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一緒に、生きたい
しおりを挟む灯りを落としたあとも、
部屋はすぐには暗くならなかった。
ランプの残光が、壁に柔らかい影を作る。
「……近くで、休んでもいいですか」
ダレルさんの声は、低くて、静かだった。
命令を待つ響きではない。
確認でもない。
ただの、選択の問い。
「……はい」
即答していた。
床に敷いた毛布は、二人分にしては少し狭い。
でも、それを理由に断る気は、最初からなかった。
横になると、
彼の体温が、すぐに分かる。
近い。
でも、触れない。
「……眠れそうですか」
「……はい。今日は」
嘘ではなかった。
眼鏡は、枕元に置かれている。
外した彼の横顔は、昼よりも穏やかで、
どこか幼く見えた。
「……ダレルさん」
呼ぶと、すぐに応じる。
「はい」
「……居てくれて、ありがとうございます」
それは礼だった。
でも、告白に近い。
彼は、少しだけ間を置いてから言った。
「……こちらこそ」
「居ていいと、
言ってもらえたので」
その言葉で、
胸の奥が、静かに満たされる。
この人は、
もう“居場所”としてここにいる。
眠りに落ちる直前、
彼が、ほんの少しだけ近づいた。
触れない距離のまま。
その夜、
僕は一度も、悪夢を見なかった。
⸻
朝。
光が、部屋に差し込む。
目を開けると、
最初に見えたのは、
眼鏡を掛け直しているダレルさんだった。
朝の光を受けて、
真面目すぎるほど真面目な姿勢。
「……おはようございます」
「……おはようございます」
自然に、同時だった。
彼は、少し迷ってから、
一枚の紙を差し出す。
命令文書。
「……昨日、役所で」
「え……?」
「この項目」
指差された一行。
――“主の安全および生活維持に必要と判断される場合、
奴隷は主の近くに待機すること。”
「……追記、されていました」
胸が、跳ねる。
「それって……」
「はい」
落ち着いた声。
「公式には、
“居てほしい”が、
書かれた形です」
言葉を、失う。
「……取り消しますか」
彼は、淡々と聞いた。
取り消せる。
正しい判断かもしれない。
でも。
「……いいえ」
首を振る。
「……このままで、いいです」
それは、命令だったか。
それとも、願いだったか。
分からない。
でも、彼は。
「承知しました」
と、深く頭を下げた。
首輪が、朝の光を反射する。
「……ダレルさん」
「はい」
「今日も……
一緒に、行ってください」
少し、照れた。
でも、目は逸らさなかった。
「命令、ですか?」
柔らかい声。
「……お願い、です」
彼は、少しだけ微笑む。
「では」
一歩、近づいて。
「喜んで」
眼鏡の奥で、
世界が、穏やかに定まる。
首輪は、まだ外れない。
でも、鎖は、もう意味を変えている。
――居てほしい。
――一緒に、生きたい。
言葉にしなくても、
もう、十分だった。
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