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10 ヴィンセントside
しおりを挟む目が覚めるとライリー様は居なかった。何処かに行かれたのだろう。
あんなに大泣きしたのは初めてだ。そして泣くと疲れてしまうというのも初めて知った。
だがお世話になる身なのに昼寝なんて何をしているのか。慌ててリビングへ戻るとエレン様とライアス様がいらっしゃった。
「ヴィンセント君起きたのか。部屋は気に入ってくれた?」
「はい。勿体無いほどのお部屋をありがとうございます。」
「気にするな。自分の家だと思って過ごして欲しい。」
本当にお2人共こんな私に優しく親切にしてくださる。ちゃんと御恩をお返ししなくては。
「お恥ずかしながら私は何もできません。直ぐにお力になる事は難しいかもしれませんが、色々と教えてくださると助かります。どうぞ宜しくお願い致します。」
「最初は出来なくて当たり前だよ。俺もそうだったし。あとそんなに畏まらなくていいからな。ゆっくりやっていこう。」
それから家の中を案内していただき、家事を覚えていく事になった。
リビングの掃除をしているとライリー様が戻られた。
「ライリー様お帰りなさいませ。」
「ただいま。…それとヴィンセント、お願いがあるんだけど。その『様付け』やめない?」
いきなりそんな事を言われてしまい戸惑ってしまう。
「え、ですが…。私は平民ですし、お世話になっている身です。」
「でも僕はもっと仲良くなりたいから、ライリーって呼んでくれた方が嬉しい。」
様を付けずにお名前を呼ぶなんて出来るのだろうか。というよりも、そんな事をしていいのだろうか。でもライリー様はそれを望んでいらっしゃるし…。
「…………………ライリー……さ、ん。」
「ぶはっ!」
申し訳なく思いながら必死に名前を呼んでみた。やはり敬称を何も付けないのは難しく『さん』を付けてみたのだけど…。
「ぷくくくくくっ!…いいよ、それで。様付けられるよりずっと良い。…くくくっ!お前って面白いな。」
笑われてしまった…。私には無理難題すぎます。
「…ライリーさ、ん。そんなに笑わなくても…。」
「ぷくく。ごめんごめん。」
また『様』を付けそうになって慌てて『さん』付けに変える。それもどうやら面白かったらしく、謝りながらも笑い続けていた。
早く慣れなければ。でもライリーさんが笑ってくれた。楽しそうにされているその姿を見ると、なぜか私まで嬉しくなる。不思議だ。
「お前たち何やってんの?いちゃいちゃするのも良いけど、ご飯の準備するから手伝って。」
「いちゃっ!?」
「かしこまりました、エレン様。」
いちゃいちゃする、という事がどういう事かわからないけれど、ライリーさんは何故か慌てていらっしゃった。
「ライリーさん?…顔が赤いですよ?大丈夫ですか?」
「えっ!? だ、大丈夫だからっ!」
「ふぅ~ん。へぇ~。」
本当に大丈夫だろうか。お体の調子が悪いとか?でもエレン様はそんなライリーさんを楽しそうに見ていらっしゃる。なら体の方は大丈夫なのだろう。たぶん。
2人のやり取りを見ているとなんだか心がぽかぽかとしてくる。
「…ふふ。」
ライリーさんがなんだか可愛らしい。学園にいる時は見なかったライリーさんだ。自然と笑ってしまった。
いけないいけない。笑っては失礼になる。エレン様のお手伝いをしなければ。
慌ててエレン様を追いかけて食事のお手伝いを悪戦苦闘しながらも始めた。
それから私は家事を教えていただきながら毎日を過ごした。掃除に洗濯に料理。どれもこれも大変だけど、一つ一つできるようになる事が楽しいと思った。
そして誰かとこうして過ごすことも。
私は今までずっと1人だった。だけど誰かと一緒に過ごして話をする。こんな事がとても幸せな事なんだと知れた事は私の財産だ。
それにお2人は私の事を褒めてくださる。褒められたことなんて今までに無かったから何というか、むず痒いような不思議な気持ちだった。きっとこれも『嬉しい』から。
それからライリーさんは学園を辞められた。これには本当に驚いた。
でも理由を聞いて納得した。確かにライリーさんは学園では大変な人気があった。ライリーさんと結婚したい家は多かったから。それに辟易されていたんだ。
家に戻られた時は本当にお疲れの様子で、その場に居なくてもどんな感じだったかはなんとなく想像がつく。
「ヴィンセント、どう?数日過ごしてみて。」
「はい。とても楽しいです。こんな楽しい日々を過ごせるなんて思ってもいませんでした。ありがとうございます、ライリーさん。」
本当に貴方には感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。
「よし。ライリーも帰ってきた事だし今日はご馳走だ!ヴィンセントの歓迎会な!」
「え?」
歓迎会?? 私は歓迎されているのですか?え?
その日の夕食はテーブル一杯に料理が並んだ。エレン様もライアス様もライリーさんも、本当に手際が良くあっという間に料理を作っていく。
私はあまりお手伝いが出来なかったけれど、見ているだけでも楽しくて勉強になった。食材がいろんな工程を経て1つの料理になっていく。見ているだけで『ワクワク』した。
どれもこれも美味しくて、普段よりも沢山食べてしまった。ここのご飯は今まで食べてきたご飯の中で1番美味しい。味も勿論そうだけど、誰かと一緒に食べているからだろう。
皆さんの会話を聞いているだけでとても楽しい。いつも静かな中で食べていたから。こんな賑やかな場所に自分がいる事が信じられない。
「ヴィンセント、婚約破棄されて良かったな。」
そんな時ふとライリーさんがそう仰った。
「そう、ですね。…家の事を考えると素直にそう思って良いのかわかりませんが。」
私は今とても幸せだと思う。それもあの『婚約破棄』があったから。でも私のせいでトルバート家は傷が付いてしまった…。そう思うと素直に喜んで良いとは思えない。
「いいんだよ。ヴィンセントの事をあんな風にしていた家なんてどうでもいい。勘当されたんだから。」
そうなのでしょうか。
でも今は、私はもっと何か出来たのでは無いかと思ってしまう。…今更もう遅いのだけど。
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