194 / 277
《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国
間章−1(アッシュ視点)第6チェックポイント、そこは……
しおりを挟む
作者からの一言
1話だけの閑話にしようと思ったのですが、展開を面白くするために、間章を挟むことにしました。5~6話程度で終えれると思います。
○○○ アッシュ視点
たった今、第5チェックポイントで行われた全ての試合が終了した。
シャーロットと別れた後、リリヤとレアナさんが、第4チェックポイント【ヘルフォールキャニオン】で脱落した。仲間内で残っているのは、いまや僕とトキワさんだけだ。そして次の第5チェックポイント【ドラゴンクライ】、全員が転移された時点で、大きく動揺することになった。
カクさんの説明により、転移場所はランダルキア大陸中央に位置するウォールリバー山脈、標高3000m付近に位置する平原、別名【ドラゴンクライ】と呼ばれるところであった。そう……ただの平原ならば、僕達も動揺などしない。転移場所のすぐ近く、目の前と言っても過言ではない程の近距離に、30体近くのスカイドラゴン達が悠然と佇んでいたのだ。スカイドラゴン、全長15~20m、細く引き締まった身体をしており、他のドラゴンと比べて防御が手薄な分、敏捷に特化した魔物である。ライダードラゴンの上位種と言われている。
僕達は、威圧感溢れるスカイドラゴン達を見て言葉を失っていたけど、この事態に対し、全く動じない人物がただ1人いた。それがトキワさんだ。彼だけが、スカイドラゴンを見た後、冷静に周囲を見渡し、何かを考え込んでいた。しばらくすると、カクさんがここで実施されるクイズ内容を語ってくれた。
ここ以降、チーム戦から個人戦に変更となった。個人戦になった理由は、その後の説明で、すぐに理解できた。
第5チェックポイントで実施されるクイズ、それは【騎竜戦】だ。
まず、1人1人がカクさんから渡された帽子を被り、スカイドラゴンの頭の上に乗る。そして、スカイドラゴンと共に遥か上空へと飛翔し、ドラゴンを操りながら、1vs1で試合を行う。勝利条件、それは相手の帽子を奪い、縫い付けられているクイズに正解すること。帽子を奪い取られた者は即失格、試合中ドラゴンから落下した場合も失格、クイズに不正解した場合も失格となる。
高所に慣れている冒険者もいることから、公平を喫するため、3日間の猶予期間が与えられた。この3日の間に、操るドラゴンを選択し、絆を深めろとのことだ。ドラゴンに認められれば、従魔契約も可能と言われたこともあって、皆がやる気になった。
3日という猶予期間の中で、従魔契約まで至った冒険者は3人いた。そのうちの1人がトキワさんだ。彼は早い段階で、自分に合うドラゴンを見つけ出し、意気投合していた。僕の場合、実力不足のせいか、選んだドラゴンから…
「はあ~精霊達の気まぐれで遊ぶのも面白いが、お前が私の騎手になるのか。……5分は保たせろよ」
とやる気のない発言をされ、溜息をつかれた。挑戦者達の中でも、僕は最弱に近い強さだから無理もない。だからこそ、この2日間で僕のドラゴン『フラッシュベル』に認められるよう、精一杯の努力をした。
そして本番、僕とフラッシュベルの相手は、妙に色香のある30歳くらいの人間の女性で、服装も派手で、大きな胸をやたら強調させていた。ドラゴン同士がぶつかり合い、その隙に僕が女性のいるドラゴンに乗り移り、彼女の帽子を奪おうとすると、何故か戦わず、おかしな仕草をし、身体をクネクネと動かした。意味不明な動きであったため、簡単に帽子を奪い取ることに成功した。試合時間は、僅か2分。その後、僕はクイズにも正解したことで、第6チェックポイントに進出することが決まった。敗者である女性の方は、何故か自身喪失しており、一応僕なりに慰めておいた。
「あの~、試合中にやった気持ち悪い動きは何だったんですか? あれさえなければ、もっと楽しい試合が出来たと思うんですが?」
その女性は、僕の一言で奈落の底に突き落とされたかのような表情となり、そこから僕がどんなに慰めてあげても、全く耳に入っていなかった。
もう1人の仲間であるトキワさんは、ルールを完全無視して、対戦相手のスカイドラゴンとの戦いを楽しみ、最終的に対戦相手やスカイドラゴンを気絶させ、帽子を奪った。クイズにも正解し、第6チェックポイントに進むことができた。
この第5チェックポイント、僕にとって本番よりも練習の2日間が、とても有意義であった。フラッシュベルにも認められたけど、従魔契約には至らなかった。でも……
「お前は面白い。もっと強さを磨け。お前がAランク以上の強さとなった時、従魔契約してやろう」
と言ってくれたので、僕はとても嬉しかった。誰の力も頼らず、魔物に認められたのは、生まれて初めてだ。正直、このまま別れたくなかったけど、僕はフラッシュベルに【強くなって、必ず君を呼び出す!】と宣言し、第6チェックポイントに転移した。
○○○
ここが第6チェックポイントか。空気や風の質感が、第5チェックポイントの場所と全然違う。ここは、何処なんだ? ここまで来れた挑戦者は、僕とトキワさんを含めて、10名か。リリヤとレアナさんの分まで頑張らないと!
「諸君、第6チェックポイントとなる場所は、アストレカ大陸・ガーランド法王国、王都ガーランドだ!」
アストレカ大陸・ガーランド法王国だって!?
確か、シャーロットから聞いた内容の中に、その国の名前はあったはずだ!
今回は、そこが舞台になるのか。
「ここで行われる内容は、クックイスクイズ恒例の【ヘキサゴンメダルを探せ】だ!」
遂にきた!
これに関しては、図書館で勉強済みだ。
「ルールを説明するぞ。ここから東の方向に2km程進むと、王都ガーランドがある。君達には、この【変異の指輪】で人間に変装してもらい、王都に潜入してもらう」
あれ?
通例なら、この姿のまま潜入するはずだけど?
「240枚のメダルを王都中に設置した。240枚のうち、当たりであるヘキサゴンメダルは8枚、残り全てがハズレだ。君達は4日以内に、1枚のヘキサゴンメダルを探せ。1枚のメダルを手にした瞬間、ここへ転移される。私の出題したクイズに正解すれば、次のチェックポイントに行けるぞ。また、4日目のこの時間になったら、君達はここへ強制転移される。その時は強制失格だ」
240枚中、8枚が本物のメダルか。30分の1の確率、他の挑戦者達も4日かけて捜索していくことを考慮すると、メダルを見つけ出すことは可能だと思う。
「今回、特別にハズレメダルには、挑戦者達を怒らせる仕掛けを施しておいた。仕掛けが発動されてから30秒間、メダル発見位置から半径20m以内において、3人の他者から顔を見られた場合、魔導具の効果が消失し、君達の真の姿が露わとなる。また、マスクなどで顔を隠して行動した者は、失格とする」
つまり、ハズレメダルを手にしたら、速やかに発見位置から誰の目にも触れずに離れるか、30秒間何処かに身を隠すしかないということか。
「これがヘキサゴンメダルだ! 特殊な魔力を施しているから、君達はこの魔力を覚えて探しなさい。ハズレのメダルも、全く同じ魔力であるから、魔力感知で区別することは不可能だ。なお、ここまで来れた君達には、ノーマルスキル【アストレカ語Lv10】を進呈しよう。このスキルがあれば、アストレカ大陸の共通語でもあるアストレカ語を自由に話せるし、読み書きも可能となる。さあ、競技開始だ!」
僕のステータスの中に、【アストレカ語Lv10】が表示された。このスキル進呈は、僕としても非常にありがたい! 今後、シャーロットとの関係で、アストレカ大陸には必ず訪れることになっていた。リリヤは習得できなかったけど、僕が翻訳してあげれば問題ない。そして、あの六角形メダル、カクさんの顔が中央に彫り込まれていて、独特な波長を放っているからわかりやすい。4日間における王都での生活も問題なさそうだし、メダルの配置場所に関しても、苦労せず見つけられそうだ。
「アッシュ、俺と一緒に王都まで行くか」
僕に声をかけてきたのは、トキワさんか。個人戦である以上、全員がライバルとなる。でも、王都に到着するまでは、仲間でもある彼と一緒に行動しよう。
「はい、行きましょう。今回の課題、かなり厄介ですよね?」
「ああ、試されるのは【運】だけだ。ハズレメダルの仕掛けも気になるところだな」
「そうですよね。今までなら、人に変異なんかさせず、そのまま潜入させていました」
人に変異させることに、何か意味があるのか? カクさんから、変異の指輪を渡され装備すると、僕やトキワさんの額から生えているツノが消えた。ツノのあった部分を触ろうとしたけど、どういうわけか全く触れなかった。まるで、ツノが消失したような感覚だ。これは、【幻夢】による変異ではなく、【トランスフォーム】による変異かもしれない。2名のダークエルフの人達も、肌の色や耳の形が変化し、完全に人間へと変異している。
「おっと、言い忘れたことがある。君達には、冒険者カードを進呈しよう。このカードは、アストレカ大陸で共通して使用されている。これを見せれば、難なく王都の中に潜入できるだろう。そして現在、この国はあちこちの地域で、内乱が多発している。原因はエルディア王国の偽聖女イザベルによるものだ。そのため、王都の警備も、大幅に強化されている。君達が魔人族と知られると、問答無用で斬り殺されるから注意しなさい」
「カクさん、それ超重要じゃないですか!? 先に言ってくださいよ!!」
カクさんは、僕達に冒険者カードを渡してくれた。僕のカードを確認すると、Cランクと表記されていて、トキワさんはBランクだった。
それにしても、ここにきてイザベルの名前を聞くなんて思いもしなかった。警備が厳重か。王都に散りばめられているメダルが、どんな場所に配置されているのか、それが問題だ。
「アッシュ、こいつはやばいぞ。過去のクックイスだと、危険度の高い場所に設置されているメダルほど、本物である確率が高い」
「危険度の高い順でいえば、王城エリア、貴族エリア、平民エリアですが、ハズレメダルの仕掛けがある以上……平民エリアにも、ヘキサゴンメダルが何枚も埋もれている可能性がありますね」
「ああ。これまでで、1番危険な任務かもしれない」
他の挑戦者達も、僕達のように話し合っている。王都に入るまでは、全員が仲間なんだ。ここまで来て、死者を出したくない。でも、今回の任務、他者のことを考えている余裕がない。下手をすれば、僕も死んでしまう。トキワさんならば、余裕で逃げられると思うけど、魔人族の印象を悪くするだろう。ここで大きな騒ぎを起こせば、聖女でもあるシャーロットにも影響が出る。シャーロットには、迷惑をかけたくない。慎重に行動しよう。
……僕達挑戦者一行は、王都ガーランド東門に到着した。
門入口には、4名の獣人警備兵がいて、入念な荷物検査が行われている。そして、王都だけあって、ジストニス王国の王都と似たような高い城壁が、王都ガーランドの周囲を取り囲んでいる。僕達は1人1人丹念に荷物検査をされたけど、特に何も言われることはなく、王都の中に入ることができた。ここからは、全員がライバルだ。ヘキサゴンメダルから放たれる魔力を感知して探し出さないといけない。
それにしても、さっきから獣人達が多く見かける。何故だ?
「アッシュ、気づいているか?」
「人間よりも、獣人達の方が多く見かけますね」
この周囲だけを観察した場合、獣人が4割、人間が3割、エルフ2割、ドワーフ1割という感じかな?
「もしかしたら、ここは獣人の国じゃないのか?」
「ええ!? シャーロットから何も聞いていませんよ!」
いや、待てよ。よく考えたら、どの種族がガーランド法王国を統治しているのか、全く聞いていない! 遥か昔、勇者と聖女がガーランド様から許可を貰って、国を建国したと聞いているけど、種族まで聞いていなかった!
「この比率から考えると、まず獣人の国で間違いない。うん、これは? ……いきなりメダルの気配がするぞ」
あ…この魔力は、ヘキサゴンメダルのものだ。獣人のことばかり考えていて、メダルのことを疎かにしていた。
「位置的に、警備兵達の待機部屋でしょうか?」
周囲には大勢の人達がいる。仮にハズレメダルを発見できたとしても、確実に僕達の正体がバレてしまう。
「俺はパスだ。4日もあるんだから、焦る必要はない」
「僕も、パスです。初日なんですから、平民エリアなどに行って、何処に設置されているのかを把握しておくのが最適だと思いますね」
あれ? トキワさんが僕を見て、呆れた表情をした。
何か変なことを言っただろうか?
「アッシュ、俺とお前はライバルなんだ。迂闊に、そういった情報を漏らすな。俺は1人でメダルを探す。ここでお別れだ。油断するなよ」
そうか! トキワさんだから、普通に話してしまった。トキワさんと一緒に行動するのもアリだけど、それだと僕が彼に頼ってしまう。僕自身が、【何処にメダルがあるのか】、【ハズレメダルの仕掛けとは何か?】、【仕掛け発動後、どうやってピンチを切り抜けるのか?】、それら全てを自分で見極めなければいけない。
「トキワさんも気をつけて」
さて、トキワさんもいなくなったことだし、ここからは単独行動だ。
まずは、平民エリアを軽く散策しよう。
……10分程散策したけど、ジストニス王国の王都以上に、警備が厳重だ。平民エリアの建物は、ジストニスやサーベント王国の平民エリアと似ている。周囲には、獣人ばかりが目立つ。やはり、ここは獣人の国なのだろうか? 少数ながら、ドワーフやエルフ達もいるのだけど、街の活気があまりなく、皆の顔も何処か暗い。この王都の中も、内乱で混乱していて、治安が悪くなっているのかもしれない。
こうやって少し歩いただけでも、必ず数名の騎士達が周囲を巡回しているのを見かける。これは昼夜関係なく、行動には危険を伴うぞ。それに、この10分程の探索で、ヘキサゴンメダル候補を3つ感知したけど、場所が民家、道具屋、武器屋となっていて、全部家の中だ。試しに武器屋に入ったけど、メダルの位置は店奥だった。下手に侵入したら、住居不法侵入で即刻逮捕されてしまう。
せめて、メダルが入口付近にあれば、人のいない時間を見計らって、店に無断侵入し、メダルを楽に入手できるかもしれないけど、その行為もかなり危険だ。まずは、ハズレメダルを見つけ出して、どんな仕掛けが施されているのかを確認したい。そのためには、【入手の際、誰の目にも触れてはいけない】、【メダルの仕掛けに耐えられる落ち着ける環境】、この2つの条件が当てはまる家を探さないと……
「あ…そうか! メダルがあの場所にあれば、ほぼ確実に誰にも見られず入手できるぞ!」
多分、そういった配置場所にあるメダルは、間違いなくハズレのはずだ。平民エリアならば、該当する家はいくつもある。でも、問題は、設置されている部屋が空いているかどうかだ!
ヘキサゴンメダル、捜索開始だ!
1話だけの閑話にしようと思ったのですが、展開を面白くするために、間章を挟むことにしました。5~6話程度で終えれると思います。
○○○ アッシュ視点
たった今、第5チェックポイントで行われた全ての試合が終了した。
シャーロットと別れた後、リリヤとレアナさんが、第4チェックポイント【ヘルフォールキャニオン】で脱落した。仲間内で残っているのは、いまや僕とトキワさんだけだ。そして次の第5チェックポイント【ドラゴンクライ】、全員が転移された時点で、大きく動揺することになった。
カクさんの説明により、転移場所はランダルキア大陸中央に位置するウォールリバー山脈、標高3000m付近に位置する平原、別名【ドラゴンクライ】と呼ばれるところであった。そう……ただの平原ならば、僕達も動揺などしない。転移場所のすぐ近く、目の前と言っても過言ではない程の近距離に、30体近くのスカイドラゴン達が悠然と佇んでいたのだ。スカイドラゴン、全長15~20m、細く引き締まった身体をしており、他のドラゴンと比べて防御が手薄な分、敏捷に特化した魔物である。ライダードラゴンの上位種と言われている。
僕達は、威圧感溢れるスカイドラゴン達を見て言葉を失っていたけど、この事態に対し、全く動じない人物がただ1人いた。それがトキワさんだ。彼だけが、スカイドラゴンを見た後、冷静に周囲を見渡し、何かを考え込んでいた。しばらくすると、カクさんがここで実施されるクイズ内容を語ってくれた。
ここ以降、チーム戦から個人戦に変更となった。個人戦になった理由は、その後の説明で、すぐに理解できた。
第5チェックポイントで実施されるクイズ、それは【騎竜戦】だ。
まず、1人1人がカクさんから渡された帽子を被り、スカイドラゴンの頭の上に乗る。そして、スカイドラゴンと共に遥か上空へと飛翔し、ドラゴンを操りながら、1vs1で試合を行う。勝利条件、それは相手の帽子を奪い、縫い付けられているクイズに正解すること。帽子を奪い取られた者は即失格、試合中ドラゴンから落下した場合も失格、クイズに不正解した場合も失格となる。
高所に慣れている冒険者もいることから、公平を喫するため、3日間の猶予期間が与えられた。この3日の間に、操るドラゴンを選択し、絆を深めろとのことだ。ドラゴンに認められれば、従魔契約も可能と言われたこともあって、皆がやる気になった。
3日という猶予期間の中で、従魔契約まで至った冒険者は3人いた。そのうちの1人がトキワさんだ。彼は早い段階で、自分に合うドラゴンを見つけ出し、意気投合していた。僕の場合、実力不足のせいか、選んだドラゴンから…
「はあ~精霊達の気まぐれで遊ぶのも面白いが、お前が私の騎手になるのか。……5分は保たせろよ」
とやる気のない発言をされ、溜息をつかれた。挑戦者達の中でも、僕は最弱に近い強さだから無理もない。だからこそ、この2日間で僕のドラゴン『フラッシュベル』に認められるよう、精一杯の努力をした。
そして本番、僕とフラッシュベルの相手は、妙に色香のある30歳くらいの人間の女性で、服装も派手で、大きな胸をやたら強調させていた。ドラゴン同士がぶつかり合い、その隙に僕が女性のいるドラゴンに乗り移り、彼女の帽子を奪おうとすると、何故か戦わず、おかしな仕草をし、身体をクネクネと動かした。意味不明な動きであったため、簡単に帽子を奪い取ることに成功した。試合時間は、僅か2分。その後、僕はクイズにも正解したことで、第6チェックポイントに進出することが決まった。敗者である女性の方は、何故か自身喪失しており、一応僕なりに慰めておいた。
「あの~、試合中にやった気持ち悪い動きは何だったんですか? あれさえなければ、もっと楽しい試合が出来たと思うんですが?」
その女性は、僕の一言で奈落の底に突き落とされたかのような表情となり、そこから僕がどんなに慰めてあげても、全く耳に入っていなかった。
もう1人の仲間であるトキワさんは、ルールを完全無視して、対戦相手のスカイドラゴンとの戦いを楽しみ、最終的に対戦相手やスカイドラゴンを気絶させ、帽子を奪った。クイズにも正解し、第6チェックポイントに進むことができた。
この第5チェックポイント、僕にとって本番よりも練習の2日間が、とても有意義であった。フラッシュベルにも認められたけど、従魔契約には至らなかった。でも……
「お前は面白い。もっと強さを磨け。お前がAランク以上の強さとなった時、従魔契約してやろう」
と言ってくれたので、僕はとても嬉しかった。誰の力も頼らず、魔物に認められたのは、生まれて初めてだ。正直、このまま別れたくなかったけど、僕はフラッシュベルに【強くなって、必ず君を呼び出す!】と宣言し、第6チェックポイントに転移した。
○○○
ここが第6チェックポイントか。空気や風の質感が、第5チェックポイントの場所と全然違う。ここは、何処なんだ? ここまで来れた挑戦者は、僕とトキワさんを含めて、10名か。リリヤとレアナさんの分まで頑張らないと!
「諸君、第6チェックポイントとなる場所は、アストレカ大陸・ガーランド法王国、王都ガーランドだ!」
アストレカ大陸・ガーランド法王国だって!?
確か、シャーロットから聞いた内容の中に、その国の名前はあったはずだ!
今回は、そこが舞台になるのか。
「ここで行われる内容は、クックイスクイズ恒例の【ヘキサゴンメダルを探せ】だ!」
遂にきた!
これに関しては、図書館で勉強済みだ。
「ルールを説明するぞ。ここから東の方向に2km程進むと、王都ガーランドがある。君達には、この【変異の指輪】で人間に変装してもらい、王都に潜入してもらう」
あれ?
通例なら、この姿のまま潜入するはずだけど?
「240枚のメダルを王都中に設置した。240枚のうち、当たりであるヘキサゴンメダルは8枚、残り全てがハズレだ。君達は4日以内に、1枚のヘキサゴンメダルを探せ。1枚のメダルを手にした瞬間、ここへ転移される。私の出題したクイズに正解すれば、次のチェックポイントに行けるぞ。また、4日目のこの時間になったら、君達はここへ強制転移される。その時は強制失格だ」
240枚中、8枚が本物のメダルか。30分の1の確率、他の挑戦者達も4日かけて捜索していくことを考慮すると、メダルを見つけ出すことは可能だと思う。
「今回、特別にハズレメダルには、挑戦者達を怒らせる仕掛けを施しておいた。仕掛けが発動されてから30秒間、メダル発見位置から半径20m以内において、3人の他者から顔を見られた場合、魔導具の効果が消失し、君達の真の姿が露わとなる。また、マスクなどで顔を隠して行動した者は、失格とする」
つまり、ハズレメダルを手にしたら、速やかに発見位置から誰の目にも触れずに離れるか、30秒間何処かに身を隠すしかないということか。
「これがヘキサゴンメダルだ! 特殊な魔力を施しているから、君達はこの魔力を覚えて探しなさい。ハズレのメダルも、全く同じ魔力であるから、魔力感知で区別することは不可能だ。なお、ここまで来れた君達には、ノーマルスキル【アストレカ語Lv10】を進呈しよう。このスキルがあれば、アストレカ大陸の共通語でもあるアストレカ語を自由に話せるし、読み書きも可能となる。さあ、競技開始だ!」
僕のステータスの中に、【アストレカ語Lv10】が表示された。このスキル進呈は、僕としても非常にありがたい! 今後、シャーロットとの関係で、アストレカ大陸には必ず訪れることになっていた。リリヤは習得できなかったけど、僕が翻訳してあげれば問題ない。そして、あの六角形メダル、カクさんの顔が中央に彫り込まれていて、独特な波長を放っているからわかりやすい。4日間における王都での生活も問題なさそうだし、メダルの配置場所に関しても、苦労せず見つけられそうだ。
「アッシュ、俺と一緒に王都まで行くか」
僕に声をかけてきたのは、トキワさんか。個人戦である以上、全員がライバルとなる。でも、王都に到着するまでは、仲間でもある彼と一緒に行動しよう。
「はい、行きましょう。今回の課題、かなり厄介ですよね?」
「ああ、試されるのは【運】だけだ。ハズレメダルの仕掛けも気になるところだな」
「そうですよね。今までなら、人に変異なんかさせず、そのまま潜入させていました」
人に変異させることに、何か意味があるのか? カクさんから、変異の指輪を渡され装備すると、僕やトキワさんの額から生えているツノが消えた。ツノのあった部分を触ろうとしたけど、どういうわけか全く触れなかった。まるで、ツノが消失したような感覚だ。これは、【幻夢】による変異ではなく、【トランスフォーム】による変異かもしれない。2名のダークエルフの人達も、肌の色や耳の形が変化し、完全に人間へと変異している。
「おっと、言い忘れたことがある。君達には、冒険者カードを進呈しよう。このカードは、アストレカ大陸で共通して使用されている。これを見せれば、難なく王都の中に潜入できるだろう。そして現在、この国はあちこちの地域で、内乱が多発している。原因はエルディア王国の偽聖女イザベルによるものだ。そのため、王都の警備も、大幅に強化されている。君達が魔人族と知られると、問答無用で斬り殺されるから注意しなさい」
「カクさん、それ超重要じゃないですか!? 先に言ってくださいよ!!」
カクさんは、僕達に冒険者カードを渡してくれた。僕のカードを確認すると、Cランクと表記されていて、トキワさんはBランクだった。
それにしても、ここにきてイザベルの名前を聞くなんて思いもしなかった。警備が厳重か。王都に散りばめられているメダルが、どんな場所に配置されているのか、それが問題だ。
「アッシュ、こいつはやばいぞ。過去のクックイスだと、危険度の高い場所に設置されているメダルほど、本物である確率が高い」
「危険度の高い順でいえば、王城エリア、貴族エリア、平民エリアですが、ハズレメダルの仕掛けがある以上……平民エリアにも、ヘキサゴンメダルが何枚も埋もれている可能性がありますね」
「ああ。これまでで、1番危険な任務かもしれない」
他の挑戦者達も、僕達のように話し合っている。王都に入るまでは、全員が仲間なんだ。ここまで来て、死者を出したくない。でも、今回の任務、他者のことを考えている余裕がない。下手をすれば、僕も死んでしまう。トキワさんならば、余裕で逃げられると思うけど、魔人族の印象を悪くするだろう。ここで大きな騒ぎを起こせば、聖女でもあるシャーロットにも影響が出る。シャーロットには、迷惑をかけたくない。慎重に行動しよう。
……僕達挑戦者一行は、王都ガーランド東門に到着した。
門入口には、4名の獣人警備兵がいて、入念な荷物検査が行われている。そして、王都だけあって、ジストニス王国の王都と似たような高い城壁が、王都ガーランドの周囲を取り囲んでいる。僕達は1人1人丹念に荷物検査をされたけど、特に何も言われることはなく、王都の中に入ることができた。ここからは、全員がライバルだ。ヘキサゴンメダルから放たれる魔力を感知して探し出さないといけない。
それにしても、さっきから獣人達が多く見かける。何故だ?
「アッシュ、気づいているか?」
「人間よりも、獣人達の方が多く見かけますね」
この周囲だけを観察した場合、獣人が4割、人間が3割、エルフ2割、ドワーフ1割という感じかな?
「もしかしたら、ここは獣人の国じゃないのか?」
「ええ!? シャーロットから何も聞いていませんよ!」
いや、待てよ。よく考えたら、どの種族がガーランド法王国を統治しているのか、全く聞いていない! 遥か昔、勇者と聖女がガーランド様から許可を貰って、国を建国したと聞いているけど、種族まで聞いていなかった!
「この比率から考えると、まず獣人の国で間違いない。うん、これは? ……いきなりメダルの気配がするぞ」
あ…この魔力は、ヘキサゴンメダルのものだ。獣人のことばかり考えていて、メダルのことを疎かにしていた。
「位置的に、警備兵達の待機部屋でしょうか?」
周囲には大勢の人達がいる。仮にハズレメダルを発見できたとしても、確実に僕達の正体がバレてしまう。
「俺はパスだ。4日もあるんだから、焦る必要はない」
「僕も、パスです。初日なんですから、平民エリアなどに行って、何処に設置されているのかを把握しておくのが最適だと思いますね」
あれ? トキワさんが僕を見て、呆れた表情をした。
何か変なことを言っただろうか?
「アッシュ、俺とお前はライバルなんだ。迂闊に、そういった情報を漏らすな。俺は1人でメダルを探す。ここでお別れだ。油断するなよ」
そうか! トキワさんだから、普通に話してしまった。トキワさんと一緒に行動するのもアリだけど、それだと僕が彼に頼ってしまう。僕自身が、【何処にメダルがあるのか】、【ハズレメダルの仕掛けとは何か?】、【仕掛け発動後、どうやってピンチを切り抜けるのか?】、それら全てを自分で見極めなければいけない。
「トキワさんも気をつけて」
さて、トキワさんもいなくなったことだし、ここからは単独行動だ。
まずは、平民エリアを軽く散策しよう。
……10分程散策したけど、ジストニス王国の王都以上に、警備が厳重だ。平民エリアの建物は、ジストニスやサーベント王国の平民エリアと似ている。周囲には、獣人ばかりが目立つ。やはり、ここは獣人の国なのだろうか? 少数ながら、ドワーフやエルフ達もいるのだけど、街の活気があまりなく、皆の顔も何処か暗い。この王都の中も、内乱で混乱していて、治安が悪くなっているのかもしれない。
こうやって少し歩いただけでも、必ず数名の騎士達が周囲を巡回しているのを見かける。これは昼夜関係なく、行動には危険を伴うぞ。それに、この10分程の探索で、ヘキサゴンメダル候補を3つ感知したけど、場所が民家、道具屋、武器屋となっていて、全部家の中だ。試しに武器屋に入ったけど、メダルの位置は店奥だった。下手に侵入したら、住居不法侵入で即刻逮捕されてしまう。
せめて、メダルが入口付近にあれば、人のいない時間を見計らって、店に無断侵入し、メダルを楽に入手できるかもしれないけど、その行為もかなり危険だ。まずは、ハズレメダルを見つけ出して、どんな仕掛けが施されているのかを確認したい。そのためには、【入手の際、誰の目にも触れてはいけない】、【メダルの仕掛けに耐えられる落ち着ける環境】、この2つの条件が当てはまる家を探さないと……
「あ…そうか! メダルがあの場所にあれば、ほぼ確実に誰にも見られず入手できるぞ!」
多分、そういった配置場所にあるメダルは、間違いなくハズレのはずだ。平民エリアならば、該当する家はいくつもある。でも、問題は、設置されている部屋が空いているかどうかだ!
ヘキサゴンメダル、捜索開始だ!
12
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。