!
蓮香!
蓮香!」
蓮香はいきなりの行動に男の方へ倒れ込み、抗議の声をあげた。
しかし男は構わずきつく抱きしめ、壊れたように名前を叫ぶ。
「ちょっと、詩?!」
蓮香は離れようとじたばたするが、華奢だし純粋な力は弱いのだろう。
男の腕は全く弛む気配がない。
それでもじたばたする蓮香に男は抱きしめたまま泣き叫ぶ。
「嫌だ!
嫌だ、蓮香!
どこにも行くな!
ごめん!
謝るから!
ごめん!
行かないでくれ!
頼む!
頼む!」
その様子がまるで捨てられる直前の幼子が親に抱きついて離れないないように見えた。
お陰で男への殺意はそのままながら、引き剥がしたい衝動がいくぶん治まる。
「····はぁ」
蓮香は諦めたように、呆れたようにため息を1つ吐いて抱きしめ返す。
「好きにしていいよ」
落ち着かせるように背中に回した手をぽんぽんと一定のリズムで優しく叩く。
やがて少しずつ落ち着きを取り戻した様子を見せ始めた男は腕の力はそのままに不安そうに呼びかけた。
「蓮香····」
「何?」
「蓮香····」
「はぁ、何?」
「愛してる····」
「そうか」
「愛してる」
「私もだ」
「あい····え?」
短いやり取りの末の最後の言葉が予想外だったのか、やっと男が腕を弛めた。
「········蓮香、が?」
「そう。
愛してる、詩」
長い沈黙の後に男がとうとう体を離し、蓮香の顔をのぞきこんだ。
蓮香は男の頬を両手で包み、くすくすと笑う。
「何で驚くわけ?」
「あ、いや、だって····初めて····夢、だから?」
目に見えて狼狽える男になおも小さく笑う。
背を向けたままの蓮香の顔が見えなくて良かった。
さすがに嫉妬心が湧く。
ファルも先ほどから殺気を漏らしている。
「夢ではあるけど、現実でもある。
確かに生きてる間に伝えた事はないし、詩の想いを受け入れた事もないよ。
この感情が女としてなのか、幼馴染みとしてなのか、家族としてなのかはもう私にもわからない。
ただ、詩が私を殺さなくても、私は近いうちに誰かに殺される事は決まってた。
だから私より長く生きる詩の気持ちを受け入れたくも、認めたくもなかった。
それに私の愛は重いから。
伝えたらきっと死んだ後も詩を縛りたくなると思ってた。
詩はいつか私を忘れて、詩香と仲良くできる誰かと寄り添って生きてくれたらと、そう思ってた」
そう言って両手を添えてそのまま軽く口づける。
って、おい、蓮香?!
「こんな風に何年も何年も····私に縛りつけて苦しめたかったわけじゃないんだ。
私を殺させてごめん、詩」
「····あ····うっ····」
男は蓮香のどこか苦しげな、申し訳なさげな言葉に何も返せず、華奢な首筋に顔を埋めて嗚咽をもらした。
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