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今年のラストワン賞のガチャの当選者は
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「じゃあねー! お幸せにぃ~! あ、それノークレームノーリターンだから! 全く、いくら私がチートあるからって、それをカプセルに入れろなんて無茶苦茶言われたんだから! 幸せにならなかったら承知しないんだからね!」
いくばくか言葉を交わした後、彼女がガチャを回してくれた。無事に先輩の入ったカプセルが出て来る。
ここからは野暮以外の何物でもない。私はそう言い残して、シンディ・アールトネン伯爵の前から消えたのであった。
※※※※
遠く、王宮から魔法を使って、最後のガチャを届けにエライーン国の孤児院近くに来た。この辺りに来るのは久しぶりだ。
「なっつかしい~。あ、孤児院まだある。良かった、父たちがいい人で」
私を公爵家にしばりつけるための人質扱いなど、心配するような事態にならずにホッとする。今頃は、新しい小さな子供たちが、先生たちに守られてすやすや眠っているだろう。
父は打算もあっただろうけれど良識的に判断してエライーン国と孤児院に、私をきちんと保護して育ててくれたお礼として多額の寄付をしたようだ。今も定期的に寄付を続けているらしい。
そんな風に、雪の降る夜空をトナカイカップルと一緒に飛んで考え事をしていると、小さな一軒家にたどり着く。
派手に煙を出して、いつもの口上を述べた先にいたのは、懐かしいいもうとと見知らぬ男性だった。
「エミリアお姉ちゃん?」
「え……ライラ? ライラなの?」
私は、仕事の事も忘れて泣きながら抱き締めあった。あれから5年以上が経過している。小さかったライラの成長が嬉しくて、あの時、約束を破った事が申し訳なくてわんわん泣いた。
あれからライラは、ライノが借りていた家で過ごしたらしい。15才になって仕事につき、今隣にいる青年と知り合ってついこの間結婚したようだ。
青年がライラを溺愛してくれているのがわかり、二人を祝福した。
「じゃあね、ライラ。お幸せに」
いつもと違って、訪問先であらゆるカップルからラブラブを見せつけられてやさぐれていたクリスマスの日がとても幸せな気分になった。
「あ、エミリアお姉ちゃん……あのね、もう会えない?」
ラストワン賞の特典として、ガチャを3回回してもらい、用事が済んだから去ろうとした時、ライラがおずおずとそう言った。平民で孤児の彼女にとっては、私は貴族の令嬢でありサンタクロースをしているとはいえ、そんな望みを言っていいのかどうか逡巡しているのが分かった。
「うーん。そうだなあ、お邪魔じゃなかったらまた近いうちに、きちんと二人をお祝いしにくるわね」
「うん! 私、待ってるから! 絶対来てね」
「ふふふ。来るとき手紙を出すわね? じゃあね~」
懐かしい再会を終えて、雪がどんどん多くなる夜空を駆ける。相変わらずトナカイカップルはラブラブで、今すぐにでも私を放り出して甘い夜を過ごしたいといった雰囲気を醸し出していた。
私は、今は前世の大型ディスカウントショップに売られているようなミニスカサンタちゃんのコスプレのような恰好をしている。
分厚いタイツを履いているとはいえ、風よけと温熱の魔法がなければ凍死してしまいそうなほど気温は低い。鼻の中の息が凍るほどなのだ。
「あー、疲れた~。今年はヨウルプッキ先輩に無茶苦茶こき使われたけど最後にご褒美があったー」
「サンタちゃん良かったわね~」
「気にしてたもんね~」
目の前で見つめ合うバカップルトナカイたちがちゅっちゅしても気にならないほど……、いや、気になるけども、羨ましいけれども。でも、それ以上にライラの幸せがこっちにもお裾分けしてくれたみたいにぽかぽかした。
「チ、チィ……」
「ん? トナカイちゃん、ちょーっとストップ!」
耳に何かの鳴き声が入ってきた。
この下は雪の降る何もない草原だ。もしかしたら、動物かなにかが倒れているのかもしれない。放置すれば死んでしまうだろう。
「ちょっと、サンタちゃんどうしたのー?」
「なんか気になるから降りるよー。二人はこのままデート楽しんで」
「うん。気を付けてね!」
「じゃあね、サンタちゃん」
そう言い残し、私は地上から100メートル下に降りていった。
「ぎゃー! 速い速いー!」
落下スピードがどんどん上がっていく。折角の風よけと温熱の魔法が解けてしまった。
物凄い風が襲いかかってきた。油断していたので一瞬、このままあの世に旅立つかと心臓がばくばくする。
〈ふんわり衝撃なく降り立つ! ついでに風と寒さも無くして暖かくして!〉
日本語で言えばチート発動。呪文とかだったら絶対唱えられなかったパターン。ジ・エンドもいいところ。
「ヤバかった……」
先ほどのショック状態の心のざわめきが治まらないけれど、ゆっくり降りながら先ほど耳にした声の持ち主を探す。
「あれ? 気のせいかな~? 何もいない……」
「チ……、チ……」
さくっと、5センチほど積もった新雪の上に降り立つ。やはり弱々しい声は聞こえたまま。
声を頼りに10メートルほど進む。
「あれ? いない……」
キョロキョロと倒れているかもしれない何かを探すが、月夜に照らされて輝く白しかない。
「ん……?」
不自然に、その白がへこんでいる場所があった。大きな何かが倒れ混んだようなその穴ぼこをじーっと見ると、その中央付近に手のひらよりも小さなものが、横になり丸まっていた。
いくばくか言葉を交わした後、彼女がガチャを回してくれた。無事に先輩の入ったカプセルが出て来る。
ここからは野暮以外の何物でもない。私はそう言い残して、シンディ・アールトネン伯爵の前から消えたのであった。
※※※※
遠く、王宮から魔法を使って、最後のガチャを届けにエライーン国の孤児院近くに来た。この辺りに来るのは久しぶりだ。
「なっつかしい~。あ、孤児院まだある。良かった、父たちがいい人で」
私を公爵家にしばりつけるための人質扱いなど、心配するような事態にならずにホッとする。今頃は、新しい小さな子供たちが、先生たちに守られてすやすや眠っているだろう。
父は打算もあっただろうけれど良識的に判断してエライーン国と孤児院に、私をきちんと保護して育ててくれたお礼として多額の寄付をしたようだ。今も定期的に寄付を続けているらしい。
そんな風に、雪の降る夜空をトナカイカップルと一緒に飛んで考え事をしていると、小さな一軒家にたどり着く。
派手に煙を出して、いつもの口上を述べた先にいたのは、懐かしいいもうとと見知らぬ男性だった。
「エミリアお姉ちゃん?」
「え……ライラ? ライラなの?」
私は、仕事の事も忘れて泣きながら抱き締めあった。あれから5年以上が経過している。小さかったライラの成長が嬉しくて、あの時、約束を破った事が申し訳なくてわんわん泣いた。
あれからライラは、ライノが借りていた家で過ごしたらしい。15才になって仕事につき、今隣にいる青年と知り合ってついこの間結婚したようだ。
青年がライラを溺愛してくれているのがわかり、二人を祝福した。
「じゃあね、ライラ。お幸せに」
いつもと違って、訪問先であらゆるカップルからラブラブを見せつけられてやさぐれていたクリスマスの日がとても幸せな気分になった。
「あ、エミリアお姉ちゃん……あのね、もう会えない?」
ラストワン賞の特典として、ガチャを3回回してもらい、用事が済んだから去ろうとした時、ライラがおずおずとそう言った。平民で孤児の彼女にとっては、私は貴族の令嬢でありサンタクロースをしているとはいえ、そんな望みを言っていいのかどうか逡巡しているのが分かった。
「うーん。そうだなあ、お邪魔じゃなかったらまた近いうちに、きちんと二人をお祝いしにくるわね」
「うん! 私、待ってるから! 絶対来てね」
「ふふふ。来るとき手紙を出すわね? じゃあね~」
懐かしい再会を終えて、雪がどんどん多くなる夜空を駆ける。相変わらずトナカイカップルはラブラブで、今すぐにでも私を放り出して甘い夜を過ごしたいといった雰囲気を醸し出していた。
私は、今は前世の大型ディスカウントショップに売られているようなミニスカサンタちゃんのコスプレのような恰好をしている。
分厚いタイツを履いているとはいえ、風よけと温熱の魔法がなければ凍死してしまいそうなほど気温は低い。鼻の中の息が凍るほどなのだ。
「あー、疲れた~。今年はヨウルプッキ先輩に無茶苦茶こき使われたけど最後にご褒美があったー」
「サンタちゃん良かったわね~」
「気にしてたもんね~」
目の前で見つめ合うバカップルトナカイたちがちゅっちゅしても気にならないほど……、いや、気になるけども、羨ましいけれども。でも、それ以上にライラの幸せがこっちにもお裾分けしてくれたみたいにぽかぽかした。
「チ、チィ……」
「ん? トナカイちゃん、ちょーっとストップ!」
耳に何かの鳴き声が入ってきた。
この下は雪の降る何もない草原だ。もしかしたら、動物かなにかが倒れているのかもしれない。放置すれば死んでしまうだろう。
「ちょっと、サンタちゃんどうしたのー?」
「なんか気になるから降りるよー。二人はこのままデート楽しんで」
「うん。気を付けてね!」
「じゃあね、サンタちゃん」
そう言い残し、私は地上から100メートル下に降りていった。
「ぎゃー! 速い速いー!」
落下スピードがどんどん上がっていく。折角の風よけと温熱の魔法が解けてしまった。
物凄い風が襲いかかってきた。油断していたので一瞬、このままあの世に旅立つかと心臓がばくばくする。
〈ふんわり衝撃なく降り立つ! ついでに風と寒さも無くして暖かくして!〉
日本語で言えばチート発動。呪文とかだったら絶対唱えられなかったパターン。ジ・エンドもいいところ。
「ヤバかった……」
先ほどのショック状態の心のざわめきが治まらないけれど、ゆっくり降りながら先ほど耳にした声の持ち主を探す。
「あれ? 気のせいかな~? 何もいない……」
「チ……、チ……」
さくっと、5センチほど積もった新雪の上に降り立つ。やはり弱々しい声は聞こえたまま。
声を頼りに10メートルほど進む。
「あれ? いない……」
キョロキョロと倒れているかもしれない何かを探すが、月夜に照らされて輝く白しかない。
「ん……?」
不自然に、その白がへこんでいる場所があった。大きな何かが倒れ混んだようなその穴ぼこをじーっと見ると、その中央付近に手のひらよりも小さなものが、横になり丸まっていた。
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