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「どういう、事かな?」

  もう一度問いかけた。今度は戸惑いの表情ではない。睨み付けながら。

「やだっ、こわい……。ご、ごめんなさい」

  ありえるが、これ見よがしにびくっと体を震わせてアキにしがみつく。

「おい、なんだよ、その態度は。ありえる、謝らなくていいから。えみり、お前が謝れよっ!  謝っても許さねえけどな」

 アキは、そんなありえるの肩を抱きしめて優しく声をかけた後、私に対してきつく言い返してきた。

「あのさ……、私を悪者にして、円満にありえるちゃんに乗り換えたいのはわかるけどさ。私と別れたいなら、こんな風に回りくどい事せず、好きな人が出来たって言ってくれたら良かっただけなのに。なのに、二人がかかりで詰め寄ってさ。ありもしない冤罪吹っ掛けてくるあなたたちこそ軽蔑する」

 私は、フラれて悲しいと思うよりも、なぜかとても冷静になった頭ではっきりとこう言った。二人は、まさか、卑劣な書き込みをした私が反省せずに冤罪だと言うなんて思わなかったのだろう。びっくりして目を見開いた。

「なっ」
「そんな」

 私は、最近のニュースを見て知っている事を伝えながら、更にたたみかける。

「ねえ、なぜ、私がその子の悪口言ったって確信してるのよ。SNSのアカウントなんて誰でも作ってなりすませるよね?  でさ、どの端末で、どこから発信されたかわかるんだよね? そういうのでちゃんと調べたわけ?」

「なりすましって……アカウントを複数持ってんのはお前だろ?  お前だっていう証拠なんて、俺らしか知らない内容が書いてあったんだ。俺じゃないし、ありえるが自分からあんな風に書くわけがない。残るはお前だ。お前しかいねーんだよ!」

 そんな書き込み、ってさっきから言ってるのに。そう、例えばそこにいてニヤニヤ笑っている女の子とかでも出来るだろう。

 そう思ってしまうのも無理はないと思った。だって、ありえるは、涙目になってても目がワクワクして輝いてる。こうしてアキと二人で言い争っているのを楽しそうに見ているのだから。

「その内容見せてよ」

  すると、ドヤ顔でそのスクショを見せられた。この間のダブルデートの内容の書き込みのあと、ありえるが、イケメン彼氏がいるのにアキにも媚売って取ろうとしていてムカつくとか、ブスとか、もっと酷い単語が並べられて書かれてあった。

「……で?」

「だから、これを書いたのはお前だって言ってんだよ。こんな事を書くなんて酷いやつだな。そもそもブスはお前だろ?  ありえるのほうが、普通に可愛いんだし」

「……ねえ、アキにとって私はなんだったの?」

 大好きで、信じていたのに心変わりされた。その上、ブスとか、ここまで悪しざまに言われないといけない事をいつしたのだろう。
 書き込みをしたのは私じゃないと言っても信じてくれない。先週、キスした時、好きだって何度も言ってくれた人と同一人物なのだろうかと悲しくなる。

 鼻の奥が痛くなってきた。泣くのをこらえようとしても、唇がわなないて、一言でも何かを言えば泣いてしまいそうだ。
 

「あのさ、えみり。俺は、本気でお前が好き。最初は、ありえるに泣きながら訴えらても、すぐにえみりが書き込んだなんて信じられなかった。信じたくなかった。でも、毎日のように酷く書かれて泣いているありえるを放っておけなくなったんだ。今は、あんな書き込みしたお前を好きだったなんて、見る目が無さすぎた自分が情けないよ」

「……何度も、言うよ。私は書き込みなんてしてないから。なぜ、私の言う事は信じられないの?」

「そりゃ、書き込み内容もそうだけど、長年付き合いの、ありえるの方を信じるだろ?  お前とはたった3ヶ月の付き合いだけだし」

「……」

 鼻水が少し出て来た。目尻に涙がたまり俯いてしまう。何も言えなくなって、彼の言う事を止められずにいた。

「それに、今回の事で、俺は、ありえるを幼馴染みとしてじゃなくて、女として好きだったって気づいたんだ。今までは幼馴染みじゃなくなるのが嫌で、気づかない振りをしてただけだって、やっと気づいたんだ」

「アキくんっ。ありえるもおんなじだよぉ。告白したら幼馴染じゃなくなるのが怖かった。でも、でも、ずっと好きだったの……。だから、他の女の子と付き合ったって聞いてショックで……。ありえるね、それでも、アキくんが幸せなら黙って見ていようって思ってたんだよ? でも、SNSでバレないからってあんな風に書かれて……。ありえるね、辛かった。でも、自分が辛いだけなら耐えられたの。ただ、あんな事を平気で書き込みできるえみりちゃんが、大事な、大好きなアキくんの彼女のままなんて、絶対嫌だって思ったのぉ……。ごめんなさい……。アキくん、好きでごめんなさい。幼馴染なんかじゃないの……」

「ありえる……」

  テーブルの模様をぼんやりと見ていると、向こう側でまたもや三文芝居的な何かが繰り広げられたみたいだった。

 もう、我慢が出来なかった。

 もともと、彼女が好きなら、なんで告白してきたの?

 涙が、ぽたりぽたりと、机に歪な水たまりを作っていく。


「それに、お前は俺をそんなに好きなんかじゃなかっただろ?  仕事で忙しいからって俺と合う時間すら作ってくれなかった。俺は学生だし、お前の忙しさが分かってないから寂しくても我慢して待っていたんだ。お前さ、俺がいなくてもいいんだろ? 会いたいなら時間くらい作れるよな? ……仕事ばかりのお前なんかより、コイツのほうが可愛いし俺がいてやらないとダメなんだ」

 もう、本当にダメなんだと思った。この時期のケーキ屋を舐めているとしか言いようがない。忙しい中、くたくたで、休日に寝込んでいたいくらい疲れててもデートした。
 毎日、数時間しか眠れないほどなのに、メッセージのやり取りの他、家に帰ってから眠い瞼を擦って、たわいのない彼との会話のために、1時間電話したのはなんだったのだろう。

 これだけ努力しても、貴方は足りなかったというのなら今ここでずるずる長引いても、次のバレンタインの時期なんかで結局はダメになるに決まっている。

 頭ではこんな風に、今すぐ別れた方がいいと冷静な自分自身が警告してくる。
 彼が社会人になった時とかに、毎日が3時間の睡眠の時期がある事が分かってくれる日がくるのだろうか? と、淡い未来に期待をして引き留めたくもなった。今さえ乗り越えられたらきっと大丈夫だと。

 いきなり告げられた言葉と、別れの時が来た事に心がきしむ。今すぐ、嘘だと言って欲しいと思った。
 
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