眼鏡奴隷の恋と元病弱美少年

flour7g

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「よく見える」が二人分

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眼鏡をかけられた瞬間、ダレルの身体が、びくりと小さく震えた。

「……な、何を……」

低く、掠れた声だった。
だがその声色には、怒りよりも困惑と恐怖が混じっている。

僕は慌てて手を引っ込め、視線を落とす。

「ご、ごめんなさい。嫌でしたら……すぐ外します」

そう言いかけたところで、ダレルが息を呑む音が聞こえた。

「……見える。よく見える」

ぽつり、と。
まるで独り言のように、しかし確かにそう呟いた。

ダレルは、ゆっくりと顔を上げる。

眉間の深い皺は消え、鋭く見えた目つきは、驚きと戸惑いに大きく見開かれていた。

「……お前……いや、あなたの顔が……はっきりと」

その視線が僕を捉えた瞬間、彼の肩が一層すくむ。

「こ、こんな……そんな顔で……近づかれたら……」

ダレルは慌てて視線を逸らし、再び頭を垂れた。


「……すみません。驚かせるつもりは、ありませんでした」

そう告げると、ダレルは首を横に振る。


「ち、違う……怖いのは……自分の方だ」

彼は、錆びた首輪に触れながら続けた。

「よく見えると……分かってしまう。
あなたが……助けようとしてくれていることも。
だから……期待してしまうのが、怖い」

その言葉に、胸が締め付けられた。


僕は、ゆっくりと立ち上がり、街道の先――石壁に囲まれた街を見た。
馬車が行き交い、冒険者らしき集団や、貴族の紋章をつけた護衛が遠くに見える。

「……あの街に行きませんか」

思ったよりも、声は震えなかった。

「僕は……ここに来たばかりで、何も分かりません。
でも、一人より……二人の方が、いいと思うんです」

ダレルは、息を詰めるようにして僕を見上げる。
眼鏡越しのその目は、もう“睨んでいる”ようには見えなかった。

「……俺は、奴隷だ。
近くにいるだけで……あなたの評判を落とす」


「それでも、です」

そう言い切った瞬間、自分でも驚くほど、はっきりとした意志があった。

「僕は……身体が弱くて、ずっと守られる側でした。
でも今は……歩けます。見えます。選ぶことも、できます」



草原を渡る風が、二人の間を静かに通り抜ける。

やがて、ダレルは深く、深く頭を下げた。

「……分かりました。
もし……あなたが後悔する日が来たら……その時は、俺を捨ててください」

その言葉は、あまりにも重く、誠実だった。



僕は小さく首を振り、微笑もうとして――少し失敗した。

「……その時が来たら、考えます。
今は……一緒に、行きましょう」

こうして僕とダレルは、街道を並んで歩き始めた。
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