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9 愛称で呼ばせて
しおりを挟む「じゃあ僕たちは依頼行ってくるから。」
「はい。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
「後はこっちに任せてね!いってらっしゃ~い!」
翌日、ヴィンセントをギルドに預けて父さん達と依頼に出かけた。
他の冒険者だと難しい大きな高ランクの魔物討伐だ。でも僕たちなら簡単に討伐できてしまう。1番大変だったのはドラゴンだ。あれを経験した今は、どんな魔物も大して脅威じゃない。
パーティーメンバーが全員Sランクだしな。
僕たちは冒険者として仕事を続けてはいるけど、昔ほどはやっていない。僕たちが『ドラゴン討伐の英雄』になったおかげでソルズの街は人が増えた。といっても王都ほどじゃないけど。
人が増えた事で冒険者の数も増えた。僕たちが仕事を受けると他の冒険者の仕事が無くなってしまう。だから、他の冒険者が討伐できない様な魔物が出た時くらいしか僕たちは依頼を受けていない。
それにこの国の騎士団の人達が月に1度、『魔力剣』を習得するために僕たちを訪ねてくる。
それにメリフィールド様の家の護衛達に剣を教えたりもしているし、低ランクの冒険者の育成もやっていたりとそれなりに忙しい。
でもそのおかげでソルズの冒険者の死亡率は減ってきてるし、騎士団でも魔力剣が使える人が増えてきて戦力が上がってきた。
ドラゴン討伐がきっかけで知る事になった、隣国のガンドヴァ王国。そこがこの国リッヒハイムを狙っていて今もまだ諦めていないらしい。
「お。いたいた、コイツだな。よし、さっさとやって帰るぞ。」
目当ての魔物を見つけて僕たちはサッと動く。母さんが風の刃で魔物の体を傷つけると、魔物は母さんに標的を定める。そっちに注意が向いたところで僕と父さんは魔力を剣に纏わせて挟み撃ちで斬りつける。
体が大きいからすぐには倒れてくれないけど、魔力剣のおかげで深く切り込まれた魔物の動きは鈍くなる。
そこへ母さんが魔物の目に氷の槍を脳まで突き刺していく。倒れたところを父さんがすかさず首に向かって剣を振り下ろした。
「あっさり終わったな。さすが俺達!」
「…ですがこの魔物はあまりこの辺では見ないヤツですね。」
確かに。遠方へ行った時に見たことのあるヤツだ。ソルズ付近にはあんまりいない魔物だった。…なんか嫌な予感がする。気のせいだといいんだけど。
「…うーん。そうなんだよな。一応デイビットさんにも伝えておこう。」
そして依頼完了報告をしにギルドへと戻った。
「あ、ライリーさん。お疲れ様でした。」
中へ入るとヴィンセントが出迎えてくれた。だがその後ろにいる奴がヴィンセントの肩を掴み強引に体の向きを変えさせる。
「おいおい無視すんなって。だからさ、1回でいいから飯行こうって!」
「…そのお話は先程もお断りいたしました。申し訳ございません。」
「はいはい。何度も言ってますがね、うちの子達はそういうのは受けてないんですよー。わかりましたね?わかったならお出口はあちらです。お帰りくださーい。」
「てめぇには聞いてねぇって言ってんだろ!…おい!無表情で目の色が違うテメェに声かけてやってんだぞ!有難いと思えよ!」
…あの野郎。
ガッ!とそいつの襟腰を掴んでギルドの出口へと引き摺っていく。そしてそのまま外へ放り出した。
「おい。それ以上迷惑行為するつもりなら僕が相手になるけど?どうする?」
「あ!? なんだクソガキがっ!!」
こいつ僕が誰か分かってないみたいで殴りかかってきた。半殺しにしてやるかと思って反撃しようとしたらガツンと別の冒険者に殴られてそこに倒れてしまった。
「馬鹿かお前は。英雄に歯向かうとか死にてぇのか。」
「このギルドはな、お前みたいな奴を許してないんだ。痛い目見たくなきゃ他所の街で冒険者やりな。」
覚えてろよぉ!と捨て台詞を吐きながらそいつは何処かへと消えていった。
「なんだあいつ…。」
「…ライリーさんありがとうございました。申し訳ございません。」
「ヴィンセント君は悪くないでしょー?ごめんね、ちゃんと守ってあげられなくて。」
話を聞くとここのギルドは初めて来た奴だったそうで、ヴィンセントの目の色が珍しく声を掛けてきたそうだ。断っているのにしつこくするから困ってた所に僕たちが帰ってきたと。
「うーん…人が増えたせいでああいう奴も増えちゃってさ。ヴィンセント君可愛いから今日だけでも何人にも声かけられてて。断るとすんなりと諦めてくれるんだけどあいつだけはしつこくてしつこくて。」
なるほどね。あいつ何処かで見かけたら半殺しにしてやる。
「…ご迷惑をおかけしてしまって、私はここで働かない方が良いのでしょうか。」
「え!? それはダメ!絶対ダメ!ヴィンセント君めちゃくちゃ頭いいから仕事もすぐ覚えてくれるし、こっちとしては本当にいて欲しいんだ!だから辞めるなんて言わないで~!」
おい、ヴィンセントにしがみつくな。離れろ。べりっと引き剥がしてヴィンセントを後ろに隠す。
「ん?…おやおやおやぁ?へぇ~。なるほどなるほど。ほぅほぅほぅ。にやにやにやにや。」
「…何か文句ある?っていうかその顔やめろ。」
「べっつに~ぃ。文句なんてありませ~ん!いやぁライリーも大人になったねぇ~!」
「あんたとはそんなに歳変わんないだろ!大人ぶるな!」
「あのねぇ、僕の方が5つ上なの!大人なの!」
「はぁ!? 僕だって来年は成人だし5つなんてそんなに変わんないだろっ!大体…」
「ぷっ。」
「「え?」」
口を手で押さえてくすくすと笑ってるヴィンセント。肩を震わせて笑い声を必死に抑えてる。
「…すみません。ライリーさんが、ちょっと子供っぽくて…なんだか可愛いと、思ってしまって。…くすくす。」
え。可愛いとか言われた。
「ヴィンセント君笑った顔超可愛い!!ねぇねぇライリーに飽きたら僕のところにおいで~!」
「おいっ!そんな事許さないからなっ!」
「はぁ!? それはヴィンセント君が決める事なんです~。ライリーには関係ありません~。」
「関係あるし!お前なんなんだよさっきから!」
「あはははっ!」
あ。めちゃくちゃ笑ってる。ヴィンセントがめちゃくちゃ笑ってる。
なんだよ、そんな可愛い顔他に見せるなよ。周りにはいつもの無表情見せとけばいいじゃん。
「~~っ!ヴィン!帰るぞ!」
ヴィンの手を握ってそのまま家に帰った。誰にも見せたくなかった。この顔を知ってるのは僕だけなんだって思いたかった。
これじゃただの嫉妬じゃないか。…でも嫌なものは嫌なんだ。
「ラ、ライリーさん、ちょっ、ちょっと…あっ!」
「っ! ごめん!…早歩きしすぎた。ごめん。」
「いえ。…笑ってしまってすみませんでした。怒るのも当然ですね。本当にすみません。」
あ、笑った事が悪いって思ってる。眉をちょっと下げて、僕が怒ってるって勘違いして。
「ち、違う!怒ってない。そうじゃなくて…。」
そうじゃない。そうじゃないんだ。嬉しいんだ本当は。
「…あんまり可愛い顔、他に見せないで。」
恥ずかしさを誤魔化すようにヴィンの頭をくしゃくしゃっと撫でて、また手を握って家に帰った。
…僕絶対顔が赤くなってる。だって、顔が熱い…。
* * * * * *
~ギルドに残された人達の会話~
「あーあ、帰っちゃった。まだ仕事残ってるのに。」
「ライリーにも好きな人ができたかぁ。いやぁ青春だなぁ。な、ライアス。」
「そうですね。喜ばしい事です。」
「あれ?アシェルの時はあんなに凹んでたのにライリーは大丈夫なのか?」
「…ライリーとは色々ありますから。」
「え、何それ。俺知らないんだけど。」
「内緒です。エレンにも言えません。」
「なっ!教えろよ!ずるいぞ!」
「…そこ、いちゃいちゃするなら家に帰ってくださいねー。」
「エレン、続きは家に帰ってから存分にいちゃつきましょうか。」
「んなっ!? こんなところで小っ恥ずかしい事言ってんじゃねぇ!そんでいちゃついてなんかいないだろっ!」
「「ひゅーひゅー!相変わらず熱いねぇ!」」
「そういうのいい加減やめろっ!おいっ!聞いてんのかっ!」
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