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僕がこれから通う貴族学園。その寮に案内されて、荷物を置く。

関係者しか学園内には入れないから、家族とは学園の入り口で別れた。

「兄ちゃん、頑張ってね…。」

「ライリー…。」

ライリーはずっと一緒だったから、別れる時に寂しくて泣いてた。そんなライリーを見てたら僕も悲しくなって一緒に泣いた。今生の別れじゃないからな、って母さんが言ってたし、確かにその通りだと思うけど、それでも寂しいものは寂しい。もう16にもなるのにちょっと恥ずかしい。

最後は皆でぎゅってして、手を振って別れた。
ダメだな、僕。もう寂しくて皆に会いたい。……自分がこんなに子供っぽいなんて知らなかった。


寮の部屋は1人部屋だ。そして平民と貴族では階が違う。貴族の寮部屋は下にある。1番上が平民。階段で上まで上がるのが大変だからだ。

授業は科によって別れるけど、寮は全ての科が混ざってる。別れているのは貴族階級。
1番下の階から公爵家などの上級貴族が順番に割り当てられる。部屋の大きさも広さも特別だ。

上へ上がると下級貴族が順に割り当てられる。部屋は上級貴族ほど広くはないが平民部屋に比べるとかなり広い。

そして僕がいる平民部屋は、ベッドと机と椅子が置かれたらそれでかなり狭くなるほどの広さしかない。
でもトイレやシャワーはそれぞれに付いているからとても有難い。

食堂は皆共通。だからなるべく隅っこで食事をしないといけない。時間も少しずらして行くことにしよう。

荷物を解いて整理する。……あっという間に終わっちゃった。


この学園には3年間通うことになる。魔法をただ教わるだけなら母さんで十分だったけど、学園の教師には研究者だったり現役の魔法師団の人だったり、凄い人が揃っている。
そんな人達から直接教われるんだ。魔法談義や研究のお手伝いとかさせてもらえないかな。…平民だと難しいのかな。



…もうお昼だけど、食堂は今頃貴族の人達でいっぱいだろう。もう少し時間遅らせてから行こう。それまで教科書でも見て予習しようかな。
なんて思って椅子に腰掛けたタイミングで、部屋の扉がノックされた。

え、誰?いきなり誰が尋ねてくるの?

警戒しながら、扉の前へと行く。…早速面倒ごとだけは嫌なんだけど…。

「アシェル、開けて!僕だよ、ローレンスだ。」

「え!? ローレンス兄上!?」

懐かしい声が聞こえて、さっき警戒していたのが嘘の様に嬉々として扉を開ける。

するとそこにはにこにこ笑ってるローレンス兄上がいた。

「え、え、え?? 本当にローレンス兄上だ…。え?なんで?どうして?え?」

僕は嬉しいのとなんでここにローレンス兄上がいるのかと、頭が大混乱。

「あはは!驚いた?その様子だとエレン叔母さん達、ちゃんと秘密にしてくれてたんだ。」

「なんで、ローレンス兄上がここに?…だって、クリステン王国の貴族学園に、行ったんじゃ??」

「実はね、僕だけここの貴族学園に入学したんだよ。ふふ。驚いた顔のアシェル、可愛かったな。」

「…もしかして、みんな知ってた?」

「うん。ライアス叔父さんはもちろんだけど、ライリーも知ってるよ。…もうお昼だからさ、一緒に食堂へ行こう。」

やられた!まさかライリーまで知ってたなんて!もう!皆の意地悪!

でも前もって知らされてたらこんなに驚いて喜ばなかったかもしれない。悔しいけど、ものすごく嬉しい。

ローレンス兄上と一緒に食堂へ行く。そこで料理を頼んで席へ座る。隅っこに行きたいって言ったら、大丈夫だよって割と真ん中の方へ。

「よ、ローレンス!…誰だよ、この可愛い子。新入生?」

「そう。僕の従兄弟だよ。アシェルっていうんだ。仲良くしてやって。…アシェル、彼はデリック・モデシット伯爵令息。僕の親友、かな?」

ローレンス兄上の親友。じゃあ良い人かな。仲良くなっても大丈夫そう。

「新入生のアシェルと申します。平民ですが、入学することができました。よろしくお願いします。」

「平民…?こんな綺麗な顔してるのに?それにローレンスの従兄弟なんだろ?」

「それにはちょっと事情があってね。アシェルは魔法科の首席合格者だよ。」

え!?と驚いて僕をじっと見てる。…平民で、公爵家のローレンス兄上の従兄弟で、魔法科首席合格者。なんかこれだけ見ると凄いな…。事実なんだけど。

「…もしかして、アレか?魔法科の入学試験で、実技得点満点以上を叩き出した期待の新星が現れたってやつ。それがアシェル?」

「そうだよ。それがアシェル。僕の従兄弟、凄いでしょ?」

なぜかローレンス兄上が自慢げに言ってる。それにしても満点以上の得点を叩き出したって何??

「アシェルはね、実技得点で100点満点中、なんと200点取ったんだよ!学園でもすごい噂になっててね。僕すごく鼻高々だったんだ。」

は?200点??え?100点が満点なんでしょ?なんで200点??

「なんかよくわかってねぇ顔してるな。あんな10個の的を当てるなんて、魔法師団のトップクラスじゃないと無理だよ。それでも全員が出来るかわからねぇ。なのに入学前の、それも平民がそれをやっちゃったから、100点じゃ収まらないってなってそれで200点。」

……僕、結構とんでもないことしちゃったんだ。合格しなきゃいけないからって張り切ったのが噂になってしまった…。どうしよう。これまずいかな…。

「アシェル、大丈夫だよ。遅かれ早かれ、アシェルは目立ってたから。……今も気づいてるよね?アシェルの見た目がこの視線を集めてる。……だから、デリックも協力してね。」

「……なるほどね。わかりましたよ、ローレンス・フィンバー公爵令息様。俺も力になる。アシェル、よろしくな。」

良かった。もう僕の味方になってくれる人が1人出来た。

「ローレンス兄上ありがとうございます。モデシット伯爵令息様、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

僕がお礼を言ったら、周りが一気にザワってなった。え、何?何があったの?

「…ごほん…デ、デリックでいいよ。何かあったら俺にも相談してくれ。部屋も後で教える。気軽に来いよ。」

「……知ってたけど、アシェルの笑顔ってある意味危険だね…。」

…僕、笑えないじゃん…。



ローレンス兄上が居てくれて本当によかった。何もかも頼ることは出来ないけど、困ったことがあったら相談しよう。デリック様も力になってくれるって言ってくれたし、これから何とかなるかな。


明後日には入学式だ。いよいよ僕の学園生活が始まる。




* * * * * * *

~アシェルが寮に入った日の夜の親の会話~

「…エレン。心配しなくても大丈夫ですよ。」

「……ちゃんと教えることは教えたし、それにローレンスもいるからそこまで心配してない。そうじゃなくて……。」

「……寂しいんですね。」

「……だって初めて産んだ子で、何もかもが初めてで一生懸命育ててきた我が子だぞ。今までずっと一緒だったのに……。」

「今生の別れじゃないって言ってたじゃないですか。」

「…そんなことわかってるけど…。はぁ~……ライアスのこと親バカって言ってたけど俺も相当な親バカだな。知ってたけど。……アシェルが居ないってだけでこんなにも寂しくなるなんてな。」

「…俺もライリーも居ます。アシェルの代わりにはなれませんけど。」

「うん。わかってるよ。…ありがとう、ライアス。……しばらくこうしててもいい?」

「もちろん、喜んで。」
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