10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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1章 家族との別離(前世)

5話 冒険者を目指して

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お父さん、お母さん、悠太。
あっという間に、2日が経過したよ。

今の状態が夢なら早く覚めてほしいと、どれだけ願っても、決して醒めることはない。私は現実を受け入れ、ベイツさんの言うように、前に進むしか道がないことを理解しました。この3日間、私は家族のもとへ戻りたい一心で、冒険者として一人前になるため、ベイツさんの家で、徹底的に知識と世界の常識を勉強しました。初日の時点で、女性冒険者用の軽快な半袖長ズボンの少しおしゃれな服と、護身用の武器として、短剣を買ってもらったので、今の私の見た目は新人冒険者なんだよ。スマートフォンがあれば、3人に画像を送りたいところです。

初日の時点で、まず実施したのは街の散策です。

環境に慣れるためにも、周辺を軽く歩き回ったのだけど、街の建物は外国の古風な建築様式に似ていて、上下水道、トイレ、公衆電話、銭湯、魔道蒸気列車といった設備もあり、文明自体がかなり高いこともわかりました。

ただ、日本と違うところも多々あります。この世界には電子部品が一切なく、その代わりに魔道具というものが存在します。その内部は魔導回路と呼ばれる特殊な部品構成となっていて、ベイツさんやルウリから軽く説明されたけど、意味が全くわかりませんでした。

わかったことは、人々が様々な魔道具を利用して照明をつけたり、風呂を沸かしたり、公衆電話や固定電話で電話をかけたりしていることです。

ベイツさんの家は冒険者ギルドから比較的近い位置にあるらしく、一人暮らしの一軒家で、中は広くて住みやすく、ルウリも途中で買ってもらった鳥籠や鳥用止まり木を気に入り、「これはいいね~」と人の言語で喋り、ご機嫌になっていました。これまでベイツさんは自分だけで料理を調理していたので、初日の夕食を作ってもらったのだけど、はっきり言って味にまとまりがなく、美味しくなかった。

だから、2日目の朝食では、私が調味料を一つ一つ味見しながら料理を作ってみました。すると、あの時の野宿同様に、ベイツさんもルウリも「美味い美味い」と言いながら、凄い速度で食べていく。結局、居候2日目の時点から料理に関しては、当番制になりました。

冒険者となるべく、ベイツさんに剣術も教えてもらったけど、3日間だけなので、実質素人同然でスキルも魔法も持っていない無能力者でもあるから、試験に合格できるのか不安になりました。だから、試験当日になって、ギルドへ向かう最中に私の抱える不安を口にしたところ……

「心配しなくてもいい。祝福をもらっていない10歳未満の子供たちでも、Fランクに見合う体力があれば合格可能だ。昨日も話したが、無能者が登録して、その後スキルに目覚め、活躍している者だっているから、皆から虐められることもない。咲耶の体力面は基準以下かもしれないが、運動能力は同年代の中だと高い水準にある。試験自体には合格するだろうが、無能者である以上、どう頑張ってもFランクだから気楽に挑めばいい」

とベイツさんに言われたけど、これって馬鹿にされているのかな? 

『そうそう、合格するだろうけど、Fランクだから落ち着いて戦えばいいさ』

ルウリも、鳥語で微妙な励まし方をしてくれたけど、馬鹿にされてないよね? 
励ましてくれているんだよね?

そんなやりとりをしているうちに、私たちは冒険者ギルドに到着しました。この冒険者ギルドも周囲に合わせた建物となっていて、ギルドというだけあって、かなり規模も大きい。これからの冒険を思うと、緊張とワクワクが入り混じっているせいか、どうにも足の運びがぎこちなくなってしまいます。

お父さん、お母さん、悠太。
試験、頑張って合格を目指すね!!

「さあ、入るぞ」
「は…はい!!」

私たちは建物の中へと入り、受付嬢さんのところへ行く。入って間もないのに、この時点で視線を感じる。でも、その視線の先は、私というより、肩に止まっているルウリに向いている気がする。

『ハミングバードに擬態しても、やっぱり目立つか~。まあ、魔法を使える野生の鳥と従魔契約を結べる人も少ないから無理もないか~』

【従魔契約】、私もルウリから説明を受けて結んだけど、本当にいいのかな? 契約自体が、私の権限で破棄できると聞いているけど、それって従魔側の気持ちを無視しているよ。その事をベイツさんとルウリに話すと、何故か二人して笑い、私の信用度が上がった。

「ベイツさん、おはようございます」

受付嬢さんは20歳くらいの綺麗な獣人の女性、猫型タイプだからなのか、凄く頭を撫でたい衝動に駆られる。この2日、街を十分堪能させてもらったおかげで、獣人、リザードマン、エルフ、ドワーフなど色んな種族の人たちがいたけど、獣人の治める【ヘルハイム王国】と近いこともあって、獣人の比率が高い。

「よお、アメリア。昨日話したと思うが、この子が咲耶だ。冒険者登録を頼む。今のところ能力が無いからFランクだろうが、一応試験をお願いしたい」

ベイツさんが悪口を言っても、全然嫌味に聞こえないから不思議だ。多分、私のことを真剣に考えてくれているからこそ、今この場で言ってくれたんだと思う。

「わかりました。咲耶、私は受付担当のアメリアよ。まずは、この丸い魔道具に触れてちょうだい。祝福を受けている場合、必ずステータス、つまり自分の情報が横に配置されているプレートに表示されるわ」

これ、まるで水晶みたいだ。
その横にタブレット型のプレートがあるけど、連動しているのかな?
 
「は、はい」

この街に来て以降、私はベイツさんからステータスについても教わった。ルウリは私の情報をスキルで知ったようだけど、私自身がまだ見ていないので、教わった方法でステータスを開示しようとしたら、何故か見れなかった。ルウリによると、記憶喪失の影響で、魂が不安定になっているからだと言われたわ。いつ安定化するのかわからないとも言われていたから、今日まで一度もステータスを表示させていない。

もし、まだ不安定なのなら、このプレートに表示されない可能性もあるけど、せっかくだから挑戦してみよう。上手くいけば、自分の目で自分の情報を知る事ができる。私が恐る恐る水晶のような魔道具に触れると、少しだけ光り、プレートの方に文字が記載されていく。そこには…

《名前》   なし(仮名:咲耶) *記憶喪失のため不明
《性別》   女 
《年齢》   10歳
《レベル》  1
《属性》   不明
《スキル》  なし
《魔法》   なし
《魔力量》 不明
《従魔》   ルウリ(ハミングバード種)

何、これ? 表示されたのは嬉しいけど、《なし》と《不明》ばかりで、自分の強さと明言できるものが何もないわ。

せめて、RPGのような強さの基準となる数値でもあればいいのに。そういえば、アメリアさんはステータスのことを《強さ》ではなく、《情報》と言っていた。確かに、この内容であれば、自分の中にある情報と言えるかもしれない。それにルウリの表示がハミングバード種になってる。彼自身が何らかの方法で擬態していると言っていたから、それが反映されているんだ。

「あら~、祝福を受けているようだけど、記憶喪失の影響か、魔力自体が身体の奥底で休眠しているようね。ベイツさんから聞いていた通り、咲耶はスキルなし、魔法なしの無能者だけど、この表示ならまだ希望があるわよ」

《希望がある》、それを聞けただけでも嬉しい。

「規則である以上、あなたの力量をこれから模擬戦で測らせてもらうわね。冒険者ランクは、SS~Fまでの8つあるの。この登録試験の結果次第では、一人前と呼ばれるDランクからスタートできるわよ」

受付嬢のアメリアさんだけでなく、周囲にいる冒険者たちも、私のステータスを聞いても見下したりせず、皆が同情しているかのような優しげな視線を私に向け、微笑んでくれている。でも、これからやる試験の結果次第で、どう変化するかわからないから、全力で挑もう。

「は…はい!! アメリアさん、よろしくお願いします!!」

私は緊張しているせいか、直立不動で挨拶をしてしまう。

「試験官は私だから、そんなに緊張しないで」

私たちは建物の裏にある敷地へと移動すると、そこには訓練している冒険者が大勢いた。ここで試験をするんだ。

『咲耶、今だから言うけど、多分この試験で君の潜在する力の一部が少しだけ解放されると思う。それを、きちんと自覚してね』

今、それを言うのルウリ!!

『この世界に生まれた者は、必ず何らかの力が備わっている。《無能者》と判断された者は、君と同じ境遇に立たされた者たちだ。君の魂が身体に安定すれば、力も完全に目覚め、自分の力でステータスを見れるようになる。だから、頑張れ』

私と同じ境遇? 

よくわからないけど、私にも何らかの力が眠っているんだね。私は小声でルウリにお礼を言い、試験に全力で挑むことを誓う。ルウリはそのままベイツさんの肩まで飛んでいく。誰もいない区画に到着すると、アメリアさんは区画の端に置かれているカゴのもとへ向かい、そこから2本の木刀を取り、1本を私に渡してくれた。

剣術や走り込みをしてきたおかげで、この身体にも段々と慣れてきたから問題なく動けると思う。木刀に関しては、素振りと軽い打ち込みしかやって無いけど、握り方にも慣れてきた。

「さあ、やりましょうか。試験時間は10分よ。かかってきなさい!!」

試験が始まった。
今の私の力は素人同然の剣術だから、始めから全力でいく‼︎

「やあ‼︎」

凄い…どれだけ打ち込んでも、猫型獣人のアメリアさんは軽々と回避していく。1発も当たらないのは悔しいけど、凄く楽しい!!

「どうしたの? 剣速が鈍ってるわよ?」

え? あ、夢中になって次々と木刀を振り回していたら、いつの間にか自分の腕が重くなってきてる。

どうしよう……ペース配分を間違えた!!

「ほらほら、余所見は禁物よ」
「うわ!?」

危なかったあ~。気づけば、木刀が急に目の前にあったわ。
アメリアさんも攻撃してくるってことを忘れてた。

「なかなかの反応速度ね。ほらほら、もっと斬り込んでいくわよ」

アメリアさんの攻撃、始めは回避するだけで精一杯、漬け込む隙も全く見当たらなように感じたけど、よくよく観察していくと、ここなら攻撃が当たるかもしれないと思う箇所がチラホラと見えてきた。だから、私はベイツさんに教わったフェイント攻撃を仕掛けていき、隙となる箇所を攻撃していく。

すると、その箇所へ攻撃する時だけ、アメリアさんの反応速度が遅くなっていることに気づく。腕が鉛のように重くなってきてるけど、私は連続してフェイントを織り交ぜながら攻撃していく。

「甘い甘い、足元がお留守よ」
「あ!?」
 
私は足払いで転ばされてしまい、すぐに立ち上がろうとしたら、アメリアさんが私に留めの一撃となる横への薙ぎ払いを実行するところだった。その時、何故か彼女から繰り出される一撃が、どの角度でどの位置に当たるのか感覚的に察知できた。

だから、私は軽くジャンプして、その一撃の力を木刀でもらいながら、わざと後方へ下がり、すかさず上段攻撃を放とうとしたけど、アメリアさんが次の攻撃を仕掛けてくる寸前で、今の姿勢から回避できる術がなかった。せめて、痛みだけでも軽減させようと思い、咄嗟にお腹に力を込める。

次の瞬間、アメリアさんの右足が私のお腹に叩き込まれ、私はその衝撃で動けなくなった。

「うう」

痛い…痛いよ。
人から殴られたり蹴られたりすると、こんな衝撃が身体を襲うの? 
冒険者って、こんな攻撃を毎日受けているの?

「あ!? ごめんなさい、つい力が入ってしまったわね。大丈夫?」
「は…はい…咄嗟に攻撃される箇所に力を込めたので…なんとか立てます」
「え…」

これで試験終了?
私は合格できたのかな?
 
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