【完結・R18】迷子になったあげく、いかがわしい場面に遭遇したら恋人が出来ました

にじくす まさしよ

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婚約者を探していたら、浮気現場と覗きをしている令嬢を見つけたのだが③ R15 右手はありませんよ

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 まさか、結合までの肉体関係があるとは思っていなかった。多少のあれこれは、噂話や、彼女たちの近すぎる距離を目にした時にあるかもしれないとは疑っていたが。

 あまりの光景に目を見張る。こういった男女のアレコレの姿は、閨教育で見せられた時以来だ。実地に関しては、どちらでもいいと言われたから経験していない。

 相手が自分の婚約者と、ローズ嬢の婚約者でしかも王子だ。少々どころか、多大に予想外すぎて、艶事なのにちっとも下半身にぴくりとも響いてこないのは、おそらく相手がふたりだからだろう。

 食い入るように覗きという変態行為をしてしまっている事に、この時は全く思い至らなかった。

 やがて、王子の動きがとまり、スカートで見えないが、恐らくは彼女の言葉と動作で、体内に吐精したと思われる。

 勿論、彼女と俺は清い仲だ。結婚後は必要最低限、後継者を作るために行為をしてもらうよう、どう考えても嫌がりそうなチェリー嬢に頼むしかないと思っていたのだが、これでは懐妊したとして誰の子かわかったものではない。

 現状、親の容姿を受け継ぐ事で実子の証とされているが、時々、親とは似ても似つかない色や顔の造りの子が産まれる事もある。

 大体の場合、不義を疑われるが、たまに先祖返りなどがある。そのため、令嬢は年頃になると男性とふたりきりにならないように最大限の努力をせねばならない。男とふたりきりになる場合は、使用人の目にとまるよう行動する事でしか身の潔白を証明出来ないのだ。

 だが、俺の婚約者どのは事情が違う。俺は他人の子を育てる趣味はないし我が侯爵家の血筋で無い者をどうして受け入れる事が出来ようか。

 なんともお粗末で馬鹿げた事だし、時と場所を考えずにうかつな行動をしたふたりに対して、怒りよりも呆れかえってしまう感情が大きい。そもそもチェリー嬢の事をなんとも思っていないどころか、さっさと縁を切りたいと思っているからだろう。

 色々考えがぐるぐる回るが、そんな事よりも、これは確たる証拠として婚約解消の材料にできると思う事のほうが強い。
 これで、父も俺の申し出に首を縦に振ってくれるだろう。思いもかけない幸運に笑みがこぼれそうだった。今後の事を考えても頭が痛いが、明るい未来のためだ。

 俺には、婚約者を繋ぎ止める男の魅力がなかったとかなんとか言われるくらいの傷がつくだろう。だが、構う事はない。それに、父の決めた相手の醜聞なのだから、次の相手は俺が望む令嬢にして欲しいと、ついでに交渉しようと思う。

 そう、例えば、我が家にとって、得どころか負債を抱えている損しかない、バイオレット子爵家の令嬢を迎え入れる事だって反対はしないだろう。

 良い案だと我ながら思う。彼女はきっと両親に気に入られると思うし、万が一そうでなければ、両親をさっさと追い出して俺が守ればいい。


 カシャカシャという高い音が何度も俺の手の中で生まれた。これは、最近開発された、キャメラというスイッチを押すと被写体がまるで絵に描いたかのように写りだされる物だ。
 付き合いのために高い金を出して買ったものの、使い道があるのか首をかしげたが、おかげで彼らの痴態を手に入れる事に成功した。
 できれば、もっとたくさんの証拠の写真を手に入れたいが、音が思いのほか大きくて、一回スイッチを押す度に、彼らに見つかるかもしれないとひやひやする。

 証拠はもう充分だろう。幸い、目撃者もいる。

 俺の目の前で、ふたりの痴態を凝視している彼女には、是非とも証言して欲しい。彼女の言動から、偶然居合わせて、あまりの光景に我を失っていたのだろうとは思う。純情そうなビオラ嬢が、嬉々として覗きをするような人物ではないと信じたい。

「怪しいとは思っていたが、なるほど。それにしても中で吐き出すとはな……馬鹿にされたものだ」

 どうも最近、思った事が口についてしまう。キャメラの音には気づいていなかったようなのだが、そんな俺の声を聞き、ビオラ嬢がびっくりした。体がびくんと小さく飛び跳ねたかと思うと、俺の方を見もせずに恐慌状態に陥ったようだ。

 思いもかけないほど、彼女が動転して声を荒げ始め、今度こそ見つかってしまうと焦った。叫び出されるかもしれない。そうなったら、この状況が大騒ぎになり、色々とまずい。

 だが、しばらく微動だにせずにいた彼らは、お互いに深い口づけを交わし始め第二戦に突入したようだ。完全にふたりの世界に入り込んでいるのか、こちらに気付く事はなさそうで安堵する。

 俺は彼女の口を塞ぐように手で覆った。ふにっとした柔らかい唇が手の平に当たり、さっきまでのあのふたりの痴態よりも、こっちのほうが俺の欲情をそそるなんて馬鹿な事が頭に浮かんだ。

 そうこうしているうちに、彼女の心がいっぱいいっぱいになっただろう。目を閉じて完全に体が脱力した。ゆさぶっても目を開けることはない。

 それもそうだろう。あんな物を見ただなんて、かわいいビオラ嬢の目と心と耳が穢れる。写真も手に入った事だし、俺は証人でもある小柄な彼女を横抱きにしてその場を離れた。背後では、肌がぶつかる音や嬌声、そして水の音がするが、どこか別の世界の産物のようにも感じられる。

 俺はただ、大切に抱き上げた彼女の柔らかさと、心地のよい香りに包まれた僥倖に神に感謝したくなった。目を閉じたままの彼女には届かないと思いつつも、声をかける。

「驚かせてすまなかったね。休める所に連れて行くだけだから失礼するよ……」

 ローズ嬢に、俺が彼女をびっくりさせたあげく失神させたなんて知られたら、ケダモノを見るかのような冷たい視線を向けられるだろう。

 だが、腕の中にいるビオラ嬢を離すつもりはない。ひとまずは静かな所で休ませてあげたいと、俺に用意された休憩室に行き、ソファにそっと横たえた。

「……目を覚ましたら、挨拶をして、求婚を……いや、まだ俺は婚約状態だから早い。証人として協力を仰いで、それから距離を少しずつ縮めて……くれるといいが……」

 俺以外の男は見た事がないだろう彼女の寝顔がとてもかわいくて堪らない。すやすや眠る小さな唇にキスをしたい。こんな事を女性に対して思ったのは初めてだ。だが、それは彼女の意思を確認して、俺に好意を抱いてくれている状態でしたいし、勝手にキスをするなんて紳士の面汚しでしかない。

 呼吸と共に上下する、豊かな二つの盛り上がりは、夜会用の胸元の空いたドレスのせいで強調されている。香水ではない、彼女の優しい香りが鼻腔から俺の体全体に染みわたる。
 さっきはぴくりともしなかった股間がむくむく立ち上がるのを感じる。だが、必死に違う事を考えて鎮めようとした。

「ん……」

 すると、意識のない彼女がうわごとか何かを発した。慌てて彼女に声をかけた時、寝ぼけた様子の彼女がこちらを向いてくれた。

 ドキドキと胸がうるさく鼓動を激しく繰り返す。何から話をしようか迷っていると、突然彼女が俺の頭をがしっとかかえたのだった。

「ローズ、さま……! ああ、とんでもない事が……いいえ、なんでもありません! それよりも、いつの間にここにいらしたのですか? えーと、えーっと! と、とにかく、ここから離れて……! ちょっと失礼いたしますわ!」

 視界には、何も見えないほど彼女の胸元に密着した。やわらかな、マシュマロよりももっと気持ちのいい感触が顔の両側から押して来る。

「わっ! ぶ……、何を? 離して……」

 びっくりしたし、何がなんだかわからない。目を白黒させながら離すように言ったが、完全に俺をローズ嬢と間違えているようで、ビオラ嬢は離してくれないどころか、ますます俺の頭を抱き寄せた。

 暫くして、彼女のおっぱいに挟まれている事に気が付いたのであった。
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