10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

文字の大きさ
41 / 76
4章 ベイツの過去

38話 街外れに聳え立つ大樹

しおりを挟む
リバイブルド王国の北北西に位置する辺境都市リリアム、街の南東には霊峰と呼ばれるスムレット山がある。私たちは南門から入場しており、住んでいる場所も街の南側となる。私たちの目指す大樹は北西の街外れに位置しており、周辺には魔道蒸気列車の走る線路とリリアム駅があるので、南側と同じかそれ以上の活気がある。その駅から少し離れた場所に敷地面積の広い公園があり、現在時刻が午後3時、天気が快晴なら、この時間帯はピクニックを楽しむ人々で賑やかだったかもしれない。今の天気は大雨・暴風・雷となっていて、台風が上陸しているかのような嵐です。

「高価な雨具を購入しておいてよかったよ」
「本当だな。手足が多少冷たいが、これなら問題ない。ただ、風が強いせいで、歩きにくい。フリードはずるいぞ!! 1人だけ障壁を張って、雨を完全遮断しているだろ!!」

そう、これだけの嵐にも関わらず、フリードは全く濡れていないし、風の影響も受けていない。

「法術ですよ。こんな嵐の中を歩くのですから、使って当然でしょう。今後の勉強も兼ねて、あなたたちは自分で何とかしなさい」

うう、フリードが厳しい。

普段なら公園内の道沿いには、数多くの露店が設置されていると聞いているけど、この5日間ずっと大雨だから、今は店もないし、周囲には誰もいない。大雨のせいで地面もかなりぬかるんでいるし、転ばないよう注意して大樹のもとへいこう。

「見えてきたよ。あれが大樹だね」

まだ少し離れているけど、大樹自体がかなり大きいこともあって、ここからでも見える。嵐のせいで、かなり枝が揺れているけど、木そのものは悠然と佇んでいる。近づけば近づくほど、木の雄大さが私にも伝わってくる。

「ここからじゃあ全然わからないな。咲耶、フリード、目の前まで行ってみよう。この嵐の中で覚醒なんかしたら、気付くのが遅れてしまい、何の対処もできずに大惨事となるかもしれない」

外は暴風で、風の音が凄いわ。公園内で木が暴れたとしても、その音は掻き消されてしまう。あれだけ大きいと、スキル[原点回帰]を使えたとしても、巻き戻せる時間だって少ないはずだ。ここから見た限り、おかしな魔力だって感じないから、まだ覚醒していないんだ。今のうちに、地中にある箱を掘り出そう。そんな深くには、埋められていないはずだよ。

到着するまで少し時間もかかるから、今のうちに私の疑問を2人に言っておこう。

「フリード、ユウキ、疑問に思ったことがあるの」
「ほう、疑問ですか? それは何でしょう?」

多分、フリードもユウキも気づいているはずだ。

「私たちの依頼人、ミーシャさんとティリルだよ。この嵐の中を私たちの家までやって来たのに、全然濡れてないし、このエリアに来られないのなら、別に私たちに依頼する必要だってないわ。それと決定的なことがもう一つ、スキル[心通眼]が全く機能しない。これまで赤の他人であっても、私から感覚を寄せれば、ほんの少しだけでも相手の動きや心を読めるのよ。あの場では何も言わなかったけど、あの2人は何者なのかな?」

ユウキもフリードも目を見開き、私を凝視している。
そこまで驚くことかな。

【スキル[心通眼]が働かない】ということは、相手側が私に対して、意図的に心を閉ざしているということ、ミーシャさんだけでなく、私より歳下のティリルも心を閉ざしているのは、絶対におかしい。まるで、スキル[心通眼]のことを知っているかのような対処だよ。

「これは、これは。まさか、冒険者登録をして1ヶ月ほどの新米冒険者が、そこまでの観察力と洞察力を身につけるとは驚きですよ」

フリードに褒められているの?

「咲耶、あの場で何も言わなかったのは正解だ。ギルドを通して出されている依頼は、事前にギルド側で調査されているから、その依頼人も信用できる。だが、直接冒険者に依頼してくる者に関しては、それがどんな人物であろうとも、絶対に信用してはいけない。最悪、冒険者が依頼人自身に裏切られ殺される場合もある」

え、そうなの!?
ユウキの発言に、驚きを隠せない。
依頼人が冒険者を裏切る場合もありえるんだ。
それは、考えたこともなかった。

「あの親子も、何かの事情を抱えているのは間違いない。私のスキル[同調]も機能しなかったからな。ただ、人柄を見た限り、悪い人物ではなさそうだ」

あ、それはわかる。
あの時に見せた切実な懇願、あれは嘘と思えないもの。
ということは、相当な【何か】を抱えているのね。

「あなたたち、大樹に到着しましたよ。ここからは、気を引き締めなさい」

いつの間にか私たちの目の前に、大樹が聳え立っているわ。幹回りも10メートル以上あるし、樹高も30メートルくらいある。ここから見た限り、普通の木に見えるけど、ここに【瘴気】というものが絡んでしまったら、この大樹は本当に魔物化するの? 

とりあえず、何か感知できないか、スキル[心通眼]で大樹全体を観察しよう。私は、大樹にそっと触れる。

……やっぱり、このスキルは凄いわ。

私が大樹に触り、心を寄せようとしたら、中から細かく流れる音のようなものが聞こえてきた。もっと深く集中すると、根本から何かを吸収して、それを全体に行き渡らせているみたい。ただ、大樹の中心から少し外れた浅い位置に、何か大きな波動を感じる。私の感知したことのある魔力とは違う何か、何処か禍々しく感じるから、もしかしてこれが瘴気なの? 何故、あの一箇所に集中しているのか不明だけど、浅い位置にあるから、私たちだけで掘り出せるかもしれない。

もしかしたら、あれがミーシャさんの言っていた[箱]なのかな? まだ、大樹自身からは何の異常も見受けられないから、今のうちに掘り出して、依頼を達成させよう。

「地面がずるずるだな。このまま雨が降り続けたら、この大樹も倒れてしまうぞ。今でも、根っこが……ヒ!!」

「ユウキ、突然変な声を出してどうしたの?」

「いや……今根っこが動いたような気がして」

根っこが動く?
もしかして、崩れる直前?
あ、私もジッと根っこを見ていたら、確かに動いたわ。
でも、動き方が何処かおかしい。
崩れる前兆とかじゃなくて、明確な意志を思って動いたように見えた。

「これは不味いですね。瘴気が脈動し始め、大樹内に流れています。どうやら、最悪な事態が起こるようです」

フリードがそう言った瞬間、地面が揺れ動く。私も観察したら、地中の浅い位置にあった波動が、大樹内に流れ込んでいる。やっぱり、あれが瘴気なんだね。

最悪の事態、大樹が今まさに魔物化しようとしているんだ!!

「ギ…ギ…ギ~~~~~ギギギギギ~~~~~『あ…あ…あ~~~~~、もう許せね~~~~~~』」

今の声って…まさか大樹!?

「まずいぞ!! 咲耶、一旦、ここから引くぞ!!」
「え…ちょ…ユウキ!!」

ユウキが私の右手を握り、大樹から離れていこうとした瞬間、大樹側から不可視の重たい何かが私たちに降り注いだ。何故か身体が重くなり、私もユウキも地面に崩れ落ち動けなくなってしまった。

「ギギギギギギギギギ~~~~」

「く、これは叫びによるスキル[威圧]だ。やはり、大樹は脅威度Bのエルダートレントに変化しようとしている」

「これは、まずいですね。今、この場で討伐しないと、大惨事になりますよ」

大樹が根元の根っこを全てバキバキと地面へと露出させていく。
樹高の真ん中付近に、赤黒い二つの目が発生して、その下に大きな口がガパッと開いていく。

「ギギギギギギギギギ~~~~~~~」

大樹が、街全土に轟くほどの雄叫びをあげる。私は雄叫びをあげる意味を理解すると、何故かさっきまで動けなかった身体が弛緩していく。

「くそ、なんて雄叫びと威圧だ。身体を動かせない。距離も近すぎるし、このままじゃ殺されてしまう」

ユウキ自身、威圧に当てられているせいか、身体全体を震わせているわ。
相当な魔力を込めた雄叫びによる威圧なんだ。

「目覚めたばかりで、この魔力量ですか。樹齢が、1000年を超えているだけありますね。ところで咲耶、あなたさっきから平然としていますが、心身に負担はないのですか?」

「え…あ、うん、大丈夫だよ。身体も普通に動かせる」

フリード、心配してくれるのはありがたいのだけど、全然怖くないの。確かに凄い雄叫びではあるけども、大樹の言葉を理解できるせいか、不思議と恐怖を感じることはない。街中に轟くほどの雄叫び、その怨嗟を理解すると、そこまで叫びたくなる気持ちもわかるので、私はむしろあの大樹に同情してしまう。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

処理中です...