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 今日も今日とて、ヴィクトリアは、「こんな日常はもう嫌だ」とぴぃぴぃないている。
 そのなき声も、「たいへん、姫様が家族が恋しくて泣いていらっしゃるわ!」と、使用人に勘違いされて、報告を受けた兄がすっ飛んできてぎゅうぎゅうっと抱きしめられるのだ。

「ぴぃー! 『ちょ、ちがうから、ちがうからー。おにいさまを呼んでなんて、わたくし言ってない!』」
「リア、おーよしよし。お兄さまが来たからにはもう安心だぞ。今日は何をして遊ぶ? シャボン玉バトルとかは?」
「ぴ! 『いや! シャボン玉バトルって、シャボン玉の中に入れられてお兄さまや、リクガメ国の王子のショーリお兄さまに、けとばされるだけの遊びじゃない!』」
「いや、ほらだって。リアだって喜んでるじゃないか」
「ぴー!『喜んでない!』」

 またもや意思が通じない。わざと通じていないふりをしているのかというほど、ヴィクトリアの言葉という言葉が、一周回った上にねじられて斜め右どころかぐるぐる回転状態になっているかのような反応をされる。彼女の言葉は兄や大人たちにもわかるはずなのに。

 兄のガニアンはじめ、家族が、憎たらしく鬱陶しい。しかし、全く似ていない自分を愛し可愛がってくれて嬉しくも感じ、複雑な心を小さな彼女は持て余していた。

 ガニアンと仲良しのショーリも、ガニアンと一緒にヴィクトリアを構うものだから、もうしっちゃかめっちゃかにされ、せっかくの羽毛がボロボロになる。そうなると、兄たちはお互いに責任を押し付け合い、母である王妃に3時間ほど説教されるのだ。
 
 そんな、平和(ヴィクトリアにとっては災難続き)な日常が繰り返されていた。
 

 数年後、家族たちから鬱陶しいほどの愛を受け、すくすく育ったヴィクトリアは、同年代の少年少女たちよりもはるかに大きく育った。
 彼女たちが一緒にいると、大きな雛の保母さんが、小さな雛園児たちを引き連れているようだ。

 彼女と仲良くしている彼らも、子供たちだけになると、自分たちよりもはるかに大きい彼女とどう遊んで良いのか戸惑う。わざと彼女に意地悪をしているわけではない。どうしても、自然と仲間はずれのような状態になった。

「ぴぃ……」

 同年代の小さなコウテイペンギンの雛たちが楽しく遊んでいるところを、羨ましそうに、また、悲しそうに遠くから見ているだけのヴィクトリア。そんな彼女の姿を、乳母や侍女たちは大変心配していた。

「リア姫様、お友達のところに行かれては?」
「ぴ」

 ヴィクトリアは、「わたくしが行ったら、みんなが折角楽しく遊んでいるのを邪魔しちゃうから」と、他の子達よりも長く鋭いくちばしを横に振る。そんないじらしくも気の毒な彼女は、「なんておいたわしい」と周囲の涙を見て、ますます心がいたむのだった。

「ぴ」
「ひとりにして欲しいのですか? ですが、姫様…」
「ぴぴ」
「大丈夫よって……さようでございますか。それでは、何かございましたらお呼びくださいね」

 お姫様らしく飾られた大きな部屋には、キングペンギンの見た目の彼女がひとりっきりになると、やけに静かで、いつもより広く感じる。

 ほぼ1日中一緒にいた兄も、勉強が忙しくなり、少しずつひとりの時間が増えた。

「ぴぅ……『どうして、わたくしだけこんななの? 大人くらい大きくて、ふわふわもこもこしすぎる濃い茶色の羽毛だし、足は、まるで恐ろしい魔物のよう……。わたくしも、みんなと同じ姿がよかった……』」

 ヴィクトリアの周囲には、コウテイペンギンばかり。世界で、たったひとりになったような気持ちになり、くちばしを、肩の後ろの羽毛に埋めて頭を落としたのであった。


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