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番外編
アシェル、母になる。
しおりを挟むアシェルの妊娠・出産話です。
ライリー編12話・『兄ちゃんが!』の後の話になります。
* * * * * * * *
「今日は驚きましたね。父さん達を驚かせるつもりが、まさか僕たちまで驚かされることになるなんて…。」
エンチャントの魔道具が完成してそれを知らせる為に家へと戻った。
最初に想像していた通り皆凄く驚いてくれて、早く使いたい!って言ってくれて凄く嬉しかった。
だけど、その後に僕の妊娠が発覚。それもライリーが訳あって連れてきたヴィンセントという人に。
なんでも『魔眼』(母さんが命名)持ちで人の魔力が視えるそう。それで僕のお腹の中に誰とも被らない魔力が視えて妊娠してるんじゃないか、と。
それで母さんが慌てて先生を呼んで診てもらったら確かに妊娠していた事が分かった。
「ふふっ。」
「アシェル?急にどうした?」
「だって妊娠してるかもって慌てるアーネスト様と父さんが面白くて。ふふっ。」
あの時は皆パニック状態で慌てふためいていたけど、落ち着いた今思い出すとくすくすと笑いが込み上げてくる。
「…仕方ないだろう。まさか妊娠しているなんて思わないんだから。」
うん。僕もすごくびっくりした。びっくりしたけど父さんとアーネスト様がテンパり過ぎてそれを見てたら逆に冷静になったけど。
「とりあえず、仕事の調整と出産に向けての準備をしていかなければな。…楽しみだ。」
優しい微笑みを見せながら僕のお腹に手を当てるアーネスト様。本当に楽しみ。どんな子が産まれるのかな。
それから2週間ほど後、僕は体調を崩すことになった。目が回るし気持ち悪いし体はだるいしでずっとベッドで寝ている生活。
分かってはいたけどこんなにも辛いだなんて…。母さんは僕とライリーと2回もこれを経験したんだ。
「アシェル、体調はどうだ?…どうだ、と聞かずとも悪いよな。すまない。」
「……気にしないでください。僕の方こそ動けずにいてごめんなさい。」
「いや、それは当然だろう。……アシェルが1人で苦しんでいるのに何もできない自分が不甲斐ない。」
本当にアーネスト様は優しいな。そんなに気にしなくても良いのに。
「食欲もないと聞いた。果物なら食べられるか?」
「そうですね。少しだけなら。」
それを聞いてアーネスト様が手ずからオレンジを剥いて食べさせてくれた。
甘酸っぱくて美味しい。でも2口食べたあたりでもう無理だった。
「…ごめんなさい、せっかく剥いてくれたのに。」
「気にするな。食べられる時に食べればいい。……今日はもう休もう。」
僕の額にちゅっとキスを一つ落としてアーネスト様に包まれながら目を瞑った。
それから2ヶ月ほどすると、あんなに具合が悪い事が不思議だったほど回復した。
大体3ヶ月くらい体調不良は続くと聞いていたのに2ヶ月ほどで良くなってしまった。
主治医の先生にも3ヶ月は続くと言われていたのに。
まさか…と僕の頭の中には嫌な考えしか浮かばない。
「…なんとこれは。アシェル様、大丈夫です。子供は順調ですよ。」
「え?」
本当に?本当の本当に?
心配になって、夜の遅い時間なのに主治医の先生を呼んで診てもらった。
もしかして子供が育たず死んじゃったかもって怖かったんだ。
「これは私の推測なのですが、アシェル様は魔力量が尋常ではないくらい多い方です。妊娠中は母体の魔力を栄養に変えて育っていきます。これはわかりますね?」
返事の代わりにこくん、と頷きで返す。
「豊富な魔力をお持ちなので子供が育つ分の魔力を早々に取り入れ終わったのでしょう。それが普通の方なら3ヶ月程かかりますが、アシェル様は2ヶ月で終わったのだと思います。この分だと産まれるのももしかしたら普通の方より早いかも知れませんね。」
そうなんだ…。じゃあ本当に子供は順調で、今もここにちゃんといるんだ。
そっとお腹に手を当てて『よしよし』するように撫でた。
「なにぶん、アシェル様のように魔力量の多さが尋常じゃない方はそうそういないので私もこの先のことは未知の領域です。これからはこまめに診察した方がいいでしょうね。」
「お手数お掛けしますが宜しくお願いします。」
「もちろんです。何かあれば時間など気にせずいつでも呼んでくださいね。」
そう言って先生は帰って行った。
とりあえずホッとした。ちゃんと子供は育ってくれてた。良かった。
「アシェル、とりあえずは良かった。俺も心配していたんだが。安心したよ。」
アーネスト様に抱きしめられて頭にキスをくれた。嬉しくてアーネスト様の胸に頬をすりすりと擦り付ける。
予定より早く出産することになるかも、ということは父さん達にも伝えておいた方がいいかな。うん、明日手紙を書こう。きっと驚くだろうな。ふふっ。
それから先生は週に一度診察に来てくれた。なんの問題もなく順調に育っているみたい。
先生の見立てだとおそらく5ヶ月目には出産するんじゃないか、と。
普通は大体6ヶ月で産まれるから1ヶ月も早く産まれることになる。
中には未熟児で生まれる子供もいるけど、そういう子は残念ながら生まれてしばらくすると亡くなってしまう事が殆どらしい。
でも僕の場合は魔力が多いから単に妊娠期間が短くなるだけで子供には悪影響はないだろうとのこと。
前例がないから生まれて見なければわからない、とも言われた。
どうか無事に生まれますように。
それから3ヶ月ほど経って、妊娠してからは5ヶ月目。いきなりかくんと体から力が抜けてへたり込んでしまった。
「アシェル!?」
あ…体の中を魔力がすごい勢いで駆け巡ってる。これ、もしかして。
「…アーネスト様…生まれる、かも……。!? うぐっ!!」
熱い熱い熱い!! 何これ!? 自分の体なのに制御が効かない!!
「アシェル!すぐに寝室へ運ぶ!…誰か!先生を呼んできてくれ!」
「は、はい!只今!」
1人で動けなくなった僕を、アーネスト様はベッドまで運んでくれた。ありがとうって言いたくても、体が熱くて魔力がぐちゃぐちゃなおかげで話せない。
口から出るのは「うぐっ!」とか「うぅっ…!」とか呻き声だけ。
自分で制御できるはずの魔力が全く言う事を聞いてくれない。ベッドで横になっているはずなのに右へ左へぐわんぐわん揺れている感じがする。
「アシェル!しっかり!」
隣でアーネスト様は僕の手を握って声を掛けてくれる。「大丈夫」って言いたいのに、呻き声しか出てくれない。
「はぁ、はぁ、ぐぅっ…はっはっ……うぐぅっ!」
命を産み落とすってこんなに大変なんだ。母さんもこんな辛い思いをして僕とライリーを産んでくれたんだ。すごい。
「アシェル様っ!遅くなって申し訳ございませんっ!!」
先生が来てくれたみたいだ。今は無理だけど、後でちゃんとお礼言わなきゃ。
「アシェル様、失礼します!……なんて力だ。そっちじゃない!こっちだ!こっちにおいで!」
先生がお腹に手を当てて魔力を流してくれたら、体の中をぐちゃぐちゃに暴れてた魔力の流れが変わった。相変わらず辛いけどさっきと全然違う。
向かう方向が分からなくて暴れていたのが、出口を見つけて一直線に向かっていく感じだ。
「ぐぅっ!」
「アシェル!アシェル!」
「…そうだいい子だ!そのままこっちへ……そう、そうです。いい子ですね。…………来ます!」
先生がそう言った直後、「おぎゃぁぁぁぁ!」と大きな産声が響き渡った。
「はぁ、はぁ、はぁ……。」
「アシェル…アシェル!やったぞ!産まれた!」
アーネスト様が勢いよく抱きしめてきた。産まれたんだ…無事に、元気に産まれてくれた。
「…アーネスト様……はぁ、はぁ…産まれ、ましたね…。」
「ああ、ああ!よく頑張ってくれた!…ありがとう。アシェル、ありがとう!」
顔は見えないけど多分泣いてるっぽい。アーネスト様の泣いてるところなんて見た事なかったけど、泣くほど喜んでくれて良かった。
「さぁ、貴方達の子供です。抱いてあげてください。」
そう言われて先生の方へ顔を向ければ、お包みに包まれた赤ちゃん。
そっと抱っこするとあまりの軽さにびっくりする。産まれたてってこんなにちっちゃくて軽くて可愛いんだ。
「可愛い。目はまだわからないけど、髪はアーネスト様の色ですね。」
「そうみたいだ。顔立ちもまだわからないがアシェルに似るかもな。」
アーネスト様も上からそっと覗き込んで、赤ちゃんの頬をぷにぷに触ってる。
「アシェル様、お疲れ様でした。いやぁ、最初はびっくりしましたよ。」
先生の話によると、僕の魔力が多すぎて赤ちゃんも困ってたらしい。
産まれる時は母親の魔力を借りて外に出ようとするんだけど、僕の魔力が多すぎて出口が分からずパニックになってたらしい。
しかも赤ちゃんの魔力自体も多いらしく、どうしていいか分からず暴れていた。
そこへ先生が到着して、出口へ誘導したら落ち着いて産まれてきてくれた、とそういう訳らしい。
「アシェル様程の魔力の多い方の出産はこうなるんだと、私も大変勉強になりました。」
「…今後、2人目が産まれる時は出産の直前には館に居てもらった方がいいな。」
「え!? 今1人産まれたばかりなのにもう2人目の話ですか!?」
「ははっ!お2人は本当に仲睦まじいですね。ですが2人目は最低でも半年は空けて下さいね。アシェル様の体がしっかりと回復するまでは気をつけてください。」
先生にそう言われて僕は真っ赤になってしまった。
それから2日後、父さんと母さん、ライリーにヴィンセント君も来てくれた。
「アシェル!良くやった!すごく可愛い赤ちゃんだな。」
今母さんの腕の中には僕たちの赤ちゃんがいる。目を開いてきょろきょろと周りを見渡してる。
赤ちゃんの目の色は僕の色を引き継いで綺麗な青色だ。
「本当に可愛いですね。アシェル様、この子ですが魔力量が多いみたいです。今の時点でこれ程ですから大きくなったらアシェル様に並ぶか超えるかもしれません。」
魔力が視えるヴィセント君によるとそういう事らしい。楽しみだな。将来は魔法使いかな。
「それなら魔法剣士っていうのもアリだな。」
母さんがまた新しい事を言ってる。魔法剣士?って何それ。
「魔力剣と違って魔法そのものを剣に乗せて飛ばしたりするんだ。エンチャントの魔道具無しで同じ事が出来る様になる感じだな。魔法使い並に魔法が使える剣士ってめちゃくちゃ強そうだと思わないか?」
それ最強じゃない?僕は運動音痴だから出来なかったけど、この子ならもしかして出来るようになるかもしれない。
魔法使いになるのも相当な訓練が必要だし、剣だって同じ。どっちもなんてなかなか出来ない。
アーネスト様は簡単な魔法くらいなら使えるけど、魔法使いと魔法戦になると勝てる見込みは少ない。
でももしこの子がその両方が出来たら。
無理はさせたくないから、将来的には選ばせてあげよう。だけどもしそんな事が出来たら。
考えるだけでワクワクする。
……でも僕の運動音痴が引き継がれる可能性もあるんだよね。そうじゃない事を祈ろう。
子供は『フィンレー』と名付けた。
父であるアーネスト様のように勇敢に、それこそ物語の中に出てくる勇者のような子になって欲しいという意味を込めた。
きっとガンドヴァは諦めず、この国を落とすために今後も色々と仕掛けてくるはず。その時に僕たちのスタンディング領、そしてこの国を守るために力を貸して欲しい。
でも何よりこの子の幸せが1番だ。上手くいくことばかりじゃない。辛いことも悲しいことも人生には必ずついてくる。
そんな時に、目指す場所を間違えないようにちゃんと教えてあげよう。
「アシェル?どうした?」
「え?何がですか?」
「…眉間に皺が寄っていた。何を考えていた?」
フィンレーの事を考えていたら、自然と厳しい顔をしていたみたいだ。
「…いえ。フィンレーの幸せを考えていました。」
「アシェル。フィンレーは俺達2人の子供だ。アシェル1人で悩まないでくれ。些細なことも何でも話して欲しい。…俺達は思い込むクセがあるからな。」
そう言って僕の頬を撫でる。その手の暖かさに僕の心はふっと軽くなった。
「はい。そうでしたね。」
僕1人じゃ出来ない事も、アーネスト様がいるだけで何でも出来そうな気がする。
うん、きっと大丈夫。
* * * * * * * *
お久しぶりです。大変遅くなりましたが、アシェルの出産話やっと公開できました。待ってて下さっていた方には本当に申し訳無いです。
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