眼鏡奴隷の恋と元病弱美少年

こむぎこ7g

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居てほしいんです

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夜の宿は、思ったよりも静かだった。

外ではまだ人の気配があるはずなのに、
この部屋だけが、切り取られたみたいに落ち着いている。

灯りは、小さなランプひとつ。

ダレルさんは、壁際に座り、
眼鏡を外して、丁寧に拭いていた。

その仕草が、やけに落ち着いて見えて――
胸の奥が、少しだけ、ざわつく。

「……あの」

声をかけると、彼はすぐに顔を上げる。

「はい」

返事が、近い。

「……今日のこと、なんですけど」

何を言いたいのか、自分でもはっきりしないまま、
言葉を探す。


全部、大事で、
全部、うまく言えない。

「……もし」

視線が、床に落ちる。

「もし、ですよ」

前置きが、無駄に増える。

「ダレルさんが……
ここに、居なくなったら」

そこで、初めて気づいた。

喉が、詰まっている。

「……たぶん、僕」

息を吸う。

「この世界で、
ちゃんと立っていられない気がします」

沈黙。

ダレルさんは、何も言わない。

だから――
だからこそ。

「……だから」

顔を上げて、彼を見る。

眼鏡は、まだ手の中。
その奥の目は、裸のまま。

「居てください」

思考よりも、先に。

「……僕のそばに」

言ってから、はっとする。

――あ。

これは、お願いだろうか。
命令だろうか。

分からない。

でも。

「命令、とかじゃなくて……」

慌てて、言い足す。

「その……
僕が、困るから、とかじゃなくて……」

言葉が、迷子になる。

それでも。

「……居てほしいんです」

それだけは、揺らがなかった。

長い沈黙。

ランプの火が、小さく揺れる。

やがて。

「……ハル様」

呼ばれ方が、少しだけ、柔らかい。

「それは」

彼は、眼鏡を持ち上げ、
ゆっくりと掛け直す。

カチリ、と音がする。

「俺にとっては……
十分すぎる、命令です」

胸が、強く鳴った。

「……え」

「ですが」

一歩、近づく。

「お願いとしても、
喜んで、受け取ります」

近い。

怖くない。

ただ、温かい。

「……ずるいですね」

小さく、そう言うと。

彼は、ほんの少しだけ、笑った。

「……そうかもしれません」

それ以上、何も言わなかった。

でも。

その夜。

ダレルさんは、いつもより、
僕の近くで眠った。

首輪は、外れていない。

それでも。

――「居てほしい」

その一言だけで、
関係は、もう、戻れないところへ進んでいた。

――無自覚に、「居てほしい」と言ってしまった夜。

言葉に後悔は無い。



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