10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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5章 猫の恩返し

59話 咲耶一行、驚嘆する

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私とユウキ、フリードは社の中に入り、マナリオの愚痴を聞きながら、昼食を食べているのだけど、愚痴を聞き続けているのは実質私1人だけだ。ユウキはスキルをオフにしているので、木の言語を聞き流しながら昼食を食べているし、フリードに至っては、キャットフード(ウェット[高級]・ドライ)を各々一人前と、食後のペロチュールを食べた早々に、マナリオの前で堂々とお昼寝している。そのマナリオはというと、私にだけ愚痴を聞いて欲しいのか、2人の態度を見ても、何も言わない。

『む、咲耶よ』

マナリオが愚痴の途中で、話を止めたわ。
これって、かなり珍しいケースだ。

「どうしたの?」
『向こうから全速力で走ってきているのは、元婚約者のアレスではないか?』

マナリオにはアレスのことを紹介しているけど、『全速力で走ってくる』という内容に、
違和感を感じる。あの人は貴族だから、全速力で走って………あ、本当に必死の形相でこっちに向かってくる。そのすぐ後ろには護衛のザフィルドさんもいるけど、彼の表情もいつになく真剣だ。

何か、起きたのかな? 
昼食を食べ終えたユウキも気づいたのか、すくっと立ち上がる。

「あいつは、何をそんなに焦っているんだ?」
「せっかく気持ち良くお昼寝していたのに、どうやら何かが起きたようですね」 

寝ていたフリードも異変を感じ取ったのか、警戒態勢をとる。アレスたちが到着したと同時に、私は2人にコップ1杯の冷たいアイスティーを手渡すと、2人は御礼を言い、そのまま一気に飲み干す。

「何かあったの?」
「ふう~ありがとう。僕たちは露店を散策していたんだけど、それは突然起きた」

アレスは自分に与えられた課題を達成させるため、飲食系の露店の食べ歩きをしていたはずだ。

「周囲の露店に置かれている小型マジックバッグから、テンタクルズオクトパスの肉が唐突に現れたのさ」

突然現れた!? どういうこと? あのバッグに関しては登録者を設定していないから、誰でも肉を出せるけど、突然現れたりなんかしないわ。

「始めはバッグの不具合で起きた1店舗だけかと思ったけど、周囲の店がどんどん騒ぎ出したんだ。理由を聞いていくと、全員が同じだった」

それって、つまり小型バッグが壊れて、中に保管されていた肉が出てきたってこと? そんなことが、急に起こりえるの?

『咲耶、周囲の木々たちと連絡をとったぞ。アレスの言ったことは、全て真実だ。露店だけでなく、大変な事態が街内で起きている。小型バッグ200個と、そのオリジナルとなる大型バッグの機能が全て壊れて、魔物の肉が突如外界に現れた。木々の情報を照らし合わせた結果、機能崩壊のタイミングは全て一斉に起きている。今、参加者200人が大騒ぎしているから、主催者側の誰かが咲耶のもとへ確認をとりにくるはずだ』

「200人全員のバッグが一斉に壊れたの!?」

なんで、全てのバッグが一斉に壊れるの?
これってどう考えても、人為的な現象だよ。

『ルウリが緊急事態にいち早く気づき、現在ベイツと共に崩壊した領主邸へと向かっている』

「領主邸が崩壊!?」

『オリジナルとなるバッグは、領主邸内にて厳重保管されている。だが、バッグそのものが壊れたため、そこから一気に20メートル級の巨大魔物が出現し、邸そのものを内部から崩壊させたのだ。現在、邸内で働いている者全員が生き埋めとなっているから、ルウリとベイツが急行している』

領主様の邸はここからかなり離れているから、邸の崩壊音が聞こえてこなかったんだ。オリジナルと小型バッグ200個同時故障、それによって起きた領主邸の崩壊、犯人は何が目的で、こんな酷い事をしているの?

「マナリオ、教えてくれてありがとう」

「咲耶、マナリオから何を聞いたんだい? まあ、君の驚きで、大体察しが付くけど、一応全てを教えてほしい」

あまりの内容だったから、つい大声を出してしまったわ。話しかけてきたアレスもユウキもフリードもザフィルドさんも、私を見ている。

早く情報を共有させたいから、私はマナリオから聞いたことを全て皆に話す。かなり深刻な事態になっていることを理解したのか、全員が一斉に黙り込む。このまま肉を放置すれば、間違いなく腐ってしまい、大勢の魔物が街へ押し寄せ、最悪壊滅してしまう。もしかして、産業スパイは機密情報を盗むためだけに、この事態を引き起こしたのかな? とにかく、まずは私のバッグの状態を確認……

「あ、しまった!! バッグを露店に置きっぱなしだわ!!」

「それはいけませんね。まあ、猫たちもいますから盗まれはしないでしょうが、急いで回収に向かいますよ」

フリードの声に、皆が一斉に私の露店の方へと顔を向ける。
まずは、状況を確認しよう。

「うん、急ごう‼︎」

私たちは、猫たちのいる露店へと走る。1キログラムの肉が露出しているから、猫たちも興味本位で見ていると思うけど、早く空間魔法[アイテムボックス]の中へ入れないといけない。もし、街中のバッグが全て壊されていたら、頼みの綱は私の魔法しかない。街の破滅に繋がる事なんだから、明るみになってもいいわ。

その覚悟だけは、今のうちに持っておこう。


○○○


急いで自分の露店へ向かうと、12匹の猫たちが昼食のキャットフード(ドライ)を食べながら、笑顔で地面に落ちている白い肉を爪で刺し、それを豪快に齧り付いている。12匹全員が謎の生肉に齧り付き、美味い美味いと連呼しているわ。

『淡白で薄い味だけど、噛めば噛む程、味が染み渡るぜ~~』
『本当だぜ。これはいける‼︎』

あの子たちは、何を食べているの?
私、そんな肉を用意してないよ?

「ユウキ、あんな白い物体、さっきまでなかったよね?」
「ああ、なかった。あいつらは、何を食べているんだ?」
「あの紫色の独特な斑点、まさかとは思いますが…」

フリードが、珍しく動揺している。猫たちが食べているのは、白く紫色の斑点のある肉だけど、その正体を知っているの?

『キャットフードと一緒に食べたら、旨さが倍増だ~~‼︎』

『ほおお~うめえ~~~咲耶のもとに来て良かった~~これを置いていった参加者に感謝だぜ~~~~』

『咲耶~~~、ありがとね~~~~』

何故か、皆が一斉に私を見て、お礼を言っている。
ここで、何が起きているの?
と、とりあえず、小型バッグの中身を確認しよう。

『あ、咲耶、今になって忘れ物を思い出したの? そこのテーブルの上に、肉と一緒に置いてあるわよ』

私たちの露店から出てきたのは、三毛猫のミケーネだ。

「ミケーネ、バッグを守ってくれてありがとう。ところで、肉って何のこと?」

露店に入ると、あのバッグと500グラムほどの肉が、テーブルの上に鎮座している。

『それがね、酷い奴が参加者の中にいるのよ。誰か知らないけど、あのテーブルの上に肉だけを置いてトンズラしやがったの。まあ、せっかくの巨大肉だから、私とシロが調理して、今みんなで堪能しているところよ』

私とユウキは、互いの顔を見合わせる。
参加者の誰かが、肉を置いていった?
ミケーネとシロがそれを調理して、みんなで堪能している? 

「まさか……そのお肉って、【テンタクルズオクトパス】のこと?」

参加者が置いていったんじゃない。
私のバッグも壊れて、中身の肉が外へと露出したんだ。
ミケーネたちは、それを食べているの?

『そうよ。フリード様に鍛えられた私とシロの力で、参加者たちに与えられた課題をちょちょいのちょいで、解決させたわ』

「「ええ!?」」

ユウキも緊急事態を察して、スキル[同調]をオンにしていたのね。

「ミケーネ、あれはその道のプロですら調理方法を見つけ出せない厄介な代物なんだぞ‼︎ そんな簡単に、あの肉の調理方法を見つけられるわけがない‼︎」

『そこまで疑うなら、あなたのスキル[解析]で調べてみなさいな』

ユウキの言う通りだ。
猫が、この短時間でどうやって見つけ出したの? 
しかも、調理器材なんて、この場にないよ。
ユウキを見ると、身体を小刻みに震わせている。

「さ、咲耶、ミケーネの言ったことは本当だ。スキル[解析]で調査したら、猫たちの食べている物体は、間違いなく【テンタクルズオクトパス】の肉だ」

ほ、本当なんだ。
これ……大変な事になるのでは? 

人のプライドがズタズタになるだろうけど、これで長年悩ませていた課題を解決できたのだから、嬉しいニュースになるはずだよね。

「咲耶、小型バックだが、やはり壊れている。しかも、何者かが魔石に細工をしたようだ。魔石に仕掛けられた罠が一斉に発動して、200個全てのバッグが壊れたんだ。ここを見てみろ」

ユウキの指し示す場所、そこは魔石の埋め込まれた箇所だ。そこを確認すると、初めて見た時は細やかな紋様が刻まれ、見ていて惚れ惚れするデザインだったけど、全ての魔石がひび割れて崩壊している。私だけでなく、アレスもザフィルドさんも、壊れた魔石をじっと凝視する。

この困惑した状況にいち早く反応したのは、アレスだ。

「ユウキ、君はスキル[解析]を持っているのか?」

「そうだよ、アレス。私と咲耶の話で理解したと思うが、猫たちが長年悩ませてきたテンタクルズオクトパスの調理方法を見つけ出した」

「馬鹿な………地面には、あのヌメリもある。まさか…本当に…猫が…」

いつの間にか、私の周囲には猫たちも集まり、皆が私たちを凝視している。緊急事態を察してくれたようだけど、ミケーネとシロの実施したとされる調理方法を人に伝えれば、緊急度がかなり減少する。

全ての肉を今日中に調理するか、私の空間魔法[アイテムボックス]に収納するか、どちらかの方法を取れば、街の壊滅は避けられる。でも、誰がこんな酷い仕掛けを施したの?
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