377 / 541
54★
54★ 葉璃のサプライズ計画〜準備中〜②
しおりを挟む葉璃はプラプラとご機嫌に揺らしていた足を止めた。
「…………春香から聞いたの?」
「うん。 俺、何も出来なかった。 ごめんね。 葉璃、ツラかったね……」
「ううん。 あの時、誰かに助けてもらおうとか思いもしなかったから、恭也が謝る事ないよ。 俺も何も考えられないくらい必死だったし。 とにかく、聖南さんが俺のせいでよくない方向に向かうかもっていうのが嫌で、ほんとに離れたいって思ってた」
「そう……」
この件で葉璃の気持ちを聞いたのは初めてだったから、今こうして本音を聞くと改めて胸が締め付けられる。
可哀想に、誰にも頼らず悩んで悩んで……一人でどこか知らないところに居たなんて。
「……佐々木さんのお家が、近くだったんでしょ?」
「あ、うん。 事務所飛び出して走りまくって、疲れて休んでたら夜になって。 そしたら佐々木さんが居た。 超偶然だよね」
「葉璃……方向音痴なのに。 知らない街を、走り回るなんて、無謀過ぎだよ」
一人ですべてを抱え込んでぐるぐる悩んじゃうのは、以前から感じてた葉璃の悪いクセ。
自分だけが傷付く事でみんなが傷付かないなら、それでいいって思ってる。
それを葉璃に言っても「俺自身も傷付きたくないから」って認めないし。
しかもそのまま佐々木さんに発見されずに夜の街に葉璃一人で居たら、もっと取り返しのつかない事態になってたかもしれない。
最悪の事態を想像して、思わず身震いした。
「でも安心した。 あれから、セナさんとの関係、順調なんでしょ?」
「うん。 俺ぐるぐるしててもいいんだって。 聖南さんも一人で突っ走るとこあるけど、俺の方がそこは上をいっちゃうみたいだから、単純に解決方法はないよね。 お互いぐるぐるしてるんだもん」
……なんて可愛いカップルなんだろう。
二人は確かに愛し合ってるのに、小さな歪みから重大な問題へと発展し、互いにぐるぐる悩んで周りを盛大に巻き込む。
何もかも未経験な葉璃はともかく、セナさんまでそんなに恋愛が下手だとは知らなかった。
数え切れないほどの浮き名を流し、女性関係は事務所も手に負えないほど好き勝手してきたあのセナさんが、見事に葉璃に振り回されてる。
まぁ何にせよ、二人が幸せならそれでいいんだけどね。
「……オレンジでいい?」
「え、あ、自分で行くよ?」
「いいから。 オレンジとアップル、持ってくるね」
「そんなに飲んだらお腹ちゃぷちゃぷなるよ…」
「その時は、トイレ行こうね」
えーと膨れた葉璃が可愛くて、笑いながら俺はコーヒーを飲み干した。
葉璃が飲んでたコップを持ってドリンクバーに向かい、新しいコップにアップルジュースを注いでいると、知らない女性に声を掛けられた。
「あのぉ。 私達も二人なんだけど、一緒のテーブル座ってもいい?」
「…………え?」
………近頃、こういう逆ナンとやらが多くて困る。 しかも大体、メイクが濃い目で私服が派手。
逆ナンは男としては嬉しい事、なのかな?
よく分からないけど、面倒だからあんまりしつこかったら葉璃とお店を出てしまおう。
「いや…………」
さすがに突発的に話し掛けられると、どうしても一瞬たじろいでしまう。
どう言えばいいかと考えて、もうストレートに「無理」って言ってしまおうとすると、もう一人女性が席からやって来た。
「いいでしょ? 座ってるあの子も弟系でカッコ可愛いよね」
「ほんとだー! 二人はどこ高? うちらは……」
「あ、あの、ごめん。 今大事な話してて、もう帰るとこだから」
「えー? だってジュース注いでるじゃん」
「これは最後の一杯。 俺の」
どうやら簡単には引き下がらなそうだから、俺は葉璃のために注いでいたアップルジュースを一気飲みして、呆気に取られた様子の二人には目もくれずに葉璃の元へ戻る。
「出よ」
「えっ? 俺のオレンジは?」
おとなしく待っていた葉璃が驚いて俺を見上げてくるけど、あの二人が追い掛けてきたらたまらないから早々と鞄を持って葉璃の腕を取った。
「店出たらいくらでも、買ってあげる。 とにかくおいで」
「えぇ?? どういう事なんだよー」
俺に腕を取られた葉璃は両腕で鞄を抱えていて、戸惑う最中に横目で俺を見ると、背後を気にし始めた。
手早くレジで会計を済ませると、少しでもファミレスから遠ざかりたいと早足で駅まで向かう。
「ねぇねぇ、恭也、もしかしてあの二人にナンパされてた?」
葉璃が振り返った先には、こちらをジーッと見ていた女性がまだ同じ場所に立ち尽くしてたから、俺が「出よ」って意味が分かったみたいだ。
「うん。 席一緒いいかって」
「えっヤダ! 絶対あの二人は恭也目当てなのに、俺どんな顔してればいいの」
「違う。 俺だけじゃない。 葉璃も、ナンパ対象だったよ」
「いやいや、それはないよ。 俺は男からしかナンパされた事ないもん」
「俺も初めて聞いたんだけど、葉璃の事、弟系?って言ってた。 カッコ可愛いって」
「何それ??」
「ね、なんだろうね。 ……葉璃、気を付けて。 弟系って言われてた、って事は、この先、女性からも声掛けられる可能性、あるよ」
「ど、どういう事?? 弟系って何?」
俺はその意味を匂わせながら「気を付けて」って言ってるのに、まったく分かってない葉璃はその場で小さく足踏みをした。
無邪気な動作も可愛いんだけど、……確かに葉璃は、幼かったほっぺが最近シュッとしてきた気がする。
毎日会ってるから気が付かなかったのかな……。
目下、訳が分かってない葉璃は首を傾げて唸ってて、その横顔を見詰めてみた。
よくよく見ると、少しだけ顔が大人びたかなと思いはしても、変わらずぷにぷにほっぺなような気もするしで、よく分からない。
「さぁ? ……とりあえず葉璃は、変顔しながら歩いたら?」
「それ聖南さんも言ってた!! ヤダよ、捕まるって! 恭也までそんな事……!」
「セナさんも言ってたんだ……」
面白い。
セナさんと考える事が一緒なら、葉璃のこの可愛さも分かち合えて当然だ。
12
あなたにおすすめの小説
ユキ・シオン
那月
BL
人間の姿をした、人間ではないもの。
成長過程で動物から人間に変わってしまう”擬人化種”の白猫青年と、16歳年上のオッサンとのお話。
出会ったのは猫カフェ。白猫従業員としての青年と客としてやってきたオッサン。
次に再会したのは青年が人間として通う大学。オッサンは保健室の先生だった。
青年が金のためにヤバいことをしていて、あるトラブルが起こる。
そこへ見計らったかのようにオッサンが飛び込んで救出したのをきっかけに2人の距離は縮まり……
※表紙絵は自作。本編は進むにつれてどんどん動物園と化します(笑)
【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!
ばつ森⚡️8/22新刊
BL
天涯孤独のソーマ・オルディスは自分にしか見えない【オカシナモノ】に怯える毎日を送っていた。
ある日、シェラント女帝国警察・特殊警務課(通称サーカス)で働く、華やかな青年、ネル・ハミルトンに声をかけられ、【オカシナモノ】が、吸血鬼に噛まれた人間の慣れ果て【悪霊(ベスィ)】であると教えられる。
意地悪なことばかり言ってくるネルのことを嫌いながらも、ネルの体液が、その能力で、自分の原因不明の頭痛を癒せることを知り、行動を共にするうちに、ネルの優しさに気づいたソーマの気持ちは変化してきて…?
吸血鬼とは?ネルの能力の謎、それらが次第に明らかになっていく中、国を巻き込んだ、永きに渡るネルとソーマの因縁の関係が浮かび上がる。二人の運命の恋の結末はいかに?!
【チャラ(見た目)警務官攻×ツンデレ受】 ケンカップル★バディ
※かっこいいネルとかわいいソーマのイラストは、マグさん(https://twitter.com/honnokansoaka)に頂きました!
※いつもと毛色が違うので、どうかな…と思うのですが、試させて下さい。よろしくお願いします!
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
お弁当屋さんの僕と強面のあなた
寺蔵
BL
社会人×18歳。
「汚い子」そう言われ続け、育ってきた水無瀬葉月。
高校を卒業してようやく両親から離れ、
お弁当屋さんで仕事をしながら生活を始める。
そのお店に毎朝お弁当を買いに来る強面の男、陸王遼平と徐々に仲良くなって――。
プリンも食べたこと無い、ドリンクバーにも行った事のない葉月が遼平にひたすら甘やかされる話です(*´∀`*)
地味な子が綺麗にしてもらったり幸せになったりします。
愛され少年と嫌われ少年
透
BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。
顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。
元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。
【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】
※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる