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 クリスマスイブの深夜、不甲斐ない弟王子が見事番を得た事もあり、その年の夜会はいつになく華やかでいつまでたっても慶祝気分が抜けなかった。

 次期女王であるタニヤは、弟と番の仲睦ましい様子を微笑んで見守り、日付が変わる少し前に兄である騎士団長に付き添われてテラスに出た。12月になると、ほぼ一年中強い陽の光を浴びているが若干肌寒い。太陽が完全に隠れた夜半は10度ほどに下がる。

 会場内は熱気もあり汗ばむほどだ。美しいタニヤは、ベールを羽織っているとはいえ、それは半透明で薄く肩から腕、そして魅力的な腹部、太ももの半ばから下のはちきれんばかりのみずみずしい健康的な肌を見せていた。

 横にいる、大きな体躯の兄が、外に出た事で寒暖差があり、彼女が寒くならないよう自らのマントをすっと彼女の肩にかける。

「お兄さま、ありがとう」

 タニヤが、男たちの頬を赤らませ欲情を誘う魅惑的な笑みを浮かべる。トーマスは彼女の正面に立ち、かけたマント越しに当てた手をそのままにして、真剣な眼差しで彼女の視線を絡めとった。

「タニヤ、愛している。お前もわかっているだろう? 俺たちが番だと」

  空気が一変し、タニヤの呼吸が数瞬止まる。二人がいるこのテラス以外の時がとまり、室内の音楽も人々の喧騒も消え去ったかのよう。

「お兄さま……突然なにを……。わたくしたちは兄妹で……あ……お、おやめくださいっ!」

 タニヤは、敬愛するこの国一番の美丈夫であるトーマスの言葉を聞き、兄である彼のその先を言わさないように口を開いた。

  トーマスはそんなつれない彼女の細く折れそうな体を、彼女の二回り以上は大きな体で囲うように抱きしめる。このような姿を他人に見られるわけにはいかない。タニヤは身じろぎをするが、彼の腕から逃れる事が叶わなかった。

「タニヤ……、愛してる。妹だからと、お前の幸せを願い、こうして側にいるために誰よりも鍛え上げ騎士団長になった。だが……」

「ん……、お兄さま、苦し……」

 タニヤを思うあまり、彼の体が力んで膨らんでいたため、思った以上に締め付けていたようだ。呼吸もしづらそうになっている愛する彼女を見て、トーマスは少し腕を緩めるが彼女を離しはしなかった。

「……タニヤ、お前が今日、王配になる男を受け入れるというのは本当か? これから、そいつと過ごすのか? 俺ではなく……」

 タニヤは視線をやや下げた状態で、捕えられた彼の腕の中で激しい熱さで見つめて来るトーマスの気持ちと、彼の言葉に対して返事になっていない言葉で返した。

「……わたくしは女王となる身です。民のために生き、国のために我が身を捧げると誓っておりますから、夫を得なければなりません……」

「俺という番がいるのに? お前も、気づいているのだろう?」

「……兄と妹は決して結ばれてはならないのです……」

 ハムチュターン族は多産だ。獣の姿でいるかぎり、増えても土地も食料もありあまるほどだが、それでも増え過ぎた時に番がいない兄弟姉妹での婚姻がなされる時代があった。
 すると、出生数が激減し、ハムチュターン族が滅亡の危機にさらされたのである。

 それ以来、近親婚はタブーとなっている。増え過ぎないよう避妊について人間の知識を得た。これまで、二人のように番が身内に現れる事はない。そのはずだった。

 物心ついた時には、二人はお互いに番だという事を認識していた。成長するにつれ心も体も、お互いを求めてやまなかった。それでも、番うわけにはいかない、だが、他の存在など考えられないと、ずるずるこの年齢まで互いに異性を得ることなく過ごしたのである。

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