完結 R18 BADーふたりを隔てるウォレス線

にじくす まさしよ

文字の大きさ
12 / 19

8

しおりを挟む
 以前の立場なら、ブラインが離れに入り浸るわけにはいかない。けれど、来月呼び出される、鳥肌ものの予定の日までは護衛としていてくれることになった。どちらにしても、離れには私とクローザしかいないし、監視があっても中まではブラインの魔法で覗く事ができないようになったから、彼には空いている部屋に住んでもらっている。
 おかげで、力仕事や、高い位置にある場所の掃除や修繕まで行き届くようになり、一週間後にはきれいな家に変化した。

「ブラインさん、クローザさん、ごはんにしましょう」

 今日のランチは、ブラインが獲ってきてくれたアユとイワナの塩焼きと、丸ごとタマネギのスープ、そしてポテトサラダを挟んだロールパン。半分はチーズをかけて焦げ目がつくくらいまで焼いている。

「すごい、こんなに丸まるとしてほっこりほろほろの川魚なんて初めてー。美味しいです」

 日本で昔食べたことのあるそれらよりも、二回りは大きい。串に通して、塩をつけて焼いただけなのだが、だからこそ美味しさが際立っている。

「裏に、これほど見事な川魚が獲れる川があるなんて。国に帰る前に、釣りをしてみたいものですね。手づかみでも面白そう」
「急流で、川底は尖った石もありますし、岩場も険しいのでおふたりはやめておいたほうが……」
「そうかー。怪我をするわけにはいかないですもんね。そんな危ない場所でこんなにも獲ってきていただいてありがとうございまーす」
「本当に。いい味方ができましたね、アカネ様」

 私とクローザが、次もこきつかおうという邪な気持ちでにこにこしていると、案の定ブラインは二つ返事でまた獲って来ると約束してくれた。

(チョロい。チョロすぎる……。もしかして、ブラインってヒロインのテンプレセリフでコロッといっちゃう、チョロいサブ主人公とかモブ枠なのかも)

 彼を見ると、簡単に美人局とかにひっかかりそうだと心配になる。彼の境遇を考えるに、世間に慣れていないのだろう。私たちを助けてくれるひとなのだから、しっかりそういう人たちから守ってあげようと思った。

 ところで、私はまだこの世界がどの小説とかゲームなのかわかっていない。有名なものを少しかじっただけだし、星の数ほどもあるエンタメのストーリーなど、それこそ漫画とかじゃあるまいし、ピンポイントでそうそうは合致しないと思う。

(でも、命を狙われているのよね。ブラインさんが言うには、過激派らしいけど、やっぱり私をざまあする何かの小説とか漫画とかゲームの中ってやつなのかしら? それにしても、しつこいなあ。早く逃げないと、マジでヤバいかも)

 そんな連中が、あれだけで諦めるとは思えない。これから、攻撃もさらに過熱していくだろうし、他の罠とか色々仕掛けられそう。
 まあまあ普通の不倫浮気者の妻みたいなポジションで、ほったらかしにされて自由に生きるとか離婚ものでよかったんだけど、現実はそう甘くはなさそうだ。

「アカネ様、伏せてっ!」
「はいっ!」

 過激派の攻撃は、これで5回め。クローザの声で、即座に伏せることができるようになった。そう、海外でピストルのような音だけで、周囲の人が一斉に瞬時に伏せるように。
 日本で過ごしていた頃の呑気なままだったら、「え? え?」って戸惑っているうちにヤられたと思う。

 しかも、今はブラインもいる。彼は、敵のいる方向に必ず移動して、私がかすり傷ひとつつけないように守ってくれるのだ。大きくて俊敏な彼が、人間防御壁になっているのだから、万が一にも攻撃が当たっても彼が全て受けてくれる。といっても、彼もやすやすとは攻撃に当たらないくらい素晴らしい攻防をしているのだから、ふたりがいれば出る幕がないくらい。

 ただ、敵も相当強いのか、毎回逃げられている。悔しい。

「ねぇ、私、この攻撃方法なら大丈夫だから、ブラインさんも捕まえに行ってくれないかしら?」
「しかし……」
「本当に、これが、もしも360度から襲ってきても大丈夫だから。ずっと、同じ攻撃魔法ばっかりだから、同じ人よね。また逃げられたら、これが、ずーーーーっと繰り返しになるんですよね。だから、ね?」

 私は、立ち上がると同時に、ブラインさんの背中を押した。そして、こっちにやってくる物体を次々切って落としていく。

「アカネ様、危ないですから」
「油断はしないようにするから、ほら、行って。クローザと挟み撃ちにしてくれる? ここで言い争っていると、また逃げられちゃうじゃないですか。私だって、戦えるんですよ」

「ブラインさん、アカネ様の言う通りです。行きましょう。この攻撃に関しては、私たちのほうが足手まといのようですし」

 私のそばを離れようとしない彼を、クローザが有無を言わさないような低い声で呼んだ。

「そうそう。他の攻撃ならともかく、今かけられている攻撃は、簡単な世界ランキング3位の曲のリズムと譜面じゃん。余裕余裕」

 クローザやブラインよりも素早く、確実に中心を切っていく。その様子を見ていたブラインは、真剣な眼差しで敵がいる方に足を向けた。

「よっ、ほっ。よーし、これで、ラストかな!」

 最後の立方体を、思いっきり切り落とす。そして、少し離れた場所から、ブラインとクローザがひとりの男を引きずって戻ってきたのであった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang
恋愛
皇女シエラ・ヒペリュアンと皇太子ジェレミア・ヒペリュアンは血が繋がっていない。 シエラは前皇后の不貞によって出来た庶子であったが皇族の醜聞を隠すためにその事実は伏せられた。 元々身体が弱かった前皇后は、名目上の療養中に亡くなる。 現皇后と皇帝の間に生まれたのがジェレミアであった。 "容姿しか取り柄の無い頭の悪い皇女"だと言われ、皇后からは邪険にされる。 皇帝である父に頼んで婚約者となった初恋のリヒト・マッケンゼン公爵には相手にもされない日々。 そして日々違和感を感じるデジャブのような感覚…するとある時…… 「私…知っているわ。これが前世というものかしら…、」 突然思い出した自らの未来の展開。 このままではジェレミアに利用され、彼が皇帝となった後、汚れた部分の全ての罪を着せられ処刑される。 「それまでに…家出資金を貯めるのよ!」 全てを思い出したシエラは死亡フラグを回避できるのか!? 「リヒト、婚約を解消しましょう。」         「姉様は僕から逃げられない。」 (お願いだから皆もう放っておいて!)

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

この結婚に、恋だの愛など要りません!! ~必要なのはアナタの子種だけです。

若松だんご
恋愛
「お前に期待するのは、その背後にある実家からの支援だけだ。それ以上のことを望む気はないし、余に愛されようと思うな」  新婚初夜。政略結婚の相手である、国王リオネルからそう言われたマリアローザ。  持参金目当ての結婚!? そんなの百も承知だ。だから。  「承知しております。ただし、陛下の子種。これだけは、わたくしの腹にお納めくださいませ。子を成すこと。それが、支援の条件でございますゆえ」  金がほしけりゃ子種を出してよ。そもそも愛だの恋だのほしいと思っていないわよ。  出すもの出して、とっとと子どもを授けてくださいな。

〈完結〉βの兎獣人はαの王子に食べられる

ごろごろみかん。
恋愛
α、Ω、βの第二性別が存在する獣人の国、フワロー。 「運命の番が現れたから」 その一言で二年付き合ったαの恋人に手酷く振られたβの兎獣人、ティナディア。 傷心から酒を飲み、酔っ払ったティナはその夜、美しいαの狐獣人の青年と一夜の関係を持ってしまう。 夜の記憶は一切ないが、とにかくαの男性はもうこりごり!と彼女は文字どおり脱兎のごとく、彼から逃げ出した。 しかし、彼はそんなティナに向かってにっこり笑って言ったのだ。 「可愛い兎の娘さんが、ヤリ捨てなんて、しないよね?」 *狡猾な狐(α)と大切な記憶を失っている兎(β)の、過去の約束を巡るお話 *オメガバース設定ですが、独自の解釈があります

可愛すぎてつらい

羽鳥むぅ
恋愛
無表情で無口な「氷伯爵」と呼ばれているフレッドに嫁いできたチェルシーは彼との関係を諦めている。 初めは仲良くできるよう努めていたが、素っ気ない態度に諦めたのだ。それからは特に不満も楽しみもない淡々とした日々を過ごす。 初恋も知らないチェルシーはいつか誰かと恋愛したい。それは相手はフレッドでなくても構わない。どうせ彼もチェルシーのことなんてなんとも思っていないのだから。 しかしある日、拾ったメモを見て彼の新しい一面を知りたくなってしまう。 *** なんちゃって西洋風です。実際の西洋の時代背景や生活様式とは異なることがあります。ご容赦ください。 ムーンさんでも同じものを投稿しています。

薄幸の王女は隻眼皇太子の独占愛から逃れられない

宮永レン
恋愛
エグマリン国の第二王女アルエットは、家族に虐げられ、謂れもない罪で真冬の避暑地に送られる。 そこでも孤独な日々を送っていたが、ある日、隻眼の青年に出会う。 互いの正体を詮索しない約束だったが、それでも一緒に過ごすうちに彼に惹かれる心は止められなくて……。 彼はアルエットを幸せにするために、大きな決断を……!? ※Rシーンにはタイトルに「※」印をつけています。

処理中です...