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サンタクロースは、恋人のためにある!②

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「サンタクロースなら、合法的に誰にも怪しまれずにどこでも出現できるだろう? だから、サンタのエミリアにシンディに会いに行ってもらいたいんだ」
「なるほど……。でも、会いに行くだけってその時に先輩はどうするんです? 大きすぎて隠れられませんよ?」

 確かに、警備などが厳重な王宮に忍び込むにはサンタクロースが一番いい。世界中から認められているのでスルーパスなのだ。


「僕をシンディが回すガチャのカプセルに入れて欲しい。チートのエミリアならできるだろう?」

「は? ちょっと待って。カプセルに人間を入れるなんて、そんな! 無茶だわ!」

「魔獣が入るんだ。カプセルから出て来た彼らがおかしい変貌を遂げたなんて聞いたことない。だから、僕をカプセルに仕込んでくれ!」

「やだやだやだ! そんな人体実験お断りよ! 賢者の石でも人体錬成に付きまとうあれこれがあったり、転移でも奇跡的なようなものなんですよ? 体が同一のままの転移ならともかく、一旦体をカプセルに入れるなんて狂気の沙汰ですよ! 私、失敗して先輩をあの世に旅だたせるなんて嫌!」

「エミリアのチートなら出来る! 前に、言ってただろ? この世界の言語じゃない言葉を言えばなんでもその通りになるって。あと、僕も魔力で自分を守るから!」

「えー……」

「とりあえずさ、色んなもので試してからでいいから。僕は、シンディが別の男のものになるくらいなら、今ここで首をくくる!」

「えー……」

 ヒートアップしていく先輩の話を聞けば、これが初恋らしい。恋人も出来た事のないDTだ。先輩のそんな事情は聞きたくもなかったけれども。ガチャのグッズであれこれを知っているくせに、拗らせたDTおじさんが、目を血走らせながら肩を掴んで体をゆすってきて、首がかくんかくんってなった。

「エミリア! うなづいてくれるか! ありがとう!」

「えー……」

 違うから。揺らされただけだからと思いつつ、今更断ったら、目の前で本当にあの世に逝きそう。

 しょうがなく、通常業務をこなしながら、イブの前日までの間に、先ずは無機物から始めて行った。次に、カプセルに入っている魔獣。どうやらなんともないみたい。

「じゃあ、次はこれ」

「ぎゃあああああ! いやああああ!」

 そこには、前世で全人類から嫌われているであろう茶びかりがまぶしいアイツがいた。大きさは先輩の手のひらほど巨大だ。

「生きてるからな。気を付けて……あ」

 そいつが、私のほうに向かって羽を広げて飛んできた。私は悲鳴をあげながらこう言った。

〈カプセルに入っちゃえ!〉

 無機物で散々言ったセリフだった。ただ、それまでは主語を必ず入れていた。

 気配がなくなり、恐る恐る目を開けると、消えて欲しいそいつと、先輩の姿がなかったのであった。

「え?」

 パニック状態だった時に、何を言ったのかを思い出した。先輩までカプセルに入れてしまった事に気付いて血の気が引く。

「うわああ、先輩、せんぱあああああい!」

 慌てて、新しく出来たカプセルをカパッと開いた。何も考えずに一心不乱だった。

「ぎゃああああああああ!」

 私は、先輩じゃないほうのカプセルを開いたのだった。必死で部屋中駆け回り、そいつを雷撃で焦げ焦げにしたあと、遠くに転移させたのだ。

 はぁはぁと、荒げる息のまま、先輩の事を思い出した。

「そうだ、せ、せんぴゃい……! 大丈夫ですかあああ」

 カプセルを開いたら、先輩が多少びっくりした表情で現れた。どうやらどこもなんともないらしい。魔力も変わりがなく、時間は一瞬のようで静かな空間にいたっぽい。

「ははは、本当に成功、した……」

 自分の両手を見つめながら、先輩が独り言を呟いた。私の鼓動はバクバクうるさく動いたまま一向に鎮まらない。半信半疑、神に奇跡を祈るようなその実験に成功したのであった。

「シンディ、待っていて。早まらないで。僕が必ず幸せにしてみせるから……!」

 そう言いながら、割れたカプセルをそっと手に取った先輩がシンディ様をとっても愛しているのが伝わって来る。おじさんなのに、カッコよく見えて胸が熱くなった。


 どうか、上手くいきますように……。

 この転生後の世界で今ほど祈りに近い願いをしたのは初めてかもしれなかった。



※※※※




 クリスマスイブの夜に、先輩のトナカイさんがたいくつだからってトナカイちゃんとイチャイチャしながらソリをひっぱってくれた。

 ガチャ配達を始めて数時間。ことある毎にちゅっちゅしまくるから、真後ろで見せつけられて段々モヤモヤしてきたのである。あと一つ、ラストワン賞を残すのみになった時、約束の時間が来た。

 王宮に空から入ると、予め、先輩の協力者であるエローヤーネン元侯爵夫妻が、シンディ・アールトネン伯爵を指定のテラスに出させてくれていた。私はいつものように、大きな煙を彼女の前に魔法で出す。

 トナカイカップルがひくソリから颯爽と降りて、目を丸くしている彼女に向かって満面の笑顔でガチャを差し出したのであった。

「やっほー! 愛を語らう恋人たち! 君たちに、素敵な聖夜を過ごすためのプレゼントを授けちゃうわよ。このガチャには、今の君たちに必要な物が入っているから。さぁ、ガチャを回してみてね? おめでとう! 君たちの素晴らしい未来の布石になりますよーにっ!」



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