10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます（リメイク版）

1章 家族との別離（前世）

8話 咲耶の閃き

う～、お父さん、お母さん、悠太、恥ずかしいよ。

今、私は人通りの多い道を、1匹の三毛猫ミケーネを抱き、10匹の猫を引き連れて依頼達成のため、依頼主となる商人さんの家へ向かっています。猫たちに囲まれているせいで、周囲から注目を浴びてしまい、全然落ち着きません。

こうなった原因は、私にあります。

ボス猫ミケーネの抱える《猫と人との共存関係》、私はこの悩みを解決させるかもしれない1つのアイデアを言いました。すると、ミケーネや周辺にいる猫たち全員が賛同し、みんなで依頼人の商人さんのところへ行く事になったの。

『飼い主の財力があれば、咲耶の言った案も必ず実現できるわ。これは傲慢な願いかもしれないけど、私は生活に苦しむ猫を少しでも無くしたいの』

ベイツさんに聞いたけど、ミケーネの飼い主でもあるアマンガム・ルミングスさんは、ルミングス商会の会頭で、平民には珍しい苗字付きの人だ。私の住むリバイブルド王国では、平民であっても国に大きな貢献を果たした者には、苗字が与えられる。そのの大きさ次第で、ある程度の権力を持てるため、貴族との面会も優遇されるみたい。

リリアムの街を拠点とするルミングス商会は隣国との交易の架け橋になったことで苗字付きとなったと聞いているけど、今からそんな大物と会い、私の企画を言わないといけないので緊張します。

「ミケーネ、私の企画が通るかわかんないよ？」
『必ず通るわ!! だって、ご主人は無類の猫好きだもの!!』

それだけで、商売が成り立つわけないじゃない。土地・建物・内装・猫用の食事・猫用玩具・人件費など、かなりの経費がかかるから、この世界で経営として成り立つのかが疑問だよ。

「咲耶、安心しろ。今、アマンガムさんは《ある悩み》を抱えている。君の考案した企画は、その悩みを完全払拭させる程のものだ」

ベイツさんから言われた事で、私の心は安心感で満たされていくけど……そのベイツさんはルウリと共に、私から5メートルくらい離れている。

「ベイツさんも、こっちに来てください。そこだと、少し遠いです」

彼は苦笑いを浮かべるだけで、決してこの中に入って来ようとしなかった。

「いや、遠慮しとく。ここからでも、猫たちの気迫が十分に伝わってくる。まあ、あと十分ほどで到着するから、それまでの辛抱だ」

みんな、依頼内容のことを忘れて、私の企画のことばかり考えてないかな？
お願いだから、早く家に到着して～～～。

○○○

商人さんの家…と言うより邸に到着した途端、警備の男性が私と猫ちゃんたちの数に度肝を抜かれたのか、しばらく言葉を発しなかった。私が依頼の猫ちゃんを捕まえたことを話すと、すぐにベイツさんと一緒に門を通され、屋敷の客室へと案内される。建物の外観といい、内装といい、シックな邸だよね。

ミケーネ以外の猫ちゃんたちは、餌を与えてくれる警備の人のもとで待ってもらっている。十分ほどしたところで、この屋敷の主人で依頼主が部屋へ入ってきた。どんな人かと思ったけど、40歳くらいの恰幅のいいおじさんだった。

「おお、これこれは可愛い冒険者さんだ。私はアマンガム、よろしく頼む」
「Fランク冒険者の咲耶と申します。こちらがアマンガムさんの飼い猫、ミケーネで間違いありませんか？」

私は立ち上がり、アマンガムさんにご挨拶をする。

「うん、間違いなくうちの猫だ。それで、追加事項の件に関してはわかったのかな？」

私は嘘偽りなく、ミケーネの鈴の音色に関する苦情を訴えた。

「そうか、鈴の音色は猫にとって騒音になるのか。良かれと思ってやった行為が、迷惑に繋がったのだな。脱走してからここへ戻ってくる際、鈴が必ず取れていたり、潰されていたりもしたが、あれは人からの嫌がらせではなく、自分自身で取っていたのか。今のミケーネの表情を見れば、それが真実だとわかる。ただ、こんな猫にしか知り得ない情報をどうやって知ったのかな？」

　ここは、正直に話した方が良いよね。

「あの…それは…私自身が、猫や鳥の言葉を理解できるからです」
「それは、スキルかい？」
「いえ、私は無能者です。でも、本当なんです。ミケーネから聞いたことを話しますね」

猫や鳥の言葉を理解できると聞いた時、アマンガムさんはとても驚いていた。普通に考えて、信じてくれる方がおかしいもの。だから、私は彼とミケーネでしか知りえない事、《へそくりの場所、隠し部屋（ミケーネの写真コレクション）、奥さんとの馴れ初めなど》を事細かに話していくと、彼は慌てて立ち上がり、私の口を軽く塞ぐ。

「もういいから、わかったから!! それ以上、私と妻の内情を話さないでくれ!! 君の話を、全面的に信頼しよう!!」

つい夢中になって、ここに来るまでの道中で言われたことを全部話してしまった。

「あ、すいません。ベイツさんは既に知っていますが、口は固いのでご安心を」

「彼は私の友でもあり、お得意様でもあるから安心してくれ。ベイツから子供を引き取ったと聞いてはいたが、まさか動物と話し合える女の子だとは……驚きに尽きる」

私自身も、それを知ったのはつい最近なんです。

「アマンガムさん、奥さんとの甘い生活に関しては、誰にも喋らないことを誓うよ。それと、あの土地について悩んでいるあなたに、吉報を持ってきた」

ここに来るまでに2人の関係性を聞いたけど、ベイツさんはアマンガムさんより歳下だけど、気さくに話し合える仲で、指名依頼を何度も受けるほど信頼されている。アマンガムさん自身も、さっき似たことを私に話してくれた。私もこの街で、年齢に関係なく気軽に話し合える友人を作りたい。

ベイツさんはAランク冒険者、この街を拠点に活動していると言っていたから、これだけ大きな邸に住むアマンガムさんと知り合っていても不思議じゃないけど、どうしてこの依頼を受けた時点で教えてくれなかったのかな？　

やっぱり、教育者である以上、私の力で依頼を完遂させないといけないから、あえて何も言わなかったのかな。それなら、今後も自分で行動して情報収集し、依頼をこなしていこう。
　
「ほう、その吉報とは？」

「それは、咲耶から聞いた方が良い。実に現実的な案で、彼女がいなければ、おそらく実現しないだろう。これは、猫好きのあなたたちご夫婦にとっても、夢のような企画さ」

ミケーネの求める猫と人との共存関係、私の企画を聞いて以降、ミケーネたちはそれを【楽園】と呼ぶようになった。

私の企画は、癒しの喫茶店【猫カフェ】を開店すること。

冒険者たちも街の中で働く皆さんも、日頃からストレスをいっぱい溜め込んでいる。そういったものを猫たちと過ごし、身体と精神を癒してもらうことがこの店の目的だ。店の中では、猫も好き放題行動できるし、猫たちの知らない未知なる玩具（キャットホイール、猫じゃらし、キャットウォークなど）を用意させれば、家の中での生活も早々飽きさせることもない。私が周辺に屯している猫たちを教育して、交代制で楽園に入れさせることができれば、そこでの食事も平等に振る舞われ、猫たちの環境も多少改善される。勿論、振る舞われる料理に関しては、猫用と人用に分ける。店での滞在時間も制限時間付きにして、人は食事をしながら猫と戯れていく。そして最後に、食事と制限時間付きの料金を支払ってもらう。

紙にまとめていない以上、私はわかりやすく猫カフェのシステムを話していくと、始めは私のことを訝しんでいたアマンガムさんも、今ではミケーネ同様、目を輝かせ、今言った内容をノートにメモしていく。

「素晴らしい!! これだ!! これなんだよ!! これこそが私の求めていたスタイルだ!! これで、あの土地に店を開店できるぞ!! 猫と人との楽園、そんな方法で商売とも共存できるとは思わなかった!! 咲耶ちゃん、ありがとう!!」

アマンガムさんが、私の両手を掴み、ぎゅっと優しく握ってきた。彼の目を見ても、私に感謝していることがわかる。でも、今言った内容を実行するには、相当な開店資金がいるはずなんだけど大丈夫なのかな？

『楽園よ～、ご主人、その土地に楽園を作ってよ～～咲耶がいれば、絶対いけるわ～～～』

「あははは、何を言っているのかわからんが、なんとなく理解できるぞ。ミケーネ、お前の望む楽園を作ってやるからな～～～」

飼い主だからか、たとえ言葉がわからなくても、アマンガムさんはミケーネの言っている事を理解しているわ。2人して抱き合い、喜んでいるもの。