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トーマスは瞬時にタニヤを背に守り、煙に向かって腰に差していた投擲用の小剣を投げた。投げるや否や、タニヤの周囲にだけ結界を張ると、愛用の大剣を煙の中にいる存在に向かって振り下ろす。
「何者だ!」
誰何すると同時に、現れた煙が真っ二つに割れた。その中には何もなく、手ごたえの全くなかった大剣の軌跡を即時に戻して構える。
「トムッ!」
背後で、愛しいこの世で唯一の美しい女性の自身の名を叫ぶ声がする。彼女をなんとしても守らねばならない。そして、そんな緊迫感に包まれた空間に大きな声が降り注いだ。
「あっぶねーなぁ! あのなぁ! 相手をよく見て攻撃してこいやああっ!」
ガラの悪い破落戸のようなダミ声を出したのは、赤い帽子に、同じ色の服を着た恰幅のよいサンタクロースのおじさんだった。
サンタクロースは顔を真っ赤にして怒り狂っていた。それもそうだろう、絶対不可侵であるはずのサンタクロースである自分が、目の前の大男にいきなり剣で殺されかけたのだ。だが、トーマスは警戒を全く解かず、剣の切っ先を彼に向けた。
「爆音とともに煙を出し突然狼藉を働いたのだ。ここがどこで、相手が誰かわかっているのか? 我が国の至宝になんたる無礼。死してその罪をあがなえ……」
「ひ! だってサンタだぞ? サンタへの攻撃は、いかなる場合も禁止事項でぇ! お前、自分が何をしているのかわかって……ひいい! け、剣を収めてくれぇ!」
サンタクロースはさっきまでの威勢や、怒り、プライドをかなぐり捨てて、悪鬼のようなトーマスにひれ伏した。世界中でサンタクロースの登場については不問とするよう協定が結ばれている。万が一にも彼らを傷つければ、トーマスは厳罰に処されるのだというのに。
ちなみに、サンタクロースの仕事は悪用できないように、特に実務部隊の彼らは魔法で職責をきちんと熟さねばならないと、その心臓に契約印が施されている。このため、これまでサンタクロースがこのように不法侵入をしようとも、人々の安全と平和が守られていた。
「騎士団長、剣を収めなさい。その方を傷つけてはなりません」
内心焦りながらタニヤが、次期女王として命を下す。あわやサンタのおじさんの頭と胴体が永遠にさようならをする未来を防いだ。
トーマスは、内心渋々ではあるが、公人としての立場をぎりぎり思い出すと、感情を表さない冷たい視線でサンタのおじさんを威風堂々と見下ろした。
タニヤがサンタクロースに対してトーマスこそ世界の条約を破ろうとした無礼を謝罪した事で、おじさんは無事に彼女にサンタクロースのプレゼントであるガチャ差し出しカプセルを渡す事が出来た。
「まあ、これが話に聞く幸せが約束されたというカプセルなのですね」
「あ、ああ。俺が消えたら開けるといい。きっと二人にとって素晴らしい物が出て来るはずだ。じゃあな、お似合いのお二人さん!」
サンタのおじさんは内心びびりながら、自分でも何を言っているのか分からない口上を述べた。
お似合いの二人と言われて、畏怖の中に嬉しそうな色を表すトーマスと照れて頬を赤らめるタニヤの姿を見る余裕などないまま、疾風よりも早くソリに戻った後、彼らの前から光速よりも早く消え去ったのであった。
「……すまない、タニヤ……。お前に危険が迫っていると思ったら止まれなかった」
愛する彼女が、100回処刑してもしたりない狼藉者に頭を下げさせる事態になった事を、心の底から反省しながらトーマスが彼女を抱きしめたのだった。
「トム……、怖かった。貴方が、サンタクロースを傷つけて処罰されると思うと、怖くて堪らなかったのです……。無事でよかった。でも、相手が誰であろうとこうしてわたくしのために行動する貴方は誰よりも素敵で……。嬉しいです……」
「タニヤッ!」
二人の視線が熱く、そして絡み合う。トーマスは、タニヤの心を得た以上待つ事など出来なかった。
他の男どころか、女からの視線すら遮るように、独占欲丸出しで先ほど肩にかけたマントで彼女をくるむように横抱きにする。愛しくて堪らないと訴える表情は、タニヤもまた、他の女性に彼を見て欲しくないと思うほど色気を発していた。
トーマスは大柄で、体重がある彼にとっては小さくて軽いとはいえ160センチはある成人女性を抱えている。
魔法も使わずに、会場に入るドアを開けるのではなく、5メートルはあるだろう高いテラスから彼女を抱いたまま、重力を感じさせないほど軽やかに地に降り立つ。そのまま、タニヤの住む離宮に向かったのであった。
「何者だ!」
誰何すると同時に、現れた煙が真っ二つに割れた。その中には何もなく、手ごたえの全くなかった大剣の軌跡を即時に戻して構える。
「トムッ!」
背後で、愛しいこの世で唯一の美しい女性の自身の名を叫ぶ声がする。彼女をなんとしても守らねばならない。そして、そんな緊迫感に包まれた空間に大きな声が降り注いだ。
「あっぶねーなぁ! あのなぁ! 相手をよく見て攻撃してこいやああっ!」
ガラの悪い破落戸のようなダミ声を出したのは、赤い帽子に、同じ色の服を着た恰幅のよいサンタクロースのおじさんだった。
サンタクロースは顔を真っ赤にして怒り狂っていた。それもそうだろう、絶対不可侵であるはずのサンタクロースである自分が、目の前の大男にいきなり剣で殺されかけたのだ。だが、トーマスは警戒を全く解かず、剣の切っ先を彼に向けた。
「爆音とともに煙を出し突然狼藉を働いたのだ。ここがどこで、相手が誰かわかっているのか? 我が国の至宝になんたる無礼。死してその罪をあがなえ……」
「ひ! だってサンタだぞ? サンタへの攻撃は、いかなる場合も禁止事項でぇ! お前、自分が何をしているのかわかって……ひいい! け、剣を収めてくれぇ!」
サンタクロースはさっきまでの威勢や、怒り、プライドをかなぐり捨てて、悪鬼のようなトーマスにひれ伏した。世界中でサンタクロースの登場については不問とするよう協定が結ばれている。万が一にも彼らを傷つければ、トーマスは厳罰に処されるのだというのに。
ちなみに、サンタクロースの仕事は悪用できないように、特に実務部隊の彼らは魔法で職責をきちんと熟さねばならないと、その心臓に契約印が施されている。このため、これまでサンタクロースがこのように不法侵入をしようとも、人々の安全と平和が守られていた。
「騎士団長、剣を収めなさい。その方を傷つけてはなりません」
内心焦りながらタニヤが、次期女王として命を下す。あわやサンタのおじさんの頭と胴体が永遠にさようならをする未来を防いだ。
トーマスは、内心渋々ではあるが、公人としての立場をぎりぎり思い出すと、感情を表さない冷たい視線でサンタのおじさんを威風堂々と見下ろした。
タニヤがサンタクロースに対してトーマスこそ世界の条約を破ろうとした無礼を謝罪した事で、おじさんは無事に彼女にサンタクロースのプレゼントであるガチャ差し出しカプセルを渡す事が出来た。
「まあ、これが話に聞く幸せが約束されたというカプセルなのですね」
「あ、ああ。俺が消えたら開けるといい。きっと二人にとって素晴らしい物が出て来るはずだ。じゃあな、お似合いのお二人さん!」
サンタのおじさんは内心びびりながら、自分でも何を言っているのか分からない口上を述べた。
お似合いの二人と言われて、畏怖の中に嬉しそうな色を表すトーマスと照れて頬を赤らめるタニヤの姿を見る余裕などないまま、疾風よりも早くソリに戻った後、彼らの前から光速よりも早く消え去ったのであった。
「……すまない、タニヤ……。お前に危険が迫っていると思ったら止まれなかった」
愛する彼女が、100回処刑してもしたりない狼藉者に頭を下げさせる事態になった事を、心の底から反省しながらトーマスが彼女を抱きしめたのだった。
「トム……、怖かった。貴方が、サンタクロースを傷つけて処罰されると思うと、怖くて堪らなかったのです……。無事でよかった。でも、相手が誰であろうとこうしてわたくしのために行動する貴方は誰よりも素敵で……。嬉しいです……」
「タニヤッ!」
二人の視線が熱く、そして絡み合う。トーマスは、タニヤの心を得た以上待つ事など出来なかった。
他の男どころか、女からの視線すら遮るように、独占欲丸出しで先ほど肩にかけたマントで彼女をくるむように横抱きにする。愛しくて堪らないと訴える表情は、タニヤもまた、他の女性に彼を見て欲しくないと思うほど色気を発していた。
トーマスは大柄で、体重がある彼にとっては小さくて軽いとはいえ160センチはある成人女性を抱えている。
魔法も使わずに、会場に入るドアを開けるのではなく、5メートルはあるだろう高いテラスから彼女を抱いたまま、重力を感じさせないほど軽やかに地に降り立つ。そのまま、タニヤの住む離宮に向かったのであった。
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