10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

文字の大きさ
42 / 76
4章 ベイツの過去

39話 これって愚痴では?

しおりを挟む
『お前ら~~昔と違って、我のことを全然敬ってないだろ~~~。技術革新が起きてからの100年、ここに来る連中全員が[観光]や[デートスポット]で訪れるだけで、誰1人御礼を言う者がいないじゃないか~~~。1200年間街を見守っている樹に対して失礼だろうが~~』

みんなには、「ギギギギギギ~~」と不気味に聞こえるけど、私には普通に理解できるせいで、拍子抜けしてしまう。

『貴様らは我を敬わないくせに、勝手に願い事を言うだけ言って、叶った連中全員が誰1人お礼参りに来ない‼︎ 叶わなかったら叶わなかったで、鬱憤ばらしでわざわざ来て、俺を殴るな~~。不満を漏らすな~~~~。俺はただの樹だぞ~~~~。貴様らの願いなんて叶えられるわけないだろうが~~~。我に出来るのは、周辺地域の天候を制御できるくらいなんだぞ~~~~』

現在、大樹は木の言語で、日頃抱えていた鬱憤を吐きまくっています。その鬱憤が根っこに集約されているのか、さっきから無数の根っこで地面を叩きまくっているせいで、地面が結構揺れている。間近にいる私とユウキも巻き込まれると思ったけど、フリードが法術で障壁を張ってくれているので、私たちの周囲2メートルの空間だけが根からの攻撃を受けていない。

「ユウキ、スキル[同調]を使って。そうすれば、威圧から解放されるから」

木の言語を理解できれば、大樹に同情して、威圧の効果も薄まるはずだ。

「この雄叫びが…続く…以上…使う余裕が…ない。なんで…咲耶だけ効果ないんだ?」

だって、あの鬱憤を100%完璧に理解できるから、威圧されても全然怖くないんだよ。あれって、ただの愚痴だもん。

『ここの責任者を出せ~~~。この際だから、冒険者ギルドのギルドマスターでも構わん。確か、今の名前はガロードだったはずだ~~~~。街の住民全員に、言いたことがある~~~』

「あの大樹、相当な鬱憤を抱えているようですね」

フリードが大樹の方を見て、ぼそっと呟いたわ。

「フリード、鳥の言語だけでなく、木の言語も理解できるの?」

ルウリとフリードは友人同士だから、互いの言語で話し合えるのも理解できるけど、木と話し合う機会って、早々ないよ?

「生まれてから350年、世界中を渡り歩いていますから、様々な言語を習得しています。その中に、木の言語も含まれているのですよ」

ルウリは高位精霊だから、あらゆる言語を理解できると聞いているけど、魔物のフリードは独学で多言語を話せるようになった努力家さんなんだ。フリードと協力して、大樹様と話し合えることはできないだろうか?

「フリード、分身体に連絡してくれない?」

これだけ大暴れしている以上、ガロードさんに来てもらうのが得策だけど、いつまでも暴れ続けていたら、嵐であっても、住民たちもいずれ気づいてしまい、大騒動へと発展してしまう。

私とフリードが大樹と話し合い、少しでも時間稼ぎをしておきたい。

「咲耶、何か考えがあるようですね」
「このまま放置させると、被害が駅にまで広がってしまうわ。ガロードさんが来るまで、私が大樹様と話し合う」

フリードは大樹を見て、溜息を吐く。

「仕方ありませんね。今、分身体に伝えましたから、ガロードが来るまでの時間稼ぎをあなたにお願いしましょう。というか、この場で大樹に立ち向かえるのは私たちしかいないようですし」

大樹は街全土を見ているのか、真下にいる私たちに気づいていない。

「ねえフリード、動物や植物、どんな生物であれ、瘴気に長期間晒されてしまうと、魔物化してしまうんだよね? 魔物化したばかりの者は、瘴気の影響で理性を失っていて、狂気に支配されやすいとベイツさんから教わったわ。でも、あれってただの愚痴を大声で怒鳴っているだけであって、理性はあるよね?」

もし、自分自身を見失っていないのなら、私のスキルで話し合えるから、なんとか話し合いで解決したい。

「この世界の木々は、樹齢1000年を超えると精霊に進化します。1200年という時を生きているからこそ、知能も高く、自制心も強い。瘴気の影響で魔物化こそしていますが、正反対の力を持つ精霊の力が、魔物化の影響を最小限に抑えているのでしょう。ずっと観察していましたが、咲耶の言う通り、あの大樹は愚痴を周囲に当たり散らしているだけですね」

ということは、あの大樹の抱えるストレスを解消させ、魔物化した要因となる物体を取り除けば、元の姿に戻れるかもしれない。

「わかった、それなら話し合いは可能だね。大樹様~~~~~」

大樹様に気づいてもらうため、私は大声で叫んだのだけど、頭に血が上っているせいか、全然気づいてもらえない。

「大音響のせいで気づかないようですね。咲耶、どうします?」

この位置って、大樹様から死角になるよね。
それなら、こうするだけだよ!!

私は大樹の幹に触れ、心で語りかける。

『大樹様、大樹様、私の声が聞こえますか?』

私の心の声が届いたのか、暴れ狂う根っこがピタッと動きを止める。

『うん、この声は?』
『私たちは、あなたの真下にいます。今から動きますので、どうか根っこを動かさないでください』
『よかろう、お前に私の話を聞いてもらおう。そこから我の見える位置に動くがいい。それと、嵐が煩い。止めるから、ちょっと待て』

やっぱり、大樹様は理性を強く保っているわ。
これなら話し合いができる。
しばらくすると、嵐が収まり、雲の切れめから青空が見え、光が差し込んできた。さっきまでの大音量が嘘みたいに静まっている。本当に、この地域一帯の天候を操作できるんだ。

「大樹様、私は咲耶と言います!!」

大樹様の見える位置に移動して喋ったけど、聞こえているかな? 目覚めた当初よりも落ち着いているけど、まだ周囲の空気が重い。スキル[威圧]が解かれていないんだ。その証拠に、ユウキがまだ震えているもの。

まずは、大樹様に落ち着きを取り戻してもらおう。

『元気な女の子だな。そこの震えている子供と違い、其方は我の言葉を理解しているようだ。ならば、話は早い。領主か冒険者ギルドのギルドマスターを呼んでこい。ここで生まれてから、街の情報は周囲の木々を通じて、全て知っているぞ。領主とギルドマスターのガロードであれば、我の不平不満を理解してくれるはずだ』

私はどちらにも会ったことないけど、ベイツさんから人柄だけは聞いている。領主のアルバス・オルバイン様は、物腰柔らかな50歳くらい白髪混じりの男性らしく、曲がったことは許さない性格で、不正があった場合は、どんな相手であろうとも、容赦なく断罪する。《辺境伯》という爵位を持っているから、大抵の貴族は、その身分を聞いただけで怖気付くみたい。

冒険者ギルドのギルドマスターさんは五十歳くらいだけど、その地位に相応しいほどの強さとカリスマ性を持っており、やや粗野な一面もあるけど、人間味に溢れた優しい人物らしい。

そんな人物であれば、大樹の不平不満を聞いてくれると思うけど、それ以前に互いの言語が異なるから、コミニュケーションそのものが成立しない。私は、必死に2人の人間性とコミニュケーシンの欠如を説明し、互いに会話できるための橋渡し役として、自分自身を志願した。

『コミニュケーションが出来ぬ以上、橋渡しが必要か。よかろう、咲耶にその役目を担ってもらおう』

そこから、私は少しだけ大樹様とお話しした。怒りが静まってから時間も経過していないこともあり、かなり早口で語られたけど、何とか聞き取れた。

街一帯に生えている木々たちとは、スキル[念話]で互いに話し合えていた。この力で他の種族にコミニュケーションを図ろうとしたこともあるようだけど、交信する際の言語が【木】となってしまうので、相手は薄気味悪がって、すぐに通信を断絶してしまう。私のように、木とお話しできる人は、非常に少ないみたい。

「ガロードさんも、もうすぐここに駆けつけてくれるので、その間はここで私とここにいる猫又のフリードと話し合いをしましょう」

『話し合い……そうだな、よかろ……うん? うん?』

突然、どうしたのだろう?
大樹様は首を傾げているかのように、木全体を横に少し揺らす。

『今更だが、私は人間族の咲耶と話し合っているよな?』
「はい、そうですね」
『コミニュケーションも成立しているよな?』
「はい、成立していますね」

10分程度だけど、きちんと話し合っていたよ?
今更、何を言っているのだろう?

『私は……今……人と会話をしているのか。ついさっきまで、怒りで我を忘れかけていたが……人と話し合えるのは……そうだ、85年ぶりだ』

85年ぶり!?

『そうだ…85年ぶりの人との会話だ。私は、ずっと木以外の者たちとの会話を求めていた。冷静になれたことで、自分の危うい状況を深く理解した。木の言語を理解する人間と魔物は久しぶりだから、ゆっくり話し合おう』

あ、挙動不審さが消えたし、周囲の空気も軽くなった。
スキル[威圧]が解除されたんだ。
これなら、ユウキも話し合いに参加できる。

大樹様が、冷静になってくれて良かった……と安心したのがいけなかったのか、そこから大樹様のマシンガン愚痴トークが始まった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!

白夢
ファンタジー
 何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。  そう言われて、異世界に転生することになった。  でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。  どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。  だからわたしは旅に出た。  これは一人の幼女と小さな幻獣の、  世界なんて救わないつもりの放浪記。 〜〜〜  ご訪問ありがとうございます。    可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。    ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。  お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします! 23/01/08 表紙画像を変更しました

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

【一秒クッキング】追放された転生人は最強スキルより食にしか興味がないようです~元婚約者と子犬と獣人族母娘との旅~

御峰。
ファンタジー
転生を果たした主人公ノアは剣士家系の子爵家三男として生まれる。 十歳に開花するはずの才能だが、ノアは生まれてすぐに才能【アプリ】を開花していた。 剣士家系の家に嫌気がさしていた主人公は、剣士系のアプリではなく【一秒クッキング】をインストールし、好きな食べ物を食べ歩くと決意する。 十歳に才能なしと判断され婚約破棄されたが、元婚約者セレナも才能【暴食】を開花させて、実家から煙たがれるようになった。 紆余曲折から二人は再び出会い、休息日を一緒に過ごすようになる。 十二歳になり成人となったノアは晴れて(?)実家から追放され家を出ることになった。 自由の身となったノアと家出元婚約者セレナと可愛らしい子犬は世界を歩き回りながら、美味しいご飯を食べまくる旅を始める。 その旅はやがて色んな国の色んな事件に巻き込まれるのだが、この物語はまだ始まったばかりだ。 ※ファンタジーカップ用に書き下ろし作品となります。アルファポリス優先投稿となっております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

処理中です...