《完結御礼》【溺愛中】秘密だらけの俺の番は可愛いけどやることしれっとえげつない~チートな番を伴侶にするまでの奔走物語

嵐華子

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204.レン3

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「レン、死にたいなら邪魔しない。
ただ、側にいさせて欲しい。
せめて1人で逝かないでくれないか」

 俺達の姿を確認してすぐにレンには背を向けられている。
傷が痛んだのか赤子が慣れない寝返りを打つかのようにぎこちない動きだったが。

 やはり俺達は受け入れられないのだろう。
そう思っても、声をかけずにはいられない。

 浅く早かった呼吸が次第に緩慢になってきているんだ。
小さな背中越しにうかがえた呼吸もよく見なければわからなくなってきた。

 白い地面に鮮血は広がり、反対にレンの向こうに見える暗闇は少しずつこちらへ浸食している。
壁は未だに健在で、俺達を隔て続けているのがもどかしい。

 夢の中の状態がどれほど現実に即しているかはわからないが、番に死が近づいているのは間違いない。

 受け入れたくない現実に気が狂いそうだ。
それでもこれが最愛の番の意志なら受け入れよう。
それこそがきっと、人属である番に示せる唯一の愛情表現だ。

(ゼノ····)

 不意に白い神を呼んだ番の声に俺もファルも反応する。

「なにぃ?」
(2人を····連れて····もう····維持、でき、な····)

 ガラガラと一気に白い床が崩れてレンのあちらを向いた手の先が暗闇へとのまれる。

「「レン····」」

 俺達の声が虚しく響く。
後悔も、憐憫も、悔しさも滲んだそれは····最愛の番には届かないのだろうか。

「招いたのはぁ、呪華を使った蓮香だよぉ?
僕は自分以外の干渉はぁ、この子達が望まないとぉ、できないよぉ?
このままだと皆ここで精神だけ死んでぇ、体は目を覚まさずに衰弱死ぃ」
(····ゼノ····蓮香も····最、低····)
「えー、ひどいなぁ」

 レンはゼノリア神を非難して、それきり沈黙する。
響く声が途切れがちだった事からも、恐らくもう····。

 そうか。
俺達は蓮香に招かれていたのか。
恐らく蓮香は俺達にレンを託そうとしたんだろうが、こんな事になって申し訳····な、い····?

 ····いや、本当にそうだろうか?

 ふと何かが引っかかる。

 蓮香は生きている間は後悔のないようにできる限りの事を最大限すると言っていた。
それに控え目に言っても彼女は腹黒い。
目的の為なら手段を選ばない気がする。

 わざわざ呪華を使って俺達を招いた····何の為だ?
朔月や蓮香はレンがどんな人だと言っていた?

 何となく、正解に思い当たり、ファルをチラリと見やる。
この顔は····やはりそうか。

 だが、それでも俺達の為に望まない生きる事を強要したくはない。

「レン、俺達を呼んで欲しい。
このままファルとこちら側で死んでいくよりも、お前の側で死なせてくれ。
絶対に邪魔しない。
グラン=ウェストミンスターの名にかけて誓う」
「俺達の心は決まっている。
お前が死にたいなら、止めない。
お前の与えたお前だけの真名、ファルドギアの名にかけて誓う」

 傍目には呼吸すらも止めてしまったかのように微動だにしなくなったレンに誓う。

 時間的にはさほど経たず、しかし感覚的にはかなり長い沈黙の後。

(····来て····)

 短い一言と共に、パリンと軽快な音がして壁が消えた。

「「レン」」

 すぐに駆け寄り、今にも暗闇にのみ込まれそうだった小さな体を手早く、だがそっと腕に抱く。
一瞬その顔を確認し、すぐに先ほどまで俺達を隔てていた壁の手前で横抱きにしたまま胡座をかいて座った。

 壁の向こうに行けば助かるんだろうが、俺達はそれをするつもりはない。

「レン、聞こえるか?」

 すぐ目の前に腰を下ろしたファルが声をかける。
ファルにも顔が見えるように体を傾けた。

(ど····して····あっち、行かな····)

 血を流しすぎたんだろう。
既に死人のように真っ白な顔だ。

 瞼1つ動かさず、微動だにしない最愛の番はもうじき死ぬ。
呼吸も、殆ど無くなった。
響く声も微かなものだ。

 己の本能に警鐘が鳴る。
番の気持ちなど関係ない、早く助けろと。

 それでも、だ。

「言ってるだろう?
死にたいなら邪魔しないと」

 ファルが優しく小さな頭を撫でる。

「レンが死ぬまで側にいる。
無理矢理生かそうなんて思わない。
こうなる前にレンの心を救えなかった俺達が、そんな傲慢な事はできない」

 閉じられた眼尻から再び雫が伝う。

 俺達はそれぞれ片方ずつ口づけ、それぞれの手を握る。

 とても小さな手だ。

 抱く体は軽くて華奢だ。

 抱えきれない憤りと哀しみを背負わされて、それでも絶望に抗い続けた脆い生命いのちだ。

(····ごめ····ね····ぼく····ねむ、い····)
「ああ、ゆっくり眠るといい」

 ファルが答える。

(いい····の?)
「ああ、一緒に眠ろう」

 俺も答える。

 暗闇が目前に迫る。

 向こうにいたゼノリア神が踵を返し、消えた。

 ファルと2人で最愛の番を抱きしめた。
ほんの少しだけ、手を握り返されたような気がする。

 そうして俺達は暗闇にのまれた。

(········ま···········て····)

 直前に呟かれた小さな囁きは、ちゃんと聞き取れなかった。
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