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4章 ベイツの過去
39話 これって愚痴では?
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『お前ら~~昔と違って、我のことを全然敬ってないだろ~~~。技術革新が起きてからの100年、ここに来る連中全員が[観光]や[デートスポット]で訪れるだけで、誰1人御礼を言う者がいないじゃないか~~~。1200年間街を見守っている樹に対して失礼だろうが~~』
みんなには、「ギギギギギギ~~」と不気味に聞こえるけど、私には普通に理解できるせいで、拍子抜けしてしまう。
『貴様らは我を敬わないくせに、勝手に願い事を言うだけ言って、叶った連中全員が誰1人お礼参りに来ない‼︎ 叶わなかったら叶わなかったで、鬱憤ばらしでわざわざ来て、俺を殴るな~~。不満を漏らすな~~~~。俺はただの樹だぞ~~~~。貴様らの願いなんて叶えられるわけないだろうが~~~。我に出来るのは、周辺地域の天候を制御できるくらいなんだぞ~~~~』
現在、大樹は木の言語で、日頃抱えていた鬱憤を吐きまくっています。その鬱憤が根っこに集約されているのか、さっきから無数の根っこで地面を叩きまくっているせいで、地面が結構揺れている。間近にいる私とユウキも巻き込まれると思ったけど、フリードが法術で障壁を張ってくれているので、私たちの周囲2メートルの空間だけが根からの攻撃を受けていない。
「ユウキ、スキル[同調]を使って。そうすれば、威圧から解放されるから」
木の言語を理解できれば、大樹に同情して、威圧の効果も薄まるはずだ。
「この雄叫びが…続く…以上…使う余裕が…ない。なんで…咲耶だけ効果ないんだ?」
だって、あの鬱憤を100%完璧に理解できるから、威圧されても全然怖くないんだよ。あれって、ただの愚痴だもん。
『ここの責任者を出せ~~~。この際だから、冒険者ギルドのギルドマスターでも構わん。確か、今の名前はガロードだったはずだ~~~~。街の住民全員に、言いたことがある~~~』
「あの大樹、相当な鬱憤を抱えているようですね」
フリードが大樹の方を見て、ぼそっと呟いたわ。
「フリード、鳥の言語だけでなく、木の言語も理解できるの?」
ルウリとフリードは友人同士だから、互いの言語で話し合えるのも理解できるけど、木と話し合う機会って、早々ないよ?
「生まれてから350年、世界中を渡り歩いていますから、様々な言語を習得しています。その中に、木の言語も含まれているのですよ」
ルウリは高位精霊だから、あらゆる言語を理解できると聞いているけど、魔物のフリードは独学で多言語を話せるようになった努力家さんなんだ。フリードと協力して、大樹様と話し合えることはできないだろうか?
「フリード、分身体に連絡してくれない?」
これだけ大暴れしている以上、ガロードさんに来てもらうのが得策だけど、いつまでも暴れ続けていたら、嵐であっても、住民たちもいずれ気づいてしまい、大騒動へと発展してしまう。
私とフリードが大樹と話し合い、少しでも時間稼ぎをしておきたい。
「咲耶、何か考えがあるようですね」
「このまま放置させると、被害が駅にまで広がってしまうわ。ガロードさんが来るまで、私が大樹様と話し合う」
フリードは大樹を見て、溜息を吐く。
「仕方ありませんね。今、分身体に伝えましたから、ガロードが来るまでの時間稼ぎをあなたにお願いしましょう。というか、この場で大樹に立ち向かえるのは私たちしかいないようですし」
大樹は街全土を見ているのか、真下にいる私たちに気づいていない。
「ねえフリード、動物や植物、どんな生物であれ、瘴気に長期間晒されてしまうと、魔物化してしまうんだよね? 魔物化したばかりの者は、瘴気の影響で理性を失っていて、狂気に支配されやすいとベイツさんから教わったわ。でも、あれってただの愚痴を大声で怒鳴っているだけであって、理性はあるよね?」
もし、自分自身を見失っていないのなら、私のスキルで話し合えるから、なんとか話し合いで解決したい。
「この世界の木々は、樹齢1000年を超えると精霊に進化します。1200年という時を生きているからこそ、知能も高く、自制心も強い。瘴気の影響で魔物化こそしていますが、正反対の力を持つ精霊の力が、魔物化の影響を最小限に抑えているのでしょう。ずっと観察していましたが、咲耶の言う通り、あの大樹は愚痴を周囲に当たり散らしているだけですね」
ということは、あの大樹の抱えるストレスを解消させ、魔物化した要因となる物体を取り除けば、元の姿に戻れるかもしれない。
「わかった、それなら話し合いは可能だね。大樹様~~~~~」
大樹様に気づいてもらうため、私は大声で叫んだのだけど、頭に血が上っているせいか、全然気づいてもらえない。
「大音響のせいで気づかないようですね。咲耶、どうします?」
この位置って、大樹様から死角になるよね。
それなら、こうするだけだよ!!
私は大樹の幹に触れ、心で語りかける。
『大樹様、大樹様、私の声が聞こえますか?』
私の心の声が届いたのか、暴れ狂う根っこがピタッと動きを止める。
『うん、この声は?』
『私たちは、あなたの真下にいます。今から動きますので、どうか根っこを動かさないでください』
『よかろう、お前に私の話を聞いてもらおう。そこから我の見える位置に動くがいい。それと、嵐が煩い。止めるから、ちょっと待て』
やっぱり、大樹様は理性を強く保っているわ。
これなら話し合いができる。
しばらくすると、嵐が収まり、雲の切れめから青空が見え、光が差し込んできた。さっきまでの大音量が嘘みたいに静まっている。本当に、この地域一帯の天候を操作できるんだ。
「大樹様、私は咲耶と言います!!」
大樹様の見える位置に移動して喋ったけど、聞こえているかな? 目覚めた当初よりも落ち着いているけど、まだ周囲の空気が重い。スキル[威圧]が解かれていないんだ。その証拠に、ユウキがまだ震えているもの。
まずは、大樹様に落ち着きを取り戻してもらおう。
『元気な女の子だな。そこの震えている子供と違い、其方は我の言葉を理解しているようだ。ならば、話は早い。領主か冒険者ギルドのギルドマスターを呼んでこい。ここで生まれてから、街の情報は周囲の木々を通じて、全て知っているぞ。領主とギルドマスターのガロードであれば、我の不平不満を理解してくれるはずだ』
私はどちらにも会ったことないけど、ベイツさんから人柄だけは聞いている。領主のアルバス・オルバイン様は、物腰柔らかな50歳くらい白髪混じりの男性らしく、曲がったことは許さない性格で、不正があった場合は、どんな相手であろうとも、容赦なく断罪する。《辺境伯》という爵位を持っているから、大抵の貴族は、その身分を聞いただけで怖気付くみたい。
冒険者ギルドのギルドマスターさんは五十歳くらいだけど、その地位に相応しいほどの強さとカリスマ性を持っており、やや粗野な一面もあるけど、人間味に溢れた優しい人物らしい。
そんな人物であれば、大樹の不平不満を聞いてくれると思うけど、それ以前に互いの言語が異なるから、コミニュケーションそのものが成立しない。私は、必死に2人の人間性とコミニュケーシンの欠如を説明し、互いに会話できるための橋渡し役として、自分自身を志願した。
『コミニュケーションが出来ぬ以上、橋渡しが必要か。よかろう、咲耶にその役目を担ってもらおう』
そこから、私は少しだけ大樹様とお話しした。怒りが静まってから時間も経過していないこともあり、かなり早口で語られたけど、何とか聞き取れた。
街一帯に生えている木々たちとは、スキル[念話]で互いに話し合えていた。この力で他の種族にコミニュケーションを図ろうとしたこともあるようだけど、交信する際の言語が【木】となってしまうので、相手は薄気味悪がって、すぐに通信を断絶してしまう。私のように、木とお話しできる人は、非常に少ないみたい。
「ガロードさんも、もうすぐここに駆けつけてくれるので、その間はここで私とここにいる猫又のフリードと話し合いをしましょう」
『話し合い……そうだな、よかろ……うん? うん?』
突然、どうしたのだろう?
大樹様は首を傾げているかのように、木全体を横に少し揺らす。
『今更だが、私は人間族の咲耶と話し合っているよな?』
「はい、そうですね」
『コミニュケーションも成立しているよな?』
「はい、成立していますね」
10分程度だけど、きちんと話し合っていたよ?
今更、何を言っているのだろう?
『私は……今……人と会話をしているのか。ついさっきまで、怒りで我を忘れかけていたが……人と話し合えるのは……そうだ、85年ぶりだ』
85年ぶり!?
『そうだ…85年ぶりの人との会話だ。私は、ずっと木以外の者たちとの会話を求めていた。冷静になれたことで、自分の危うい状況を深く理解した。木の言語を理解する人間と魔物は久しぶりだから、ゆっくり話し合おう』
あ、挙動不審さが消えたし、周囲の空気も軽くなった。
スキル[威圧]が解除されたんだ。
これなら、ユウキも話し合いに参加できる。
大樹様が、冷静になってくれて良かった……と安心したのがいけなかったのか、そこから大樹様のマシンガン愚痴トークが始まった。
みんなには、「ギギギギギギ~~」と不気味に聞こえるけど、私には普通に理解できるせいで、拍子抜けしてしまう。
『貴様らは我を敬わないくせに、勝手に願い事を言うだけ言って、叶った連中全員が誰1人お礼参りに来ない‼︎ 叶わなかったら叶わなかったで、鬱憤ばらしでわざわざ来て、俺を殴るな~~。不満を漏らすな~~~~。俺はただの樹だぞ~~~~。貴様らの願いなんて叶えられるわけないだろうが~~~。我に出来るのは、周辺地域の天候を制御できるくらいなんだぞ~~~~』
現在、大樹は木の言語で、日頃抱えていた鬱憤を吐きまくっています。その鬱憤が根っこに集約されているのか、さっきから無数の根っこで地面を叩きまくっているせいで、地面が結構揺れている。間近にいる私とユウキも巻き込まれると思ったけど、フリードが法術で障壁を張ってくれているので、私たちの周囲2メートルの空間だけが根からの攻撃を受けていない。
「ユウキ、スキル[同調]を使って。そうすれば、威圧から解放されるから」
木の言語を理解できれば、大樹に同情して、威圧の効果も薄まるはずだ。
「この雄叫びが…続く…以上…使う余裕が…ない。なんで…咲耶だけ効果ないんだ?」
だって、あの鬱憤を100%完璧に理解できるから、威圧されても全然怖くないんだよ。あれって、ただの愚痴だもん。
『ここの責任者を出せ~~~。この際だから、冒険者ギルドのギルドマスターでも構わん。確か、今の名前はガロードだったはずだ~~~~。街の住民全員に、言いたことがある~~~』
「あの大樹、相当な鬱憤を抱えているようですね」
フリードが大樹の方を見て、ぼそっと呟いたわ。
「フリード、鳥の言語だけでなく、木の言語も理解できるの?」
ルウリとフリードは友人同士だから、互いの言語で話し合えるのも理解できるけど、木と話し合う機会って、早々ないよ?
「生まれてから350年、世界中を渡り歩いていますから、様々な言語を習得しています。その中に、木の言語も含まれているのですよ」
ルウリは高位精霊だから、あらゆる言語を理解できると聞いているけど、魔物のフリードは独学で多言語を話せるようになった努力家さんなんだ。フリードと協力して、大樹様と話し合えることはできないだろうか?
「フリード、分身体に連絡してくれない?」
これだけ大暴れしている以上、ガロードさんに来てもらうのが得策だけど、いつまでも暴れ続けていたら、嵐であっても、住民たちもいずれ気づいてしまい、大騒動へと発展してしまう。
私とフリードが大樹と話し合い、少しでも時間稼ぎをしておきたい。
「咲耶、何か考えがあるようですね」
「このまま放置させると、被害が駅にまで広がってしまうわ。ガロードさんが来るまで、私が大樹様と話し合う」
フリードは大樹を見て、溜息を吐く。
「仕方ありませんね。今、分身体に伝えましたから、ガロードが来るまでの時間稼ぎをあなたにお願いしましょう。というか、この場で大樹に立ち向かえるのは私たちしかいないようですし」
大樹は街全土を見ているのか、真下にいる私たちに気づいていない。
「ねえフリード、動物や植物、どんな生物であれ、瘴気に長期間晒されてしまうと、魔物化してしまうんだよね? 魔物化したばかりの者は、瘴気の影響で理性を失っていて、狂気に支配されやすいとベイツさんから教わったわ。でも、あれってただの愚痴を大声で怒鳴っているだけであって、理性はあるよね?」
もし、自分自身を見失っていないのなら、私のスキルで話し合えるから、なんとか話し合いで解決したい。
「この世界の木々は、樹齢1000年を超えると精霊に進化します。1200年という時を生きているからこそ、知能も高く、自制心も強い。瘴気の影響で魔物化こそしていますが、正反対の力を持つ精霊の力が、魔物化の影響を最小限に抑えているのでしょう。ずっと観察していましたが、咲耶の言う通り、あの大樹は愚痴を周囲に当たり散らしているだけですね」
ということは、あの大樹の抱えるストレスを解消させ、魔物化した要因となる物体を取り除けば、元の姿に戻れるかもしれない。
「わかった、それなら話し合いは可能だね。大樹様~~~~~」
大樹様に気づいてもらうため、私は大声で叫んだのだけど、頭に血が上っているせいか、全然気づいてもらえない。
「大音響のせいで気づかないようですね。咲耶、どうします?」
この位置って、大樹様から死角になるよね。
それなら、こうするだけだよ!!
私は大樹の幹に触れ、心で語りかける。
『大樹様、大樹様、私の声が聞こえますか?』
私の心の声が届いたのか、暴れ狂う根っこがピタッと動きを止める。
『うん、この声は?』
『私たちは、あなたの真下にいます。今から動きますので、どうか根っこを動かさないでください』
『よかろう、お前に私の話を聞いてもらおう。そこから我の見える位置に動くがいい。それと、嵐が煩い。止めるから、ちょっと待て』
やっぱり、大樹様は理性を強く保っているわ。
これなら話し合いができる。
しばらくすると、嵐が収まり、雲の切れめから青空が見え、光が差し込んできた。さっきまでの大音量が嘘みたいに静まっている。本当に、この地域一帯の天候を操作できるんだ。
「大樹様、私は咲耶と言います!!」
大樹様の見える位置に移動して喋ったけど、聞こえているかな? 目覚めた当初よりも落ち着いているけど、まだ周囲の空気が重い。スキル[威圧]が解かれていないんだ。その証拠に、ユウキがまだ震えているもの。
まずは、大樹様に落ち着きを取り戻してもらおう。
『元気な女の子だな。そこの震えている子供と違い、其方は我の言葉を理解しているようだ。ならば、話は早い。領主か冒険者ギルドのギルドマスターを呼んでこい。ここで生まれてから、街の情報は周囲の木々を通じて、全て知っているぞ。領主とギルドマスターのガロードであれば、我の不平不満を理解してくれるはずだ』
私はどちらにも会ったことないけど、ベイツさんから人柄だけは聞いている。領主のアルバス・オルバイン様は、物腰柔らかな50歳くらい白髪混じりの男性らしく、曲がったことは許さない性格で、不正があった場合は、どんな相手であろうとも、容赦なく断罪する。《辺境伯》という爵位を持っているから、大抵の貴族は、その身分を聞いただけで怖気付くみたい。
冒険者ギルドのギルドマスターさんは五十歳くらいだけど、その地位に相応しいほどの強さとカリスマ性を持っており、やや粗野な一面もあるけど、人間味に溢れた優しい人物らしい。
そんな人物であれば、大樹の不平不満を聞いてくれると思うけど、それ以前に互いの言語が異なるから、コミニュケーションそのものが成立しない。私は、必死に2人の人間性とコミニュケーシンの欠如を説明し、互いに会話できるための橋渡し役として、自分自身を志願した。
『コミニュケーションが出来ぬ以上、橋渡しが必要か。よかろう、咲耶にその役目を担ってもらおう』
そこから、私は少しだけ大樹様とお話しした。怒りが静まってから時間も経過していないこともあり、かなり早口で語られたけど、何とか聞き取れた。
街一帯に生えている木々たちとは、スキル[念話]で互いに話し合えていた。この力で他の種族にコミニュケーションを図ろうとしたこともあるようだけど、交信する際の言語が【木】となってしまうので、相手は薄気味悪がって、すぐに通信を断絶してしまう。私のように、木とお話しできる人は、非常に少ないみたい。
「ガロードさんも、もうすぐここに駆けつけてくれるので、その間はここで私とここにいる猫又のフリードと話し合いをしましょう」
『話し合い……そうだな、よかろ……うん? うん?』
突然、どうしたのだろう?
大樹様は首を傾げているかのように、木全体を横に少し揺らす。
『今更だが、私は人間族の咲耶と話し合っているよな?』
「はい、そうですね」
『コミニュケーションも成立しているよな?』
「はい、成立していますね」
10分程度だけど、きちんと話し合っていたよ?
今更、何を言っているのだろう?
『私は……今……人と会話をしているのか。ついさっきまで、怒りで我を忘れかけていたが……人と話し合えるのは……そうだ、85年ぶりだ』
85年ぶり!?
『そうだ…85年ぶりの人との会話だ。私は、ずっと木以外の者たちとの会話を求めていた。冷静になれたことで、自分の危うい状況を深く理解した。木の言語を理解する人間と魔物は久しぶりだから、ゆっくり話し合おう』
あ、挙動不審さが消えたし、周囲の空気も軽くなった。
スキル[威圧]が解除されたんだ。
これなら、ユウキも話し合いに参加できる。
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