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真実をありのままに説明しても信じてくれません。……わたくしも信じないと思います。でも本当なのです!

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「いやな、そうじゃなくって! 泣くな、あんたが泣いてどうする! 俺の事はいいんだよ! 別にアイラと恋人とか夫婦とかになれなくてもいいんだからよ」
「まぁ……。キリアン様はお優しいのですね。愛する女性のために身を引くのも、尊い愛ですわ」
「ちっ。とにかく、アイラの幸せのためにあんたが邪魔なんだよ。それに、事ある毎にアイラをいじめぬいていたらしいじゃねえか。ちょっとばかり痛い目にあってもらうぜ」
「まあ……、学園の外の殿方にまで、わたくしはアイラ様をいじめていたと認識されているのですね。はぁ……」

 わたくしは、いじめた覚えはない。目の前でこけたり、噴水に飛び込んでびしょぬれになったり、ランチをご自分の不注意で落とされ涙を流したりした事は目にしましたけれども。ああ、落としたランチの代わりに、わたくしのサンドイッチを差し上げましたわ。

「あんた、アイラがこけて痛くて恥ずかしいのに高笑いをしたり、噴水に突き落としたり、ランチを地面に叩き落としたりしたらしいな」
「……。しておりません」

 そう、全てはアイラの不注意であり、その都度助けたりもしていましたのに、なぜかわたくしがいじめをしたと思われてしまったのです。

「嘘をつくな。とりまきの二人を使って散々嫌がらせもしたと聞いているんだぞ」
「とりまきではございませんっ! 彼女たちは、孤立しやすいわたくしの大切な親友なんですっ! とりまきという言葉は取り消してくださいませっ!」
「そ、そうなのか?」
「はい。お二人は、ぽつんと教室で一人でいる寂しかったわたくしに声をかけて下さり、何かと親切にしてくださった天使のような方たちなのです! 利権も求めず、純粋にわたくしと仲良くしてくださっているのですから、取り消しと謝罪を要求致します! なんなのです? よくも知らないくせに決めつけて! あの子たちの悪口を言うなんて最低ですわっ!」
「そりゃ、悪かった。俺が悪かったから落ち着けって。な?」
「ふーっ、ふーっ! あなたに彼女たちの素晴らしさの何がわかったというのですっ!」

 キリアンは、それまで冷静沈着だったわたくしの怒りに対して頭を下げた。それでも許せません。鼻息を荒くしつつ、彼女たちの素晴らしさを語るには一日二日では足らないくらいですので、とことん相互理解を求めようと、きっと睨みつけた。

「ごめんって、悪かったから。この通りだ! ほんと、すまない。とりまきなんて言ってしまい申し訳なかった」
「本当に悪いと思ってらっしゃるのですか? まあ、いいでしょう。今後、二度と彼女たちを侮辱する事は許しません」
「あ、ああ……。悪かった。…………ん? そうじゃなくてな、あんた!」
「何が違うというのです? わからなければとことん話し合いを致しましょうか」
「そうじゃないっ! とにかく、アイラをいじめたあんたを傷物にするためにここに拉致してきたの! わかる?」

 そういえば、わたくし拉致されたのでした。あまりの怒りにすっかり忘れてしまっていた。


 小一時間ほど話をすると分かった事がある。彼は、学園の噂通り、わたくしの事をアイラという恋い慕う幼馴染に対して悪逆非道な行為をした悪役令嬢と認識していた。
 アイラ様に幸せになって欲しいがために、悪役令嬢は断罪されるべくキリアンが立ち上がり、わたくしをサーシスという婚約者の立場からも引きずりおろすためにも、これから凌辱すると宣言したのである。

「アイラが嘘を言うわけないんだ。あいつは自分より他人の事を考える女なんだ。ずっと小さな頃から見守って来た俺が言うんだから間違いがない」



※※※※



「おーっほっほっほっほっ!」

  胸を反らしながら首を軽くくいっとあげて、右手の甲を口もとに当てながら高笑いしているわたくしには、騎士団長子息の婚約者がいる。

  背後に、わたくしの家の寄り子でもなんでもない、学園入学当時からなにかとわたくしを甘やかして構ってくれている親友たちが控えている。彼女たちはわたくしのオアシスともいえる存在で、今日も仲良くわたくしが焼いたマフィンでプチお茶会をしていた。

  目の前で、ストロベリーブロンド&碧眼の庇護欲を誘う可憐な姿で、わたくしの婚約者を狙うメギツネが下を向いて肩を震わせる。

  悪魔のような黒い髪と、平凡なブラウンの瞳のきつい容姿のわたくしとは大違い。

  彼女は、とても優しく(高位貴族の男子生徒にだけ)、殺伐とした貴族社会に現れた天使(男子生徒にとって)であり聖女(他に正当な聖女がいらっしゃる)らしい。

  先ほど、わたくしの目の前でいきなり顔面から地面にすっころんだ彼女は、くるんとアクロバティックな動きを見せて無傷で着地後、変顔をいくつもしてわたくしと親友たちの腹がよじれそうになるほど笑わせた。

  そんな時、婚約者である騎士団長子息なのに筋肉があまりついてない名誉だけの名ばかり騎士見習いであるサーシア様がいらした。
  背後から殺気を込めて睨み付けながら。

  そんな風に、彼とわたくしの仲は誤解からどんどん冷えていき、反比例するかのように二人は相思相愛に。

  『二人の切ない悲恋とそれを邪魔する感情のない悪役令嬢』

  わたくしは油断すると、

レモンのいれもん
ふとんがふっとんだ

  このレベルで下品に大笑いをしてしまうため、お父様お母様から笑うのを禁止されていた。

  ぶふっ!  ああ、ダメよ。思っただけでおかしいわ……。ふふふ、ははは……、はっ!  いけないっ!

  なるべく自分を律して感情を押し殺す日々。

   親友たち以外の皆様に、殺戮マシーンのようだと噂され、ますます孤立してしまいました。



※※※※




「でも、でも……。アイラ様がこけた時は、彼女がわたくしや親友たちに変なお顔の芸を披露してくださり、転ぶといっても、くるんと回転を見事にされて傷一つなく、素晴らしい彼女の姿とコミカルな様子に笑ってしまっただけでっ……!」
「もっとマシな嘘をつけよっ! 誰が信じるんだそんな話。あの子は不器用で、そんなサーカスの団員みたいな事をするわけがないだろう?」
「嘘のようなお話ですが、本当ですの……。しかも、わ、わたくし、実は笑い上戸でして。普段は笑えないから、アイラ様のあのお顔を見て、つい……」



 あの時の釈明を、きちんと必死にするけれど、事実しか言っていないのに信じてくれない。ああ、わたくしはこのままキリアンに凌辱されてしまうのかしら。

「まあ、何を言ってももう手遅れだな。これから悪役令嬢のあんたは俺に凌辱されるんだから。傷ものになったあと、そのまま町はずれに捨てられるんだぜ? ははは」

 彼は、いやらしく笑いながら、大きな手を伸ばして来たのだった。



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