死神と呼ばれた公爵は転生した元巫女を溺愛する

冬野月子

文字の大きさ
10 / 37
第一章

10

しおりを挟む
「旦那様。お客様です」
屋敷へ戻ると出迎えたアーネストがそう告げた。

「客? 聞いていないが」
「悪いな、先触れもなしで」
フィンより少し年上くらいだろうか、背の高い男性が現れた。
「……ブルーノか」
「久しぶりだな、将軍。って今は公爵様か」
「どうしてこんな所に」
「任務帰りなんだ。ここの城下で面白い噂を聞いたからさ、お前にとうとう婚約者ができたって。こちらのお嬢さんか?」
男性はサラの目の前にやってくると、胸に手をあてて礼をとった。
「ブルーノ・オールディスと申します。王都の騎士団に所属していて、昔は閣下の下で働いていました」
「……サラです」
「いやあ、噂通りの美人ですねえ」
「わざわざサラを見るためだけに来たのか?」
「大事件だろう。王家には報告したのか?」
「いや」
「きっと大騒ぎになるぞ、いい意味でも悪い意味でも」
「どういうことだ」

「少しいいか」
「――執務室へ」
ブルーノと視線を交わすとフィンは促した。


「王都の状況は耳に届いているか」
二人きりになるとブルーノは切り出した。
「特に問題はないと聞いているが」
「表向きはな」
用意されたお茶を一口飲んで、ブルーノはフィンを見た。
「女王が結婚して五年。未だ子ができないことが問題になりつつある」
「ああ……」
「それでだ。どうも貴族の一部に、女王を降ろしてお前を王にさせようという動きがあるという噂が届いたんだ」
「何だと」
フィンは眉をひそめた。

「お前が公爵になって十年。昔は死神なんて言われたが、今は領民に慕われるいい領主だという評判は王都にも伝わってきているからな」
即位した当初、女性が王となることに反発の声はあった。
だが女王の政務手腕は確かだったし、他に相応しい者もいなかったため即位後は表立って反対する者はいなかったのだ。

けれど女王も二十六歳となり、跡継ぎ問題が出てきた。
これが男の王ならば、側室を増やすなど対策も出来るだろう。
そこで王太子であったフィンを王に、と目論む勢力が出てきたというのだ。

「譲位は別にしても、お前に娘を嫁がせてあわよくば産まれた子を次の王にと考える貴族はいるだろうな」
ブルーノは言った。
「そういう連中が、既に婚約者がいると知ったらどう思うかだな。彼女は貴族なのか?」
「……いや」
「そうか、じゃああの子は妾にして正妻は別にとか言いそうだな」
「私の結婚相手はサラだけだ」
「戦場で出会ったんだって? ずっと副官として付いていた俺は初耳なんだが」
鋭い視線がフィンを見た。

「それは城下の噂だろう」
「真実ではないと?」
「戦場で出会ったわけではない。噂に色々と脚色が加わっているようだな」
「ふうん。王都で出会ったのか」
「――そんなところだ」
「そうか。まあ何にせよそういう相手がいたのはいいことだ」
お茶を飲み干すとブルーノは立ち上がった。

「もう一つ、女王にまつわる悪い噂を知っているか」
「なんだ」
「この十三年間、『巫女』が現れないのは女神が女王を祝福していないからだってさ」
そう言い残してブルーノは帰っていった。


  *****

「そんなことあるわけないわ!」
フィンから話を聞いて思わず声を上げた。
「女神はエレンのことを可愛がっていたし、それに祝福されないなら魔力を失っているはずよ」
「そういうものなのか」
「では……何故新たな巫女が現れないのでしょう」
アーネストが口を開いた。

「――巫女になれる、特別な魔力を持った者がいないからよ。それはエレンには関係ないことだわ」
もしも、エレンが男だったら巫女の父親になったかもしれない。
それほどエレンの魔力は強いものだが、そんなことを言ったら彼女が女であることを否定してしまうことになりそうだと思い口にはしなかった。
「……それに、巫女が何十年も現れないこともあると聞いたわ。焦らなくてもそのうち生まれるわよ」
巫女がいなくて困っていると女神が言ったのは、このことだったのだろうか。

女神によれば、人間の持つ魔力量を神が変えることはできないのだという。
『神だからといってなんでも出来るわけではないのよ』と女神は言っていた。
巫女が産まれるのも、その巫女の父親になれる人間が産まれるのも、女神の意志だけではどうにもならないのだ。


「しかし旦那様、困りましたね。そのような王都のごたごたに巻き込まれるかもしれないとは」
「全く。私は王都に戻る気はないし、王位などもごめんだ」
アーネストに答えて、フィンは私の手を取った。
「私の望みは、サラとこの地で生きていくことだからな」

「しかし……ブルーノ様のおっしゃる通りならば、そのうち誰かが旦那様に接触してこようとするかもしれませんね」
アーネストの言葉にフィンはため息をついた。
「一度王都に行ったほうがいいんじゃないですか」
ラルフが言った。
「大勢の貴族の前で、ガツンと宣言しておかないと」
「そういえば、建国祭の招待状が届いておりましたね」

「――本当に面倒だな」
フィンはもう一度ため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

処理中です...