7 / 22
異世界暮らしの第一歩
しおりを挟む
――異世界に暮らすための、小さな一歩
冒険者ギルドで受けた最初の依頼は、拍子抜けするほど地味なものだった。
街外れの倉庫に出る害獣の駆除。
危険度は低く、報酬も少ない。
「……これで、いいんでしょうか」
掲示板を見上げながら、思わずそう呟く。
「最初は、これがいいです」
ダレルさんは、静かに頷いた。
「あなたが……冒険者の仕事の流れを知るには、ちょうどいいです」
僕は深呼吸して、依頼書を剥がす。
「……じゃあ」
一瞬、言葉に詰まる。
「えっと……お願いします。
ダレルさん」
それは、命令というより、お願いに近かった。
それでも。
「承知しました。
ご主人、ハル様」
彼はそう言って、頭を下げた。
胸の奥が、少しだけ、くすぐったくなる。
――ああ、今。
僕は確かに、この世界で「誰かと生きる選択」をしたのだ。
⸻
依頼を終え、報酬を受け取った帰り道。
日が傾き、肌寒さを感じ始めていた。
「今日は……ここで休みましょうか」
野営用の小さな広場。
僕は慣れない手つきで、火起こし用の道具を取り出す。
……が。
「……つかない」
何度やっても、火花は散るだけだ。
「僕も、魔法とか……使えたら良かったな……」
ぽつりと漏らした言葉に、ダレルさんは首を振った。
「この程度なら」
彼は、慣れた手つきで薪を組み、
指先が光り、火が宿る。
魔法で湯を沸かし、簡単な食事を用意する。
その動きは、あまりにも自然だった。
「……僕」
手を止めて、呟く。
「何も、できないですね」
この世界で価値を持つもの。
魔法、体力、知識。
どれも、僕には足りなかった。
「……いいえ」
ダレルさんは、即座に否定した。
「あなたが……ここにいるから、
俺は、こうして役に立てる」
その言葉は、慰めではなかった。
その事実に、胸が少し、ひりついた。
⸻
夜。
焚き火の音だけが、静かに響く。
首輪が、炎に照らされて鈍く光っていた。
「……ダレルさん」
勇気を出して、聞いてみる。
「その首輪……
外せる方法は、あるんですよね」
彼は、一瞬だけ動きを止めた。
「……あります」
「……そう、ですか」
胸が、ざわつく。
もし、外れたら。
彼は、自由になる。
――そして。
「……正直に言うと」
僕は、膝を抱えた。
「……不安なんです」
視線を落としたまま、続ける。
「あなたがいなくなったら、
僕……この世界で、ちゃんと暮らせる気がしなくて」
情けない言葉だと思った。
縋っているのは、僕の方だ。
でも。
「……ハル様」
ダレルさんの声は、驚くほど穏やかだった。
「首輪がなくても……
俺は、離れません」
「え……?」
「これは、鎖ですが」
彼は、そっと首輪に触れる。
「同時に……
あなたが、この俺に繋がっている証でもある」
僕の方を見る。
「あなたがいなければ、
俺は……また、滲んだ世界に戻る」
焚き火が、ぱちりと弾ける。
首輪を外す未来は、確かに見えた。
でも。
それは、今じゃない。
「……じゃあ」
小さく、息を吸って。
「……しばらくは、このままで」
それは、命令でも、お願いでもない。
ただの、選択だった。
「承知しました」
彼は、深く頭を下げる。
「……
俺は、あなたの世界に、います」
その言葉に、胸が、静かに満たされた。
―
互いに、相手がいなければ生きていけないと気づきながら、
それを「依存」ではなく「役割」と呼んでいる、危うい関係。
でも、その夜は。
焚き火の温もりの中で、
二人とも、少しだけ安らかに眠れた。
冒険者ギルドで受けた最初の依頼は、拍子抜けするほど地味なものだった。
街外れの倉庫に出る害獣の駆除。
危険度は低く、報酬も少ない。
「……これで、いいんでしょうか」
掲示板を見上げながら、思わずそう呟く。
「最初は、これがいいです」
ダレルさんは、静かに頷いた。
「あなたが……冒険者の仕事の流れを知るには、ちょうどいいです」
僕は深呼吸して、依頼書を剥がす。
「……じゃあ」
一瞬、言葉に詰まる。
「えっと……お願いします。
ダレルさん」
それは、命令というより、お願いに近かった。
それでも。
「承知しました。
ご主人、ハル様」
彼はそう言って、頭を下げた。
胸の奥が、少しだけ、くすぐったくなる。
――ああ、今。
僕は確かに、この世界で「誰かと生きる選択」をしたのだ。
⸻
依頼を終え、報酬を受け取った帰り道。
日が傾き、肌寒さを感じ始めていた。
「今日は……ここで休みましょうか」
野営用の小さな広場。
僕は慣れない手つきで、火起こし用の道具を取り出す。
……が。
「……つかない」
何度やっても、火花は散るだけだ。
「僕も、魔法とか……使えたら良かったな……」
ぽつりと漏らした言葉に、ダレルさんは首を振った。
「この程度なら」
彼は、慣れた手つきで薪を組み、
指先が光り、火が宿る。
魔法で湯を沸かし、簡単な食事を用意する。
その動きは、あまりにも自然だった。
「……僕」
手を止めて、呟く。
「何も、できないですね」
この世界で価値を持つもの。
魔法、体力、知識。
どれも、僕には足りなかった。
「……いいえ」
ダレルさんは、即座に否定した。
「あなたが……ここにいるから、
俺は、こうして役に立てる」
その言葉は、慰めではなかった。
その事実に、胸が少し、ひりついた。
⸻
夜。
焚き火の音だけが、静かに響く。
首輪が、炎に照らされて鈍く光っていた。
「……ダレルさん」
勇気を出して、聞いてみる。
「その首輪……
外せる方法は、あるんですよね」
彼は、一瞬だけ動きを止めた。
「……あります」
「……そう、ですか」
胸が、ざわつく。
もし、外れたら。
彼は、自由になる。
――そして。
「……正直に言うと」
僕は、膝を抱えた。
「……不安なんです」
視線を落としたまま、続ける。
「あなたがいなくなったら、
僕……この世界で、ちゃんと暮らせる気がしなくて」
情けない言葉だと思った。
縋っているのは、僕の方だ。
でも。
「……ハル様」
ダレルさんの声は、驚くほど穏やかだった。
「首輪がなくても……
俺は、離れません」
「え……?」
「これは、鎖ですが」
彼は、そっと首輪に触れる。
「同時に……
あなたが、この俺に繋がっている証でもある」
僕の方を見る。
「あなたがいなければ、
俺は……また、滲んだ世界に戻る」
焚き火が、ぱちりと弾ける。
首輪を外す未来は、確かに見えた。
でも。
それは、今じゃない。
「……じゃあ」
小さく、息を吸って。
「……しばらくは、このままで」
それは、命令でも、お願いでもない。
ただの、選択だった。
「承知しました」
彼は、深く頭を下げる。
「……
俺は、あなたの世界に、います」
その言葉に、胸が、静かに満たされた。
―
互いに、相手がいなければ生きていけないと気づきながら、
それを「依存」ではなく「役割」と呼んでいる、危うい関係。
でも、その夜は。
焚き火の温もりの中で、
二人とも、少しだけ安らかに眠れた。
23
あなたにおすすめの小説
一日の隣人恋愛~たかが四日間、気がつけば婚約してるし、公認されてる~
荷居人(にいと)
BL
「やっぱり・・・椎名!やっと見つけた!」
「え?え?」
ってか俺、椎名って名前じゃねぇし!
中学3年受験を控える年になり、始業式を終え、帰宅してすぐ出掛けたコンビニで出会った、高そうなスーツを着て、無駄にキラキラ輝いた王子のような男と目が合い、コンビニの似合わない人っているんだなと初めて思った瞬間に手を握られ顔を近づけられる。
同じ男でも、こうも無駄に美形だと嫌悪感ひとつ湧かない。女ならばコロッとこいつに惚れてしまうことだろう。
なんて冷静ぶってはいるが、俺は男でありながら美形男性に弱い。最初こそ自分もこうなりたいと憧れだったが、ついつい流行に乗ろうと雑誌を見て行く内に憧れからただの面食いになり、女の美人よりも男の美人に悶えられるほどに弱くなった。
なぜこうなったのかは自分でもわからない。
目の前のキラキラと俺を見つめる美形はモデルとして見たことはないが、今まで見てきた雑誌の中のアイドルやモデルたちよりも断然上も上の超美形。
混乱して口が思うように動かずしゃべれない。頭は冷静なのにこんな美形に話しかけられれば緊張するに決まっている。
例え人違いだとしても。
「男に生まれているとは思わなかった。名前は?」
「い、一ノ瀬」
「名字じゃない、名前を聞いているんだよ」
「うっ姫星」
イケメンボイスとも言える声で言われ、あまり好きではない女のような名前を隠さずにはいられない。せめて顔を離してくれればまだ冷静になれるのに。
「僕は横臥騎士、会えて嬉しいよ。今回は名前だけ知れたら十分だ。きあら、次こそはキミを幸せにするよ」
「はい・・・おうが、ないと様」
「フルネーム?様もいらない。騎士と呼んで」
「騎士・・・?」
「そう、いいこだ。じゃあ、明日からよろしくね」
そう言って去る美形は去り際までかっこいい姿に見惚れて見えなくなってから気づいた。美形男のおかしな発言。それと明日??
まさかこれが俺の前世による必然的出会いで、翌日から生活に多大な変化をもたらすとは誰が思っただろう。
執着系ストーカーでありながら完璧すぎる男と平凡を歩んできた面食い(男限定)故、美形であればあるほど引くぐらいに弱い平凡男の物語。
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ぼくが風になるまえに――
まめ
BL
「フロル、君との婚約を解消したいっ! 俺が真に愛する人は、たったひとりなんだっ!」
学園祭の夜、愛する婚約者ダレンに、突然別れを告げられた少年フロル。
――ああ、来るべき時が来た。講堂での婚約解消宣言!異世界テンプレ来ちゃったよ。
精霊の血をひく一族に生まれ、やがては故郷の風と消える宿命を抱えたフロルの前世は、ラノベ好きのおとなしい青年だった。
「ダレンが急に変わったのは、魅了魔法ってやつのせいじゃないかな?」
異世界チートはできないけど、好きだった人の目を覚ますくらいはできたらいいな。
切なさと希望が交錯する、ただフロルがかわいそかわいいだけのお話。ハピエンです。
ダレン×フロル
どうぞよろしくお願いいたします。
カワウソの僕、異世界を無双する
コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26
BL
本編完結いたしました♡コツメたん!無双おめでとう㊗️引き続きの番外編も完結しました💕
いつも読んでいただきありがとうございます♡ ほのぼのとワクワク、そしてコツメたんの無双ぶりを楽しんで下さい!
お気に入り1200越えました(new)❣️コツメたんの虜になった方がこんなにも!ʕ•ᴥ•ʔキュー♡
★★★カワウソでもあり、人間でもある『僕』が飼い主を踏み台に、いえ、可愛がられながら、この異世界を無双していく物語。
カワウソは可愛いけどね、自分がそうなるとか思わないでしょ。気づいたらコツメカワウソとして水辺で生きていた僕が、ある日捕まってしまった。僕はチャームポイントの小さなお手てとぽっこりお腹を見せつけながら、この状況を乗り越える!僕は可愛い飼い主のお兄さん気分で、気ままな生活を満喫するつもりだよ?ドキドキワクワクの毎日の始まり!
BLランキング最高位16位♡
なろうムーンで日間連載中BLランキング2位♡週間連載中BLランキング5位♡
イラスト*榮木キサ様
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない
結衣可
BL
戦の傷跡が癒えた共生都市ルーヴェン。
人族と獣人族が共に暮らすその街で、文官ユリス・アルヴィンは、穏やかな日々の中に、いつも自分を見守る“優しい視線”の存在を感じていた。
その正体は、狼族の戦士長出身の護衛騎士、ガルド・ルヴァーン。
無口で不器用だが、誠実で優しい彼は、いつしかユリスを守ることが日課になっていた。
モフモフ好きなユリスと、心配性すぎるガルド。
灰銀の狼と金灰の文官――
異種族の二人の関係がルーヴェンの風のようにやさしく、日々の中で少しずつ変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる