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大切な思い出たちと、これから作る沢山の思い出を君と一緒に ※

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 早朝から起きていた俺たちは、午前中は仮眠をした。なんと、レーニアから、俺と離れたくないと言ってくれたから、同じベッドで。

 俺としては男だし。ここは期待に応えようと、可愛らしく俺に縋るレーニアを、そっと抱き寄せキスしようとした。

「レーニア………………?」

 ところが、俺が身じろぎしたのに彼女の反応がない。

「すぅ……すぅ……」

 すっかり安心しきって眠る彼女を、このまま抱きしめて彼女が起きるまで見守りたいような、気持ちがようやく通じ合い、このままめくるめく愛のひと時を過ごしたいような。

「……マジか」

 俺は、空いている右手で顔の上半分を覆い、体をぴったりくっつける彼女の甘い香りと柔らかな誘惑に必死に抗った。


 午前中いっぱい、天国であり地獄のような時間を過ごし、昼食を済ませた後、俺たちはどちらからともなく手を繋いで宿の近くの繁華街に繰り出した。

 観光地なだけあって、この周辺は色んな宿も店もある。俺たちの利用している宿は、貴族か金持ちの商人くらいしかいないが、繁華街は平民たちも沢山いる。ごった返していて、油断するとレーニアを見失いそうだ。

「テーノ、ねぇ、あれ! 一体何かしら? 早く早くぅ!」

 楽しそうにはしゃぐレーニア。あのまま押し倒したら、絶対にこんな風にデート出来なかっただろう。残念だが、ひっじょーに、遺憾だが。

かわいいから、まあいっか。

「慌てなくても、まだまだ店は開いてるよ」

 レーニアがぐいぐい俺を、気になる店や景色にあっちこっち引きずりまわす。色んな国の食べ歩きができるような串焼きや、袋に入ったスナックなどがいっぱいだ。

「すごーい、ほら、見て見て!」

 レーニアが指さす方に、ちょっとした人だかりが出来ていた。人の隙間からなんとか覗くと、そこには精巧なアメ細工が並んでいて、客のリクエストに応えて店主が器用に作っていた。

「わあ、すごい……!」

 小さな女の子が、大きな羽の生えた妖精を手渡されていた。女の子の顔よりも大きいそれは、べっ甲あめで作られている。舐めるのももったいないくらいの精巧な作りで、女の子は満面の笑顔で喜んでいた。

「お? 新婚さんかな? おにいさん、綺麗な奥さんのためにおひとつどうだい? リクエストがあったら作りますよっ!」

 大きさにもよるが、ひとつあたりの値段が少し高めだ。俺たちの格好が羽振りの良い金持ちに見えたのだろう。

「折角だからひとつつくってもらおうか。レーニア、何がいい?」

「え、いいの? じゃあね、じゃあねぇ……どうしよう何がいいかしら。……うーんと……」

 顎に人差し指をちょんっとつけて、店に飾られている色んな細工を眺めながら、レーニアが頼んだのは──





「ふふふ」

「レーニア、食べないのか?」

「だって、勿体ないんですもの」

 俺は、彼女の望むものを作ってくれた店主に、チップをはずんだ。小さな子がまだまだたくさんいて欲しそうだったから、それで子供たちにアメをプレゼントして欲しいと言うと、わっと歓声があがる。

 店主は、今日一日分以上の実入りがあったのだろう。にこにこ笑顔で、子供たちに小さな蝶や花、かわいい虫や動物をかたどったアメを作ってくれた。子供たちの笑顔を見ると微笑ましい。いずれ、俺たちの子もあんなふうに笑って過ごせる家庭を作りたいと思う。

 子供たちの親からはお礼がたくさん言われて、なんだかくすぐったい気持になった。

 宿に帰り、夕食を食べた後も、レーニアは嬉しそうにアメ細工を眺めてはにやついている。こんなアメひとつで喜んでくれるなんて、俺のレーニアは世界一優しくて可愛い女性だろう。

 レーニアが両手で大事そうに持っているのは、髪飾りとそっくりなタンポポの花のアメ細工。あまりの彼女の悦び様に、店主が風船のように膨らませたビニール袋で、アメの部分をくっつかないように包んでくれている。

「テーノ、わたくしね。今までもテーノにたくさんの思い出を貰ったの。これからはね、わたくしもテーノにもっとたくさんの思い出を作ってあげたいって思ってるのに、いつもわたくしばかり貰ってばかりね」

「レーニアも俺にくれているよ」

「え? わたくしなんて、何もあげてないわ?」

「わかってないなあ」

 俺は、きょとんとしているレーニアを抱き寄せた。彼女の手から、そっとタンポポのアメ細工をテーブルに置き、唇にキスを落す。

「俺の側にいて、ずっと俺を支えてくれた事。領地で俺のために出来る支援をしてくれた事。落ち込んだ時に、俺を一生面命看護してくれた事。そして」

「テーノ……」

「こうして、俺の願いにいつも応えてくれる。そんなレーニアのほうが、俺にたくさんの思い出をくれるんだ」

 レーニアの瞳が潤み、涙が目尻に少しこぼれた。

「レーニア、これからはふたり一緒に、数えきれないくらいの思い出を作ろう」

「はい」

 一つのベッドのシーツは、整えられたまま冷たさを保っている。その隣のベッドで、俺たちの重みと動きによって、シーツが乱れていく。すでに服を身につけていない俺たちの体温を吸い取るかのように、ベッドにまで熱がこもり、その熱に酔うみたいだ。

「あ、テーノ……ん……」

「はぁ、レーニア、綺麗だ」

 白いシーツに、彼女のやや桃色に染まった肢体が魅惑的に浮かんでいる。そこに漂流するかのように吸い寄せられ、俺は白い肌に赤のタンポポの花をひとつ、またひとつと咲かせた。

 俺が咲かせた覚えのない赤い花が彼女の胸にあった。口に含んだとたん、硬く尖る。柔らかい時の舌触りもいいが、吸い付きやすくなったそこを舌で転がしながら舐ると、レーニアの体がぴくつき、口から淫らな吐息が漏れる。
 
「レーニア、声を抑えないで」

「ん……だって、恥ずかしいから……」

「レーニアの声が好きだ。俺がこうして触れる度に、聞いた事のない俺だけがしる音をもっと聞かせて欲しい」

 そう言いながら、もう一つの赤い花を指でつまむ。すると、彼女は口を開いて声をあげて、俺の心を踊らせ翻弄するのだ。

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