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「タニヤ……、俺は、お前がほかの男の物になるのがどうしても受け入れられなかった。だから、父と母に、俺たちが番だという事を今朝打ち明けたんだ……」

「……!」

 ひゅっと、タニヤが息をのむ。逞しい彼の熱い胸の鼓動は、まるでタンボール(ドラム)を叩いているかのように激しく音を彼女に伝えていた。

「……。タニヤ、愛している。愛しているんだ。俺は、お前が得られるのなら、神の意志にも背こうと思った。罪は全て俺が引き受けようと、いや、いっそお前をこの腕に抱きしめたまま、滅びたいとさえ願った」

「おにいさま……わ、わたくし、わたくしだって……でも……、わたくしたちは兄と妹だから……」


 タニヤが、番である彼の言葉に感情が揺れ動き、瞬く間に涙が溢れだして来る。思わず、同じ思いを告げようとした時、トーマスの口から俄かに信じられない言葉が飛び出した。

「兄じゃない。俺たちは兄妹じゃなかったんだ……」
「え?」

「俺の両親は、父のはとこで俺が産まれてすぐに事故で他界した……。偶然知った父が、母に相談して、孤児院に入れられる予定だった俺を引き取って育ててくれたんだ。
  男だから王位継承権などといった事からも外れるし、次期女王である存在を守る盾にしたいという思惑もあったため問題なく受け入れられた。この事は、別に隠されていたわけではないが、実の兄弟姉妹のように愛され育てられたから、あえて血のつながりがないと言う必要もないと周囲も思っていたらしい……」

「……は?」

 タニヤは完全に混乱していた。思いもよらない彼の決死の告白と、今まで信じて疑わなかった彼との関係性が否定されたのだ。思考が停止し、瞼すら瞬きを忘れた。

「…………馬鹿馬鹿しいだろう? 父が言うには、多少近すぎる気もしたが仲も良いしこのままの状態で過ごせばいいと思われていたか、誰もがあえて言わなくても誰かが言っていると思っていたそうだぞ? まさか、俺たちが番で、しかも真相を知らないまま苦悩しているなど想像すらしていなかったんだと……。ダニエウ達ですら俺が引き取られた血の繋がりがない男だと知っていたというのに、今朝まで全く気付かなかった己が情けなく腹立たしい……」

「…………そんな、では、では……今までのわたくしの想いや努力は……」

「俺も、色々思う所や、言いたい事は山のようにある。だが今は……」

 トーマスの優しいグリーンの瞳が、タニヤの涙で潤み始めた輝く琥珀色の瞳をまっすぐに見つめる。彼らの弟であるダニエウ王子と同じように、彼の柔らかな金の髪は三つ編みにされてタニヤの右頬に少し当たっている。
 ほんの少し、その金の糸が彼女の頬を擽っているけれど、そんな微細な感覚は一切感じないほど、タニヤの五感全てが彼の視線と愛を伝える熱だけに囚われていた。

 トーマスの唇が、互いしか求めていない彼女のダークグレイの艶やかな髪に落ちる。その時、彼の熱を持つ吐息が耳にかかり、タニヤが彼の腕の中で軽く身じろぎをした。

「タニヤ……、このまま俺と……」

「おに、い、さま……」

「兄ではない。トムと呼んでくれ。陛下たちには、お前が受け入れるのならかまわないと、番う許可は得ている。俺を拒むな」

「おにいさま……トム……わたくし、夢を見ているのでしょうか?」

「夢かどうか、これでわかるだろう?」

 うっとりと、まだ信じられないと心ここにあらずといったタニヤに、独身だけでなく番を得ない夫人までぽーっと見惚れる魅力的な笑顔でトーマスが彼女の小さく柔らかな唇を覆った。

「ん……」

「はぁ、タニヤ。ずっとこうしたかった……」

 二人の吐息が絡み合う。まるで唇だけで二人の全てが溶け合うかのように、寂寥の念に駆られた今までの心が報われた。


 刹那、彼らの近くで爆発音とともに煙が現れたのであった。


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