18 / 34
本編
16話 品質管理、始めます
しおりを挟む
私は、馬車で30分程かかる鉱山麓の錬成所へ到着しました。受付係のリットさんによると、産出された鉱物から金属のみを抽出するには、土精霊様からの力を借りたスキル《錬金術》が必要とされるようです。
「ここが錬成所ですか。敷地内に入っただけで、今までにない独特な匂いを感じます」
沢山の鉱物や金属が保管されているだけあって、敷地自体はかなり広いです。大地から掘り起こされた鉱物は大量にありますから、そこから抽出された金属もかなりの量があるはずです。今の時点で詳細な任務内容はわかりませんが、やれるだけのことをやりましょう。
「子供…あなたが、今回の依頼を引き受けて下さったリコッタというFランク冒険者ですか?」
私が馬車から降りると、すぐに声をかけられました。声の主は、50歳くらいの人間族の男性です。
「はい、Fランク冒険者獣人族のリコッタと言います。こちらが任命書です」
こういったスキル重視の依頼に、冒険者ランクは関係ありません。あるのは、実績という信頼のみです。私には、まだその実績が少ないので、依頼者の方もあまり良い顔をしていませんね。
「本物のようだ。早急にアクセサリー系の分別が必要とはいえ、まさかこんな幼女が派遣されるなんて……失礼、あなたの持つスキルの精度は、《鑑定》に匹敵するのですか?」
そういえば、本来の分別作業はスキル《鑑定》で実施されているようですが、スキルを持つ担当作業員たちが食当たりによる体調不良で入院したとリットさんから聞いています。スキル《鑑定》はレアスキルに属し、ギルド内でも所持する冒険者は少ないです。今回、その代わりとして、私が派遣されたのですよね。
「はい!! 私はスキル《絶対嗅覚》で、匂いによる品質の分別が可能です。薬草の分別では、ギルドからの信頼を得ています。サンプルさえ頂ければ、今すぐにでも行えます!!」
「いいでしょう。私は施設長のオルフェン、君は今日から7日間、私の指揮下に入ってもらいます」
「了解です!!」
「それでは、私についてきなさい。あなたの仕事場へ案内しましょう」
今日から新たな仕事の始まりですね。現状、味方は1人もいませんから失敗しないよう、細心の注意を払っていきましょう。
オルフェンさんから案内された部屋は完全室内、机の上には3つの箱が置かれており、その中には大小様々な金属片があり、それぞれ満タン入っています。見える範囲内でも、一番大きいものは私の拳より小さいですね。
「この部屋には、アクセサリーなどの小物に使用される金属類が集められています。その机に置かれている3つの箱の中身は《プラチナ》《銀》《ミスリル》、まずはあなたの力量を測らせてもらいます。あなたの力で、これらの金属を決められた純度ごとに振り分けてください」
昨日の時点で、リットさんから専門用語を教えてもらっているので、彼の言葉の意味を理解できます。土から錬金術で金属を抽出する場合、金属片自体を生み出すことは可能ですが、そこに含まれる目的の金属の含有量(純度)が大きく異なるそうです。私の任務は、金属片の純度をスキルで導き出し振り分けることですから、金属の匂いさえわかれば何とかなります。
「まずは、あなたが朝の業務で、どの程度捌けるかを確認しましょう。私の求めるもの以上であれば、昼以降から7日間フルであなたには頑張ってもらいますよ。ギルドから言われた通り、各々純度90%以上のサンプルを3つ机の上に用意していますので、それを基準にしてください」
業務時間については、リットさんからも聞いています。朝の業務は、あと2時間ほどで終了ですね。この時間内で箱の中にある金属を振り分けないといけない。決まった手順もないようですし、私任せで分別していいのならかなり捗るかもしれません。
「わかりました!! 頑張ります!!」
「元気な子だ。私の求めているのは速さよりも正確さですから、焦らずにやって下さい。1時間のお昼休憩に入る際、チャイムが鳴りますので、それを聞いたらこちらで用意した弁当を食べてもらって構いません。昼休みに入り次第、ここへ持って来させましょう。それでは頑張ってください」
「はいです!!」
オルフェンさんは、厳しい表情をしたまま部屋を出て行きました。私は8歳でFランクということもあり、朝の業務で力量を試されているようです。ある一定以上の力を見せないと、追い出される可能性がありますね。
「さてと、まずはサンプルの匂いを嗅いでみましょう」
3つのサンプルの中でも、私のお気に入りは《ミスリル》です。清涼なハッカのような香りがしますし、身体の中を通ることで、全身がスッキリするような感覚を覚えました。《銀》はミスリルに近い匂いですが、先程の爽快感を感じませんでした。《プラチナ》は匂いそのものを感じませんが、逆に不純物の方にエグイ臭いを感じたので、そちらを参考にしていけば分別も可能だと思います。
「棚には、何があるのでしょう?」
それぞれ開けていくと、中には名前のわからない用途不明の器具が多数ありましたが、利用用途がわかりそうなのは、空箱だけですね。
「う~ん、好きにしていいのなら、もう自由にやってしまいましょう!!」
まずは、ミスリルです。
警察犬時、予め一つの臭気を嗅いでおき、5つの箱の中から同じ臭気のものを選ぶ訓練をやっていました。今回の分別も、パピヨンの状態でやった方が楽かもしれません。まずはミスリルを取り出して床に並べましょう。その後、分別した金属を純度ごとに分けるための箱を床に用意して、そこからはパピヨンに変身して、金属の匂いを嗅ぎ純度を分析して、箱の中に入れていきましょう。壁のない面を床と垂直にしておけば、楽にできます。これなら、訓練時に習った方法に近いです。
「さあ、任務開始です!!」
○○○
ミスリルの分別作業で、小さな塊の大半が純度80%を超えていましたので、80未満、80以上、90以上の3つの箱を用意しました。土に含まれる鉱物から目的の金属だけを錬成するよう調整されているため、純度も高いようです。方針も更に固まり、コツを掴んでからは、作業速度も大幅に向上しました。
「失礼しま…え…か…可愛い」
私(愛玩形態)が床で、最後の《プラチナ》の分別作業をしていると、前方から女の子の小さな声が聞こえてきました。匂いで誰か来ることは感知していましたが、今の私に知り合いがいないので、誰かわかりません。とりあえず、残り5個なので、最後までやりましょう。
「ふんふん、98」
《コロン》
「ふんふん、60」
《コロン》
「ふんふん、87」
《コロン》
「ふんふん、93」
《コロン》
「ふんふん、81」
《コロン》
「終了です!!」
「可愛い!!」
「ほぐえ!?」
先程の女の子の声がすぐ近くで聞こえたと思ったら、その子が背後からパピヨンとなった私に抱きついてきました。
「あの…私に抱き付くのは構いませんが、ここから移動しましょう。箱にぶつかったら、せっかく純度ごとに分けた金属がバラバラになってしまいます。あのソファーへ行きましょう」
どこの世界でも、子供は突飛な行動を起こすから本当に怖いです。
この子の行動で、箱を落としてしまったら、全部水の泡です。
そんなのはごめんです。
急いでここから離脱しましょう。
「うん!!」
私を抱きしめているのは、私と同じくらいの年齢の女の子で、何というか全体が見窄らしいです。服は綺麗なのですが、長くボサボサなオレンジ色の髪、澱んだ瞳、首には首輪が付いており、顔色も少し悪いです。
もしかして、奴隷さん?
「私はリコッタです。あなたは?」
こんな場所で私と歳の近い子供と出会えるとは思いもしませんでした。奴隷たちには気をつけろと言われていますが、こんな子供が、何か悪さを働くとは思えません。せっかくなので、お友達になりたいです。
「私…カトレア…昼食を持ってきたの…あなたは魔物さん?」
カトレアは少し挙動不審な態度をとっていますが、匂いから感じ取れるものは、《好奇心》《興味》《不安》です。彼女は、子供用の机の上に私の昼食を置いてくれたようですね。
「この姿の私は、パピヨンです。魔物ではありません」
「パピヨン? 動物? 可愛いから…何でもいい」
この世界には、パピヨンはいませんから珍しいようですね。心からの笑顔となって、私を抱きしめてきます。この子の顔色が少し悪く見えますので、しばらくの間はこうしておきましょう。
5分ほど経過すると、彼女の顔色も回復したので、私は彼女から離れます。
「あ…」
「ずっとこのままだと昼食を食べられませんので、元の姿に戻りますね」
カトレアが元の獣人の姿に戻った私を視認すると、ギョッとした顔になり、さっきまでの心からの笑顔が、ゆっくりと能面のような作り笑顔となり、身体も震え、壁際へ移動してしまい、挙動不審な態度をとります。
あまりの変容に、私はその場から動けませんでした。
「ここが錬成所ですか。敷地内に入っただけで、今までにない独特な匂いを感じます」
沢山の鉱物や金属が保管されているだけあって、敷地自体はかなり広いです。大地から掘り起こされた鉱物は大量にありますから、そこから抽出された金属もかなりの量があるはずです。今の時点で詳細な任務内容はわかりませんが、やれるだけのことをやりましょう。
「子供…あなたが、今回の依頼を引き受けて下さったリコッタというFランク冒険者ですか?」
私が馬車から降りると、すぐに声をかけられました。声の主は、50歳くらいの人間族の男性です。
「はい、Fランク冒険者獣人族のリコッタと言います。こちらが任命書です」
こういったスキル重視の依頼に、冒険者ランクは関係ありません。あるのは、実績という信頼のみです。私には、まだその実績が少ないので、依頼者の方もあまり良い顔をしていませんね。
「本物のようだ。早急にアクセサリー系の分別が必要とはいえ、まさかこんな幼女が派遣されるなんて……失礼、あなたの持つスキルの精度は、《鑑定》に匹敵するのですか?」
そういえば、本来の分別作業はスキル《鑑定》で実施されているようですが、スキルを持つ担当作業員たちが食当たりによる体調不良で入院したとリットさんから聞いています。スキル《鑑定》はレアスキルに属し、ギルド内でも所持する冒険者は少ないです。今回、その代わりとして、私が派遣されたのですよね。
「はい!! 私はスキル《絶対嗅覚》で、匂いによる品質の分別が可能です。薬草の分別では、ギルドからの信頼を得ています。サンプルさえ頂ければ、今すぐにでも行えます!!」
「いいでしょう。私は施設長のオルフェン、君は今日から7日間、私の指揮下に入ってもらいます」
「了解です!!」
「それでは、私についてきなさい。あなたの仕事場へ案内しましょう」
今日から新たな仕事の始まりですね。現状、味方は1人もいませんから失敗しないよう、細心の注意を払っていきましょう。
オルフェンさんから案内された部屋は完全室内、机の上には3つの箱が置かれており、その中には大小様々な金属片があり、それぞれ満タン入っています。見える範囲内でも、一番大きいものは私の拳より小さいですね。
「この部屋には、アクセサリーなどの小物に使用される金属類が集められています。その机に置かれている3つの箱の中身は《プラチナ》《銀》《ミスリル》、まずはあなたの力量を測らせてもらいます。あなたの力で、これらの金属を決められた純度ごとに振り分けてください」
昨日の時点で、リットさんから専門用語を教えてもらっているので、彼の言葉の意味を理解できます。土から錬金術で金属を抽出する場合、金属片自体を生み出すことは可能ですが、そこに含まれる目的の金属の含有量(純度)が大きく異なるそうです。私の任務は、金属片の純度をスキルで導き出し振り分けることですから、金属の匂いさえわかれば何とかなります。
「まずは、あなたが朝の業務で、どの程度捌けるかを確認しましょう。私の求めるもの以上であれば、昼以降から7日間フルであなたには頑張ってもらいますよ。ギルドから言われた通り、各々純度90%以上のサンプルを3つ机の上に用意していますので、それを基準にしてください」
業務時間については、リットさんからも聞いています。朝の業務は、あと2時間ほどで終了ですね。この時間内で箱の中にある金属を振り分けないといけない。決まった手順もないようですし、私任せで分別していいのならかなり捗るかもしれません。
「わかりました!! 頑張ります!!」
「元気な子だ。私の求めているのは速さよりも正確さですから、焦らずにやって下さい。1時間のお昼休憩に入る際、チャイムが鳴りますので、それを聞いたらこちらで用意した弁当を食べてもらって構いません。昼休みに入り次第、ここへ持って来させましょう。それでは頑張ってください」
「はいです!!」
オルフェンさんは、厳しい表情をしたまま部屋を出て行きました。私は8歳でFランクということもあり、朝の業務で力量を試されているようです。ある一定以上の力を見せないと、追い出される可能性がありますね。
「さてと、まずはサンプルの匂いを嗅いでみましょう」
3つのサンプルの中でも、私のお気に入りは《ミスリル》です。清涼なハッカのような香りがしますし、身体の中を通ることで、全身がスッキリするような感覚を覚えました。《銀》はミスリルに近い匂いですが、先程の爽快感を感じませんでした。《プラチナ》は匂いそのものを感じませんが、逆に不純物の方にエグイ臭いを感じたので、そちらを参考にしていけば分別も可能だと思います。
「棚には、何があるのでしょう?」
それぞれ開けていくと、中には名前のわからない用途不明の器具が多数ありましたが、利用用途がわかりそうなのは、空箱だけですね。
「う~ん、好きにしていいのなら、もう自由にやってしまいましょう!!」
まずは、ミスリルです。
警察犬時、予め一つの臭気を嗅いでおき、5つの箱の中から同じ臭気のものを選ぶ訓練をやっていました。今回の分別も、パピヨンの状態でやった方が楽かもしれません。まずはミスリルを取り出して床に並べましょう。その後、分別した金属を純度ごとに分けるための箱を床に用意して、そこからはパピヨンに変身して、金属の匂いを嗅ぎ純度を分析して、箱の中に入れていきましょう。壁のない面を床と垂直にしておけば、楽にできます。これなら、訓練時に習った方法に近いです。
「さあ、任務開始です!!」
○○○
ミスリルの分別作業で、小さな塊の大半が純度80%を超えていましたので、80未満、80以上、90以上の3つの箱を用意しました。土に含まれる鉱物から目的の金属だけを錬成するよう調整されているため、純度も高いようです。方針も更に固まり、コツを掴んでからは、作業速度も大幅に向上しました。
「失礼しま…え…か…可愛い」
私(愛玩形態)が床で、最後の《プラチナ》の分別作業をしていると、前方から女の子の小さな声が聞こえてきました。匂いで誰か来ることは感知していましたが、今の私に知り合いがいないので、誰かわかりません。とりあえず、残り5個なので、最後までやりましょう。
「ふんふん、98」
《コロン》
「ふんふん、60」
《コロン》
「ふんふん、87」
《コロン》
「ふんふん、93」
《コロン》
「ふんふん、81」
《コロン》
「終了です!!」
「可愛い!!」
「ほぐえ!?」
先程の女の子の声がすぐ近くで聞こえたと思ったら、その子が背後からパピヨンとなった私に抱きついてきました。
「あの…私に抱き付くのは構いませんが、ここから移動しましょう。箱にぶつかったら、せっかく純度ごとに分けた金属がバラバラになってしまいます。あのソファーへ行きましょう」
どこの世界でも、子供は突飛な行動を起こすから本当に怖いです。
この子の行動で、箱を落としてしまったら、全部水の泡です。
そんなのはごめんです。
急いでここから離脱しましょう。
「うん!!」
私を抱きしめているのは、私と同じくらいの年齢の女の子で、何というか全体が見窄らしいです。服は綺麗なのですが、長くボサボサなオレンジ色の髪、澱んだ瞳、首には首輪が付いており、顔色も少し悪いです。
もしかして、奴隷さん?
「私はリコッタです。あなたは?」
こんな場所で私と歳の近い子供と出会えるとは思いもしませんでした。奴隷たちには気をつけろと言われていますが、こんな子供が、何か悪さを働くとは思えません。せっかくなので、お友達になりたいです。
「私…カトレア…昼食を持ってきたの…あなたは魔物さん?」
カトレアは少し挙動不審な態度をとっていますが、匂いから感じ取れるものは、《好奇心》《興味》《不安》です。彼女は、子供用の机の上に私の昼食を置いてくれたようですね。
「この姿の私は、パピヨンです。魔物ではありません」
「パピヨン? 動物? 可愛いから…何でもいい」
この世界には、パピヨンはいませんから珍しいようですね。心からの笑顔となって、私を抱きしめてきます。この子の顔色が少し悪く見えますので、しばらくの間はこうしておきましょう。
5分ほど経過すると、彼女の顔色も回復したので、私は彼女から離れます。
「あ…」
「ずっとこのままだと昼食を食べられませんので、元の姿に戻りますね」
カトレアが元の獣人の姿に戻った私を視認すると、ギョッとした顔になり、さっきまでの心からの笑顔が、ゆっくりと能面のような作り笑顔となり、身体も震え、壁際へ移動してしまい、挙動不審な態度をとります。
あまりの変容に、私はその場から動けませんでした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
180
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる