眼鏡奴隷の恋と元病弱美少年

こむぎこ7g

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眼鏡で奴隷で冒険者

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野営地・朝


眼鏡があるだけで、世界は少し可愛らしさも見せてくれる。

朝の空気は、ひんやりとして澄んでいた。

焚き火はすでに消えていて、残った炭が白くなっている。
僕は毛布から起き上がり、眠そうな目をこすった。

「……おはようございます」

そう声をかけて、ふと固まる。

朝日を受けて光る眼鏡。
真面目すぎるほど真面目な姿勢。
無表情で湯を沸かしている、その横顔。

そこにいたのは、
どう見ても、湯気で曇った眼鏡をかけたまま、どうしていいか分からずに、固まっている筋骨隆々のダレルさん。


――

「………あはは、朝靄と湯気で、眼鏡が曇ってますよ…」

僕は、我慢できず、吹き出してしまった。

「……ダレルさん、
その格好で、それは……反則です」

「……?」

彼はきょとんとしたまま、首を傾げる。

「何か……不備が?」

「いえ……その……」

言葉を探していると、彼は少し考えてから、真剣に言った。

「眼鏡は……視界が安定します。
朝は特に……助かります」

そう言って、大きな身体で、背を丸め、
丁寧に眼鏡を拭いてから掛け直す。

――ずるい。

怖いとされる体格に、僕のお下がりの眼鏡。
それだけで、印象ががらりと変わる。

「……似合ってますよ」

思わず、そう言うと。

「……ありがとうございます」

律儀に返されて、また笑ってしまった。



朝食の準備が終わり、僕は依頼書を見直していた。

今日の目的地は、少し先の森。
道中は安全だが、魔物の痕跡があるらしい。

「……えっと」

言葉を選ぶ。

「今日は……先行して、様子を見てきてほしいです」

一瞬、間が空いた。

「……命令ですか?」

ダレルさんの、期待するような柔らかい眼差し、その問いに、胸がきゅっとなる。

「……お願い、です」

即答した。

ダレルさんは、少しだけ目を伏せる。

「……承知しました」

立ち上がり、剣を手に取る。

その背中を見て、ふと不安がよぎる。

――もし、これが命令だったら。
――もし、彼が戻ってこなかったら。

「……あの」

呼び止めると、彼は振り返った。

「……危ないことは、しないでください」

それは、主人の言葉ではなかった。
ただの、心配だった。

「……それは」

彼は、一瞬だけ視線を逸らし。

「……約束できません」

その答えに、息が詰まる。

「でも」

続く言葉が、静かに落ちる。

「あなたの見えないところで、
無茶はしません」

そう言って、森へ入っていった。

――小さな反抗。
でも、それは守るためのものだった。




しばらくして、物音がした。

慌てて立ち上がると、ダレルさんが戻ってくる。
だが――

腕に、浅い傷。

「……!」

「問題ありません」

即座に言われる。

「魔物は……すべて排除しました」

排除、という言葉が、重く響く。

「……お願いしましたよね。
無茶はしないで、って」

声が、少し震えた。

彼は、黙って立っていたが、やがて口を開く。

「……命令では、なかったので」

その言い方は、穏やかで、少しだけ意地悪だった。

「……でも」

眼鏡の奥の視線が、まっすぐ僕を見る。

「あなたのためだけに…、
俺は、いつでも前に立ちます」

胸が、強く鳴る。

「それは……命令じゃなくても、ですか」

「はい」

即答だった。

沈黙のあと、僕は小さくため息をつく。

「……ずるいですね」

「そうでしょうか」

「そうです」

でも――
責める言葉は、出てこなかった。

「……次からは」

少し考えて。

「戻ってきてから、すぐに、報告してください。
怪我も……全部、見せて欲しい」

それは、命令の形をしたお願いだった。

「承知しました」

彼は、深く頭を下げる。



――眼鏡を渡した、あの日から。

ダレルさんは、世界をよく見ている。

そして僕は、この世界に立っている。

命令とお願いの境界は、まだ曖昧だ。
でも、その曖昧さの中で――
僕は確かに、ダレルさんを、良く見ている。

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