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 王宮なんて一生見ることも来ることもないと思っていたが、現実は足を踏み入れている。

 馬車を降りる前から見えて来る王宮の荘厳な姿に、俺は圧倒されっぱなしだった。馬車を降りて王宮を目の前にすると、緊張で足がすくんだ。え、この中入るの? 今更だけど、俺が入ってもいいの?

 戸惑う俺を他所に、ゼフィ様達は顔色一つ変えずに中へ入ろうとしている。「さ、行こう」とゼフィ様が俺の背中に手を当てて、中へと促される。緊張のあまり、ちゃんと歩けているか自信がない。

「緊張してるの? 大丈夫だよ」

「いや、俺は平民なんで緊張しないのは無理です…」

 「ははっ。リコは可愛いね」と相変らずにこやかなゼフィ様。緊張している俺が可愛いとか意味わからないし、心臓がドキドキしっぱなしで息がし辛い。
 そんな俺を他所に皆さま勝手知ったる感じでどんどん中へと進んでいく。

「お待ちしておりました。こちらでしばらくお待ちください」

 いつの間にか案内役? の人がいて、その人が開けた扉の先には一つの部屋が広がっていた。俺は促されるまま中へと入り、ソファーに腰掛けた。

「これから陛下と謁見するよ。謁見の間とかじゃなくて、広めのサロンだから安心して」

 …俺からすれば謁見の間もサロンも等しく安心できる要素はない。今からこの国の王様と、帝国の皇女様に会うんだし。今更だけど、怖くなってきた。

 しばらく待っていると「お待たせいたしました」と呼ばれ、サロンへと向かうことになった。サロンの扉を開けると柔らかい笑みをたたえた壮年の男性が立っていた。

「陛下、お待たせして申し訳ございません。謁見賜りまして恐悦至極に存じます」

 公爵様が挨拶と礼を執るのに合わせて俺達も頭を下げた。
 
 この人が国王陛下…! ちらっとしか顔を見てないけど、ゼフィ様のお母さんに確かに似てる。

「あー、かしこまらんでいい。楽にせよ。儂の気が急いて早く来ただけだ。
 むしろ面倒なことを押し付ける形になってしまい、すまんな。特にゼフィロよ、お前には迷惑ばかり…」

「ええ、本当に。はっきりきっぱりとお断りいたしますのでよろしくお願いいたします」

「う、うむ…」

 ゼ、ゼフィ様が強すぎる…っ! いいの!? 王様にそんな口聞いていいの!? ハラハラしていたけど、ゼフィ様も公爵様達、特に夫人は扇を口元に当てて「ほほほ」と笑っている…。見ているこっちが怖い。

「騎士団長セルジオ・アッシェンブレーナー様、魔導師団副団長ギルエルミ・ベルンハイマー様、大聖女ソニア・バンベルガー様がお見えになりました」

 と、1人冷や汗を垂らしていたら、セルジオ様達がいらしたという声が聞こえた。振り向けば、いつもよりきっちりとした格好の3人が。皆さんの来ている服は、それぞれの団服と大聖女の服、だろうか。初めて見るからわからないけど。でも3人ともすごくカッコいい。

「遅れてしまい、申し訳ございません。少々面倒なことに巻き込まれておりまして…」

「…聞いておる。帝国の者であろう? はぁ…全くこの無駄に気を遣う日々から解放されたい…」

 なんだか王様が気の毒になって来た。よく見たら、目の下にうっすらと隈が見えるようだし相当お疲れなんだろう。

「お兄様、もうすぐ解放されますわ。ですからシャキッとなさいませ」

「はい…」

 王様……頑張ってください。なんだか可哀そうに思えて、こっそり心の中で応援した。

「ご歓談中失礼いたします。ヴィルヘルミーナ・ヴァン・フェルスト皇女様がお見えになりました」

 その言葉を聞いて、少し和やかだった場が一瞬でぴりっとした空気になる。

 目線を動かせば、おじさんにエスコートされながら1人の女性が入って来た。
 赤い髪を縦に巻き、オレンジの豪華なドレスを身にまとった綺麗な人だ。周りには騎士を何人も引き連れている。
 皇女様は白い肌に細い腰、少し釣り目な赤い目を煌めかせて、美しい笑みを浮かべていた。
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