10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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5章 猫の恩返し

60話 ミケーネは街の救世主のようです

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ミケーネから、テンタクルズオクトパスのヌメリ除去の方法を教わったのだけど、私たちでは絶対に思いつかないような方法だった。アレスによると、これまでの人々は何らかの物質を投入したり、剣術スキルでヌメリだけを斬ろうとしたり、空間魔法[収納]に入れて、亜空間内で分離できるかを試したりと色々と創意工夫をしていたようだけど、未だかつてミケーネの[超高速回転]でヌメリ除去を試みた人は誰もいないみたい。

ヌメリは肉に纏わり付いているけど、肉への接着度はそこまで高くない。ただ、肉に対する執着度が異常に高く、当初何をしても離れなかった。ミケーネはこの執着度を利用して、肉を中心とする回転を与えた。回転を与えると、外へと逃げる遠心力が生まれる。回転数が高ければ高いほど、強い遠心力が生まれる。ミケーネはこの回転数を果てしなく上げていき、ヌメリを強制的に肉から引き剥がした。

ここで不思議に思うのはヌメリの行方なんだけど、そんな高速回転を発生させたら、ヌメリだってあちこちに飛び散ると思う。でも、そこはミケーネの友達のシロが協力してくれたようで、回転中の肉の周囲を高速回転付きの風壁で360℃囲み、飛び散ったヌメリをそこで回収し、回転を徐々に弱めていくことで一つのヌメリに戻すという荒業をやってのける。そして、肉自体は固定させて回転させているので、何の損害も発生していない。

これまで料理食材ということもあり、皆が丁寧に扱ってきた。
ミケーネは人と真逆の方法で、課題を見事達成させたのだ。
後で、何かご褒美をあげたいところだけど、何をあげよう?

お父さんから貰った餌類に関しては、ミケーネも堪能しているし、進呈したいプレゼントが思い浮かばないよ。

……そうだ‼︎

ミケーネもシロもあの肉を気に入っていたから、それで何か料理を作ってあげよう。

「料理食材に高速回転を与えるなんて……あはは……そんな荒業……誰も思いつくわけがない。ミケーネは、この街の救世主だ」

アレスはミケーネを見たまま、今聞いた衝撃的事実をようやく受け入れてくれたのね。

「アレス、この事を……」

アマンガムさんに伝えようと思ったら、その本人が主催者側のメンバーを2人引き連れて、こっちに来たわ。3人の表情から、状況はかなり切羽詰まっているようね。早く、解決策を教えてあげよう。

「咲耶ちゃん、今周囲の露店が大騒ぎになっていることを知っているかい!?」

多分、アマンガムさんも領主邸の崩壊を知っているはずだ。周囲に騒がれたくないし、露店で起きた騒ぎだけを口にしよう。

「はい、大樹マナリオから全てを聞きました。でも、安心して下さい‼︎ その件についてですが、ミケーネが既に解決策を導き出してくれたんです‼︎」

「なに、ミケーネが解決策を?」

アマンガムさんを含めた全員が懐疑的な目で、私とミケーネを交互に見ているわ。その気持ちも、凄く理解できる。

「うん? あの子たちは何を食べて……あれは紫色の斑点のある肉? いや…まさか…あの肉の特徴と一致しているが」

「アマンガムさん、時間もないでしょうから手早く言いますね。ミケーネはたった数時間で、課題を達成させました。肉を空中に浮かせて、その肉を中心に超高速回転を与えるんです。回転数は不明ですが、ある一定値を超えると、ヌメリを除去できます。高速回転を与えた風壁を周囲に覆わせることで、ヌメリの爆散も防げます」

私が早口で言うものだから、3名の主催者メンバー全員が口を少し開け、ポカンとしている。今の内容、口で行っても伝わりにくいんだ。

こうなったら……

「ミケーネ、残りの肉からヌメリを全部剥いでいいわ。その後の肉は、全部食ってよし‼︎」

その時、ミケーネを含めた13匹全員が目を光らせ一斉に鳴いた。そして、シロが風魔法で肉を浮かせ、周囲に回転風壁を張る。ミケーネがスキル[液体操作]でヌメリを回転させていく。あまりの速度で、目で全く追えないけど、何処からかプチプチと言う音が鳴り、回転数がさらに上がると、プチプチの間隔が短くなっていき、遂にヌメリと肉が分離される。回転が止むと、ヌメリは外側の風壁へ一つにまとまっており、中心には肉だけが残っている。しかも、回転による影響で熱が生じたのか、湯気が肉から出ている。

そこから、シロが『にゃにゃにゃ』と叫びながら、爪で肉を薄く斬っていき、地面にばら撒かれると、猫たちが一斉に群がっていく。

「おお…こ…こんなことが…ミケーネ…君は…君は…最高の猫だ~~」

アマンガムさんが、ミケーネに駆け寄っていく。

『ご主人、私は賢くて美しいのよ~~~』
「ああ~君は賢くて美しいぞ~~~~」

アマンガムさんは、ミケーネの言葉を理解できないはずなのに、会話が時折噛み合うから不思議だよ。今も意気投合して、互いに抱きしめ合っている。

「よ~し、お前たちはこの会場に設置されている魔道具[拡声器]を使い、ここへ露店参加者たちを全員招集させろ‼︎ その際、必ず肉を持参させること‼︎ タイムリミットがある以上、迅速に行動に移さねばならん。今すぐ召集して、ヌメリの除去方法を皆に教える‼︎ もし、誰1人できない場合は、ミケーネと…」

「アマンガムさん、シロです」

私が助け舟すると、彼が和かに笑う。

「シロがヌメリを除去してくれる……ミケーネ、シロ、身体に負担は?」
『ヌメリを回転させるだけだもの、負担なんてないわ』『僕もないっす』

アマンガムさんの場合、猫たちの仕草や表情だけで言葉を理解しているのかな。

「よし、わかった‼︎ お前たち、今すぐに行動しろ‼︎」

ほら、理解しているよ。

「「は‼︎」」

解決策が見つかった。

一刻も早くヌメリを除去して、肉の調理に取り掛かり、皆で20メートル級の魔物を食べないといけない。最悪、私が空間魔法[アイテムボックス]を扱えることを明かせば、騒ぎの終息も早くなると思うけど、フリードとルウリは一般人にこれ以上私の情報を与えたくないと豪語していたから、これはあくまで最終手段ね。

せめて、時間停止機能のあるマジックバッグを持っている人が誰か名乗り出てくれれば、私も言わないで済むのだけど、そんな都合の良いことは早々起こらないよね。そもそも、あの巨大魔物を入れるとなると、相当な魔力が必要となるもの。


○○○


リリアムの街には、魔道具[拡声器]が二十箇所に配備されている。この魔道具には特殊機能があり、機器全てを魔力で共有させ一斉稼働させることで、一度の使用で重要事項を街中の人々に伝えることが可能となる。今回、女性で声質の高いユウキが臨時に設置された主催者テントにある拡声器を使い、テンタクルズオクトパスのヌメリ除去の方法がわかった事を伝えた。そして、その方法を教えるので、200名全員が至急この公園へ集まるようにと締めくくった。全員が集まるまでの間、私の方にもルウリから連絡が入った。

『咲耶、マナリオから聞いていると思うけど、テンタクルズオクトパスの肉が解放されてしまった。ミケーネのおかげでヌメリの除去方法が確立されたとはいえ、除去したヌメリだけは調理に使用できない。だから、ベイツのマジックバッグを転移魔法で君に送るよ。これに、全てのヌメリを入れて欲しい。僕の方は領主邸の本体のヌメリを除去して、そのバッグに入れるよ』

そうか、除去したヌメリのことを完全に忘れていたわ。あんなヌメヌメしたもの、料理として使用できないよ。あれの利用方法に関しては不明だから、バッグに入れるしかない。ベイツさんのバッグは時間停止機能付きだから、肉を収納しても問題ない。登録者はベイツさんだけど、彼の権限で私も使えるようにしてくれたんだ。

『了解。こっちの作業が終わり次第、フリードと一緒に領主邸に向かうね』

ルウリとベイツさんも、領主邸に到着して、もう救助作業に入っているのね。公園側では、主催者側が199人を待っている時、混乱で騒ぎが起きないよう、ユウキが拡声器で頻繁に状況を伝えている。

【公園に到着したら、社付近にいる咲耶に一旦肉を預けてください。Aランク冒険者ベイツの持つバッグを所持しています。時間停止機能付きなので、到着した者は必ず咲耶の下へ行き、肉を預けてから主催者テントに来てください。そこで、[とある方]がヌメリ除去を教えてくれます】

と伝えた。

これにより、ここを訪れる人々は、私に肉を預けるとすぐに、主催者テントの方へ向かっていく。私は肉をバッグに入れるだけだから、然程忙しくないのだけど、これが終わったら、ミケーネの講義が始まるから、私がフォローしないといけない。こういった場合、アマンガムさんが代理で話せば良いのに、何故かミケーネ自身にやらせることに固執したわ。街の救世主を、皆に解らせたい気持ちもわかるけど、【猫が人に教える】というシュールな光景になってしまうのだけど良いのかな?
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