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しおりを挟む予定より十五分もオーバーし、ステージ下方に居るスタッフからいよいよ両腕が千切れんばかりの巻きの合図がきた。
ラジオの公開生放送と同じ二十二時を終了目処にしていたが、プレゼント大会も含めて三人が構わずフリートークという名の雑談をしていたせいで、予定終了時間をオーバーしかけていた。
聖南が締めようとしたその場でアンコールが沸き起こり、三人は半裸状態のまま二曲歌い終えてようやくライブは終了となる。
『夜道は危ないから独りになるなよー! 出待ちしてたら怒るからな! ちゃっちゃと帰れよ!』
『俺らが長引かせちゃったからな、ごめんね!』
『気を付けて帰れよ! ありがとう~!』
それぞれが客席に大きく手を振り、ステージ袖へと捌けていく。
今日もファン達は素晴らしい思いを抱かせてくれた。
地方公演は、客席との距離感となまりの入った声援にグッとくる。
すべての公演がSOLD OUTとは、なんとありがたい事か。
まだ二十五公演も残っているが、どの会場でも大いに盛り上がってもらえると思うと楽しみで仕方がない。
毎度味わう誰にも止められないこの高揚感は説明し難く、喜びを伝えようにも非常に難しい。
「やっべぇぇ!! 楽しかったー!!」
控え室への廊下を歩きながら、聖南が毎回恒例の絶叫をかました。
それについてくるのはケイタだけで、先頭を歩くアキラはあまり感情に変化が見られない。
特に楽しい気分をぶち壊すわけではないが、アキラのクールさは本当に自分より歳下なのかと疑ってしまう。
控え室前でスタッフから予備のTシャツをそれぞれ渡されて着ると、扉を開けたアキラが一歩引いて驚いた声を上げた。
「わっ、ビックリした! ハルと恭也じゃん!」
「おー! マジだ! お疲れ!」
『葉璃と恭也……? 葉璃、……え、葉璃!?!』
二人の声に聖南は首を傾げた。
ライブの興奮がまったく冷めていないため、なぜここに葉璃が居るのかと一瞬考えて……思い出す。
『そうだ!!! 葉璃と恭也呼んどいたんだった!!!』
聖南が自ら新幹線の切符を手配したのに、約三時間続いたファンとの熱狂の時間によってすっかり忘れていた。
ネットで空席状況を確認し、電話でしつこく「この二席以外に客は居ないのか、ほんとですか」と問い合わせまでして取った新幹線の切符で、愛しの葉璃がはるばるここまで聖南のためにやって来ている。
すでに興奮状態だった聖南の心中は訳が分からないほどにまでメーターが振り切った。
「葉璃ーーッッ!!!!」
「……っうわっっ……!」
アキラとケイタを押し退けて葉璃の姿を見付けるやダッシュし、その小さな体を力の限り抱き締めて叫んだ。
あまりの勢いに葉璃が大きく狼狽えた声を上げたが、そんなもの気にしていられない。
『葉璃! 葉璃! 葉璃! 葉璃!!』
会いたくても会えない、距離による隔たりは意味深いツアーを回っている聖南にとっても苦行に近かった。
だが今回のツアーは少し思い入れが違う。
聖南の大切な仕事であり、関わる各々を一段上へと押しやらなければならない責務がある。
それはETOILEの今後にも通ずるため、聖南は葉璃とのLINEですら「会いたい」とはゴネても「寂しい」とは言わなかった。
この間社長室で久々に対面した葉璃も同じ気持ちだと分かって嬉しかったが、その際も聖南は決してその言葉は言わず我慢した。
言ってしまえば、すべてを投げ出してしまいそうになるからだ。
それなら全部やめて葉璃の傍にずっと居るよ。
そう言って笑えば、葉璃がまた物凄い勢いで聖南を叱咤しにかかる事が分かっていて、言えるはずがない。
恋に溺れ過ぎて不甲斐ない自分はもう見せたくなかった。
プライドを保つ事で毎夜夢見て会いたかった葉璃が、今この腕の中に居る。
聖南の興奮は止められようもなかった。
「……っ聖南さん、お疲れさまです」
「お疲れーー!!! 会いたかった!! 会いたくてたまんなかった!! 会見見た! 可愛かった! 恭也もお疲れ! アキラとケイタもお疲れ!」
腕の中で葉璃が身動ぎしているが、聖南が強く抱いているので微動だに出来ないらしい。
小さくもがきながらも「お疲れさまです」と言われて、じわりと意識が戻る。
この場にいる全員に葉璃を抱いたまま労いの言葉を掛けるが、大興奮中につき声が大き過ぎた。
「……セナ、うるさいよ」
「言いたい事まとめてから話せって」
案の定、アキラもケイタもそんなつれない事を言ってきたが、聖南は何にも気にしちゃいない。
聞こえているかさえ危うかった。
スベスベの頬を擦り合わせて堪能すると、「ん~~~♡」と知らず鼻から間抜けな声が漏れた。
『たまんねぇ!! 葉璃の感触……ったまんねぇ!』
周囲の引き気味な視線も知らず頬擦りし続けていると、控え室に入って来た成田が驚愕の声を上げて慌てて扉を閉めた。
「お、おい! セナ! すぐそこにダンサー達来てたから離れろ! 何やってるんだよ、早く着替えないと! 明日もあるから打ち上げは焼肉店でって事になってるだろ!?」
「あ、あーそうだったな! 葉璃、メシは? 食った?」
ふわふわな焦げ茶の髪を撫でて、抱き締めたままこめかみに鼻を擦り付ける。
皆の前だからか、恥ずかしがって「やめて」と聖南にだけ聞こえる声で言われてもスリスリをやめるなんて無理だ。
「はい、恭也と新幹線の中でお弁当食べましたよ」
「何個?」
「何個って……一個ですけど」
「じゃあまだ食えるな! 恭也も少しは入るだろ?」
「はい、まぁ……」
チラと恭也に視線をやると、明らかな苦笑で頷いてくれたのでグーサインと共に笑顔を向けてやった。
葉璃が会見で気絶しなかったのは、目まぐるしく成長した恭也の存在が大きかったと思う。
朦朧としていたであろう葉璃を支えてくれて感謝している反面、やはりどこかで恭也にすらヤキモチを焼いている自分に気付いて、痛いと嘆く葉璃をさらにギュッと抱き締めた。
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