【完結】平民として慎ましやかに生きようとするあいつと僕の関係。〜平民シリーズ③ライリー編〜

華抹茶

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番外編

実家に帰らせていただきます!

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ヴィンセントside

* * * * * * * *


「久しぶりですね、こちらに来るのも。」

今日は久々にライアスさん達のお家に来た。学園を卒業して結婚して王宮で働くようになって初めての長期休暇。と言っても1週間程だけど。その初めに3日ほど寄らせていただくことにした。

「ライリーにヴィンセント、久しぶりだな!」

「エレンさん。お久しぶりです。」

「エレンさんじゃなくてお義母かあさんて呼んでくれていいんだぞ。」

「…はい、お義母様。」

私にも血の繋がった母はいるが、家族と呼べるような間柄ではない。血の繋がりはなくともエレンさんを母と呼べる事に家族になったんだと胸がほんわかと暖かくなる。

「ヴィンセント、元気にしていたか?」

「ライアスさ…ではなくてお義父様。お久しぶりです。元気にしておりました。」

まだ慣れないのと少しだけ気恥ずかしさはあるが、私をこうして受け入れてくださった事が何よりも嬉しい。


リビングへと行くとお義父様がお茶を淹れてくださった。

「あ、私がやります!」

「いいの。たまにはのんびりしよ。」

「ライリーさん…。でもなんだか申し訳なくて。」

「はは。じゃあ夕飯作る時に手伝ってもらおうかな。」

「はい、お任せください。」


ライリーさんはいつも忙しいんだからこんな時くらいのんびりすればいいのに、と仰るがお手伝いできる事が嬉しいからさせてもらう事にした。



お義母様と一緒にキッチンで夕飯の準備をする。今日は久しぶりに私たちが帰ってきたからご馳走だとお義母様は張り切っている。

『帰ってきた』

その言葉を聞いて、ここがもう一つの自分の家なんだと言ってもらえた気がして心が温かくなった。

ここはいつも優しい温もりで溢れている。

「あ、そうだ。ヴィンセント、明日は一緒に出かけないか?」

「明日ですか?はい。喜んで。何処に行くんです?」

「うーん。少し買い物かな。そんでどこかでのんびりお茶でもしよう。」

お義母様とお出かけなんて、とても久しぶりで楽しみだ。いつものお礼に何かプレゼントが出来たらいいな。



「え、明日母さんと出掛けるの?」

夕食時、お義母様とお出かけする事をライリーさんに伝えた。少し不満げな顔だ。

「可愛いお嫁さんと買い物に行くから、お前達は留守番してろよ。」

『可愛いお嫁さん』

そう言われて嬉しいのと恥ずかしいので真っ赤になる。

「えー!? 僕も行きたい!」

「だめ。留守番してろ。」

「…わかったよ。ヴィン気をつけて行ってきてね。」

「はい。」

お義母様と一緒だから大丈夫なのに、隣で僕がいなくて大丈夫かな、なんてブツブツと仰っている。

アーロン様には過保護すぎだと言われた時は確かにそうだなとは思ったけど、愛されてるとも思えて私は正直とても嬉しい。


そして翌日。お義母様と一緒にソルズの街中へと出かけた。

この街をこうして歩くのも久しぶりだ。学園に戻ってからはずっと王都に住んでいたから。

「ヴィンセントも久々に戻ってきたからな。ギルドに顔を出してやろう。」

そう言われて冒険者ギルドへとやってきた。

「ヴィンセント!久しぶりだな!元気そうで何よりだ!」

「あ、本当だ!ヴィンセントだ!相変わらず美人さんだな!」

私の姿を見てギルドの皆さんが声を掛けてくださる。最近はどうだ?とかライリーとの仲は順調か?とか子供はいつだ?など次々に声をかけられる。

ここもいつ来ても暖かく迎えてくれる。学園に戻る事になってここを辞める時、皆さん惜しんで下さって送別会まで開いていただいた。

ここも私の大好きな場所の一つだ。

「今日はライリーはいないのか。珍しいな。」

「そ。たまには引き離してやらねえとな。あいつヴィンセントにべったりだからな。」

「ちげえねぇ。ヴィンセント久しぶりだな。王宮が嫌になったらいつでも戻ってこいよ。」

「ギルドマスター。もしそんな時があったらよろしくお願いします。」

「ははっ!うちはいつでも大歓迎だぜ。」


そのまましばらくギルドで会話を楽しんでからまた街へと出掛けた。

「少し腹が減ったな。…あそこのカフェで軽く食べるか。」

お義母様に連れられてとあるカフェと入る。メニューを注文してゆっくりとお茶を楽しむ。

「ヴィンセント、今日無理やり連れ出して悪かったな。」

「え?無理やりだなんて!私はお義母様に誘っていただけて嬉しかったです。」

「そっか。良かった。……実は聞いておきたい事があって…。」

なんだろう。こちらに身を寄せてまるで内緒話をするかのようにお義母様はお話しされた。

「…言いづらいとは思うんだけど、その…ライリーとの、あー…夫夫の営みについて、だな。」

「え!?」

まさかお義母様からそんな話をされるとは思わず真っ赤になってしまう。

「…いや、ごめんな。こんな事聞いて。…なんでこんな事聞いたかって言うと、その…ヴィンセントの体の事が心配で…。ヴィンセントには隠してもしょうがないから言うけど、ライアスも相当なんだ。…やばい時は翌日動けなくなって介護状態になる。」

介護状態…。え?ポーションは飲まないのですか?

確かにライリーさんも激しくて、死にそうになることはあるけどポーションのお陰でなんとかなっている。介護状態にまでなった事はない。

「あの…お義母様はポーション、飲まないのですか?」

「は?ポーション?」

「え?」

何の事かと言われて、いつもポーションを飲んでいることを伝えた。すると。

「あいつ…。ポーション飲ませればなんとかなるからって…。ごめん、ヴィンセント。辛かったよな。こんなん鬼畜以外の何者でもないだろう。……よし。決めた。家出しよう。」

「はい!?」

家出!? なんで急に!?

「いくらヴィンセントが可愛いからってそこまでやる必要もないだろう?ヴィンセントが可哀想だ。…それに俺もライアスの絶倫具合には困ってて…。あ、誤解するなよ。嫌なわけじゃないんだ。嫌じゃないけど、加減てものをだな。」

まぁお義母様の言いたい事もわかる。何度か本当に体が辛くて気絶した事もあるから。


「だからな、一緒に家出しよう!そんでライアスもライリーもちょっとは考えればいいんだ。俺たちだって辛いもんは辛いんだから。受け側の方が負担は大きいからな。たまにはのんびりしてもバチは当たらないはずだ。」

「ですが家出と言ってもどこへ?」

「ふっふっふっ。それはだな…。」




「はぁ!? ヴィンと一緒にクリステンの実家へ戻るぅ!?」

「そ。俺とヴィンセントの2人だけで行くから。お前達は付いてくるなよ。」

「…どういう事だよ。なんでヴィンを連れていくんだよ!?」

「そうですよエレン!なぜ急にそんな事を!」

クリステンの実家へ帰ると聞いた途端、お義父様もライリーさんも慌て出した。

「なんでだと!? お前らが絶倫すぎてこっちがキツイからだ!特にライリー!お前ヴィンセントにポーションを飲ませれば良いと好き勝手にしやがって!ヴィンセントが可哀想だろうが!だからお前らはここで反省してろ!というわけで。実家に帰らせていただきます!…ヴィンセント行くぞ。」

「あ…あの…。行ってきます。」

お義母様に引っ張られるようにして家を出て、そのままクリステンへと向かった。

ライリーさんもお義父様も真っ青になっていたけど大丈夫だろうか。

転移門を潜って外へ出れば、お義母様のご実家からお迎えの馬車が来ていた。それに乗ってフィンバー公爵邸へと向かう。

「あの…。本当に大丈夫なんですか?」

「いいのいいの。俺はまだ何とかなるけど嫁に来てくれたヴィンセントがこんな目にあってるなんて。アイツもいい薬になるだろ。」

「…ですが、転移門の予約といいお迎えの馬車といい、そんな事関係なく前から考えていましたよね?」

私がそう言うとお義母様は目をぱちぱちと瞬かせた。

転移門は事前の予約が必要で、フィンバー家から馬車が来るなんて前もって知らせておかなければ無理な話だ。

「ははっ。ヴィンセントはさすがだな。その通りだよ。お前達が帰ってくると聞いた時から考えてた。でも本当は皆で帰るつもりだったんだけどな。」

やっぱり。

「でもヴィンセントの話を聞いて気が変わった。いくらなんでも無茶苦茶だ。しばらく反省させてやれ。全くライリーの奴。こんな所までライアスに似なくてもいいだろうが。」

お義母様のお気持ちはとても嬉しい。私の事をここまで心配してくださるなんて。

でも本当はライリーさんにそこまで抱かれる事に嫌だと思った事はない。むしろ嬉しいとさえ思っているのだ。

お義母様の言うように『鬼畜』なんだろうけど、人に愛されなかった私にとっては放って置かれていたあの時の方が辛かったのだ。

でも今はお義母様には内緒にしておこう。せっかく私の為に『家出』してくれたのだから。


フィンバー公爵邸に着くと皆様が出迎えてくださった。

「ヴィンセント、結婚式以来だな。元気にしていたか?」

「はい、フィンバー公爵様。お久しぶりでございます。」

「我々は家族になったんだ。そんなに畏まらなくていい。気を楽にして過ごしてくれ。…でエレン。お前たち2人だけなのか?」

「兄上。私とヴィンセントで家出して来ました。ですのであの2人は居ません。しばらく2人だけでお世話になります。」

家出。ランドルフ様はぱちぱちと目を瞬かせた。

お義母様と一緒にお義母様の部屋へ。使用人の方にお茶を淹れていただいた。

「ふぅ。久しぶりの実家もいいもんだな。」

お義母様は以前国外追放になっていたらしいけど、『ドラゴン討伐の英雄』になったおかけでそれは無くなった。

だからたまにこうしてクリステンの実家へと足を伸ばされているらしい。

私は今回初めてこちらに伺った。

フィンバー公爵家の皆様とは数回しかお会いしていない。だからとても緊張する。こんな時ライリーさんが居てくれたら。

「どうした、ヴィンセント?」

「あ、いえ。とても立派なお屋敷なので緊張してしまって。」

「そうだよな。いきなり連れてきてごめんな。ま、しばらくはのんびりしよう。」


それで3日ほどこちらでお世話になりながら過ごしていた。でもライリーさんが側に居ないことがとても不安で仕方なかった。

3日目、ライアスさんとライリーさんが公爵邸へといらっしゃった。

「ヴィン!!ごめん、本当にごめん!もう僕の側から離れないで!!」

私の顔を見るなり抱きしめられてそう言われて、私の心は嬉しい気持ちでいっぱいになる。

「はい、ライリーさん。私も寂しかったです。やっと会えましたね。」

久しぶりのライリーさんの温もりを感じて、やっぱりこの人が居ないとダメなんだと再認識した。

「エレン!反省しましたから家に帰ってきてください。お願いします。」

「…しょうがねぇな。帰ってやるよ。迎えにきてくれてありがと。」

ここに来た初めはお義母様も「解放された!」と喜んでいらしたけど、だんだんとため息も増えてきていた。

結局私たちは旦那様が居ないと寂しいのだ。


どこかの恋愛小説に『会えない時間が愛を深める』なんて書いてあったけど、確かにそうなのかもしれない。

心から愛する人ならば、抱き潰されるほど愛されても許してしまう。どんなに体が辛くともそれを甘んじて受け入れてしまう。


「子供、欲しいですね。」

「うん。また今日からいっぱい抱いてあげるから。ヴィンの子供なら絶対可愛い。でもちゃんとヴィンの体の事考えるから。」


きっと他の人には理解してもらえないのかも知れないけれど、私たちはそれでいいのだ。

それが私たちの『愛の形』なのだから。





* * * * * *


意気込んで家出したけど結局寂しいとか…。ヴィンセントは愛を知らず育ったことでライリーに依存しています。でもただ依存するだけではなく、お互いに助け合ったり尊重したりするので異常な依存ではないです。

ま、本人達が幸せならそれでいいかな、と。


ライリー編の番外編はここで一旦止まります。すみません…。
少し間は開くかもしれませんが少しお待ちください。本当にすみませんm(_ _)m
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