《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

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203.レン2

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「レン?」

 予期しない言葉に戸惑う。

(うそつき!
皆嫌い!
うそばっかり!)

 浅い呼吸は荒く乱れ、何かが喉の奥につっかえているのかケホケホと小さく咳をしているが、吐き出せずにむせる。
痛みに堪えるように硬く閉じた目からは涙がとめどなく溢れる。

「レン、何を嘘だと思っている?」

 ファルも俺の隣で胡座をかき、静かに問う。

(番だからなんでしょ!
朔月にも蓮香にも2人は反応してた!
それなら僕じゃなくてもいいじゃない!
それに僕より蓮香の方がずっと有益だ!
蓮香だって心残りがあるなら僕の方を消せばいいんだ!)

 レンは何を言っているんだ?
番だから?
有益?

「レン、確かにその体そのものを番だと感じるからこそ蓮香を番として認識してはいるんだろう。
朔月に触れたのは鷹親の記憶に触発されて懐かしくなっただけだ。
だが、朔月と蓮香にはそれだけしかない。
お前に感じる激情のような、閉じ込めて俺だけの物にして色々な意味で貪り食いたいという情動はない。
そもそもお前はまだ伴侶ではない。
それなのに俺は他ならぬお前となら共に消滅していいとすら思っているが、あの2人にはそう思えない」

 伴侶にしてからとてつもない執着を生むのが竜のさがだ。
黒竜であるファルが静かに己の番へ告げた。

 俺もファルに続く。

「俺もそうだ。
確かに俺は獣人だが、元々王族の教育で番に溺れないように無意識に自制している。
だがもう何度もレンと誰も知らない地で2人だけで過ごしたいと妄想してるし、レンを閉じ込めたくて仕方ない。
レンが雌だからだろうな。
本当は他のフィルメにすらも触れさせたくない。
朔月や蓮香が誰と接しても、レンのような突き動かされるような激情は起こらないんだ」

 俺も本心を伝えると、うっすらと目を開く。

 しかしレンはくしゃりと歪んだ笑みを浮かべた。
それに呼応するかのように背後の白い壁が跡形もなく崩れ去り、床もヒビ割れ始めた。

(信じない。
誰も僕の事なんて愛さない。
僕だって、誰も愛してない!
もう誰も要らない!
おじいちゃんだって朔月の代わりにしたかっただけだ!
それに最期は結局僕に全部押しつけたじゃないか!
僕におばあちゃんを殺せるわけないのに!
殺したくもなかったのに!!
グランさんだって、ファルだって親之と鷹親の感情の名残りで僕への愛を錯覚してるだけだ!)

 完全に拒絶し、きっとこれまでに消化しきれなかった理不尽への怒りと哀しみを抑えきれなくなってぶつけてくる。

(それに朔月も、蓮香も嘘つきだ!
心残りがあるのに、どうして僕にこんな殺され続けた記憶まで残して生を譲られなきゃいけないの?!
好きに生きて、やりたい事やったからもういいって、何?!
2人とも精一杯生きたから、何?!
だからって死にたかったわけじゃない!
ホントはもっと生きたかったくせに!
僕はいつ消えてもかまわないのに、僕の意思なんか無視して勝手に譲って消えようとする!
君達2人だって、口ではどうとでも言える!
僕が番の体を持ってるから、獣人や竜の本能で生かそうとしてるだけの偽善者だ!
皆勝手だ!
大っ嫌いだ!)

 王城の謁見の間で魔の森の執行者として裁いた後、初めて癇癪を起こして感情をぶつけられたあの時とは比べ物にならないほどの番の激情が声となって頭に響く。

 ファルでなくてもわかる。
俺の愛しくて優しい番は、いつからか俺が感じていた通りずっと絶望を抱えて生きていたんだ。
発端は、リスティッドレンの拠り所が死に際に願った事だったんじゃないだろうか。

 もちろん彼が悪いわけじゃない。
レンだって頭では何が得策だったか理解していたはずだ。
ただ優しくて幼い、未成熟な心は悲鳴をあげ続けていたんだろう。

 そして拠り所だった祖父への感情を燻らせたまま、少なからず支えにしていたかつての自分である朔月と蓮香という人格を立て続けに失った。

 幼くて優しい心は今度こそ、折れた。
絶望に染まってしまった。

 なんとも憐れで、哀しい。

 慟哭するこの声にそんな感情を持ってしまえばもう仕方ないと、楽にしてやりたいと思ってしまう。
共に生きようと言うには、俺が見た全ての光景が凄惨すぎる。

 ただ····。

「だったら俺はレンを絶対に助けないから、そっちに呼んでくれ。
一緒に死のう。
どのみちお前を死なせてしまえば騎士としても、グラン=ウェストミンスターとしても生きる意味がない。
仮に蓮香が出てきてその体を生かす事があったとしても、俺はレンの後を追う。
でもどうせなら一緒に逝きたい」
「な、に····ッゴホ、ゴホ····」

 思わず声を出して、喉に絡んでいただろう自らの血にむせ、ケポリと血を吐く。

 思わず膝立ちになって見えない壁に両手をつく。

(どうして後を追うの?!
蓮香なら僕なんかよりずっと····)

 未だに自分を卑下する言葉にカチンとくる。

「レンの代わりなんかいるか!」
(なに····)

 レンが驚いたように体を僅かに震わせる。

「何度でも言う!
レンでないと駄目だ!
他ならないレンが愛おしいんだ!
それでもお前が絶望して、何も信じられないのならそれでもいい!
今更お前に生きろなんて言わない!
あんな死に方ばっかりしてきた記憶を持ってる時点で言えるわけないだろう!」

 叫ぶ。
俺の気持ちを受け入れられなくともかまわない。
ただ声の限りに叫ぶ。

「そうだな。
長く共に過ごしても結局お前に生きたいと思わせられなかった俺が悪い。
死にたいなら、生きたくないなら、共に死のう、レン。
だが今ここで共に死ねなくとも、俺は必ずお前の後を追う。
甘く見てくれるなよ、俺の最愛」

 ファルが愛おしげに微笑む。

「俺もだ。
死にたいなら、仕方ない。
だけど1人で逝かせない。
レンが死ぬまでできる限り側にいて、死んだらすぐに後を追うからな」

 浅く早い呼吸をしながらぼろぼろと泣き濡れる黒い双眸をしっかりと見つめて微笑む。

 しかしいつまでも焦点の合わない目に、レンには俺達の姿が見えていなかったと思い当たる。

「ゼノリア神。
俺達の姿は今もやはりレンに見えていないのでしょうか?」
「そうだよぉ。
声だけはかろうじて繋がったけどねぇ」

 あっさり肯定された。

「頼みます。
せめて俺達の姿を見せられませんか」
「うーん····まあ仕方ないなぁ」

 白い指をパチリと鳴らす。

 ややもすると黒目と視線が絡む。

(あ····ど、して····)

 血の気のない真っ白な顔が、こんなにも間近にいるとは露ほども考えていなかったと如実に語っていた。
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