死神と呼ばれた公爵は転生した元巫女を溺愛する

冬野月子

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第一章

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アーネストたちを下がらせると、フィンは私を抱き上げ自分の膝の上に乗せた。
この体勢は恥ずかしいからやめて欲しいと訴えたのだが、『人目がなければいいだろう』と押し切られてしまい、二人きりの時はいつもこの状態なのだ。

「サラ。私は幼い時から結婚するのは君だけだと決めていた。それは何があっても変わらない」
「フィン……」
「だが、それ以外を望む者がいるのも事実だ」
「……仕方ないわ。権力争いとはそういうものだもの」
表に出ることはなかったが、女神の代理として長く王宮で貴族たちの攻防を見守り続けていたのだ。
そういう思惑があるだろうということは理解できる。
「というか……よく今まで結婚しないでいられたわね」
フィンには数えきれないほどの縁談が来ていただろうに。

「よほど『死神』が恐ろしかったんだろう。剣に手をかけて睨めば大人しく引き下がる」
「まあ」
「サラは、さっきのブルーノを知っていたか」
「名前だけは。オールディス伯爵家の次男でしょう」
オールディス伯爵家は代々軍部で諜報を任されている家だ。
「ああ、その彼がわざわざここまで来て告げたとなると、噂ではなく事実なのだろう」
フィンは息を吐くと、私の肩を抱いた。
「私は君を貴族や政権のごたごたに巻き込みたくない」

「でも……そういう訳にはいかないのでしょう? それに、エレンが困ることになるわ」
私にとってエレンは女王ではなく、フィンと同じように生まれた時から見守ってきた大切な家族であり、フィンにとっても唯一の肉親なのだ。
その彼女が困っているのを放っておくのも嫌だと思う。
「やっぱりフィンが王都に行った方が良いんじゃないかしら」
「……サラも王都に行くことになるが」
「そうね、でも私も久しぶりにエレンに会いたいわ」

「私は、他の貴族……特にエレンには君を会わせたくない」
「エレンに? どうして?」
「サラ。君は本当にもう巫女ではないのか?」
私の頬に手を添えるとフィンは顔を覗き込んできた。

「……どうして?」
「君がルナと名付けた馬。あれは『神獣』だと思っているが。違うか?」
「その可能性はあると思うわ」
「この二年間、我々がいくら手を尽くしても全く心を開かなかったルナが、一目で君に心を許した。人間には心を開かなくとも、巫女ならばあり得るだろう」

「……私は魔力がないから、巫女ではないわ」
フィンを見つめ返しながら答えた。
「でも……肉体は別でも、魂は同じだから。だからルナが、私に女神を感じた可能性はあるわ」
「女神を感じる?」
「巫女の魔力は女神の魔力ととても似ているの」
それは巫女が女神と人間との間の娘であるからだけれど、そのことは誰にも――フィンにも決して知られてはならないのだ。
『それを知ったら巫女に子を産ませ、神の血と力を人間の中に入れようとする者が現れるでしょう。だから絶対に知られてはだめよ』と女神は言った。だから巫女は人と交わることを許されないのだと。

「……それはつまり、サラは未だ巫女だと?」
「私は魔力がないから女神に伺いを立てることはできない。だから巫女の役目は果たせないの」
「魔力があれば巫女になるのか」
「……その可能性は、否定できないわ」

「それをエレンが知ったら、どうにかしてサラに魔力を与えようとするだろう」
「そうなの?」
「今のエレンは王だ、国益を優先する。それに、一番『巫女』を必要としているのは彼女だからな」
「――そうなのね」
巫女がいない時代も珍しくはないとはいえ、この国は二百年以上王の後ろ盾として巫女がいたのだ。
王が決める政策が民衆に受け入れられるのも、教会や貴族との関係が良好なのも、全てその後ろに巫女を通じて伝えられる女神の言葉があることは大きい。
だがエレンにはその後ろ盾がない。
それはまだ若い彼女にとっては心細いことだろう。

「君が巫女として再び王宮に戻り、女神の言葉を伝えれば皆の不安は減るだろう。だが、私は君を手放さない」
フィンは私を抱きしめた。
「エレンには巫女の力を頼らずともいられる王になってもらう」
「……どうやって?」

「そうだな。やはり、王都に行って状況を確かめないとならないな」
耳元にため息がかかる。
「問題を見極めて、それを解決させる。そうしてエレンを誰もが認める女王にさせ、サラはここで私と生きる。それでいいだろう」
「……そうなるといいわね」

「なるといい、ではなくそうさせる。サラは何も心配しなくていい」
そう言って、フィンは私の頬に口づけを落とした。
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