10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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1章 家族との別離(前世)

7話 飼い猫の抱える難題

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猫探しの依頼を受けた後、私はアメリアさんから誰を教育者に指名するか、選択を迫られる。Fランク冒険者は駆け出しのため、かなりの無茶をする人が結構いるらしい。そのため、冒険者登録後には必ずDランク以上の一人前と言われる冒険者から、自分を教育してくれる者を一人選び、その人から一ヶ月間手解きを受けないといけない。私は迷う事なく、Aランクのベイツさんを指名し、そのまま猫探しを実行するため、ルウリやベイツさんと共に、冒険者ギルドを出る。

「あの~ベイツさん、冒険者の皆さんが、なんだか落ち込んでいる様な暗い雰囲気を放っていたのですが?」

 思えば、教育者をベイツさんに指名した時から、皆がガクッと打ちひしがれていたような?

「あはははは、あいつらも咲耶の教育者になりたかったんだろう」
「ええ。私の!?」

 その言葉を聞いて、私は驚く。

 ベイツさんはAランクでソロだから、一ヶ月間くらいなら迷惑にならないかなと思ったのだけど、皆に悪いことしたのかな?

「久々に教えがいのある女の子を教育できると思い、皆も奮起していたのさ」

教えがいのある女の子? 
嬉しい、先輩方が試験での私の戦い方を認めてくれているんだ。
でも、気になる言葉を聞いたわ。

「久々って、新規で登録する人は、他にいますよね?」

「勿論、いるさ。咲耶のような新米冒険者の中にも、血気盛んな連中もいるが、彼らは先輩冒険者たちを一目置き、先輩たちの戦闘を日頃から観察して、自分の技術にしてやるという意気込みとやる気に満ち溢れている。問題は、貴族連中だ。大半が子供で、中途半端に強いせいもあって、自信過剰かつ平民を見下す礼儀知らずな奴らが多い。ここ最近、そう言った連中ばかりだったから、皆も辟易していたのさ」

「そうだったんですね」

貴族…か、どんな人たちなんだろう? 
依頼を受け続けていたら、いずれ私も出会うことがあるのかな? 
とりあえず、今は目の前の事に集中しよう。
まずは、街入口の警備員さんのところへ行かないとね。


……街の入口に到着すると、行列が既に出来ており、警備をしている騎士の方々も忙しそうに身体検査を行なっているわ。この検査を少しでも疎かにすると、犯罪者が入ってくる場合もあるから、騎士の人たちも大変だろうな。

「お仕事、ご苦労様です。冒険者カードができたので、滞在許可証を頂けないでしょうか?」

 私は行列が途切れるのを待ってから、初日に出会った警備の騎士に挨拶すると、彼は私のことを覚えてくれており、和やかな笑みを浮かべ、私の頭を撫でてくれた。

「冒険者を選んだのか。危険なこともあるから、Fランクと言っても油断したらダメだよ。はい、街の滞在許可証だ。無くさないようにね」

これが街の滞在許可証、私もこれで正式な街の住民となれたのね。

「はい!! ありがとうございます」

私は騎士さんにお礼を言い、ベイツさんとルウリと共に入口から離れていく。もう《猫探し》の依頼が始まっているせいか、2人は何も語らず、黙って私についてくる。

ここで2人に頼ったらダメ!! 
私1人で、どこまで出来るのか試されているのだから。

物は試しに、その辺の猫ちゃんに聞いてみよう。鳥の言葉がわかるのなら、猫の言葉だってわかるかもしれない。丁度、近くに1匹の野良猫ちゃんがいる。

「ねえねえ、上等な首輪に鈴を付けた猫ちゃんを知っているかな? こんな猫なの」

依頼書には猫の似顔絵も載っているから、私はしゃがんでそれを見せる。
う~ん、気まずい。
猫ちゃんが、私を凝視したまま何も言わない。

『驚いた。君を見ると、同族を見ているかのような不思議な感覚がする。君の言う猫なら知っているよ。この界隈を縄張りとするボスのミケーネさ。ボスは飼い猫だけど、毎回綺麗な音色を奏でる鈴の付いた首輪が嫌で、いつも脱走するんだ。君がボスと飼い主の仲介をしてくれれば、ボスの悩みや、あの問題だって解決してくれるかもしれない。僕に付いてきて、ボスのもとへ案内するよ』

嘘…鳥だけでなく、猫の言葉もわかるわ!?
しかも、脱走する理由もわかったし、どこにいるかもわかりそうだわ。
 
ただ、気になるのがボス・ミケーネの抱えるもう一つの問題、私一人で解決できるかな?


○○○


連れてこられたのは街入口の大通りから少し外れた場所、人通りも少ない。その分、猫たちにとっては居心地が良いのか、あちこちに屯している。

「ベイツさん、この街って、野良猫が多いんですね」

 私が彼を見ると、どういうわけか、驚いた顔をしており、周囲をキョロキョロと見回している。

「いや、俺も初めて知ったよ。猫や鳥との会話といい、咲耶と行動していると、この街の違った一面を見せられるな」

 ふえ、そうなの?
 あ、ここから先に、少し広い空き地がある。

『ボスはあそこにいるよ。今日も今日で、ずっとドラム缶の上で日向ごっこしているはずさ』

空き地に近づくと、ドラム缶の上に1匹の三毛猫がいて、その子が万歳している格好のまま仰向け状態で寝ている。このポーズって、余程安心していないと見せないものじゃなかったかな? 

あれ?
そういえば、依頼書に掲載されている首輪を付けてこそいるけど、鈴がないわ。

『お~いミケーネ~~、僕たちの言葉を理解してくれる人間の女の子を連れてきたよ~~』

ミケーネが目を開き、ゆっくりと起き上がると、背伸びをしてから私を凝視する。

『ふん、そんな人間がいるわけないでしょう。私の苦悩を解らせるため、これまでどれだけの人間に訴えてきたことか。あの鈴さえなければ、私だってご主人の元へ帰りたいわよ。あの人たちったら、どういうわけか必ず鈴の付いた首輪を必ず私に嵌めるのよね』

ミケーネって、メスなんだね。

猫は気まぐれで、犬と違って飼い主にあまりじゃれついてこない。偶に、家の何処に隠れているのかも解らない時があるから、一部の飼い主たちは飼い猫に鈴の付いた首輪を嵌めさせると雑誌で読んだことあるけど、あれって猫にとっては迷惑なんだよね。

「鈴の音色って高音だから、あなたたちにとってはかなり大きな騒音になるんじゃないの? 歩くたびに、耳元で大きな音をいつも奏でるのだから騒音以外にないでしょ?」

思ったことをそのまま口にすると、ミケーネだけでなく、周囲にいる10匹の猫たちもとても驚いた顔をして私を見てきた。

『にゃにゃにゃ!! そう!! そうなのよ!! 私はミケーネ、あなたは本当に私たち猫の言語がわかるのね!! あ、それなら私の抱えている問題について、何かアドバイスしてほしいんだけど?』

 飼い猫の抱える問題か、私でわかる範囲だといいけどな。

「私は咲耶だよ。それで、どんな問題なの?」

『この地域の中でも、この街の治安が一番いいのよ。それに、隣国と国境が近いこともあって、獣人の数も多く、居心地がとても良いの。その評判のせいで、最近猫の移民たちが増えてきてるの。この街は規模も大きい分、野良猫たちの食糧も豊富にあるんだけど、今後が問題なのよ。このまま移民猫が増え続けると、人に駆除されないかと心配でね。ねえ、人と猫が上手く共存できる案はないかしら?』

 猫側も、人間側と同じことを考えるんだ。
 何処の世界でも、そういった問題は起こるんだね。

「う~ん、増え過ぎた野良猫たちは、街によって殺処分される場合もあるけど、そのやり方に反対している人も多くて、最近だと数が増えないよう去勢させて、数を制御しているっていう話を聞くかな」

「去勢だって!?」

私の話に驚きの声を上げたのは猫ではなく、ベイツさんだった。

「さっきから猫の方は《にゃあにゃあ》としか言わないから話題についていけないんだが、流石に話の内容が気になる。咲耶、教えてくれないか?」

 彼にミケーネから言われた内容を話すと、私の言った内容に納得こそしているけど、顔色が悪い。どうやらベイツさんは、その言葉の意味を知っているようだけど、猫たちの方は反応から察するに知らないようだ。 

『去勢って何?』

え~、言わないといけないの?
ミケーネに問われたら、答えるしかないよね。
う~ん、ここはさっき知り合った雄の白猫さんに協力してもらおう。

「あのね、去勢というのは…」

私は白猫さんに協力を仰ぎ、仰向けになってもらった。そして、彼の玉を優しく掴み、手でしゅっぱと斬る行為をして、『これが去勢だよ』と言うと、猫たち全員が意味を察したのか、私から後退りする。気づけば、ルウリも私からベイツさんの肩へ乗り換えており、仰向け状態の白猫さんもブルブル震えていた。

あ、ずっと掴んだままだった!! 
離すと、彼は別の野良猫の後ろに隠れてしまった。

『なあ、あるよな? 俺の玉…あるよな?』
『ある、あるよ。咲耶は、斬るフリをしただけ』
『よ、よかった~~~』 

そういえば、去勢する時って麻酔で眠らせているから、猫自身は気づいてないかもしれない。

『それ、何処の街よ!! いくらなんでも酷すぎるわ!! そもそも、猫の数が多いというだけで、そんな行為をするのなら、猫より数の多い人間やエルフ、獣人たちを真っ先に去勢すべきよ!!』

ミケーネはベイツさんを睨む。
ベイツさんも察したようで、さっと自分の大切な部分を隠す。
去勢するって前もって言われたら、皆嫌がって当然だし、怒るに決まってるよね。
これは雰囲気的にまずい。

私の言った内容は、あくまで日本でのこと。この世界ではそんな事をしておらず、普通に街から追い出しているだけかもしれない。

「わ…私も話を偶々聞いただけで、何処の街かはわからないの。でも常識的に考えて、そんな事を本当に実行すれば猫も死んじゃうから、多分冗談で話し合ってただけだよ。実際、私も去勢された猫を見たことないから」

『そ…そうよね。私だって、見たことないわ。そんな残酷な行為、流石に誰もやらないわよね。私はメスだけど、流石にやりすぎだと思うもの。それじゃあ、咲耶自身はどうすればいいと思う?』

良かった、なんとか切り抜けられたわ。
私自身の考えか、う~ん……あ、あれならいけるかも!!

さっきまで震えていた10匹近くの猫たちが私に注目している。
全員が私ににじり寄って来るよ。
これは可愛いけど、ちょっと怖い。
ミケーネの飼い主さんが商人さんなら、アレを実現させられるかもしれない。

「人と猫を有意義な関係で共存させる具体案が一つだけあるわ。それはね……」

私が思い付いた案を語っていくと、ミケーネや周囲の猫たちが目を輝かせていき、ベイツさんもうんうんと感心している。

『それいい!! まさに、今のご主人様にうってつけの商売じゃないの!! 今すぐに、ご主人のところへ行くわよ‼︎ さあ、こっちよ、ついて来なさい!!』

え、即答で採用するの!? 

だって、私の言った案は1人でできるものじゃないし、経費だってかなりの金額になるのよ。ましてや、商売人のご主人が賛成してくれるかもわからないから、もっと吟味したほうがいいと思うのだけど?

他の猫たちも私の案に賛同してくれているし、ベイツさんも『ここからは、依頼人と相談しないと先に進まない』と言ってくれているから、このままの状態で進めてもいいのかな?

紙に、まとめてもいないから不安だよ。
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