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ハムスターに本気で噛まれると穴があきますよね。噛まれるがまま警戒心を解くために我慢しようと……、は思わずに、痛くないよう防御しておきます

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 雪の中、どんどん降り積もる白に埋もれようとしている小さなものをそっと掬い上げた。

「わー、かわいい。えーと、灰色で黒の縦じまが一本あるし、ちっこいからジャンガリアンハムスターだ」

 確か、ハムスターは寒さに弱く仮死状態はまだいいほうですぐに天に召されると聞いた事がある。

〈このハムスターを適温の空気で包む〉

 すると、手の平の上で、鳴き声すらもう出さずに、ぷる、ぷると、小さく震えていた──というよりも小刻みの痙攣かもしれない──のが止まった。心なしか、鼻先の色がどす黒い感じになっていたのもピンクに変化していく。

「危なかったねぇ。もう少しで手遅れになる所だったわ。うーん、大雪原にぽつんと一匹ハムちゃん。どう見ても飼いハムスターじゃないよね」

 私は、このまま放置する事も出来ず連れて帰る事にした。ハムスターは今はスヤスヤ眠っているみたいで、ふわふわのお腹の動きがしっかり見て取れた。
 気のせいじゃなくて、やっぱりさっき見た姿は、こうして比べてみると色も悪かったし、毛もぺたんってなってて手足もお腹も動いてなかった。本当に危機一髪のところを保護できたのだと思いホッとする。


〈家に帰ろうっと〉


 そう日本語で言うと、あっという間に職場の近くの自宅に転移した。女神さま、チートありがとう! と、こういう時は感謝してしまう。

 小さな一軒家は、ちょうど売りに出された新婚夫婦用の間取りで一階部分しかない5LDKだ。土地がめちゃくちゃ広いから、一部屋一部屋も大きく全てが揃っていて前世のセレブの別荘なみ。熱の魔石のおかげで家全体は24時間快適な温度を保たれている。魔法ですぐに灯りをつけた。

 凍えて瀕死だったハムスターのために、ふんわりしたタオルで小さなベッドもどきを作り寝かせた。それから、自分にかけていた姿くらましのような魔法を解く。


〈変装解除〉


 実は、貴族などの魔力を持つ人には通じなかったし、王子を変装して騙すわけにもいかずに、姿かたちを隣国ではそのままの状態にしていた。だから、男たちが変態や痴漢になって狙われていたのだけれども、この周辺はいなかだし、職場には私みたいな貴族はいない。

 生身のままの姿だと、また、付け狙われたり、気持ち悪い視線で見られたり、ゴミを拾われて舐められたり、いかがわしい事に使われたり、言い寄って来たり、etcetc…………されるのがオチだ。偶然を装って痴漢してくる不埒な男もいる。
 だから、少々目尻とかパーツを少し変えた印象に見られるような魔法を使い、全くモテないようにしていたのである。

 とはいえ、基本の容貌は同じなのでライラにはすぐわかったのだった。

 勿論、化物じみた魔力を持つヨウルプッキ先輩にはその魔法はすぐに見破られた。平民なのに凄い人だと思っていたけれど、正体が魔族の血をひくエイヤフィラ国の王子なら、あの膨大な魔力所持も納得がいく。
 あらゆる男を虜&変態にするこの美貌(泣)に、彼は見向きもしなかった。多少、モヤっとしたけれど変態に変貌するよりはいい。それに、彼は仕事人間だったし、私もおじさんには興味がないので先輩後輩のいい関係を築いていたのである。

 家に帰れば一人だ。誰に見られる事もないため、ありのままの姿に戻りハムスターをそっと覗き込む。目がうっすら開いていたので起きたのがわかった。

「ハムちゃん、おはよう。もう大丈夫だよ。うーん。おがくずとかエサはまた準備するとして、お水飲むかな?」

 指先に水を一滴つけて、鼻先に近づけた。ひくひく小さな鼻とひげが動く。おそらく気配とか匂いを探っているのだろう。

「うわぁ、かーわい! ふふふ。お水だよ~」

 私は、小さな舌を出してペロペロって舐められるのを想像したしめっちゃ期待した。指先から始まる、私とかわいいハムスター物語が始まるのだ、と。



「ジーッ!」



 ところが、ハムスターは口を『イー』って感じに開いて威嚇しだしたのである。

 とっさに噛まれると思った。

 前世の友達が、

『ハムスターは本気で噛むと前歯が突き刺さるし、穴開くし、手を振って落そうとしても、ぷらんっとぶらさがるほど離さないよ。すっぽん以上に食らいつくからね』

と、言っていたのを思い出す。

 いや、待てよ。

 某アニメのお姫様は、可愛い初対面の動物の警戒を解くためにあえてがぶっと血が出るほど噛まれていたじゃないか。するとすぐに打ち解けて、仲良くなるシーンがあった気がする。



 私は、仲良くなりたいから噛まれるがままに指を差し出そう……



 だなんて、噛まれて流血&激痛なんてごめんだ。だから、指先に完全防御の結界を張った。これで、がぶーっと噛まれても安心安心。

 この間、約1秒ほどにも満たない。

「ジー! ジーーッ!」

 かくして、恩知らずのハムスターは、口を大きく開いてその尖った前歯で、水をつけた人差し指の柔らかい部分に噛みついて来たのであった。


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