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入学式は大きなホールで行われた。ここはダンスパーティや卒業パーティーなどが開かれる時にも使われる、とてつもなく広いホールだ。


学園長の挨拶から始まり、王太子殿下も挨拶を述べた。王太子殿下が現れた時は、「きゃー!」とか「わぁぁぁ!」とか凄い歓声が響いた。
リッヒハイム王国の王様は賢王と言われていて民にとても人気がある。だから王太子殿下もその見た目も相まってとても人気だ。

「ではここで、新入生代表として騎士科首席合格者のアーネスト・スタンディング辺境伯令息に挨拶を述べていただきましょう。」

そう言われて出てきたのは、入学試験で会った彼だった。くすんだ金の髪を後ろに軽く流し、凛々しい顔で壇上へ上がる。

「アーネスト・スタンディングです。私は首席合格となりましたが、ここに入学した者はそれぞれに素晴らしい力量を持つ者だと思っています。貴族が主ですが、優秀な平民もいます。それぞれがお互いを高め合い、慢心することなく、それぞれの信念に従い、有意義な学園生活を送れるよう努めたいと思います。優秀な教師陣が多くいる、この学園に入学出来たことを誇りに思います。これからの3年間、よろしくお願い致します。」


終始微笑みを絶やさず、簡潔に挨拶を述べる。彼は騎士科だったのか。確か辺境伯領は隣国との国境付近だから、防衛を担っている家だったはず。だから彼も騎士科に。強そうだな。…ライリーとどっちが強いだろう?一度手合わせしてほしいくらいだけど、そんな事は無理だしね。それに関わらないようにするつもりだし、そもそも科も違うから接点はそんなにないだろう。

僕はほっと胸を撫で下ろす。…合同でダンスの授業もあるから、ヤバそうな時は上手く逃げよう。


入学式が終わって魔法科のクラスへ向かう。
それぞれの科は、A・B・Cの3つのクラスに分かれることになる。

それぞれ成績順で、Aが成績優秀者で固められる。僕はもちろんAクラス。定期的に行われるテストによってクラスは入れ替わって行く。だから例えAクラスであっても、成績を落とせばBクラス、Cクラスへと落ちて行く。下のクラスに落ちないように頑張らなきゃ。


クラスへ入ると、席に名前が付けられている。しかも僕の席は1番前のど真ん中…。なぜ。平民だから隅っこがよかったのに…。

仕方なく、名前の書かれた席に着く。ワラワラと他のクラスメート達も席に着く。…そして案の定すごい視線を感じる。居心地が悪い…。

「ねえ、君でしょ~?魔法科の首席って!僕はノーマン・ピルグリム。男爵家だよ~。よろしくね~。」

下を向いてじっとしてたら、隣から声が掛けられる。

「…アシェルと申します。平民ですので姓はありません。よろしくお願い致します。」

「平民ってこと知ってるよ~。ま、僕も貴族といっても男爵家だからさ~。そんなに変わらないよ~。仲良くしてね~!」

見た感じは、にこにこして人が良さそうな人だ。まだ人となりはわからないけど、良い人だったら仲良くしたいな。

「ふん!いくら魔法が得意とはいえ、平民がこの由緒ある学園に入学するなど反吐が出る。図に乗るなよ。」

この人も貴族至上主義の人かぁ…。同じクラスだから優秀なんだろうけど、こういう人は嫌だなぁ…。僕は別に図に乗りたいとも思っていないし、むしろ平民だから慎ましく平穏に学園生活を送りたいだけなのになぁ…。

「……アシェルと申します。ご迷惑にならないよう気をつけますのでよろしくお願い致します。」

嫌な人だけど、クラスメートだし貴族だし無難に挨拶をする。ちゃんと頭も下げて、身分を弁えていることをアピール……したつもりだけどわかってくれるかな。

「まぁまぁ彼のことはほっといて良いよ。俺はハミッシュ・リクソン。家は侯爵家だよ。でも俺たちクラスメートだし、爵位は気にせず仲良くしてね。今度、デートに行こっか!」

「あ……アシェルと申します。デートは…その…ご遠慮申し上げます…。」

「あれー?フラれちゃったぁ!あはははは!」

デートに誘われたのは困ったけど、意外と好意的な人が多い感じ。ちょっと安心。



「よーし、皆席に着けー!…俺はこのクラスの担任となったオリバー・ラッシュフォースだ。一応、家は公爵家。ま、大体は知ってるか。」

ラッシュフォース!? アレクシスおじ様が前に言ってた人だ。公爵家の長男だけど、魔法が好きで成績も優秀。家を継がず弟に譲り渡して教師になった人。その魔法の腕を見込まれて、アレクシスおじ様の魔道具製作でたまに意見交換してる人だ。

まさかその人が僕のクラスの担任だなんて…。人の縁て不思議だな。

「それじゃあまずは自己紹介からいこう。後ろの席から順にどうぞ。…あ、アシェル、だったか。お前は1番最後な。」

え。なんで!? 僕平民だから1番最初で簡単でいいのに、こんな風に言われたら注目されるじゃないか!


そしてラッシュフォース先生の言う通りに、後ろから順番に自己紹介が始まった。

「俺はジェフリー・セイルズ。家は伯爵家だ。我が伯爵家は優秀な魔法使いを多く輩出し、魔法師団にも我が伯爵家の者が多い。貴族の尊い血筋を重んじ、律してきた。平民と同じクラスなど反吐が出るが、魔法に置いて手を抜くことはしない。」


さっき僕に図に乗るなって言った人。伯爵家って上級貴族かぁ…。反吐が出るってまた言われちゃった…。

そしてとうとう僕の番。なんで最後にしたのか先生を少し恨みながらも席を立つ。

「アシェルと申します。平民ですので姓はありません。魔法科の首席合格者となりました。貴族の皆様と一緒に学べることを光栄に思います。よろしくお願い致します。」

分をわきまえてますよー、と言う気持ちを込めて深々とお辞儀しておく。

「アシェルは魔法科試験の筆記でも1位をとり、実技において史上最高得点の200点を叩き出した逸材だ。しかも冒険者としても活躍しており、ランクはこの年齢で既にSランク。平民だと侮っていると痛い目に合うぞ。むしろアシェルから学ぶことが多いだろう。こんな逸材が同じクラスにいるんだ。優秀なお前達ならどうすれば良いかわかるだろ?」

そう言って僕にウィンクを一つ。あ。先生僕を守ってくれようとしてる?僕がクラスに居づらくならないように、変な事に巻き込まれないように。

僕が冒険者やってることもSランクである事も知ってるし、もしかしたらアレクシスおじ様が何か言ってくれたのかも知れない。

だから自己紹介を最後にしたのか。最初は恨んじゃってごめんなさい。



今日は入学式とクラスでの挨拶が終わったら終了だ。先に教室を出て行ったラッシュフォース先生を追いかける。

「ラッシュフォース先生!」

「ん?…アシェルか。どうかしたか?」

「あの、先程はありがとうございました。お礼を申し上げたくて…。」

そういうと、一瞬きょとん、とした後にかっと笑った。あ、笑うとちょっと子供っぽい。

「気にすんな。メリフィールド様からある程度は聞いている。それにフィンバー公爵家のこともな。ま、俺はお前のこと自体気に入ってるからな。メリフィールド様とか関係ない。」

え?僕のことを気に入ってるってどうして?初めて会ったのに…。不思議に思って目をぱちぱちと瞬かせる。

「…平民でありながらこの学園に入ったこと。そのガッツも俺は好きだぜ。しかも魔法バカと言わんばかりの魔法好きなんだろ?俺はそういう奴が好きなんだよ。俺も魔法バカだしな。…ま、そういうことだ。よろしくな。」

そう言って僕の肩をバンバンと叩いて去って行った。



貴族ってお爺ちゃま達とアレクシスおじ様くらいしか知らなかったから、正直怖いと思ってたけど結構良い人が多いんだな。セイルズ様はアレだけど…。


うん。『慎ましく、人に感謝し、驕らない』、これを忘れずに頑張ろう。
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